角運動量保存則

高校物理の教科書で勉強している間は馴染みがないであろうが, 角運動量と呼ばれる物理量がある.

角運動量をきちんと数式化するためにはベクトルの外積が必要となる.

しかし, 現行の高校数学の指導要領では外積計算を習わないので, 物理でも登場させないということであろう.

だが, 角運動量は特定の条件のもとで保存する保存量であり, エネルギー保存則, 運動量保存則と同等の扱いを受けるべき重要な物理量である[1]大学以上で物理を本格的に勉強してみたい人にとってはとりわけ重要である. … Continue reading.

この記事で紹介する角運動量保存則はある軸に対して回転運動を行っている物体の運動に対して成立する保存則である.

そこで, まずは物体の回転がどのように引き起こされているのかを学ぶ. その後, 回転の勢いを表す量として角運動量を導入し, ある条件が整うことで角運動量が保存されることを学ぶ.


モーメント

回転を引き起こす能力モーメントベクトルまたは単にモーメント(または, トルク)という.

位置 \( \vb*{r} \) の物体に力 \( \vb*{F} \) が働いている時, 力のモーメントベクトル \( \vb*{N} \) は外積を用いて次式のように定義される. \[ \vb*{N} = \vb*{r} \times \vb*{F} \] このベクトルは外積の定義により \( \vb*{r} \) から \( \vb*{F} \) の方向へ回転する右ネジの方向を向いており, 回転軸の方向と一致している. 大きさ \( N \) は外積の定義より, \[ \begin{aligned} N &= \left| \vb*{r} \times \vb*{F} \right| \\ & = \left| \vb*{r} \right| \left| \vb*{F} \right| \sin{\theta} \\ &= r F \sin{ \theta } \end{aligned} \] と表され, 回転を引き起こす能力の大きさを表している.

高校物理の教科書ではモーメントをベクトルで表さない代わりに, (反)時計回りという向きを指定して初めて意味のある物理量としてモーメントが紹介されている.

しかし, 「向きを指定する必要がある量なのだからベクトルの一種なのだろう」という発想は今後も持っておいて損はない[2]さらに補足しておくと, モーメントと力を混同してしまっていると, … Continue reading.

下図には \( \vb*{r} \) と \( \vb*{F} \) の両方が \( x \) – \( y \) 平面上のベクトルである場合を描いた.

この場合は \( \vb*{r} \) から \( \vb*{F} \) の方向へ回転する右ネジの方向は \( z \) 軸方向を向いているので, \( \vb*{N} \) も \( z \) 軸方向を向いている.

モーメントベクトル

ここで一度, モーメントの単位(次元)について確認しておこう.

モーメントの大きさの式を見ればわかるように, その次元は\( \mathrm{N} \cdot \mathrm{m} = \mathrm{kg \cdot m^2 /s^2} \) であり, エネルギーと同じ次元を持っていることがわかる.

ただし, 位置(ベクトル)と力(ベクトル)の内積(スカラー)であるエネルギー外積(ベクトル)であるモーメントという違いがあるので, 和差計算などはできないので注意してほしい.

角運動量

回転の勢いを表す量角運動量ベクトルまたは単に角運動量という.

位置 \( \vb*{r} \) の物体が運動量 \( \displaystyle{ \vb*{p} = m \frac{d \vb*{r}}{dt}} \) で運動しているとき, 角運動量 \( \vb*{L} \) は外積を用いて次式のように定義される. \[ \vb*{L} = \vb*{r} \times \vb*{p} \] 角運動量は \( \vb*{r} \) から \( \vb*{p} \) の方向へ回転する右ネジの方向を向いており, 回転軸の方向と一致している. また, その大きさ \[ \begin{aligned} L &= \left| \vb*{r} \times \vb*{p} \right|\\ & = \left| \vb*{r} \right| \left| \vb*{p} \right| \sin{\theta} \\ & = r p \sin{ \theta } \end{aligned} \] は回転の勢いと考えてよい.

下図には \( \vb*{r} \) と \( \vb*{p} \) の両方が \( x \) – \( y \) 平面上のベクトルである場合を描いた.

モーメントの時と同様に \( \vb*{L} \) は \( z \) 軸方向を向いている.

角運動量ベクトル

モーメントと角運動量

位置 \( \vb*{r} \) の物体が, 力 \( \vb*{F} \) を受けて運動量 \( \vb*{p} \) で運動しているとき, 以下の二つの物理量を定義する. モーメント :
回転させる能力を表すベクトル量であり, 向きは回転軸方向である. \[ \vb*{N} = \vb*{r} \times \vb*{F} \] 角運動量 :
回転の勢いを表すベクトル量であり, 向きは回転軸方向である. \[ \vb*{L} = \vb*{r} \times \vb*{p} \]

角運動量保存則

モーメントと角運動量の関係

角運動量 \( \vb*{L} \) とモーメント \( \vb*{N} \) との間に成り立つ関係を整理しよう.

角運動量を時間微分すると, \[ \begin{aligned} \frac{d \vb*{L} }{dt} &= \frac{d}{dt} \left(\vb*{r} \times \vb*{p} \right) \\ &= \frac{ d \vb*{r} }{dt} \times \vb*{p} + \vb*{r} \times \frac{ d \vb*{p} }{dt} \\ & = \frac{ d \vb*{r} }{dt} \times \vb*{p} + \vb*{r} \times \vb*{F}\\ & = \frac{d \vb*{r} }{dt} \times \vb*{p} + \vb*{N} \end{aligned} \] となる.

さらに, 速度 \( \displaystyle{ \frac{d \vb*{r}}{dt} } \) と運動量 \( \displaystyle{ \vb*{p} = m \frac{d \vb*{r}}{dt} } \) の向きが一致することから, \( \displaystyle{ \frac{d \vb*{r}}{dt} } \) と \( \vb*{p} \) のなす角 \( \theta \) は \( 0 \) であるので, \[ \frac{ d \vb*{r} }{dt} \times \vb*{p} = \vb*{0} \] である. この結果を用いると, \[ \frac{d \vb*{L} }{dt} = \vb*{N} \] が成立する.

回転における角運動量とモーメントの関係は, 物体の並進運動が運動量 \( \vb*{p} \) とその変化を引き起こす力 \( \vb*{F} \) が運動方程式によって \[ \frac{d\vb*{p}}{dt} = \vb*{F} \] と表されたことと同じ形式になっている.

運動方程式と対比しながら改めて角運動量とモーメントの関係について考えると, \( \vb*{N} \) によって回転が生じ, 回転の勢い \( \vb*{L} \) が変化することがわかる.

角運動量保存則

下図のように, 物体に作用する力 \( \vb*{F} \) が位置ベクトル \( \vb*{r} \) と平行な力のみであった場合を考えよう. このような力を中心力という.

中心力

位置ベクトル \( \vb*{r} \) と同じ方向で大きさが \( \vb*{1} \) の単位ベクトル \( \vb*{e}_{r} \) は \[ \displaystyle{ \vb*{e}_{r} = \frac{\vb*{r}}{\left| \vb*{r} \right|} } \] と表すことができるので, 中心力は \( \vb*{F} = F \vb*{e}_r \) と表すことができる.

以上の議論より, 位置 \( \vb*{r} \) の物体に働く合力 \( \vb*{F} \) が中心力である場合, モーメント \( \vb*{N} \) は \[ \begin{aligned} \vb*{N} &= \vb*{r} \times \vb*{F} \\ & = \vb*{r} \times F\vb*{e}_r \\ & = F \left( \vb*{r} \times \frac{\vb*{r}}{\left| \vb*{r} \right|} \right) \\ & = \vb*{0} \quad . \end{aligned} \] ここで, \( \displaystyle{ \frac{d \vb*{L} }{dt} = \vb*{N} } \) より, \[ \frac{d \vb*{L} }{dt} = \vb*{0} \] となり, 角運動量が時間的に変化しない(保存する)ということがわかる.

以上の結果をまとめると, 物体に働く合力 \( \vb*{F} \) が中心力の場合, 角運動量 \( \vb*{L} \) は時間によらず一定である. このことを角運動量保存則という

角運動量保存則

モーメント \( \vb*{N} \) は角運動量 \( \vb*{L} \) と次式の関係にある \[ \frac{d \vb*{L}}{dt} = \vb*{N} \] したがって, モーメント \( \vb*{N} \) と角運動量 \( \vb*{L} \) の関係は力 \( \vb*{F} \) と運動量 \( \vb*{p} \) の関係と同じである. 位置 \( \vb*{r} \) の物体に働く合力が中心力 \( \vb*{F} = F \vb*{e}_r \) の場合, 物体の角運動量が保存する. \[ \frac{d \vb*{L} }{dt} = \vb*{0} \]

面積速度一定の法則

下図に示すように, 時刻 \( t \) に位置 \( \vb*{r}(t) \) にいた物体が微小時間 \( dt \) の間に \( d\vb*{r} = \vb*{v} \ dt \) だけ移動して位置 \( \vb*{r}(t+ dt) \) へ移動したとする.

微小時間の間に移動物体が張る面積
面積速度

ここで, 位置 \( \vb*{r}(t) \) が \( \vb*{r}(t+dt) \) へ変化する間に描いた微小な三角形の面積(図中の網掛け部) \( \ d S \) を求めてみよう.

上図より \( dS \) は, \( \vb*{r}(t) \) と \( \vb*{r}(t+dt)=\vb*{r} + d \vb*{r} \) の2組を使ってつくられた平行四辺形(図中の緑色の領域)の面積の半分に等しいので, \[ \begin{aligned} dS & = \frac{1}{2} \underbrace{\left| \vb*{r} \times \left( \vb*{r} + d\vb*{r}\right) \right|}_{平行四辺形の面積} \\ & = \frac{1}{2} \left| \vb*{r} \times d\vb*{r} \right| \\ & = \frac{1}{2} \left| \vb*{r} \times \vb*{v} \ dt \right| \\ & = \frac{1}{2} r v \sin{\theta} \ dt \\ & \underbrace{=}_{L = mrv\sin{\theta}} \frac{L}{2m} \ dt \end{aligned} \] となる. したがって, 物体に中心力しか働いておらず角運動量保存則が成立する場合, 角運動量 \( L \) は一定の値となるので, \[ \frac{dS}{dt} = \frac{L}{2m} = \text{一定} \] となる. これは面積速度一定の法則と言われる.

面積速度一定の法則

位置 \( \vb*{r} \) にある質量 \( m \) の物体が, 微小時間 \( dt \) の間に描いた微小な面積 \( dS \) と角運動量 \( \vb*{L} \) の間に \[ \frac{dS}{dt} = \frac{\left| \vb*{L} \right|}{2m} \notag \] が成立し, \( \displaystyle{ \frac{dS}{dt} } \) を面積速度という. 面積速度一定の法則 :
物体に働く合力が中心力であり, 角運動量保存則が成立する場合には面積速度が一定に保たれる.

角運動量とその周辺

角運動量まとめ

脚注

脚注
1 大学以上で物理を本格的に勉強してみたい人にとってはとりわけ重要である. 大学以上では量子力学という原子分子スケールで起きる現象を説明するためにスピンと呼ばれる量を導入することになるが, スピンを扱うための数学は角運動量のそれと全く同質なのである.
2 さらに補足しておくと, モーメントと力を混同してしまっていると, 「モーメントベクトルの向きに何か運動が生じる」と勘違いしてしまうので注意が必要である. ニュートン力学において, ある方向へ加速度が生じる原因は同じ方向の力のみであり, けっしてモーメントではない.