角運動量保存則と最接近距離
万有引力定数を \( G \), 無限遠を位置エネルギーの基準として, 以下の問に答えよ.
原点 \( O \) からの距離が \( r \), 速さが \( v \) である質量 \( m \) の物体 \( P \) について考える. 原点 \( O \) 周りの角運動量の大きさ \( L \) という量は, 原点から物体 \( P \) へ向かう位置ベクトルと速度ベクトルとの成す角を \( \theta \) とすると, \[L = \left| \frac{1}{2} m r v \sin{\theta} \right| \notag \] で与えられる.
下図のような座標系において質量 \( m \) の物体 \( P \) が \( y=b \ ( > 0 ) \) の直線上で, 原点からの距離が \( r \), \( x \) 軸の正方向からのなす角が \( \theta \) の位置に存在し, \( x \) 軸の正方向に速さ \( v_{0} \) を持っているとする. このとき, 物体 \( P \) の原点 \( O \) 周りの角運動量の大きさ \( L_{0} \) を \( m \), \( b \), \( v_{0} \) を用いて求めよ.
上記の結果により, \( b \) を一定に保つように \( r \), \( \theta \) を変化させれば角運動量の大きさ \( L_{0} \) は変化しないことがわかる.
次に, 原点 \( O \) に質量 \( M \) の物体 \( Q \) を配置し, 物体 \( P \) は \( y \) 座標を \( b \) に固定しつつ, \( \theta \to \pi \), \( r \to \infty \) とした無限遠に設置し, \( x \) 軸方向に速さ \( v_{0} \) の初速度を与えると, 物体 \( P \) の原点 \( O \) 周りの角運動量は \( L_{0} \) となった.
また, 物体 \( Q \) と小物体 \( P \) との質量の間には \( M \gg m \) が成立しており, 物体 \( Q \) は以下の設問において原点から動かず静止したままであったとする.
物体 \( P \) と物体 \( Q \) は万有引力によって互いに引き寄せ合うが, 万有引力の作用線は常に互いの物体を結ぶ直線上に存在する. このような力を中心力といい, 中心力しか働かない2物体の角運動量の和は一定に保たれることが知られている(角運動量保存則).
小物体 \( P \) は万有引力によって原点の物体 \( Q \) に引き寄せられたが, これらが衝突することはなかった. 小物体 \( P \) が原点から距離 \( l \) にいるときの速さが \( v \) であったとする. 物体 \( P \) の位置ベクトルと速度ベクトルの成す角を \( \theta^{\prime} \) とすると, \( \theta^{\prime} \) がある角度で \( l \) が最小となり, 物体 \( P \) と物体 \( Q \) が最接近した.
角運動量保存則を用いて, 最接近した時の角度 \( \theta^{\prime} \) 及び \( v \) を求めよ.
小物体 \( P \) が物体 \( Q \) に最接近したときの距離 \( l \) を求めよ.
解答1
下図より, \[\left|r\sin{\theta}\right|=b\notag \] が成立するので, 角運動量 \( L_{0} \) は \[L_{0} = \left| \frac{1}{2}m r v_{0} \sin{\theta} \right| = \frac{1}{2}mbv_{0}\notag \] となる.
原点に固定された物体 \( Q \) は速さがゼロであるので, \( P \), \( Q \) の角運動量の大きさの和は \( P \) の角運動量の大きさに等しい. したがって, 角運動量保存則より, \[\frac{1}{2}mbv_{0} = \frac{1}{2}mlv\sin{\theta^{\prime}}\notag \] が成立する. したがって, \[l = \frac{bv_{0}}{v \sin{\theta^{\prime}}}\notag \] が最小となる角度は \( \theta^{\prime}=\frac{\pi}{2} \) である. またこのときの \( v \) は \[v = \frac{b}{l}v_{0} \label{mlv}\] となる.
万有引力は保存力であるので, 無限遠での力学的エネルギーと最接近時の力学的エネルギーは等しく, エネルギー保存則 \[\left\{ \frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{l} \right\} – \frac{1}{2}mv_{0}^{2} = 0 \label{Econ}\] が成立する. 式\eqref{Econ}に式\eqref{mlv}を代入すると, \[\begin{aligned} & \left\{ \frac{1}{2}m\left( \frac{b}{l} v_{0} \right)^2 – G\frac{Mm}{l} \right\} – \frac{1}{2}mv_{0}^{2} = 0 \\ \to \ & b^2v_{0}^{2} – 2GM l – v_{0}^{2}l^2 = 0 \end{aligned}\] 2次方程式の解の公式より, \[\begin{aligned} l &= \frac{- GM \pm \sqrt{ G^2M^2 + b^2v_{0}^4 }}{v_{0}^{2}} \\ &= \frac{GM}{v_{0}^{2}} \left( \pm \sqrt{ 1 + \left( \frac{bv_{0}^2}{GM} \right)^2 } -1 \right) \end{aligned}\] \( l > 0 \) より, \[l = \frac{GM}{v_{0}^{2}} \left( \sqrt{ 1 + \left( \frac{bv_{0}^2}{GM} \right)^2 } -1 \right)\notag \]