位置・速度・加速度と微分

位置 \( \vb*{r} \) の時間微分で速度 \( \vb*{v} \) を, 速度 \( \vb*{v} \) の時間微分で加速度 \( \vb*{a} \) を定義する. \[ \vb*{v} \coloneqq \dv{\vb*{r}}{t}, \quad \vb*{a} \coloneqq \dv{\vb*{v}}{t}= \dv[2]{\vb*{r}}{t} \notag \]

力学の大きな目的の一つは時々刻々と変化する物体の運動を予測(予言)することである. すなわち, いつ, どこに, どんな状態で存在していて, 今後どうなるのか, を知ることである.

ここでは, 物体の運動の様子を表す最も単純かつ基本的な物理量としての位置, 速度および加速度について議論する.

位置速度がどのような物理量なのかは比較的理解しやすいが, 加速度はなかなかイメージしにくい人もいるようである. しかし, なんということはなく, 位置と速度の関係速度と加速度の関係の数学的構造が全く同じであることを示す. なので, 位置と速度の関係をよく理解してもらったあとで, そのアナロジーを用いて加速度の議論を行うことにする[1]物理量の諸関係式を単に公式で与えずに, 数学的な構造まで明確にして記述する利点はこのようなところにある. … Continue reading.

これらを語るにあたっては, 微分・積分という数学の言葉を借りるわけだが, その数式が表す意味は日常と乖離したものではない. むしろ, 微分・積分という数学を知っている人からすると, 位置・速度・加速度を微分・積分をもちいて語ることこそが自然に感じられるであろう[2]実際, 歴史的には位置・速度・加速度などを議論するために考え出された数学が微分・積分なのである. … Continue reading.

まずは下準備として, ベクトルの表記法や導関数について簡単に議論するが, これらを理解している人は読み飛ばしてもらって構わない.


下準備 : ベクトルの表記法

ベクトルの表記法

ある量 \( a \) がベクトル量であることを明示するときには太字の文字 \( \vb*{a} \) を用いることにする. すなわち, 高校数学で習うベクトルの表記法 \( \vec{a} \) と同じ意味で \( \vb*{a} \) と書く.

この表記法は物理分野で一般的に用いられており, 世の理工学書などではこの表記法が多く見受けられるので今のうちから慣れておくとよい.

このページで扱う太字アルファベットの書き方の例を下に示しておく. 太字のアルファベットを実際に書くときにはアルファベットの一部を二重線にすることで表現することがもっぱらである.
ベクトルの表記方法

下準備 : 微分係数と導関数

詳しくは微分法も参照していただきたいが, 微分係数および導関数と呼ばれるものについて簡単に議論しておく.

平均の変化率と微分係数

ある変数 \( x \) の関数 \( y=f(x) \) が下図のように与えられているとする.

このとき, \( x_{1} \) から \( x_{2}\ (> x_{1}) \) で区切られるある区間 \( x_{1} \le x \le x_{2} \) に注目し, この区間の両端における \( y \) の変化量を区間の幅で割った量 \[\frac{f(x_{2}) – f(x_{1})}{x_{2} – x_{1}} \label{ave_f}\] をこの区間における関数 \( f \) の平均の変化率という. これは上図に示したように, \( f(x) \) の区間 \( x_{1} \le x \le x_{2} \) の始点 \( \qty( x_{1}, f(x_{1}) ) \) と終点 \( \qty( x_{2}, f(x_{2}) ) \) を結ぶ直線の傾きを求めることに等しい.

さて, 平均の変化率で考える区間幅 \( x_{2} – x_{1} \) を限りなく小さくしていくことで, とある瞬間における変化率を調べることが可能となる.

そこで, \( x_{2} \) を \( x_{1} \) に限りなく近づける \( x_{2} \to x_{1} \) という操作 — 極限 — を考えよう. \( x_{2} \to x_{1} \) という極限操作を平均の変化率(式\eqref{ave_f})に適用することは記号 \( \displaystyle{\lim_{x_{2} \to x_{1}}} \) を式\eqref{ave_f}の前につけることであらわし, \[\lim_{x_{2} \to x_{1}} \frac{f(x_{2}) – f(x_{1})}{x_{2} – x_{1}} \label{diff_f1}\] と書くことにする. 式\eqref{diff_f1}を \( x_{1} \) における関数 \( f \) の微分係数といい, \( \displaystyle{\dv{f(x_{1})}{x} } \) や \( \displaystyle{\left. \dv{f}{x} \right|_{x=x_{1}}} \) と書く. これは上図に示したように, \( x=x_{1} \) における関数 \( f(x) \) の傾きを求めていることに相当する [3]ある一点における傾きとは何か, ということが気になる人は大変に鋭い. しかし, … Continue reading.

微分係数を定義した式\eqref{diff_f1}では, 区間の始点と終点の \( x \) 座標 \( x_{1} \) , \( x_{2} \) を用いたが, 区間の始点の \( x \) 座標 \( x_{1} \) とそこからの区間幅で記述することも出来るはずである.

ある連続した量 \( x \) についてとある区間を切り取り, その区間幅を \( \Delta x \) と書くことにする. ここで記号 \( \Delta \) (デルタ)は差分とかを表すときに用いられるギリシャ文字である. なお, \( \Delta x \) は \( \Delta \) と \( x \) の積を意味しておらず, \( \Delta x \) という組で一つの意味を持つ量と解釈してほしい.

\( x_{1} \) からのある区間幅 \( \Delta x \) を \( \Delta x =x_{2} – x_{1} \) とすると, 極限 \( x_{2} \to x_{1} \) は \( \Delta x \to 0 \) と書くことができるので, 関数 \( f \) の \( x_{1} \) における微分係数(式\eqref{diff_f1})は次のように書き表すことができる. \[\begin{align} \left. \dv{f}{x} \right|_{x=x_{1}} &= \lim_{x_{2} \to x_{1}} \frac{f(x_{2}) – f(x_{1})}{x_{2} – x_{1}} \notag \\ &= \lim_{\Delta x \to 0} \frac{f(x_{1}+\Delta x) – f(x_{1})}{\Delta x} \label{diff_f2} \end{align}\] 式\eqref{diff_f1}と式\eqref{diff_f2}は区間の始点と終点を用いて記述するか, 始点と区間幅で記述するかの違いだけであり, 全く等価である. 表現の違いにとらわれず, その意味を明確に理解するよう努めていただきたい.

導関数

関数 \( y=f(x) \) について, \( x \) のあらゆる箇所での微分係数を知ろうと思うならば, \( x_{1} \) における微分係数の定義式 \[\left. \dv{f}{x} \right|_{x=x_{1}} = \lim_{\Delta x \to 0} \frac{f(x_{1}+\Delta x) – f(x_{1})}{\Delta x} \notag\] において \( x_{1} \) を \( x \) に置き換えればよいことになる. つまり, \[\dv{f}{x} \coloneqq \lim_{\Delta x\to 0 }\frac{f(x+\Delta x) – f(x)}{\Delta x} \label{diff_f}\] と記述することにより, 関数 \( f \) の曲線の傾きを値に持つような関数が得られることになり, 関数 \( f \) の(第1次)導関数という.

式\eqref{diff_f}で定義される操作は関数 \( f \) から新しい関数 \( \dv{f}{x} \) を生成するものだとみなすことができ, 関数 \( f \) から導関数 \( \dv{f}{x} \) を求める操作を微分するなどという.

関数 \( f \) を微分することで得られる導関数の値は, 微分係数の意味が理解できていればあきらかであり, ある \( x \) における関数 \( f \) の変化率(=グラフの傾き)を値として持っている. これはまさしく関数 \( f \) が変化する勢いを表すものであり, この考え方が物理の記述に大変ふさわしいものとなっている.

下図にはある関数 \( f(x) \) とその導関数 \( \dv{f}{x} \) を同時に描いた. 関数 \( f \) の傾きと導関数 \( \dv{f}{x} \) の値との関係のイメージを掴んでほしい.

なお, 関数 \( f \) の導関数 \( \dv{f}{x} \) の導関数のことを第2次導関数といい, \[\dv[2]{f}{x} = \dv{x} \qty( \dv{f}{x} ) \notag\] と表記される. ここではこの第2次導関数の性質については踏み込まないが, このような関数を定義できることを知っておいて頂きたい.

位置

3次元空間内に存在するある点 \( P \) の位置ベクトルを \( \vb*{r} \) とする. この点 \( P \) の位置座標が3次元直交座標系のもとで \( \qty( x, y, z ) \) で与えられるものとしよう. 3次元直交座標系の各軸方向の単位ベクトル \( \vb*{e}_{x} \) , \( \vb*{e}_{y} \) , \( \vb*{e}_{z} \) を \[\begin{aligned} \vb*{e}_{x} = \qty( 1, 0, 0 ) \notag \\ \vb*{e}_{y} = \qty( 0, 1, 0 ) \notag \\ \vb*{e}_{z} = \qty( 0, 0, 1 ) \notag \end{aligned}\] とすると, 位置(ベクトル) \( \vb*{r} \) は次のように表すことが出来る. \[\begin{aligned} \vb*{r} &= \qty( x, y, z ) \\ &= x \vb*{e}_{x} + y \vb*{e}_y + z\vb*{e}_z \notag \quad . \end{aligned} \notag\]

ここで, \( x \) , \( y \) , \( z \) やそれらを成分に持つ \( \vb*{r} \) というのは時間 \( t \) に応じて変化する量であるので, そのことを明示的に書きたいときには \( x(t) \) , \( y(t) \) , \( z(t) \) , \( \vb*{r}(t) \) といった具合に表記することもある.

冒頭でも述べたとおり, 力学の目的の一つはこの \( \vb*{r}(t) \) を完全に理解することであるが, 以下では \( \vb*{r}(t) \) が与えられたものとして議論を進める.

速度

1次元運動の変位

まずは簡単のため, 点 \( P \) の位置 \( \vb*{r}(t) \) の \( x \) 成分 \( x(t) \) に注目して( \( x \) 方向の)速度というものを定義しよう.

ある時刻 \( t = t_1 \) に位置 \( x(t_1) \) にいた点 \( P \) が, \( t=t_{2}\ (>t_{1}) \) に位置 \( x(t_{2}) \) に移動したとする. このとき, 時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間の位置の変化量 \[\Delta x \coloneqq x(t_{2}) – x(t_{1}) \label{x2tox1}\] を時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間の位置の変位という. ここで式\eqref{x2tox1}に用いた記号 \( \Delta \) (デルタ)は差分とかを表すときに用いられるギリシャ文字であり, \( \Delta x \) とかくことで \( x \) という量のある差分を意味することになる. また \( \Delta x \) は \( \Delta \) と \( x \) の積を意味しておらず, \( \Delta \) と \( x \) を一セットにかくことで変位を意味するものである.

1次元運動の平均の速度

時刻 \( t_{1} \) に位置 \( x(t_{1}) \) , 時刻 \( t_{2} \) に位置 \( x(t_{2}) \) にいた物体 \( P \) の平均の速度 \( \bar{v} \) とは, この間の変位を所要時間で割った量 \[\bar{v} \coloneqq \frac{x(t_{2}) – x(t_{1})}{t_{2} – t_{1}} \label{ave_v}\] で定義される.

この平均の速度は点 \( P \) の移動方向の向きまで加味された量であることに注意してほしい. たとえば, \( x(t_{2}) < x(t_{1}) \) の場合, 平均の速度の符号は負となり, \( x \) 軸方向とは反対方向へ運動したことをあらわしているのである.

1次元運動の速度

平均の速度というのは, 二つの時刻と位置を指定することで定まる量であった. しかしながら, その二点以外の情報は捨て去ってしまっているのである.

実際, 下図に示すように, 時刻 \( t_{1} \) において \( x(t_{1}) \) にいること, 時刻 \( t_{2} \) において \( x(t_{2}) \) にいることさえ同じならばどのような過程を経たとしてもこのあいだの平均の速度は同じことになる.

これでは, 物体の運動を常に追いかけて調べようとしている我々の立場としてはやや不満足であろう.

そこで, \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の時間幅 \[\Delta t \coloneqq t_{2} – t_{1} \notag\] において, \( t_{2} \) を限りなく \( t_{1} \) に近づける, すなわち, \( \Delta t \) を限りなく \( 0 \) にするような極限操作を平均の速度の式\eqref{ave_v}に適用したものを, 時刻 \( t_{1} \) における瞬間の速度あるいは単に速度と呼び, \[\begin{align} v(t_{1}) & \coloneqq \lim_{t_{2} \to t_{1} }\frac{x(t_{2}) – x(t_{1})}{t_{2} – t_{1}} \\ & = \lim_{\Delta t \to 0} \frac{x(t_{1}+\Delta t) – x(t_{1})}{\Delta t} \label{def_velocity1} \end{align} \] で定義する.

ここで, \( x \) を変数とする関数 \( f(x) \) の \( x_{1} \) における微分係数の定義式 \[\left. \dv{f}{x} \right|_{x=x_{1}} \coloneqq \lim_{\Delta x \to 0 }\frac{f(x_{1}+\Delta x) – f(x_{1})}{\Delta x} \label{def_diffx1}\] と瞬間の速度の定義式\eqref{def_velocity1}とを見比べると, 式\eqref{def_diffx1}において \( \Delta x \) を \( \Delta t \) に, \( x_{1} \) を \( t_{1} \) に, \( f \) を \( x \) に置き換えたものになっている. したがって, 時刻 \( t_{1} \) における瞬間の速度 \( v(t_{1}) \) は位置 \( x(t) \) の時刻 \( t_{1} \) における微分係数 \[v(t_{1}) = \left. \dv{x}{t} \right|_{t= t_{1}} \label{def_velocity2}\] で定義されることがわかる. これは下図のような \( x \) – \( t \) グラフで考えると時刻 \( t_{1} \) における曲線の傾きに相当している.

速度 \( v \) を時間の関数として知るためには, 式\eqref{def_velocity1}または式\eqref{def_velocity2}において \( t_{1} \) を \( t \) で置き換えた式を用いればよいことになる. すなわち, 位置 \( x(t) \) の導関数 \[v(t) = \dv{x(t)}{t} \notag\] を計算することで任意の時刻 \( t \) における物体の( \( x \) 方向の)速度が決定される.

3次元運動の速度

これまでに1次元方向の変位や速度について議論してきた. これらの議論は \( x \) , \( y \) , \( z \) 方向の全ての方向に対して等しく成立する.

3次元空間内のある点 \( P \) の時刻 \( t \) における位置座標 \( \vb*{r}(t) \) が3次元直交座標系で \( \vb*{r}=\qty( x, y, z ) \) とする.

時刻 \( t_{1} \) に \( \vb*{r}(t_{1}) \) にいた \( P \) が, 時間幅 \( \Delta t \) 経過後の時刻 \( t_{2} \) に位置 \( \vb*{r}(t_{2}) \) に移動したときの変位 \( \Delta \vb*{r} \) は \[\begin{aligned} & \Delta \vb*{r} = \vb*{r}(t_{2}) – \vb*{r}(t_{1}) \notag \\ & \left( \begin{aligned} &= \qty( x(t_{2}), y(t_{2}), z(t_{2}) ) – \qty( x(t_{1}), y(t_{1}), z(t_{1}) ) \notag \\ &= \qty( x(t_{2}) – x(t_{1}), y(t_{2}) -y(t_{1}), z(t_{2}) – z(t_{1}) ) \end{aligned} \right) \end{aligned}\] であり, 時刻 \( t_{1} \) における速度は \( t_{1} \) における位置 \( \vb*{r}(t) \) の微分係数 \[\vb*{v}(t_{1}) = \lim_{\Delta t \to 0} \frac{\vb*{r}(t_{1} + \Delta t) – \vb*{r}(t_{1})}{\Delta t} = \left. \dv{ \vb*{r} }{t} \right|_{t=t_{1}} \notag\] で定まる.

また, 時刻 \( t \) における速度 \( \vb*{v}(t)=\qty( v_{x}, v_{y}, v_{z} ) \) は位置 \( \vb*{r}(t) \) の導関数 \[\vb*{v}(t) = \dv{ \vb*{r}(t) }{t} = \qty( \dv{x}{t}, \dv{y}{t}, \dv{z}{t} ) \label{def_velocity3d}\] で定まる.

加速度

後に分かるように, ニュートンが見つけた運動の法則(運動の3法則)において本質的な役割を担う物理量の一つが加速度である. 加速度とは速度の変化具合を表す量であり, 位置と速度速度と加速度の数学的な構造は全く同じものとなっている.

1次元運動の平均の加速度

\( x \) 軸上を運動している物体 \( P \) について, 時刻 \( t_{1} \) における速度を \( v(t_{1}) \) , 時刻 \( t_{2} \) における速度を \( v(t_{2}) \) としたとき, \( P \) の平均の加速度 \( \bar{a} \) とは, この間の平均の速度を所要時間で割った量 \[\bar{a} \coloneqq \frac{v(t_{2}) – v(t_{1})}{t_{2} – t_{1}} \label{ave_a}\] で定義される. これは下図のような \( v \) – \( t \) グラフにおいて時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の始点と終点における2点を結んだ直線の傾きに相当しており, 位置とは無関係に定義される.

1次元運動の加速度

速度のときと同じく, 瞬間の加速度あるいは単に加速度と呼ばれるものを考えよう.

ある物体 \( P \) の時刻 \( t_{1} \) における速度とは, 位置 \( x(t) \) を用いて, \[v(t_{1}) \coloneqq \lim_{\Delta t \to 0} \frac{x(t_{1}+\Delta t) – x(t_{1})}{\Delta t} = \left. \dv{x}{t} \right|_{t=t_{1}} \notag\] で定義されるのであった. このアナロジーを用いると, 時刻 \( t_{1} \) における物体 \( P \) の(瞬間の)加速度とは, 速度 \( v(t) \) の時刻 \( t_{1} \) における微分係数 \[a(t_{1}) \coloneqq \lim_{\Delta t \to 0} \frac{v(t_{1}+\Delta t) – v(t_{1})}{\Delta t} = \left. \dv{v}{t} \right|_{t=t_{1}} \label{def_acceleration2}\] で定義される. これは \( v \) – \( t \) グラフにおいて時刻 \( t_{1} \) における速度 \( v(t) \) の曲線の傾きに相当している.

また, 式\eqref{def_acceleration2}において \( t_{1} \) を \( t \) で置き換えた式, すなわち, 速度 \( v(t) \) の導関数 \[a(t) = \dv{v(t)}{t} = \dv[2]{x(t)}{t} \label{def_acceleration}\] で物体の( \( x \) 方向の)加速度を定義する.

3次元運動の加速度

加速度についても, 1次元での議論をそのまま3次元に拡張することができる.

3次元空間内のある点 \( P \) の時刻 \( t \) における速度 \( \vb*{v}(t) \) が \( \vb*{v}=\qty( v_{x}, v_{y}, v_{z} ) \) とする. このとき, 時刻 \( t_{1} \) における加速度は \[\vb*{a}(t_{1}) = \lim_{\Delta t \to 0} \frac{\vb*{v}(t_{1} + \Delta t) – \vb*{v}(t_{1})}{\Delta t} = \left. \dv{ \vb*{v} }{t} \right|_{t=t_{1}} \notag\] で定義される. また, 時刻 \( t \) における加速度 \( \vb*{a}(t)=\qty( a_{x}, a_{y}, a_{z} ) \) は速度 \( \vb*{v}(t) \) の導関数 — 位置 \( \vb*{r}=\qty( x, y, z ) \) の第2次導関数 — \[\begin{aligned} \vb*{a}(t) &= \dv{ \vb*{v}(t)}{t} = \qty( \dv{v_{x}}{t}, \dv{v_{y}}{t}, \dv{v_{z}}{t} ) \notag \\ &= \dv[2]{\vb*{r}(t)}{t} = \qty( \dv[2]{x}{t}, \dv[2]{y}{t}, \dv[2]{z}{t} ) \notag \end{aligned}\] で定義される.

この加速度(ベクトル)は, 時々刻々と変化する速度(ベクトル)の変化を表すものである. したがって, ある瞬間の加速度を知ることは, その瞬間の前後で速度の向き・大きさの変化がどのようになっているのかを知ることに等しい.

時間微分の表記

これまでの議論においてもそうであるように, 物理の学習を進めていくと物理量を時間で微分する機会が頻繁にある.

そこで, 時間微分を表す記号 \( \dv{t} \) を, 物理量を表す文字の上に \( \cdot \) (ドット)をつけることで時間の微分を表す記法も用いられる. すなわち, 物理量 \( x \) の時間微分を \[\dot{x} \coloneqq \dv{x}{t} \notag\] と書き, \( \dot{x} \) エックス ドットと読む.

この記法において, 第2次導関数は, \( \cdot \) の数を増やすことで対応する. すなわち, 時間の2階微分を \[\ddot{x} = \dv[2]{x}{t} = \dv{t} \qty( \dv{x}{t} ) \notag\] と書き, \( \ddot{a} \) エックス ツー ドットと読む.

このように, 量 \( x \) の時間微分を \( \dot{x} \) で表す記法をニュートンの記法と言い, \( \displaystyle{\dv{x}{t}} \) で表す記法をライプニッツの記法と言う.

各記法毎に利点があるので両方を理解した上で, 状況に応じて使い分けてくれればよい. なお, 当サイトでは主にライプニッツの記法で時間微分を書き表すことにする.

最後に, ニュートンの記法を持ちいて位置 \( \vb*{r} \) ・速度 \( \vb*{v} \) ・加速度 \( \vb*{a} \) の関係を書き下しておくと, \[\begin{aligned} \vb*{v} &= \dot{\vb*{r}} \notag \\ \vb*{a} &= \dot{\vb*{v}} = \ddot{\vb*{r}} \notag \end{aligned}\] ということになる.

脚注

脚注
1 物理量の諸関係式を単に公式で与えずに, 数学的な構造まで明確にして記述する利点はこのようなところにある. 物理ではじめて出くわす概念は様々あるが, 同じ数学的構造を持つ別の(理解しやすい)関係式と結びつけることで理解のハードルを下げてくれる. この視点が十分に養われれば, 高校物理で取り扱われる話題ではまたこの数学的構造か.という感想を何度も持つことになるであろう.
2 実際, 歴史的には位置・速度・加速度などを議論するために考え出された数学が微分・積分なのである. 当サイトではあまり歴史的な経緯は考慮せずに議論する.
3 ある一点における傾きとは何か, ということが気になる人は大変に鋭い. しかし, ここでは非常に小さい幅の間での傾きという素直な解釈で十分であり, このような操作の妥当性が担保された関数について考えることにしよう. これが気になるような人は \( \epsilon \) – \( \delta \) 論法と呼ばれるものを学ぶことをおすすめする.