積分法

物理は「何がどのように変化するのか」を記述する学問なので, 変化を正確(精確)に言い表す数式表現が必要になる. 特に話題となるのは, 「短い間隔どんな変化が積み重なるのか, またその変化の割合は如何程か」 ということである. 「短い間隔」を議論するために極限, 「どんな変化が積み重なるのか」を議論するために積分, 「変化の割合」を議論するために微分という分野の力をそれぞれ借りることになり, ここでは積分について議論する.

積分法は微小な量を足し合わせる操作であり, 物理においては運動が変化する間に「どんな変化が蓄積されたか」を計算するための道具である. 積分を定義する方法はいくつかあるが, ここでは図形と積極的に絡めて導入していく.

本文中で何度も取り上げるが, ある関数を積分する行為は, その関数を導関数に持つ別の関数を見つけることに等しいので, まずは代表的な関数の微分がどうなるのかを分かっていないと手がつけられない. まだ微分が不安な人は復習したのち取り組むことをすすめる.


積分法 = すごい足し算

結論から言えば, 積分法は足し算に極限の要素を加えたものと思ってもらって構わない. 例えば下図のような関数 \( f(x) \) が与えられており, \( f(x) \) と \( x \) 軸, \( x = a \) , \( x = b \) によって囲まれた部分の面積を求めよう. 以下の議論を始めて見る人にとっては敷居が高く感じるかもしれないが, 紙とペンを持って一行一行の意味を確かめつつ読み進めてほしい.

囲まれた部分は長方形や台形などの簡単な図形ではないので工夫が必要となる. どのような工夫を施すのかといえば, 細かい長方形の面積の足しあわせと考えればいいのである. “わからない問題ならば, わかっている問題に置き換えてみよう“ということである.

\( x = a \sim b \) の範囲を \( n \) 分割し, \( \displaystyle{\Delta x = \frac{b – a}{n} } \) の間隔で \( x = a \sim b \) の範囲に点 \( x_{k} \) を取る. \[ x_0 = a < x_1 < \cdots < x_{n-1} < x_{n} = b \] ここで, \[ \begin{aligned} x_0 &= a \\ x_1 &= a + \Delta x = a + \frac{b-a}{n} \\ \cdots &= \cdots \\ x_k &= a + k\Delta x = a + \frac{b-a}{n}k \\ \cdots &= \cdots \\ x_{n-1} &= a + \qty( n-1 ) \Delta x = a + \frac{b-a}{n}\qty( n-1 ) \\ x_n &= a + n \Delta x = a + \frac{b-a}{n}n \\\end{aligned} \] である.

\( x_k \) に対応した高さは \( f(x_k) \) と求めることができるので, 底辺が \( x_k \sim x_{k+1} \) で高さが \( f(x_k) \) の長方形を \( n \) 個考えることができる. そしてこれらの小さな長方形の面積の総和は求めたい面積にほぼ等しくなる. 求めたい面積を \( S \) とすると, \[ \begin{aligned} S & \fallingdotseq f(x_0) \Delta x + f(x_1) \Delta x + \cdots + f(x_{n-1})\Delta x \\ & = \sum_{k = 0}^{n-1} f(x_k) \Delta x \\ & = \sum_{k = 0}^{n-1} f(x_k) \frac{b-a}{n}\end{aligned} \] と表すことができる. この右辺は一見難しく感じるが, これまで述べてきたとおり, 高さ \( f(x_k) \) , 幅 \( \displaystyle{\frac{b-a}{n}} \) の長方形の面積の足し算というだけである. 次に, \( n\to \infty \) という極限を考えよう. 分割数が限りなく多くなるので, 作られる長方形の幅 \( \Delta x \) も \( \Delta x \to 0 \) となり, 長方形の幅が非常に狭くなる極限とおなじことである. この極限では長方形の面積の総和は求めたい面積に限りなく近づくので, \[ S = \lim_{n \to \infty} \sum_{k = 0}^{n-1} f(x_k) \frac{b-a}{n} \] と表すことができ, 関数 \( f(x) \) の \( x = a \) から \( x = b \) までの定積分という. しかし, 毎回このように極限を含んだ式を書くことはせず, \( x = a \) から \( x = b \) までの定積分を次の記号で表す. \[ S = \int_{a}^{b} f(x)\dd{x} \] \( \int \) は”和( Summation )”の頭文字 \( S \) と同じ意味で”インテグラル“と読む. そして記号 \( \int_{a}^{b} \) は”インテグラル \( a \) から \( b \) までの”などと読む.

記号 \( \int_{a}^{b} \) は, \( \int_{a}^{b} \) に続く \( f(x) \) と無限小の幅 \( \dd{x} \) の掛け算について \( x = a \) から \( x = b \) までにわたる和を取ることをする. ここで \( x \) はただの記号であるので, 別の文字に置き換えても定積分の値は変わらないことに注意してほしい. すなわち, \[ \int_{a}^{b} f(x)\dd{x}= \int_{a}^{b} f(t)\dd{t}= \int_{a}^{b} f(\blacksquare)\dd{\blacksquare} \] などが成立する. また, \[ \int_{a}^{b} f(x)\dd{x} \] は慣習的に \( \int_{a}^{b} \) , \( f(x) \) , \( \dd{x} \) の順番で書かれているが, \( f(x) \dd{x} \) は \( f(x) \) と \( \dd{x} \) の掛け算というだけなので, \( \int_{a}^{b} \) , \( \dd{x} \) , \( f(x) \) の順番でよいので, \[ \int_{a}^{b} f(x)\dd{x}= \int_{a}^{b} \dd{x} f(x) \] が成立する.

微分の逆操作と積分法

積分がどんな意味をもっているのかについて述べてきたが, 実際に計算するときにはどうすればいいのかについてはまだ述べていなかった. 結論としては, 積分の計算方法は微分の逆操作なわけだが, ここではその意味を説明する[1]相当数学に熟練した人はこの手の表現に物申したくなるかもしれないが, 高校物理を学ぶ間はこれでよい. … Continue reading.

下図の斜線部のように \( x = 0 \) から \( x = x_1 \) までの範囲に関数 \( f(x) \) と \( x \) 軸によって囲まれた面積が \( F(x_1) \) と表されるとする. つまり, \[ F(x_1) = \int_{0}^{x_1} f(x) \dd{x} \] という定積分を表している[2]正確には”符号付き面積”である. また, 確認しておくと \[ F(x_1) = \int_{0}^{x_1} f(x) \dd{x} \] において記号 \( x \) はなんでもよく, \[ F(x_1) = … Continue reading. まずは, \( f(x) \) の積分によって \( F(x_1) \) を求めることができるということだけ頭に入れておいてほしい.

ここで, \( x_1 \) が \( \Delta x \) だけ増加した時の面積は \( F(x_1 + \Delta x) \) である. \( \Delta x \) が十分に小さいならば, 面積の増加量 \( F(x_1 + \Delta x) – F(x) \) は高さ \( f(x_1) \) で底辺が \( \Delta x \) の長方形の面積とほぼ等しく, \[ F(x_1 + \Delta x) – F(x_1) \fallingdotseq f(x_1) \Delta x \] となる. 式変形を行い \( f(x_1) \) について整理すると, \[ f(x_1) \fallingdotseq \frac{F(x_1 + \Delta x) – F(x_1) }{\Delta x } \] である. ここで \( \Delta x \to 0 \) の極限を行い, 微分の定義式を思い出すと, \[ f(x_1) = \lim_{\Delta x \to 0} \frac{F(x_1 + \Delta x) – F(x_1) }{\Delta x } = \dv{F(x_1)}{x} \] となる. これは \( F( x ) \) の \( x_1 \) における微分係数が \( f( x_1 ) \) であり, \( x_1 \to x \) と書きかえれば, \[ f(x) = \dv{F(x)}{x} \] となり, \( F( x ) \) の導関数が \( f( x ) \) であることがわかる. つまり, \( F(x) \) の微分によって \( f(x) \) を求めることができることになる. 冒頭で, \( f(x) \) の積分によって \( F(x) \) を求めることができると述べた内容と比べれば, 積分と微分は逆操作の関係にあることがわかる. したがって, 微分すると \( f(x) \) になるような関数 \( F(x) \) を見つけることが積分の持つ数式的な意味である.

ただし, 以下の不定積分の項目ですぐに議論するように, \[ \dv{F(x)}{x}= f(x) \] を満たす関数 \( F(x) \) を探すだけならばその関数は無数に存在することに注意が必要である.

不定積分

原始関数

関数 \( F(x) \) の導関数を \( f(x) \) とする. すなわち, \[ \dv{F(x)}{x} = f(x) \] とする. このとき, \( F(x) \) を \( f(x) \) の原始関数という.

\( f(x) \) の原始関数として, \( F_1(x), \quad F_2(x) \) を見つけたとする. \( F_1(x) \) と \( F_2(x) \) の差を表す関数を \[ G(x) = F_1(x) – F_2(x) \] と定義する. \( G(x) \) は次に挙げるような性質を持つことになる. \[ \begin{aligned} \dv{G(x)}{x} &= \dv{F_1(x)}{x} – \dv{F_2(x)}{x} \\ &= \underbrace{f(x) }_{\dv{F_1(x)}{x} = f(x) } – \underbrace{f(x) }_{\dv{F_2(x)}{x} = f(x) } = 0 \end{aligned} \] \[ \begin{aligned} \therefore \ \dv{G(x)}{x} &= 0 \\ \iff G(x) & = C \qq{ \( C \) は \( x \) に依存しない定数} \end{aligned} \] \[ \therefore \ F_1(x) – F_2(x) = C \ . \label{2つの原始関数} \] したがって, \( f(x) \) の原始関数 \( F(x) \) が1つでもみつかれば, 他の原始関数は \( F(x)+C \) と表すことができることなり, 無数に存在することになる. \( C \) を積分定数という.

不定積分

\( f(x) \) の不定積分を \( \int f(x) \dd{x} \) と表す. これは \( f(x) \) の原始関数 \( F(x) \) と積分定数 \( C \) を用いて \[ \int f(x) \dd{x}= F(x) + C \] と表す. 不定積分は積分後の関数の形を求める時などに頻繁に用いられ, 積分定数 \( C \) が省略されることも多い.

不定積分の公式

積分は微分の逆操作である“という結論を既に得ている. したがって, 積分の公式は微分の公式(の逆操作)によって求めることができて, 次に列挙するような計算結果になる. 微分の公式を忘れた人は随時確認してほしい. また, これらの積分は頻繁に登場するのでスムーズにできるように訓練しておいてほしい. \[ \begin{aligned} \int x^a \dd{x}&= \frac{x^{a+1}}{a+1} + C \\ \int x^{-1} \dd{x}&= \log{\abs{x }} + C \\ \int \cos{x } \dd{x}&= \sin{x } + C \\ \int \sin{x } \dd{x}&= – \cos{x } + C \\ \int e^x \dd{x}&= e^x + C \\ \int a^x \dd{x}&= \frac{1}{\log a } a^x + C \end{aligned} \]

\( f(ax+b) \) の不定積分

合成関数の積分の例として \( f(ax+b) \) の不定積分を考えると, 次式が成立する. \[ \int f(ax + b ) \dd{x}= \frac{1}{a}F(ax+b) + C \] この公式は実際に, \( t = ax +b \) などとして原始関数 \( F(t) \) に対して, 合成関数の微分を行うことで確かめることができる. \[ \begin{aligned} \qty( F(ax +b ) )^{\prime } &= \dv{ F(ax+b )}{x} =\dv{ F(t)}{t}\cdot \dv{t}{x} \\ &=\dv{ F(t)}{t}\cdot \dv{ \qty( ax+ b )}{x} = f(t) \cdot a \\ &= f(ax+b) \cdot a \end{aligned} \] \[ \therefore \ f(ax+b) = \frac{1}{a} \dv{ \qty( F(ax +b ) ) }{x} \]

置換積分

関数 \( y = f(x) \) において, \( x = g(t) \) であるとするとしよう. \( x \) を \( t \) で微分すると, \[ \dv{x}{t}= \dv{g(t)}{t} \] が成立する. ここで, 微分を分数のように扱えば, \( \displaystyle{\dd{x} = \dv{g(t)}{t} \dd{t} } \) となるので, 次の公式が成り立つ. \[ \int f(x) \dd{x}= \int f( g (t) ) \dv{ g(t) }{t} \dd{t} \] 置換積分は積分する微小量を別の微小量に置き換えている. いまの場合, 微小量 \( \dd{x} \) を微小量 \( \dd{t} \) に置き換えたので, 面積と絡めるならば面積を求めるために使用する長方形の微小幅と高さを変更したことに相当する.

定積分

関数 \( f(x) \) の \( x = a \) から \( x = b \) までの定積分 \( \displaystyle{\int_{a}^{b} f(x) \dd{x}} \) は下図に示すような面積[3]実際にはのちに議論するように, “符号付き面積”というべきである.を表していたが, 原始関数を用いてこの面積を表す式を考えよう. \( x = 0 \sim b \) までの面積は原始関数 \( F(x) \) を用いて, \( \displaystyle{F(b) = \int_{0}^{b} f(x) \dd{x}} \) . 同様に, \( x = 0 \sim a \) までの面積は \( \displaystyle{F(a) = \int_{0}^{a} f(a) \dd{x}} \) であるので, 求める定積分は原始関数を用いて, \[ \int_{a}^{b} f(x) \dd{x}= F(b) – F(a) \] と表すことができる.

定積分の数式上での理解としては, \( f(x) \) の原始関数の \( F(x) \) を用いて次のように表されることになる. \[ \int_{a}^{b} f(x) \dd{x}= \qty[ F(x) ]_{a}^{b} = F(b) – F(a) \] ここで, 用いた記号 \( \qty[ \ \ \ ]_{a}^{b} \) は, \[ \qty[ F(x) ]_{\blacksquare}^{\square} = F(\square) – F(\blacksquare) \] というふうに大かっこの中の引数に大かっこの上下についた値を代入して差を取る記号を表している.

定積分の基本性質

積分区間の操作に関する定積分の基本性質を列挙しておく. \[ \begin{aligned} &\int_{a}^{a} f(x) \dd{x}= 0 \\ &\int_{a}^{b} f(x) \dd{x}= – \int_{b}^{a} f(x) \dd{x}\\ &\int_{a}^{b} f(x) \dd{x}+ \int_{b}^{c} f(x) \dd{x}= \int_{a}^{c} f(x) \dd{x}\end{aligned} \]

定積分と面積

既に何度も触れてきたように, 定積分は図形の面積と密接な関係にある. 実際, \[ S = \int_{a}^{b} \left \{ f(x) – g(x)\right \} \dd{x} \] は \( f(x) \) と \( g(x) \) , 及び \( x = a \) と \( x = b \) という4つの曲線に囲まれた領域の面積を表している.

ただし, この計算結果自体は \( S \) は負の値をとることもる”符号付き面積”を表していることに注意してほしい. というのも, \( x = a \) から \( x = b \) の領域にわたって常に \( f(x) < g(x) \) が成り立つ場合や, 領域内で \( f(x) \) と \( g(x) \) が交わる場合なども考えられるからである.

定積分の置換積分法

関数 \( f(x) \) と \( x = g(t) \) において, \( x_a = g(t_a), \quad x_b = g(t_b) \) とすると, \[ \int_{x_a}^{x_b} f(x) \dd{x}= \int_{t_a}^{t_b} f( g(t) ) \dv{g(t)}{t} \dd{t} \] が成り立つ. これは \( x \) の微少量 \( \dd{x} \) に対する積分操作を \( \dd{x} = \dv{x}{t} = \dv{ g(t)}{t} \dd{t} \) によって, \( t \) の微少量 \( \dd{t} \) による積分に置き換えたことに相当する.

積分公式のまとめ

不定積分 : \[ \int f(x) \dd{x}= F(x) + C \] 積分の性質 : \[ \int f( ax + b ) \dd{x}= \frac{1}{a}F(ax+b) + C \] 置換積分 : \[ \begin{aligned} \int f(x) \dd{x}= \int f(x(t)) \dv{x}{t} \dd{t}\end{aligned} \] 定積分 : \[ \int_{a}^{b} f(x) \dd{x}= F(b) – F(a) \] 置換積分 : \[ \int_{x_a}^{x_b} f(x) \dd{x}= \int_{t_a}^{t_b} f( g(t) ) \dv{ g(t)}{t} \dd{t} \]

脚注

脚注
1 相当数学に熟練した人はこの手の表現に物申したくなるかもしれないが, 高校物理を学ぶ間はこれでよい. この点につっかかりたい感情を抱く人が学ぶべき書籍やサイトは他にいくらでもあるのでそちらを参照していただきたい.
2 正確には”符号付き面積”である. また, 確認しておくと \[ F(x_1) = \int_{0}^{x_1} f(x) \dd{x} \] において記号 \( x \) はなんでもよく, \[ F(x_1) = \int_{0}^{x_1} f(x) \dd{x}= \int_{0}^{x_1} f(t) \dd{t} \] でもよい.
3 実際にはのちに議論するように, “符号付き面積”というべきである.