剛体のつり合い

剛体のつり合いが成立する条件は次の2つが同時に成立していることである.
1. 剛体に働く合力 \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} \) がゼロである. \[\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} = \boldsymbol{0} \quad . \notag\] 2. 剛体の, 任意の1点まわりの力のモーメント \( \boldsymbol{N} \) がゼロである. \[\boldsymbol{N} = \boldsymbol{0} \quad . \notag\]

ここでは, 大きさを持つ物体である剛体が静止し続ける条件について考えることにしよう.

剛体とは, 質点とは異なって大きさを持ち, どんな力を作用させてもその形状が変化しない仮想的な物体である.(剛体と運動の自由度) そして, その様々な部位に様々な力が複数同時に働いていることが常である. そのような複雑な状況下において, 元々静止していた剛体がその後も静止し続ける条件がどのように与えられるのかについて考える.

以下, 剛体が静止している状態を保つとき, 剛体はつり合っているということにする.


質点のつり合い
剛体のつり合いと重心
剛体のつり合い


質点のつり合い

位置 \( \boldsymbol{r} \) に存在する質量 \( m \) の質点の場合, その運動方程式は次式で与えられる. \[m \frac{d^{2}\boldsymbol{r}}{dt^{2}} = \boldsymbol{F} \quad . \label{eom1b}\] ここで, \( \boldsymbol{F} \) は質点に働く合力である. そして, はじめに静止していた質点がその後も静止し続けるための条件は合力 \( \boldsymbol{F} \) がゼロであることであった[1]. \[\boldsymbol{F} = \boldsymbol{0} \quad . \notag\] この条件のことを力のつり合いという.


諸君にとって, 上記の議論はほぼ常識のはずであり, あらためて繰り返すほどの話ではないであろう. しかし, 剛体についての話につなげるためにもう少しだけ話題をひろげておく.

剛体と運動の自由度で学んだように, その位置を決定するのに必要な独立な座標の数のことを自由度というのであった.

質点の運動の場合, 質点の(空間)位置座標 \( (x, y, z) \) の数と同じであり, 自由度は \( 3 \) である. したがって, 質点の運動を完全に記述しようと思うならば, 自由度の数と同じ3つの独立な方程式が必要であり[2], 質点の場合には運動方程式\eqref{eom1b}だったのである[3].

剛体のつり合いと重心

多数の質点からなる質量 \( M \) の質点系および剛体にも式\eqref{eom1b}に対応する次の方程式が成立するのであった.(質点系の運動方程式) \[M \frac{d^{2}\boldsymbol{r}_{G}}{dt^{2}} = \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} = \sum_{i=1}^{N} \boldsymbol{F}_{i} \label{eomnb}\] ここで, \( \boldsymbol{F}_{i} \) は \( i \) 番目の質点に作用する外力であり, \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} \) はその合力である. 式\eqref{eomnb}より, \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} = \boldsymbol{0} \) であるならば, はじめに静止していた剛体の重心はそのまま静止し続けることになる.

では, \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} = \boldsymbol{0} \) だけで剛体全体が静止していることになるのかといえば, そうではない. なぜならば, 重心が静止していても重心に対する回転運動についてはなんら制約が与えられていないからである.


例として, 密度が均一な細い棒状の剛体を考えよう. この剛体の重心は明らかに棒の中心に一致している. そして, この重心が静止していたとしても, 重心まわりにぐるぐる回る運動にはなんら制約が課されていない.


上記の例からも分かるように, 剛体が静止しているという条件を確定するためには, 剛体の重心が静止していることに加えて, 剛体が重心まわりに回転していない条件を加える必要がある.

重心まわりの回転運動は, 重心まわりの角運動量 \( \boldsymbol{L}^{\prime} \) によって記述される. そして, \( \boldsymbol{L}^{\prime} \) の時間変化率は, 重心まわりの外力によるモーメントの総和 \( \boldsymbol{N}^{\prime} \) で与えられるのであった.(質点系の運動の分離) \[\frac{d\boldsymbol{L}^{\prime}}{dt} = \boldsymbol{N}^{\prime} = \sum_{i=1}^{N}\boldsymbol{N}_{i}^{\prime}= \sum_{i=1}^{N}\boldsymbol{r}_{i}^{\prime} \times \boldsymbol{F}_{i} \quad . \label{roteomnb}\] ここで, \( \boldsymbol{r}_{i}^{\prime} =\boldsymbol{r}_{i} – \boldsymbol{r}_{G} \) は重心 \( \boldsymbol{r}_{G} \) からみた位置 \( \boldsymbol{r}_{i} \) のことである.

したがって, はじめに重心まわりに回転運動をしていなかった( \( \boldsymbol{L}^{\prime}=\boldsymbol{0} \) であった)剛体がゼロであり続けるための条件は \( \boldsymbol{N}^{\prime}=\boldsymbol{0} \) であることがわかる.

以上より, 系に働く外力の合力がゼロ( \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} = \boldsymbol{0} \) )であり, かつ, 系の重心まわりの(外力による)モーメントがゼロ( \( \boldsymbol{N}^{\prime} = \boldsymbol{0} \) )であれば, はじめに静止していた剛体がその後も並進・回転を行うことなく静止し続けることがわかる. したがって, 次の2式が剛体のつり合いの条件式となる. \[\left\{ \begin{aligned} \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} = \boldsymbol{0} \notag \\ \boldsymbol{N}^{\prime} = \boldsymbol{0} \notag \end{aligned} \right. \quad . \notag\]


上記の事柄を, 運動の自由度の観点で議論しておこう.

剛体と運動の自由度で議論したように, 一般的な剛体の自由度は \( 6 \) であるので, その運動の決定には6つの方程式を要する. そして, 剛体の重心運動を記述する運動方程式\eqref{eomnb}によって, 重心座標に対する3つの方程式が得られ, 重心まわりの回転運動方程式\eqref{roteomnb}で残りの自由度に対応する3つの方程式が得られる. したがって, これ等の組み合わせでもって剛体の運動が決定されることになる[4].

剛体のつり合い

既に議論したように, 剛体のつり合い条件は系に働く外力 \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} \) と系の重心まわりの(外力による)モーメントの総和 \( \boldsymbol{N}^{\prime} \) の両方がゼロであることであった. \[\begin{equation} \left\{ \begin{aligned} \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} = \boldsymbol{0} \\ \boldsymbol{N}^{\prime} = \boldsymbol{0} \end{aligned} \right. \end{equation}\label{rigidstaeq}\] 以下では, 剛体が質点系であることを利用し, 式\eqref{rigidstaeq}が系に働く外力 \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} \) と任意の点まわりの(外力による)モーメントの総和 \( \boldsymbol{N} \) の両方がゼロであること等価であることを示そう.


まず, 剛体は多質点系の特別な場合であるので, 質点系の運動の分離で議論したことはそのまま適用することができる. 質点系の運動の分離では, 系の全角運動量 \( \boldsymbol{L} \) は重心の原点まわりの角運動量 \( \boldsymbol{L}_{G} \) と重心まわりの各質点の角運動量の総和 \( \boldsymbol{L}^{\prime} \) とに分離できることを議論した. \[\boldsymbol{L} = \boldsymbol{L}_{G} + \boldsymbol{L}^{\prime} \quad .\notag\] 同様に, 系のモーメント \( \boldsymbol{N} \) は重心の原点まわりのモーメント \( \boldsymbol{N}_{G} \) と重心まわりの各質点の角運動量の総和 \( \boldsymbol{N}^{\prime} \) とに分離できるのであった. \[\boldsymbol{N} = \boldsymbol{N}_{G} + \boldsymbol{N}^{\prime} \quad .\notag\] さらに, 回転運動方程式 \[\frac{d\boldsymbol{L}}{dt} = \boldsymbol{N} \quad . \quad \left( \frac{d\boldsymbol{L}_{G}}{dt} + \frac{d\boldsymbol{L}^{\prime}}{dt} = \boldsymbol{N}_{G} + \boldsymbol{N}^{\prime} \right) \notag\] も, 原点まわりの重心運動重心まわりの運動とに分離できるのであった. \[\begin{equation} \frac{d\boldsymbol{L}}{dt} = \boldsymbol{N} \ \iff \ \left\{ \begin{aligned} \frac{d\boldsymbol{L}_{G}}{dt} &= \boldsymbol{N}_{G} \\ \frac{d\boldsymbol{L}^{\prime}}{dt} &= \boldsymbol{N}^{\prime} \end{aligned} \right. \quad . \end{equation} \label{lncmandres}\]


さて, 剛体のつり合い条件(式\eqref{rigidstaeq})の書き換えを行おう.

式\eqref{rigidstaeq}で与えられた条件 \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}= \boldsymbol{0} \) の下では \[\begin{aligned} & \frac{d\boldsymbol{P}_{G}}{dt} = \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}= \boldsymbol{0} \notag \\ & \to \ \boldsymbol{r}_{G} \times \frac{d\boldsymbol{P}_{G}}{dt} = \boldsymbol{r}_{G} \times \boldsymbol{0} = \boldsymbol{0} \notag \\ & \to \ \frac{d}{dt} \left( \boldsymbol{r}_{G} \times \boldsymbol{P}_{G} \right) = \frac{d\boldsymbol{L}_{G}}{dt} = \boldsymbol{N}_{G} = \boldsymbol{0} \notag \end{aligned}\] であり[5], \( \boldsymbol{N}_{G}=\boldsymbol{0} \) が自動的に満たされる. このことと \( \boldsymbol{N}^{\prime}=\boldsymbol{0} \) を式\eqref{lncmandres}に当てはめることで \[\left\{ \begin{aligned} \frac{d\boldsymbol{L}_{G}}{dt} &= \boldsymbol{0} \notag \\ \frac{d\boldsymbol{L}^{\prime}}{dt} &= \boldsymbol{0} \notag \end{aligned} \right. \ \to \ \frac{d\boldsymbol{L}}{dt} = \boldsymbol{N} = \boldsymbol{0} \notag\] を得る.

以上より, 剛体のつり合い条件(式\eqref{rigidstaeq})は, 系に働く外力 \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} \) と原点まわりの(外力による)モーメントの総和 \( \boldsymbol{N} \) の式で書き換え可能なことがわかる. \[ \begin{equation} \left\{ \begin{aligned} \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} = \boldsymbol{0} \\ \boldsymbol{N}^{\prime} = \boldsymbol{0} \end{aligned} \right. \ \iff \ \left\{ \begin{aligned} \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} = \boldsymbol{0} \\ \boldsymbol{N} = \boldsymbol{0} \end{aligned} \right. \end{equation}\label{rigidstaeq2}\]


最後に, \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} = \boldsymbol{0} \) という条件があれば, 式\eqref{rigidstaeq2}の \( \boldsymbol{N} \) が原点まわりである必要はなく, 任意の点まわりでよいことを示しておこう[6].

まず, 適当な原点 \( O \) まわりのモーメントが \( \boldsymbol{0} \) であることがわかったとしよう. すなわち, \[\boldsymbol{N} = \sum_{i=1}^{N} \left( \boldsymbol{r}_{i} \times \boldsymbol{F}_{i} \right)= \boldsymbol{0} \notag\] が成立していることが確認できたとしよう.

つぎに, 原点 \( O \) とは異なる適当な点 \( \boldsymbol{R} \) まわりのモーメントを計算しよう. 点 \( \boldsymbol{R} \) からみた点 \( \boldsymbol{r}_{i} \) の位置ベクトルは \( \left( \boldsymbol{r}_{i} – \boldsymbol{R} \right) \) と書くことができるので, \[\begin{aligned} & \sum_{i=1}^{N} \left\{ \left( \boldsymbol{r}_{i} – \boldsymbol{R} \right) \times \boldsymbol{F}_{i} \right\} \notag \\ &= \sum_{i=1}^{N} \left( \boldsymbol{r}_{i} \times \boldsymbol{F}_{i} \right) – \sum_{i=1}^{N} \left( \boldsymbol{R} \times \boldsymbol{F}_{i} \right) \notag \\ &= \sum_{i=1}^{N} \left( \boldsymbol{r}_{i} \times \boldsymbol{F}_{i} \right) – \boldsymbol{R} \times \left( \sum_{i=1}^{N} \boldsymbol{F}_{i} \right) \notag \\ &= \underbrace{ \sum_{i=1}^{N} \left( \boldsymbol{r}_{i} \times \boldsymbol{F}_{i} \right) }_{= \boldsymbol{N}=\boldsymbol{0}} – \boldsymbol{R} \times \underbrace{ \left( \sum_{i=1}^{N} \boldsymbol{F}_{i} \right) }_{\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}=\boldsymbol{0}} \notag \\ &= \boldsymbol{0} \notag \end{aligned}\] が成立することがわかる. したがって, \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}}=\boldsymbol{0} \) のもとで, ある1点まわりの力のモーメントがゼロであることが確認できたならば, 任意の点まわりのモーメントがゼロとなることを示された.


以上より, 剛体のつり合いが成立する条件は次の2つにまとめることができる.

  1. 剛体に働く合力 \( \boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} \) がゼロである. \[\boldsymbol{F}_{\mathrm{ext}} = \boldsymbol{0} \quad . \notag\]

  2. 剛体の, 任意の1点まわりの力のモーメント \( \boldsymbol{N} \) がゼロである. \[\boldsymbol{N} = \boldsymbol{0} \quad . \notag\]

実際に剛体のつり合いについて議論するとき, モーメントの計算は任意の点まわりで行って良いので, なるべく計算の量が少なくなるような点を選んでも良いことがわかる.

最終更新日
剛体と運動の自由度



補足    (↵ 本文へ)
  1. 正確には, 質点がはじめに行なっていた等速直線運動を続ける条件である.

  2. もちろん, 運動の時間発展を理解するためには, 方程式だけでなくその適切な初期条件が必要である.

  3. 式\eqref{eom1b}はベクトルの式でひとまとまりに書いてはいるものの, 各座標についての3つの式の組のことであった. \[m\frac{d^{2}\boldsymbol{r}}{dt^{2}} = \boldsymbol{F} \ \iff \ \left\{ \begin{aligned} m\frac{d^{2}x}{dt^{2}} = F_{x} \notag \\ m\frac{d^{2}y}{dt^{2}} = F_{y} \notag \\ m\frac{d^{2}z}{dt^{2}} = F_{z} \notag \end{aligned} \right. \quad . \notag\] したがって, この3つの式に適切な初期条件を与えて解くことで, 自由度 \( 3 \) の質点の運動を完全に理解できるという構造になっていた.

  4. ここでは剛体のつり合いとい特殊なケースについてのみ議論するが, 剛体の回転運動などを議論するときには式\eqref{roteomnb}で表されるような回転運動方程式が議論の中心となっていく.

  5. 最後の変形では, 次の関係式を用いた. \[\begin{aligned} \frac{d}{dt} \left( \boldsymbol{r}_{G} \times \boldsymbol{P}_{G} \right) &= \frac{d\boldsymbol{r}_{G}}{dt} \times \boldsymbol{P}_{G} + \boldsymbol{r}_{G} \times \frac{d\boldsymbol{P}_{G}}{dt} \notag \\ &=\boldsymbol{r}_{G} \times \frac{d\boldsymbol{P}_{G}}{dt} \notag \end{aligned}\]

  6. 実は, 原点の選び方も自由であるので自明なように思われるが, このようなこともきちんと確かめておくことは価値がある.

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