剛体と運動の自由度

剛体とは, どんな力を加えてもそれを構成する任意の2点間の距離が不変であるような理想的な物体を指す.

自由な \( N \) 個の質点からなる系の運動の自由度は \( 3N \) である. この系を構成する質点の位置関係に制約が増えるほど自由度は減少する.

\( N( \ge 3) \) 個の質点からなる剛体の運動の自由度は \( 6 \) となる.

高校物理ではまず質点について成立する物理を学ぶことがもっぱらである. しかし, 実際に我々の身の回りに溢れている物体は有限の大きさを持ち, その形状も様々である. このような, 大きさを持つ物体の物理を考察するために, 我々の身の回りに溢れる固体を剛体と呼ばれるものに近似して考えることになる.

ここでは, 剛体と呼ばれるものがどのような物体であるのかについて説明した後, 剛体の運動を記述するのに必要なパラメタの数がいくつあるのかを表す量である自由度について議論する.

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剛体
運動の自由度


剛体

剛体とは, どんな力を加えてもそれを成す質点の相互の位置関係が変化しないような物体のことを指す. したがって, 剛体を成す質点の分布が連続的だとみなせるような多質点系であるならば, 剛体内部の任意の2点の距離が時間的に変化しないような性質を持っている. 端的に言えば, 歪みや伸縮の生じない非常に硬い物体というイメージがこれに相当するであろう.

剛体を成す質点の数が \( N \) 個存在し, 質点 \( i (=1, 2, \cdots , N) \) の位置を \( \boldsymbol{r}_{i} \) , \( \boldsymbol{r}_{i} \) と \( \boldsymbol{r}_{j} \ (j \neq i) \) との距離を \( r_{ij} \) とすれば, \( r_{ij} \) の値が時間的に変化しないことになる. \[r_{ij} = \mathrm{const}. \notag\] ただし, \( r_{ij} \) の値は \( i \) と \( j \) の組み合わせごとに異なっていてもよい.

運動の自由度

剛体というのは様々な形状が許されるわけだが, 剛体の並進・回転といった運動の状態はいくつかの変数で指定することができることが知られている. そこで, 剛体の運動の状態を知るためにどれだけの数の独立した方程式が必要となるのかに興味がある.

これから議論する自由度という概念は, 系の運動の状態を指定するにあたって独立に定めることができる変数の数のことをいう.

1質点の自由度

3次元空間に配置された1質点の位置 \( \boldsymbol{r}(t) \) は, 3次元直交座標系を採用した場合には \( \left( x(t), y(t), z(t) \right) \) という3つの独立な座標の組によって指定することができる. これらを時間の関数として知ることができれば, 1質点の運動は完全に理解することができる. すなわち, 1質点の自由度は \( 3 \) である.

\( N \) 質点系の自由度

系に含まれる多数の質点の位置関係になんら制約がない場合, 各質点の位置は自由に定めることができるので, 系は \( ( \) 1粒子の自由度 \( ) \times ( \) 粒子数 \( ) \) の自由度を持つことになる.

一般に, 系に含まれる質点の数が \( N \) 個である \( N \) 質点系ならば, 系は \( 3 \times N = 3N \) の自由度を持つことになる.

2質点からなる剛体の自由度

質点1と質点2の2質点からなる剛体の自由度について考えてみよう.

2質点系が剛体であるという条件を課さない場合, には \( 3 \times 2 = 6 \) の自由度を持っていることになる. しかし, 2質点系が剛体であるという条件を課す場合, 質点1と質点2との距離 \( r_{12} \) は時間によらずに一定である. この条件は2質点の位置関係に制約を加えるので, 系の運動の自由度を減少させることになる.

元々の自由度が \( 3 \times 2 = 6 \) であった2質点系に対して \( r_{12} = \mathrm{const}. \) という1つの条件式を加えるので, 2質点からなる剛体の自由度は \( 3\times 2-1=5 \) となる.


2質点からなる剛体の自由度について, 別の方法で説明しよう.

質点1(自由度 \( 3 \) )からなる系に質点2を加えて剛体を形成しよう. このとき, 質点1からある一定距離 \( r_{12} \) だけ離れた位置に質点2が存在するという条件を加えることになる. すなわち, 質点1を中心に据えた半径 \( r_{12} \) の球の表面上のどこに質点2が存在するのかという自由度が存在することになる. この自由度を1質点の自由度 \( 3 \) に加えることにより, 2質点からなる剛体の自由度を知ることができる.

球表面の点を指定するのに必要な量の数というと少し難しく感じるかもしれないが, この表現方法は誰しもが知っている. 緯度経度である. 地球というのは半径がほぼ一定の球とみなすことができ, 緯度と経度を決定すれば(地表の起伏を無視すると)地表上のどこにいるのかは決定することができる. このことに類似した議論を行えばよいのである.

上記の議論の類似を説明するために描いたのが下図である. 図には質点1を原点に据えた3次元直交座標系を描いた.

質点1を座標原点として半径 \( \boldsymbol{r}_{12} \) の球を描けばその球面上のどこかに質点2は存在することになる. 質点2の \( z \) 座標は, \( z \) 軸からの角度 \( \theta \) が分かれば定めることができ, \( z \) 座標は \( r_{12}\cos{\theta} \) と表すことができる. また, 質点2の位置から \( xy \) 平面におろした垂線が \( xy \) 平面と交わる点は, \( xy \) 平面で半径が \( r_{12}\sin{\theta} \) の円周状の何処かとなる. この点は \( x \) 軸からの角度 \( \phi \) が分かれば定めることができ, \( x \) , \( y \) 座標はそれぞれ \( r_{12}\sin{\theta}\cos{\phi} \) , \( r_{12}\sin{\theta}\sin{\phi} \) となる. したがって, 質点1に対する質点2の位置ベクトルは, \[\boldsymbol{r}_{12} = r_{12} \left( \sin{\theta}\cos{\phi}, \sin{\theta}\sin{\phi}, \cos{\theta}\right) \notag\] で定めることができる. ここで, \( \theta \) は天頂角と呼ばれ, \( \phi \) は方位角と呼ばれる. 天頂角 \( \theta \) が緯度に, 方位角 \( \phi \) が経度に対応している[1].

このように, 質点1に対する質点2の位置は天頂角 \( \theta \) と方位角 \( \phi \) という \( 2 \) つの独立した変数によって指定可能となる. したがって, 質点1の自由度 \( 3 \) と質点1に対する質点2の自由度 \( 2 \) を足した \( 3+2=5 \) が2質点からなる剛体の自由度となる.

3質点からなる剛体の自由度

3質点系が剛体でない場合, 系は \( 3 \times 3 =9 \) の自由度を持つことになる.

この系に対して, 質点 \( i \) と質点 \( j \) との距離 \( r_{ij} \) が時間的に変化しない \[r_{ij}=\mathrm{const}. \ (i , j = 1, 2, 3 , \ i \neq j)\] という条件を加えると, 系からは( \( i \) , \( j \) の異なる組の数と等しい)自由度 \( 3 \) が失われることになる.

したがって, 3質点からなる剛体の自由度は \( 3 \times 3 – 3 = 6 \) となる.


3質点からなる剛体の自由度について, 別の方法で説明しよう.

自由度 \( 5 \) の2質点からなる剛体に質点3を加えるとき, この質点の自由度がどれだけあるのかを調べよう.

質点1および質点2が質点3と成す距離がそれぞれ一定である. この条件のもとで質点3を配置可能な点は, 質点 \( 1 \) と質点 \( 2 \) が存在する直線を回転軸として \( r_{13} \) と \( r_{23} \) が一定となるような円周上に限られることになる. もちろん, この円周は回転軸から一定の距離を保っているので, あとは適当な回転角 \( \psi \) (プサイ)を1つ定めることで質点 \( 3 \) の位置が決定できる.

このようにして, 自由度 \( 5 \) の2質点からなる剛体にあらたに質点を加えたことによて増加する自由度は \( 1 \) である. したがって, 2質点系からなる剛体の自由度 \( 5 \) と質点3の自由度 \( 1 \) を足した \( 5+1=6 \) が3質点からなる剛体の自由度となる.

\( N \) 質点からなる剛体の自由度

剛体をなす質点の数が \( 3 \) 以上の場合について考えよう. 結論から述べておくと, \( N( \ge 3) \) 個の質点からなる剛体の自由度は \( 6 \) となることをこれから確認していく.

自由度が \( 6 \) の3質点からなる剛体に4つ目の質点を加えたとき, 質点4と質点 \( i(=1, 2, 3) \) との距離 \( r_{4i} \) はそれぞれ時間によらずに一定である必要がある. したがって, 質点 \( 4 \) が加わったことで系にもたらされるべきであった自由度 \( 3 \) は, 3つの束縛条件 \( r_{4i}=\mathrm{const}. \) によって打ち消され, 4質点からなる剛体の自由度は \( 6 \) となることがわかる.

同様の議論が系に質点を追加する度に行われることになる. 質点5も \( r_{51} \) , \( r_{52} \) , \( r_{53} \) が一定であれば自動的に \( r_{54} \) も一定となるので, これ以上質点の数が増えても剛体の自由度は増えることがなくなり, \( N(\ge 3) \) 質点からなる剛体の自由度は \( 6 \) となることがわかる.

補足

3質点からなる系に質点4を加えたときの自由度について, 「4質点が同一平面上に存在しないとき, \( r_{4i} \) が一定という条件が成立する位置は, 3質点を対称面とした2点が存在するではないか.」という疑問を持った人に対する補足である.

確かに, \( r_{4i} \) が一定という条件のみでは, (化学で習った不斉炭素原子の光学異性体のような)互いの立体配置が鏡像の関係にある立体 \( A \) と \( A^{\prime} \) が存在することが認められる. しかし, これから議論するようにこのような条件の分岐を自由度とは呼ばないのである.

というのも, 質点1の位置 \( x \) , \( y \) , \( z \) や質点2と質点3の位置を記述する角 \( \theta \) , \( \phi \) , \( \psi \) というのは, これらの質点が配置されたあとでも自由に変化することができ, 我々はその値がどうなったのかを調べなくてはならない. これが運動の自由度というものである.

しかし, 質点4の許される配置は離散的であるので, 一度配置された質点4は自由に変化することができなくなる. もしも, 質点4が瞬時にその許される配置を行き来できるならば – 剛体 \( A \) と剛体 \( A^{\prime} \) とが自由かつ瞬時に変化するならば – その位置を指定する為の変数が必要となり, その変数の数だけの自由度を持つということになるが実際にはそのような必要性はない. したがって, 配置の任意性は認められるがその配置が自由にうつろうことはなく, 質点4の運動の自由度は失われていることになる.

剛体の形状の任意性剛体の運動の自由度とが別物であることに注意して欲しい.

最終更新日
質点系の運動の分離 剛体のつり合い



補足    (↵ 本文へ)
  1. ここでは深く掘り下げないが, 上記の議論からでも推測できるように, 座標原点からの距離 \( r \) , 天頂角 \( \theta \) , 方位角 \( \phi \) を指定することで3次元空間上の質点の位置を指定することもできる. この3つの変数でもって物体の位置を定める座標系のことを3次元極座標とか球座標と呼ぶ. このような座標系を採用することで, 原点またはある軸回りの運動の記述がシンプルになる利点がある.

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