位置 \( \vb*{r}(t) \) と速度 \( \vb*{v}(t) \) に時刻 \( t = t_{0} \) における初期条件 \( \vb*{r}(t_{0}) \) , \( \vb*{v}(t_{0}) \) を与えたとき, 加速度 \( \vb*{a}(t) \) を積分することで速度を, 速度を積分することで位置を求めることができる. \[\begin{aligned} \vb*{v} &= \vb*{v}(t_{0}) + \int_{t_{0}}^{t} \vb*{a} \dd{t} , \notag \\ \vb*{r} &= \vb*{r}(t_{0}) + \int_{t_{0}}^{t} \vb*{v} \dd{t} \notag \end{aligned}\]
位置 \( \vb*{r} \) ・速度 \( \vb*{v} \) ・加速度 \( \vb*{a} \) はそれぞれ, 時間微分をもちいて次のように書けるのであった.
位置・速度・加速度と微分 \[\begin{aligned} \vb*{v} &= \dv{\vb*{r}}{t} \notag \\ \vb*{a} &= \dv{\vb*{v}}{t} = \dv[2]{\vb*{r}}{t} \notag \end{aligned}\] すなわち, 位置 \( \vb*{r}(t) \) がわかっているならばその導関数 \( \dv{\vb*{r}}{t} \) を求めることで速度 \( \vb*{v} \) が定まり, 速度 \( \vb*{v}(t) \) がわかっているならばその導関数 \( \dv{\vb*{v}}{t} \) を求めることで加速度 \( \vb*{a} \) が定まることを意味していた.
今回は逆に, 加速度がわかっているときに速度を, 速度がわかっているときに位置を求めるような手法について議論しよう. ここで大きなヒントとなるのは, \( \vb*{v} \) と \( \vb*{a} \) はそれぞれ \( \vb*{r} \) と \( \vb*{v} \) を時間微分することで求められること, 数学的には微分と積分が互いに逆演算のようにみなせること, である.
下準備として積分法の解説を行うが, いわゆる区分求積法や置換積分などを知っている人は読み飛ばしてもらってかまわない.
下準備 : 積分法
詳しくは積分法も参照していただきたいが, 積分自体の説明と積分が微分と互いに逆演算のような関係にあることについて議論する.
定積分
いま, \( x \) を変数とした関数 \( f(x) \) が下図のように与えられているとする. この関数 \( f \) について, \( x=a \) と \( x=b\ (>a) \) で区切られた区間 \( a \le x \le b \) を \( n \) 等分し, \( x_{k} \) を次のように定義する. \[\begin{cases} x_{0} = a \notag \\ x_{1} = a + 1 \cdot \frac{b-a}{n} \notag \\ x_{2} = a + 2 \cdot \frac{b-a}{n} \notag \\ \cdots = \cdots \notag \\ x_{k} = a + k \cdot \frac{b-a}{n} \notag \\ \cdots = \cdots \notag \\ x_{n-1} = a + \qty( n – 1 ) \cdot \frac{b-a}{n} \notag \\ x_{n} =b \quad . \notag \end{cases}\] また, \( \qty( x_{k} – x_{k-1} )=\frac{b-a}{n} \) という区間の幅を \( \Delta x \) と書くことにする.
このとき, \( \Delta x = \frac{b-a}{n} \) と \( f(x_{k}) \) の積 \[S_{k} = f(x_{k}) \Delta x \quad \qty( k = 1, 2, \cdots , n ) \notag\] は底辺が \( \Delta x = \frac{b-a}{n} \) で高さが \( f(x_{k}) \) の長方形の符号付き面積に等しい[1]ここで符号付き面積といったのは, \( f(x_{k}) \) が負の場合には \( S_{k} \) も負であり, その絶対値は図に示した長方形の面積に等しいからである. … Continue reading. そして, このような長方形を \( a \le x \le b \) の全区間に渡って足し合わせた \[\begin{aligned} & S_{1} + S_{2} + \cdots + S_{n} \notag \\ &= f(x_{1}) \Delta x + f(x_{2}) \Delta x + \cdots + f(x_{n}) \cdot \Delta x \notag \\ &= \sum_{k=1}^{n} f(x_{k}) \Delta x \notag \end{aligned}\] は上図に示したように, \( x=a \) と \( x=b \) および \( f(x) \) と \( x \) 軸とで囲まれた符号付き面積に近しい値となっている.
したがって, 分割数 \( n \) が非常に大きいという極限 \( n \to \infty \) を適用したもの \[\lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} f(x_{k}) \Delta x \label{aeraintdef}\] は \( a \le x \le b \) において, \( f(x) \) と \( x \) 軸との間で囲まれる(符号付き)面積に一致することになる. 式\eqref{aeraintdef}で定義されるような計算を定積分といい, 記号 \( \int \) (インテグラル)を用いて \[\int_{a}^{b} f(x) \dd{x} \coloneqq \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} f(x_{k}) \Delta x= \lim_{n \to \infty} \frac{b-a}{n} \sum_{k=1}^{n} f(x_{k}) \notag\] と表す.
定積分の性質
定積分は次の性質 \[\begin{aligned} & \int_{a}^{b} \left\{kf(x) + l g(x)\right\} \dd{x} = k \int_{a}^{b} f(x) \dd{x} + l \int_{a}^{b} g(x) \dd{x} \notag \\ & \int_{a}^{b}f(x) \dd{x} = \int_{a}^{c}f(x) \dd{x} + \int_{c}^{b}f(x) \dd{x} \notag \end{aligned}\] を満たす. これらの性質は定積分が面積に相当していることを鑑みると実に納得の行くものとなっている. さらに, 定積分の始点と終点を入れ換えると符号が反転し, \[\int_{b}^{a}f(x) \dd{x} = – \int_{a}^{b}f(x) \dd{x} \notag\] が成立する. この性質も上述の議論を追えば納得できるものであろう.
また, 定積分 \( \displaystyle{\int_{a}^{b} f(x) \dd{x} } \) はある定数値であり, この式における \( x \) という文字は積分の計算結果にはあらわれてこない. したがって, \( x \) を別の文字に置き換えたとしても意味は変わらず, \[\int_{a}^{b} f(x) \dd{x} = \int_{a}^{b} f(x^{\prime}) \dd{x^{\prime}} = \int_{a}^{b} f(t) \dd{t} = \int_{a}^{b} f({\star}) \dd{\star} \notag\] などが成立することには注意してほしい.
微分と積分の関係
関数の定積分を計算するにあたり, 毎回上記のような考察を行う必要はなく, 積分演算は微分の逆演算に相当していることを示しておこう.
いま, 変数 \( x^{\prime} \) の関数 \( f(x^{\prime}) \) を考え, \( 0 \le x^{\prime} \le x \) の区間で \( f(x^{\prime}) \) と \( x^{\prime} \) 軸とで囲まれた領域の符号付き面積は区間の終点の \( x^{\prime} \) 座標 \( x \) の関数であり, これを \( F(x) \) と定義しよう. \[F(x) \coloneqq \int_{0}^{x}f(x^{\prime}) \dd{x^{\prime}} \quad . \notag\] 続いて, 定積分の範囲を微小な量 \( \Delta x \) だけ伸ばした \( F(x+\Delta x) \) は \[F(x+\Delta x) = \int_{0}^{x+\Delta x}f(x^{\prime}) \dd{x^{\prime}} \notag\] と計算することができる.
上図より, \( F(x + \Delta x) \) と \( F(x) \) との差は近似的に \( f(x) \cdot \Delta x \) とみなすことができるので, \[\begin{aligned} & F(x+\Delta x) – F(x) \approx f(x) \cdot \Delta x \notag \\ &\therefore \ f(x) \approx \frac{F(x+\Delta x) – F(x) }{\Delta x } \notag \end{aligned}\] と書くことができる. ここで \( \approx \) はほぼ等しいことを意味する記号である.
上式の右辺に対して \( \Delta x \) を限りなく小さくする極限操作 \( \Delta x \to 0 \) を適用した \[\lim_{\Delta x \to 0 } \frac{F(x+\Delta x) – F(x) }{\Delta x } \notag\] は関数 \( F(x) \) の導関数の定義そのものであり, 関数 \( f \) と \( F \) の間には \[\dv{F(x)}{x} = f(x) \label{intdFdxfx}\] が成立していることになる. つまり, 関数 \( F(x) \) は \( f(x) \) を導関数に持つような関数なのである.
したがって, 関数 \( f \) を積分することで定義された \( F(x) \) について, \( F(x) \) を微分することで \( f(x) \) が求められることになり, 微分と積分は互いに逆演算のような関係にあることがわかる.
また, これで定積分を計算する術が得られたことになる. 実際, \[\begin{aligned} \int_{a}^{b} f(x) \dd{x} &= \int_{a}^{0} f(x) \dd{x} + \int_{0}^{b} f(x) \dd{x} \notag \\ &= \int_{0}^{b} f(x) \dd{x} – \int_{0}^{a} f(x) \dd{x} \notag \\ &= F(b) – F(a) \notag \end{aligned}\] と書くことができる. これが意味していることは, 関数 \( f(x) \) の \( x=a \) から \( x=b \) までの定積分を計算したければ, \( f \) を導関数に持つような関数 \( F(x) \) を見つけて \( F(b) – F(a) \) を計算せよ ということである[2] \( F \) のことを \( f \) の原始関数などという. 原始関数については後述する..
この定積分計算を次のように簡略化して書くことにする. \[\int_{a}^{b} f(x) \dd{x} = \qty[ F(x) ]_{a}^{b} = F(b) – F(a) \notag \quad .\]
微分積分学の基本定理
式\eqref{intdFdxfx}に示した \[\dv{x}\int_{0}^{x}f(x^{\prime}) \dd{x^{\prime}} \notag\] の導出過程を見返してみると, 定積分の始点は \( x^{\prime}=0 \) でない別の値 \( x^{\prime}=a \) を定積分の始点に選んでも \[\dv{x}\int_{a}^{x}f(x^{\prime}) \dd{x^{\prime}} = \dv{x}\underbrace{\int_{a}^{0}f(x^{\prime}) \dd{x^{\prime}} }_{ = \mathrm{const.}} + \dv{x}\int_{0}^{x}f(x^{\prime}) \dd{x^{\prime}} = f(x) \notag\] が成立する. ここで, 定積分 \( \int_{a}^{0}f(x^{\prime}) \dd{x^{\prime}} \) はとある定数値となるので, 微分するとゼロとなることをもちいた.
次の関係式 \[\dv{x} \int_{a}^{x} f(x^{\prime}) \dd{x^{\prime}} = f(x) \notag\] は微分積分学の基本定理と呼ばれる.
原始関数と不定積分
ここでは, 式 \[\dv{F(x)}{x} = f(x) \label{intdFdxfx2}\] を満たすような \( F(x) \) は一つのみに定まるわけではないことを示しておこう.
まず, 式\eqref{intdFdxfx2}を満たすような関数として \( F_{1} \) が見出されたとしよう. つまり, \( F_{1}(x) \) は \( \displaystyle{\dv{F_{1}}{x}=f} \) を満たすものである. この関数 \( F_{1} \) に定数 \( C \) を足した関数 \( F_{2}=F_{1}(x)+C \) も微分すると, \( \displaystyle{\dv{F_{2}}{x} = f} \) を満たすので, \( F_{2} \) も式\eqref{intdFdxfx2}を満たす関数なのである.
以上より, 式\eqref{intdFdxfx2}を満たすある関数に任意の定数 \( C \) を足した関数は全て式\eqref{intdFdxfx2}を満たすことがわかる.
関数 \( f \) が与えられたとき, \( \displaystyle{\dv{F}{x}=f} \) となるような関数 \( F \) を \( f \) の原始関数と呼ぶ. また, \( f \) の原始関数を記号 \[\int f(x) \dd{x} \notag\] であらわし, \( f \) の不定積分という.
先に示したとおり, \( f \) の原始関数 \( F \) に定数 \( C \) を加えた関数 \( F+C \) も \( f \) の原始関数であり, \[\int f(x) \dd{x} = F(x) + C \notag\] である. この任意の定数 \( C \) のことを積分定数という.
速度の時間積分
速度(1次元)の時間積分
1次元運動を行う点 \( P \) の位置を \( x(t) \) とすると, 速度 \( v(t) \) は位置の導関数 \[v(t) = \dv{x(t)}{t} \notag\] で与えられるのであった.
では, 速度 \( v \) が与えられたときに位置に関する情報を得るためにはどうするかといえば, 微分と積分が互いに逆演算のような関係であることを利用するのである. すなわち, 位置の時間微分が速度なので, 速度を時間で積分することで位置に関する情報が得られることを利用する.
まずは, 速度 \( v(t) \) がわかっているときに時刻 \( t=t_{1} \) から \( t=t_{2} \) の間の点 \( P \) の変位 \( x(t_{2}) – x(t_{1}) \) を求めてみよう.
速度 \( v=\dv{x}{t} \) の時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間の定積分は, \[\int_{t_{1}}^{t{2}}v(t) \dd{t} = \qty[ x(t) ]_{t_{1}}^{t_{2}}= x(t_{2}) – x(t_{1}) \notag\] である. この右辺は時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間の変位に他ならず, ある時間における変位は速度の(定)積分で計算可能であることが示された.
次に, 時刻 \( t_{0} \) における位置が \( x(t_{0}) \) であることがわかっているとしよう. このとき, 時刻 \( t \) における位置 \( x(t) \) は速度の積分をもちいて次のように書くことができる. \[\begin{aligned} x(t) &= x(t) + x(t_{0}) – x(t_{0}) \notag \\ &= x(t_{0}) + \left\{x(t) – x(t_{0})\right\} \notag \\ &= x(t_{0}) + \int_{t_{0}}^{t}v(t^{\prime}) \dd{t^{\prime}} \quad . \notag \end{aligned}\] ここで, 右辺第1項は初期位置であり, 右辺第2項の積分計算は時刻 \( t_{0} \) から \( t \) までの間の変位である.
したがって, 位置 \( x(t_{0}) \) と速度 \( v(t) \) が与えられたならば, あとは \( v \) の積分計算を行うことによって位置の時間変化を完全に記述することが可能となるのである. この \( x(t_{0}) \) を初期位置という. そして, この初期位置を設定するという行為は速度 \( v \) の(不定)積分で登場する任意定数 \( C \) を固定することに相当している.
\( v \) – \( t \) グラフ
位置・速度・加速度の関係を, 縦軸を速度, 横軸を時刻とした \( v \) – \( t \) グラフで考えてみよう.
\( v \) – \( t \) グラフ上に与えられた曲線 \( v \) から微分・積分を用いて得られる情報は \[\left\{\begin{aligned} \dv{v(t)}{t} &= a(t) \notag \\ \int_{t_{1}}^{t_{2}} v(t) \dd{t} &= x(t_{2}) – x(t_{1}) \notag \end{aligned} \right.\] である. 第1式は \( v \) のある時刻の傾きが加速度に一致していることを意味し, 第2式はある時間内で \( v \) を積分するとその間の変位に一致していることを意味している.
上図には, \( \int_{t_{1}}^{t_{2}}v(t) \dd{t} \) が正となるような図を描いており, この場合の変位は正となる. 一方, \( \int_{t_{1}}^{t_{2}}v(t) \dd{t} \) が負の場合, すなわち, \( v \) – \( t \) グラフの符号付き面積が負の場合には変位も負であることに注意してほしい.
また, \( v \) – \( t \) グラフの符号付き面積からは変位しか読み取れないので, 初期位置が与えられてはじめて位置 \( x \) が完全に定まることも理解できるであろう.
1次元運動の総走行距離(道のり)
これまでに, \( v \) – \( t \) グラフの符号付き面積が変位に一致することを議論した. しかし, 位置の移り変わりを追いかけていくにあたっては, 変位の他に総走行距離または道のりと呼ばれる量を考えることもできる.
変位がある時間幅の始点と終点でどれだけ位置が変わっているかという正味の移動距離を表す量であることに対し, 総走行距離(または道のり)は, 実際に移動した経路の距離を表す量である.
変位と総走行距離に違いが生じるのは, 物体が \( x \) 軸の負方向に運動する( \( v<0 \) である)瞬間が含まれている場合である. \( v \) – \( t \) グラフで言えば, \( v<0 \) で符号付き面積の符号が負となる瞬間を含んでいるかどうかの違いである.
変位は, 正方向へ進むことでプラスの変位, 負方向へ進むことでマイナスの変位となる. そして, 最終的な変位はこれらを足し合わせることで得られるので, 正味の移動距離と方向しかわからないのである.
一方, 正方向に進んでも負方向に進んでも総走行距離は増加していくので, 総走行距離はどちらどれだけに進んだのかはわからず, 実際に移動した経路の長さという情報のみを含んでいる.
時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間の総走行距離 \( s \) は次式で与えられることになる. \[s = \int_{t_{1}}^{t_{2}} \abs{v } \dd{x} = \int_{t_{1}}^{t_{2}} \abs{\dv{x}{t} } \dd{x} \notag \quad .\] 下に示した \( v \) – \( t \) グラフには, ある速度 \( v(t) \) の曲線(黒の実線)を描いている. この \( v \) – \( t \) グラフを用いて \( t_{1} \) から \( t_{3} \) の間の変位と総走行距離を求める方法について考えよう. ただし, \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間は \( v>0 \) , \( t_{2} \) から \( t_{3} \) の間は \( v<0 \) とする.
まず, \( t_{1} \) から \( t_{3} \) の間の変位 \( \Delta x_{1\to 3} \) は次式で与えられる. \[\begin{aligned} \Delta x_{1\to 3} &= \int_{t_{1}}^{t_{3}}v(t) \dd{t} \notag \\ &= \int_{t_{1}}^{t_{2}}v(t) \dd{t} + \int_{t_{2}}^{t_{3}}v(t) \dd{t} \quad . \notag \end{aligned}\] また, \( t_{1} \) から \( t_{3} \) の間の総走行距離(道のり) \( s_{1\to 3} \) は次式で与えられる. \[\begin{aligned} s_{1\to 3} &= \int_{t_{1}}^{t_{2}}\abs{v(t) } \dd{t} + \int_{t_{2}}^{t_{3}}\abs{v(t) } \dd{t} \quad . \notag \\ &= \int_{t_{1}}^{t_{2}} v(t) \dd{t} – \int_{t_{2}}^{t_{3}} v(t) \dd{t} \quad . \notag \end{aligned}\] これは上図に示した \( \abs{v(t) } \) の曲線(紫の鎖線)が時間軸と成す面積を求めていることに等しい.
速度(3次元)の時間積分
これまでに行なってきた, 速度を時間積分することで変位が得られるという議論は, \( x \) , \( y \) , \( z \) の各方向に対して成立する.
3次元空間内の点 \( P \) の座標を位置(ベクトル)を \( \vb*{r}=\qty( x, y, z ) \) であらわし, 速度(ベクトル) \( \vb*{v} \) が \( \vb*{v}=\dv{\vb*{r}}{t}=\qty( v_{x}, v_{y}, v_{z} ) \) であることがわかっているとする. このとき, 時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間の変位は \[\begin{aligned} & \int_{t_{1}}^{t_{2}} \vb*{v} \dd{t} = \vb*{r}(t_{2}) – \vb*{r}(t_{1}) \notag \\ & \iff \ \left\{\begin{aligned} \int_{t_{1}}^{t_{2}} v_{x} \dd{t} = x(t_{2}) – x(t_{1}) \notag \\ \int_{t_{1}}^{t_{2}} v_{y} \dd{t} = y(t_{2}) – y(t_{1}) \notag \\ \int_{t_{1}}^{t_{2}} v_{z} \dd{t} = z(t_{2}) – z(t_{1}) \notag \end{aligned} \right. \end{aligned}\] と計算することができる.
したがって, 時刻 \( t_{0} \) における初期位置が \( \vb*{r}(t_{0}) \) であるとき, 時刻 \( t \) における位置 \( \vb*{r}(t) \) を次のように求めることができる. \[\vb*{r}(t) = \vb*{r}(t_{0}) + \int_{t_{0}}^{t}\vb*{v}(t^{\prime}) \dd{t^{\prime}} \notag \quad .\] これは, 初期位置 \( \vb*{r}(t_{0}) \) と速度 \( \vb*{v}(t) \) が与えられたならば, \( \vb*{v} \) の時間積分を行うことによって時々刻々と変化する位置を完全に記述することが可能となる.
加速度の時間積分
加速度の時間積分によって速度が与えられることを議論しよう. なお, 以下の議論は速度の時間積分で変位が計算できたことと全く同じ構造となっている.
加速度(1次元)の時間積分
1次元運動を行う点 \( P \) の速度を \( v(t) \) とすると, 加速度 \( a(t) \) は速度の導関数 \[a(t) = \dv{v(t)}{t} \notag\] で与えられるのであった. したがって, 加速度を時間積分することである時間の間の速度の変化量を知ることができる.
加速度 \( a(t) \) がわかっているとき, 時刻 \( t=t_{1} \) から \( t=t_{2} \) の間の速度の変化 \( v(t_{2}) – v(t_{1}) \) は次式のように \( v=\dv{x}{t} \) の時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間の定積分で与えられる. \[\int_{t_{1}}^{t_{2}}a(t) \dd{t} = \qty[ v(t) ]_{t_{1}}^{t_{2}}= v(t_{2}) – v(t_{1}) \quad . \notag\] また, 時刻 \( t_{0} \) における速度 \( v(t_{0}) \) がわかっているとしよう. このとき, 加速度 \( a \) がわかっているならば, 時刻 \( t \) における速度 \( v(t) \) を次のように求めることができる. \[\begin{aligned} v(t) &= v(t_{0}) + \left\{v(t) – v(t_{0})\right\} \notag \\ &= v(t_{0}) + \int_{t_{0}}^{t}a(t^{\prime}) \dd{t^{\prime}} \quad . \notag \end{aligned}\] したがって, 速度 \( v(t_{0}) \) と加速度 \( a \) が与えられたならば, あとは \( a \) の時間積分を行うことによって速度の時間変化を知ることが可能となる. この \( v(t_{0}) \) を初速度という. そして, この初速度を設定するという行為は加速度 \( a \) の(不定)積分で登場する任意定数 \( C \) を固定することに相当している.
\( a \) – \( t \) グラフ
速度・加速度の関係を, 縦軸を加速度, 横軸を時刻とした \( a \) – \( t \) グラフで考えてみよう.
加速度 \( a \) と速度 \( v \) について \[\int_{t_{1}}^{t_{2}} a(t) \dd{t} = v(t_{2}) – v(t_{1}) \notag\] という関係が成立していることから, \( a \) – \( t \) グラフ上に与えられた曲線 \( a(t) \) と時間軸および, ある時間幅で囲まれた符号付き面積を求めることにより, その区間における速度の正味の変化量を知ることができる.
また, \( a \) – \( t \) グラフの符号付き面積からは速度の変化しか読み取れないので, 初速度が与えられてはじめて \( v(t) \) が定まることも理解できるであろう.
加速度(3次元)の時間積分
これまでに行なってきた, 加速度を時間積分することで速度の正味の変化量が得られるという議論は, \( x \) , \( y \) , \( z \) の各方向に対して成立する.
3次元空間内の点 \( P \) の座標の速度(ベクトル)を \( \vb*{v}=\qty( v_{x}, v_{y}, v_{z} ) \) であらわし, 加速度 \( \vb*{a} \) が \( \vb*{a}=\dv{\vb*{v}}{t} = \qty( a_{x}, a_{y}, a_{z} ) \) であることがわかっているとする. このとき, 時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間の変位は \[\begin{aligned} & \int_{t_{1}}^{t_{2}} \vb*{a} \dd{t} = \vb*{v}(t_{2}) – \vb*{v}(t_{1}) \notag \\ & \iff \ \left\{\begin{aligned} \int_{t_{1}}^{t_{2}} a_{x} \dd{t} = v_{x}(t_{2}) – v_{x}(t_{1}) \notag \\ \int_{t_{1}}^{t_{2}} a_{y} \dd{t} = v_{y}(t_{2}) – v_{y}(t_{1}) \notag \\ \int_{t_{1}}^{t_{2}} a_{z} \dd{t} = v_{z}(t_{2}) – v_{z}(t_{1}) \notag \end{aligned} \right. \end{aligned}\] と計算することができる.
したがって, 時刻 \( t_{0} \) における初速度が \( \vb*{v}(t_{0}) \) であるとき, 時刻 \( t \) における速度 \( \vb*{v}(t) \) を次のように求めることができる. \[\vb*{v}(t) = \vb*{v}(t_{0}) + \int_{t_{0}}^{t}\vb*{a}(t^{\prime}) \dd{t^{\prime}} \notag \quad .\] このように, 初速度 \( \vb*{v}(t_{0}) \) と加速度 \( \vb*{a}(t) \) が与えられたならば, \( \vb*{a} \) の時間積分を行うことによって時々刻々と変化する速度を知ることができ, その速度を更に時間積分することで物体の位置が定まることになる.
経路に沿った積分
時刻 \( t_{A} \) に点 \( \vb*{r}_{A}=\vb*{r}(t_{A}) \) いた点 \( P \) が3次元空間上を移動して時刻 \( t_{B} \) に点 \( \vb*{r}_{B}=\vb*{r}(t_{B}) \) へ移動したとしよう. このとき, 時刻 \( t_{A} \) から \( t_{B} \) の間の変位 \( \qty( \vb*{r}_{B} – \vb*{r}_{A} ) \) は, 時刻 \( t_{A} \) から \( t_{B} \) の間の速度 \( \vb*{v} \) の時間積分 \[\int_{t_{A}}^{t_{B}} \vb*{v} \dd{t} = \vb*{r}(t_{B}) – \vb*{r}(t_{A}) \notag\] で与えられるのであった. このことを, 少し別の形で表現する手法を紹介しておこう.
証明は省略するが, \( x=x(t) \) の関数 \( f(x) \) の積分において成立する次の置換積分の公式 \[\int f(x) \dd{x} = \int f(x(t))\dv{x}{t} \dd{t} \notag\] が成立することが知られている. この式を速度の積分 \( \int_{t_{A}}^{t_{B}} \vb*{v}(t) \dd{t} \) の各成分に適用しよう. \( x \) 成分だけを具体的に書き出してみると, \[\begin{aligned} \int_{t_{A}}^{t_{B}} v_{x}(t) \dd{t} &= \int_{t_{A}}^{t_{B}} \dv{x}{t} \dd{t} = \int_{x(t_{A})}^{x(t_{B})} \dd{x} =x(t_{B}) – x(t_{A}) \notag \end{aligned}\] が成立することになる. これは各成分に対して適用可能であるので, \[\int_{t_{A}}^{t_{B}} \vb*{v}(t) \dd{t} = \int_{t_{A}}^{t_{B}} \dv{\vb*{r}(t)}{t} \dd{t} = \int_{\vb*{r}(t_{A})}^{\vb*{r}(t_{B})} \dd{\vb*{r}} \label{intdrvec}\] と言った具合にまとめて書くことにしよう. 以下では式\eqref{intdrvec}の意味についてもう少し物理的に考えてみよう.
点 \( P \) は3次元的な経路を通って移動するので, 今回 \( \vb*{r}_{A} \) から \( \vb*{r}_{B} \) へ移動する間に点 \( P \) が通過する経路を \( \mathrm{C}_{A \to B} \) と名付けよう.
この経路 \( \mathrm{C}_{A \to B} \) を下図のように \( n+1 \) 個の点 \( \vb*{r}_{0}=\vb*{r}_{A} \) , \( \vb*{r}_{1} \) , \( \cdots \) , \( \vb*{r}_{k} \) , \( \cdots \) , \( \vb*{r}_{n}=\vb*{r}_{B} \) で \( n \) 個の線分にわけて, 点 \( \vb*{r}_{k} \) から点 \( \vb*{r}_{k+1} \) への微小な変位を \( \Delta \vb*{r}_{k} \coloneqq \vb*{r}_{k} – \vb*{r}_{k-1} \) と定義しよう.
このような定義に従うと, 点 \( \vb*{r}_{A} \) から点 \( \vb*{r}_{B} \) への変位は微小変位 \( \Delta \vb*{r}_{k} \) の総和 \[\begin{aligned} \sum_{k=1}^{n} \Delta \vb*{r}_{k} &= \qty( \vb*{r}_{1} – \vb*{r}_{0} ) + \qty( \vb*{r}_{2} – \vb*{r}_{1} ) + \cdots+ \qty( \vb*{r}_{n} – \vb*{r}_{n-1} ) \notag \\ &= \vb*{r}_{n} – \vb*{r}_{0} = \vb*{r}_{B} – \vb*{r}_{A} \notag \end{aligned}\] で計算することができる.
ここで, 分割数 \( n \) を非常に大きくとる \( n \to \infty \) という極限を上式に適用した \( \displaystyle{\lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} \Delta \vb*{r}_{k} } \) において, \( \Delta \vb*{r}_{k} \) は経路 \( \mathrm{C}_{A \to B} \) 上からわずかも外れない微小変位ベクトルとなり, これを経路 \( \mathrm{C}_{A\to B} \) に沿って順次足し合わせることを意味している. これはまさしく式\eqref{intdrvec}の意味していることに一致しており, \[\int_{\vb*{r}_A}^{\vb*{r}_B}\dd{\vb*{r}}= \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} \Delta \vb*{r}_{k} \notag\] と書くことができる.
以上の議論をまとめると, \( \vb*{r}_{A}(t_{A}) \) から \( \vb*{r}_{B}(t_{B}) \) への変位を計算する手法として, 物体の速度を時間で積分する手法と微小な変位を積分する手法とがあることを紹介した.
物体の速度を時間で積分する手法 \[\vb*{r}(t_{B}) – \vb*{r}(t_{A}) = \int_{t_{A}}^{t_{B}} \vb*{v} \dd{t} = \int_{t_{A}}^{t_{B}} \dv{\vb*{r}}{t} \dd{t} \label{intratorb1}\] は時間間隔 \( \Delta t \) を非常に小さくし, その間の正味の移動量 \( \vb*{v}\Delta t \) を積み重ねることを意味している.
微小な変位を足し合わせる手法 \[\vb*{r}(t_{B}) – \vb*{r}(t_{A}) = \int_{\vb*{r}_{A}}^{\vb*{r}_{B}}\dd{\vb*{r}}\label{intratorb2}\] は経路にそった微小な変位 \( \Delta \vb*{r} \) を積み重ねることを意味している.
式\eqref{intratorb1}と式\eqref{intratorb2}が同じ意味であることは, 置換積分の公式を認めれば明らかである. このようなことをくどくどと説明した理由は, 物理ではこのような議論の行き来が頻繁に行われるからである. これは, 積分時にどのような変数に注目したほうが議論対象の物理を語るのに楽[適切]か, と言うだけの話である. 積分時の変数の違いや細かな表現の違いに物怖じしないよう積分法の理解を深めておきたい.