ホイートストンブリッジ

抵抗素子の抵抗値の精密測定装置として下図のようなホイートストンブリッジが知られている.

下図に示すような, 電源 \( E \) と検流計 \( G \) (内部抵抗 \( R \) )および4つの抵抗 \( R_{1} \) , \( R_{2} \) , \( R_{3} \) , \( R_{4} \) からなる回路のことをホイートストンブリッジという.

ホイートストンブリッジは, 抵抗 \( R_{1} \sim R_{4} \) のうちの3つの抵抗値が既知であるとき, 残りの1つの抵抗値を既知の3つの抵抗値のみから求めることができるというものである. つまり, 電圧源 \( E \) の値および検流計 \( G \) の種類に依存せず, 抵抗の精密測定に用いられる装置である[1]現実的には, 電圧源の値などは電流測定の感度には関係してくる,.

以下ではまず, 検流計 \( G \) に電流が流れない平衡状態において抵抗 \( R_{1} \sim R_{4} \) について成立する式を導く.

その後, 平衡状態にないホイートストンブリッジにおいて検流計に流れる電流の値を一般的に導く. このときには, キルヒホッフの法則だけで議論するよりもテブナンの定理を用いたほうが議論がすっきりとするので, この両方の解法を示す.

最後に, 平衡状態から僅かにずれたホイートストンブリッジにおける電流の測定感度を最大にする条件について議論する.


ホイートストンブリッジの平衡条件

ホイートストンブリッジにおいて, 検流計 \( G \) に電流が流れない状態を平衡状態という. この平衡状態が成立するような平衡条件について考えよう.

検流計に電流が流れないということは, 点 \( b \) の電位と点 \( c \) の電位が等しいということである. したがって, 点 \( a \) で別れた電流が経路 \( abd \) 及び経路 \( acd \) を通って点 \( d \) で合流するようになっていればよい.

点 \( a \) に流入する電流を \( I_{0} \) , 経路 \( abd \) を通る電流を \( I_{1} \) , 経路 \( acd \) を通る電流を \( I_{2} \) とすると, 上図に色付き鎖線で示したような経路に対してキルヒホッフの第2法則を適用することで, \[\left\{\begin{aligned} E &= R_{1}I_{1} + R_{3}I_{1} \notag \\ E &= R_{2}I_{2} + R_{4}I_{2} \notag \\ \end{aligned} \right. \ \to \ \left\{\begin{aligned} I_{1} &= \frac{E}{R_{1}+ R_{3}} \notag \\ I_{2} &= \frac{E}{R_{2}+ R_{4}} \notag \\ \end{aligned} \right.\] であり, 点 \( d \) に対する点 \( b \) および点 \( c \) の電位 \( V_{b} \) , \( V_{c} \) は次式で与えられることになる. \[\begin{aligned} V_{b} = R_{3}I_{1} = \frac{R_{3}}{R_{1}+ R_{3}}E \notag \\ V_{c} = R_{4}I_{2} = \frac{R_{4}}{R_{2}+ R_{4}}E \quad . \notag \end{aligned}\] 平衡状態では, \( V_{b}=V_{c} \) より次式が成立している. \[\begin{align} & \frac{R_{3}}{R_{1}+ R_{3}}E = \frac{R_{4}}{R_{2}+ R_{4}}E \notag \\ \to \ & R_{2}R_{3} = R_{1}R_{4} \ \iff \ \frac{R_{1}}{R_{2}} = \frac{R_{3}}{R_{4}} \label{whheiko} \end{align}\] この式\eqref{whheiko}をホイートストンブリッジの平衡条件という.

なお, 検流計 \( G \) に電流が流れていないことを前提に式\eqref{whheiko}を導いたが, すぐあとで議論するように, 式\eqref{whheiko}を仮定することによって検流計 \( G \) に電流が流れないことを示すことができる. したがって, 式\eqref{whheiko}は検流計 \( G \) に電流が流れない為の必要十分条件となっている.

平衡条件の式\eqref{whheiko}より, 既知の抵抗 \( R_{1} \) , \( R_{2} \) , \( R_{3} \) と, 未知の抵抗 \( R_{4} \) が上図のように配置されたホイートストンブリッジが平衡状態にあるとき, 次式で \( R_{4} \) の値を求めることができる[2]もちろん, 未知の抵抗は \( R_{1} \) であっても \( R_{2} \) であってもよく, 1つの未知の抵抗と3つの既知抵抗の組であれば良い.. \[R_{4} = \frac{R_{2}}{R_{1}}R_{3} \quad . \notag\] 平衡条件の式\eqref{whheiko}には起電力 \( E \) が含まれておらず, \( E \) は未知抵抗の値の決定には直接的に影響しないことを示している. そして, この点がホイートストンブリッジが重宝される大きな理由の一つとなっている.

例えば, 身近な乾電池が電圧源だとしよう. 乾電池などで作り出す電圧というのは時間が経てば疲弊していくことは諸君も知っているであろうし, 瞬間ごとには結構不安定なものである. もしも抵抗を測定する装置がこのような電圧源の値に直接的に関係するものであれば, 電圧源の不安定さが抵抗の測定結果にも伝搬してしまい, 抵抗値の精密測定では支障をきたし得ることが想像できるであろう.

しかし, ホイートストンブリッジであれば \( E \) の値には依存しないことになり, 精密測定においては利点となる.

さらに, 検流計の内部抵抗 \( R \) にも依存していないので, 検流計の種類によらずに未知の抵抗の値を知ることができる. 検流計に求められるのは必要な精度で平衡条件の式\eqref{whheiko}が成り立っているかどうか判別する能力だけなのである.

キルヒホッフの法則を用いた不平衡時のホイートストンブリッジの解析

平衡状態にないホイートストンブリッジにおいて, 検流計 \( G \) を流れる電流の値をキルヒホッフの法則を用いて導出しよう.

まずは各枝路を流れる電流 \( I_{0}, I_{1}, I_{2}, I_{3}, I_{4}, I_{5} \) を下図のように仮定し, キルヒホッフの第2法則を適用する3つの閉回路を色付き鎖線で示しておく.

点 \( a \) , \( d \) に対してキルヒホッフの第1法則を適用することで次式を得る. \[I_{0} = I_{1} + I_{2} = I_{3} + I_{4} \label{WhKir1} \quad .\] また, 点 \( b \) と点 \( c \) に対してキルヒホッフの第1法則を適用することで次式を得る. \[\begin{align} I_{1} &= I_{3} + I_{5} \label{WhKir2} \\ I_{2} &= I_{4} – I_{5} \quad . \label{WhKir3} \end{align}\] 次に, キルヒホッフの第2法則により, \[\begin{align} E&= R_{2} I_{2} + R_{4}I_{4} \label{WhKir4} \\ 0&= R_{1} I_{1} + RI_{5} – R_{2}I_{2} \label{WhKir5} \\ 0&= R_{3} I_{3} – R_{4}I_{4} – RI_{5} \label{WhKir6} \end{align}\] 以上, 式 \( \eqref{WhKir1} \sim \eqref{WhKir6} \) の6つの独立した方程式を解くことで \( I_{0} \sim I_{5} \) という6つの未知の値を求めることができる.

以下では, \( I_{5} \) の値のみを愚直に計算して求めることにしよう. 方針としては, キルヒホッフの第1法則の式 \( \eqref{WhKir1} \sim \eqref{WhKir3} \) を用いて, キルヒホッフの第2法則の式 \( \eqref{WhKir4} \sim \eqref{WhKir5} \) を \( I_{3}, I_{4}, I_{5} \) の3変数のみで記述し, 式 \( \eqref{WhKir4} \sim \eqref{WhKir5} \) の3式を解いて \( I_{5} \) を求めることにしよう[3]もちろん, 行列の知識がある諸君は6元1次方程式を愚直に解くようなことはせず, 行列の知識を駆使して求めてほしい..

式\eqref{WhKir4}に式\eqref{WhKir3}を代入すると, \[\begin{align} E&= R_{2} \qty( I_{4} – I_{5} ) + R_{4}I_{4} \notag \\ \to \ E&= \qty( R_{2} + R_{4} ) I_{4} – R_{2} I_{5} \label{WhKir7} \end{align}\] 式\eqref{WhKir5}に式\eqref{WhKir2}と式\eqref{WhKir3}を代入すると, \[\begin{align} &0= R_{1} \qty( I_{3} + I_{5} ) + RI_{5} – R_{2} \qty( I_{4} – I_{5} ) \notag \\ \to \ &0= R_{1} I_{3} – R_{2} I_{4} + \qty( R_{1} + R_{2} + R ) I_{5} \label{WhKir8} \end{align}\] 式 \( \eqref{WhKir7} \times R_{2} \) と式 \( \eqref{WhKir8} \times \qty( R_{2} + R_{4} ) \) との和を計算すると, \[\begin{align} R_{2}E &= – R_{2}^{2} I_{5} + R_{1} \qty( R_{2} + R_{4} ) I_{3} + \qty( R_{2} + R_{4} ) \qty( R_{1} + R_{2} + R ) I_{5} \notag \\ \to \ R_{2}E &= R_{1} \qty( R_{2} + R_{4} ) I_{3} + \qty( R_{1}R_{2} + R_{2}R + R_{1}R_{4} + R_{2}R_{4} + R_{4}R ) I_{5} \quad . \label{WhKir12} \end{align}\] 式 \( \eqref{WhKir7} \times R_{4} \) と式 \( \eqref{WhKir6} \times \qty( R_{2} + R_{4} ) \) との和を計算すると, \[\begin{align} R_{4}E &= – R_{2}R_{4} I_{5} + R_{3} \qty( R_{2} + R_{4} ) I_{3} – R\qty( R_{2} + R_{4} )I_{5} \notag \\ \to \ R_{4}E &= R_{3} \qty( R_{2} + R_{4} ) I_{3} – \qty( R_{2}R_{4} + R_{2}R + R_{4}R ) I_{5} \quad . \label{WhKir13} \end{align}\] 最後に, 式 \( \eqref{WhKir12} \times R_{3} \) と式 \( \eqref{WhKir13} \times R_{1} \) との差を計算すると, \[\begin{aligned} R_{2}R_{3} E – R_{1}R_{4}E &= \qty( R_{1}R_{2}R_{3} + R_{2}R_{3}R + R_{1}R_{3}R_{4} + R_{2}R_{3}R_{4} + R_{3}R_{4}R ) I_{5} \notag \\ & \phantom{=} + \qty( R_{1}R_{2}R_{4} + R_{1}R_{2}R + R_{1}R_{4}R ) I_{5} \notag \\ &= \left\{R_{1}R_{2}R_{3} + R_{1}R_{2}R_{4} + R_{1}R_{3}R_{4} + R_{2}R_{3}R_{4} + \qty( R_{1} + R_{3} ) \qty( R_{2} + R_{4} ) R \right\} I_{5} \quad . \notag \end{aligned}\] 以上より, 検流計に流れる電流は次式で与えられることがわかる[4]多少面倒な計算であったが, やっていることはただの四則演算なので, いざという時にはきちんと解けるだけの計算力は持っておきたいところである.. \[\therefore \ I_{5} = \frac{R_{2}R_{3} – R_{1}R_{4}}{R_{1}R_{2}R_{3} + R_{1}R_{2}R_{4} + R_{1}R_{3}R_{4} + R_{2}R_{3}R_{4} + \qty( R_{1} + R_{3} ) \qty( R_{2} + R_{4} ) R} E \quad . \label{whkirGI}\] したがって, \[R_{2}R_{3} – R_{1}R_{4}= 0 \ \iff \ \frac{R_{1}}{R_{2}} = \frac{R_{3}}{R_{4}} \notag\] であれば検流計を流れる電流 \( I_{5}=0 \) となり, ホイートストンブリッジが平衡状態となることが示された.

テブナンの定理を用いた不平衡時のホイートストンブリッジの解析

平衡状態にないホイートストンブリッジにおいて, 検流計 \( G \) を流れる電流の値をテブナンの定理を用いて導出しよう.

テブナンの定理を適用するために, 下図の抵抗 \( R \) の両端を点 \( X \) , \( Y \) としよう. そして, 抵抗 \( R \) を挟んで2点 \( X \) , \( Y \) によって囲まれた領域を領域2, それ以外の領域を領域1と名付けて区別しておこう.

開放電圧を求める

領域2を取り除いた回路において, 点 \( Y \) に対する点 \( X \) の電位(開放電圧)を求めよう.

点 \( X \) および点 \( Y \) の電位 \( V_{X} \) , \( V_{Y} \) はそれぞれ, 点 \( b \) , \( c \) の電位に等しいので. \[V_{X} = \frac{R_{3}}{R_{1}+R_{3}}E , \quad V_{Y} = \frac{R_{4}}{R_{2}+R_{4}}E \notag\] である. したがって, 点 \( Y \) に対する点 \( X \) の電位 \( V_{XY} \) は次式で与えられる. \[\begin{align} V_{XY} &= V_{X} – V_{Y} \notag \\ &= \frac{R_{3}}{R_{1}+R_{3}}E – \frac{R_{4}}{R_{2}+R_{4}}E \notag \\ &= \frac{R_{2}R_{3} – R_{1}R_{4}}{\qty( R_{1}+R_{3} ) \qty( R_{2}+R_{4} ) } E \label{WhThevE} \end{align}\]

\( XY \) から見た合成抵抗を求める

続いては, 回路から電圧源 \( E \) を取り除いて(短絡して), \( XY \) から見た領域2の回路の合成抵抗 \( R_{0} \) を求めよう.

このとき, 下図に示すような回路の変形を行うと, 大変見通しが良くなる.

上図より, \( XY \) からみた合成抵抗 \( R_{0} \) は, 次式で与えられる. \[\begin{align} R_{0} &= \qty( \frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{3}} )^{-1} + \qty( \frac{1}{R_{2}} + \frac{1}{R_{4}} )^{-1} \notag \\ &= \frac{R_{1} R_{3} }{\qty( R_{1} + R_{3} )} + \frac{R_{2} R_{4} }{\qty( R_{2} + R_{4} )} \notag \\ &= \frac{R_{1}R_{3}\qty( R_{2} + R_{4} ) + R_{2} R_{4}\qty( R_{1} + R_{3} ) }{\qty( R_{1} + R_{3} ) \qty( R_{2} + R_{4} )} \label{WhThevR} \end{align}\]

等価電圧源に置き換える

テブナンの定理により, 領域1は起電力 \( E_{0}=V_{XY} \) , 内部抵抗 \( R_{0} \) からなる等価電圧源に置き換えることができる.

この回路において, 抵抗 \( R \) に流れる電流 \( I \) は, 式\eqref{WhThevE}及び式\eqref{WhThevR}より, \[\begin{align} I &= \frac{E_{0}}{R_{0}+R} \notag \\ &= \frac{\frac{R_{2}R_{3} – R_{1}R_{4}}{\qty( R_{1}+R_{3} ) \qty( R_{2}+R_{4} ) } E}{\frac{R_{1}R_{3}\qty( R_{2} + R_{4} ) + R_{2} R_{4}\qty( R_{1} + R_{3} ) }{\qty( R_{1} + R_{3} ) \qty( R_{2} + R_{4} )}+R} \notag \\ &= \frac{R_{2}R_{3} – R_{1}R_{4} }{R_{1}R_{3}\qty( R_{2} + R_{4} ) + R_{2} R_{4}\qty( R_{1} + R_{3} ) + R\qty( R_{1} + R_{3} ) \qty( R_{2} + R_{4} )}E \label{whthevGI} \end{align}\] となる. 式\eqref{whthevGI}は(当然のことながら)キルヒホッフの法則のみを用いた場合の結果(式\eqref{whkirGI})と同じである.

したがって, ホイートストンブリッジが平衡状態にあり, \( I=0 \) であるための必要十分条件は \[R_{2}R_{3} – R_{1}R_{4}=0 \ \iff \ \frac{R_{1}}{R_{2}} = \frac{R_{3}}{R_{4}} \notag\] であることがわかる.

ホイートストンブリッジの感度

ホイートストンブリッジの本来の目的は, 抵抗素子の抵抗値の精密測定である. ここでは, 抵抗の精密測定を行うためにホイートストンブリッジに求められる条件について議論をしよう. すなわち, ホイートストンブリッジが平衡状態から僅かにずれたときに回路中央部に置かれた検流計に大きな電流が流入する為に求められる条件について議論する.

そもそも, 検流計とは電流が流れているかどうかを判定することに特化した計器のことを指す. ある枝路に流れている電流の値自体に興味がある場合には電流計を用いて測定を行う必要があるが, ホイートストンブリッジで抵抗の値を精密測定する場合には計器が置かれた枝路に電流が流れていないことを確認することに興味があるので検流計をもちいることになる.

以下では, 検流計というのは内部抵抗を適切な値にとることによって電流感度が高くなるという事実を用いて, ホイートストンブリッジに組み込まれた未知の抵抗を高い感度で測定する条件について議論する.


テブナンの定理の結論をもちいると, ホイートストンブリッジの検流計を含んだ枝路を除いた部分の等価回路の起電力 \( E_{0} \) および内部抵抗 \( R_{0} \) は \[\begin{align} E_{0} &= \frac{R_{2}R_{3} – R_{1}R_{4}}{\qty( R_{1}+R_{3} ) \qty( R_{2}+R_{4} ) } E \label{wheqE} \\ R_{0} &= \frac{R_{1}R_{3}\qty( R_{2} + R_{4} ) + R_{2} R_{4}\qty( R_{1} + R_{3} ) }{\qty( R_{1} + R_{3} ) \qty( R_{2} + R_{4} )} \label{wheqR0} \end{align}\] で与えられ, 回路中央の計器に流れる電流 \( I \) は \[I = \frac{E_{0}}{R_{0} + R} \notag\] で与えられるのであった.

ここで, 検流計に関する事実を一つ採用することにしよう. すなわち, 検流計から見た外部の合成抵抗 \( R_{0} \) が検流計の内部抵抗の値 \( R \) とほぼ等しいときに電流感度が最大になるというものである[5]この事実を理解するには検流計の測定原理自体に踏み込む必要があるが, ここではこれ以上踏み込むことはしない. 興味がある人は「電気計測演習, … Continue reading.

このとき, 検流計を流れる電流 \( I \) は次式で与えられることになる[6]このとき, 検流計に供給される電力が最大となる.(最大供給電力の定理). \[I = \frac{E_{0}}{R_{0} + R_{0}} = \frac{1}{2} \frac{E_{0}}{R_{0}} \quad . \label{whsensitiveI}\] 次に, ホイートストンブリッジが平衡状態から僅かにずれたときに検流計 \( G \) に流入する電流が最大になる条件を考えよう.

以下, ホイートストンブリッジに組み込まれた抵抗の抵抗値 \( R_{1} \sim R_{4} \) は \[\frac{R_{1}}{R_{2}} = \frac{R_{3}}{R_{4}} = \frac{1}{k} \qq{ \( k \) は定数} \label{whheikok}\] という平衡条件を満たすものとする.

そして, \( R_{1} \sim R_{4} \) のうちの1つが平衡状態からずれたときに検流計に流れる電流 \( I^{\prime} \) の値を知ることが当面の目標である. ここでは, \( R_{4} \) の値が平衡条件をわずかに破って \( R_{4} \to R_{4} + \Delta R_{4} \) へ変化したとしよう.

このとき, \( \Delta R_{4} \) は \( R_{4} \) の値に対して非常に小さく, \( \Delta R_{4} \ll R_{4} \) を満たすものとし, \( R_{4} \) に対する \( \Delta R_{4} \) の比率 \( \Delta R_{4}/R_{4} \) を \( \delta \) と書くことにしよう. \[R_{4} + \Delta R_{4} = R_{4} \qty( 1 + \frac{\Delta R_{4}}{R_{4}} ) = R_{4} \qty( 1 + \delta ) \notag\] 式\eqref{whsensitiveI}より, \( I^{\prime} \) は \[\begin{aligned} I^{\prime} &= \frac{1}{2} \frac{R_{2}R_{3} – R_{1}\qty( R_{4} + \Delta R_{4} )}{R_{1}R_{3} \left\{R_{2} + \qty( R_{4} + \Delta R_{4} ) \right\} + R_{2}\qty( R_{4} + \Delta R_{4} ) \qty( R_{1} + R_{3} ) } E \notag \\ \end{aligned}\] と書くことが出来る. 平衡条件(式\eqref{whheikok})の関係式を適宜もちいると, \[\begin{aligned} I^{\prime} &= – \frac{1}{2} \frac{R_{1} \Delta R_{4} }{R_{1}R_{3} \qty( R_{2} + R_{4} ) \qty( 1 + \frac{\Delta R_{4}}{R_{2} + R_{4} } ) + R_{2} R_{4} \qty( 1 + \frac{\Delta R_{4}}{R_{4}} ) \qty( R_{1} + R_{3} ) } E \notag \\ &= – \frac{1}{2} \frac{R_{1} R_{4} }{R_{1}R_{3} \qty( R_{2} + R_{4} ) \qty( 1 + \frac{R_{4}}{R_{2} + R_{4} } \delta ) + R_{2} R_{4} \qty( 1 + \delta ) \qty( R_{1} + R_{3} ) } \cdot \delta \cdot E \notag \\ &= – \frac{1}{2} \frac{R_{1} R_{3} }{R_{1}R_{3} \qty( R_{1} + R_{3} ) \qty( 1 + \frac{R_{3}}{R_{1} + R_{3} } \delta ) + k R_{1} R_{3} \qty( 1 + \delta ) \qty( R_{1} + R_{3} ) } \cdot \delta \cdot E \notag \\ &= – \frac{1}{2\qty( R_{1} + R_{3} )} \cdot \frac{1 }{\qty( 1 + \frac{R_{3}}{R_{1} + R_{3} } \delta ) + k \qty( 1 + \delta ) } \cdot \delta \cdot E \notag \\ &= – \frac{1}{2\qty( R_{1} + R_{3} )} \cdot \frac{1 }{\qty( 1 + k ) \qty( 1 + \frac{\frac{k}{1+k}R_{1}+R_{3}}{R_{1}+R_{3}} \delta ) } \cdot \delta \cdot E \notag \end{aligned}\] ここで, \( a \ll 1 \) であるような正の定数 \( a \) に対して成立する近似式 \[\qty( 1 + a )^{n} \approx 1 + n a \notag\] を最右辺の \( \qty( 1 + \frac{\frac{k}{1+k}R_{1}+R_{3}}{R_{1}+R_{3}} \delta )^{-1} \) に適用しよう. \( \Delta R_{4} \ll R_{4} \) より, \( \delta \) は \( \delta \ll 1 \) を満たし, \( \delta \) に \( 1 \) 未満の量 \( \frac{\frac{k}{1+k}R_{1}+R_{3}}{R_{1}+R_{3}} \) を乗じても, 先の近似公式は問題なく適用でき, \[\qty( 1 + \frac{\frac{k}{1+k}R_{1}+R_{3}}{R_{1}+R_{3}} \delta )^{-1} \approx \qty( 1 – \frac{\frac{k}{1+k}R_{1}+R_{3}}{R_{1}+R_{3}} \delta )\] となる.

この近似を \( I^{\prime} \) に適用して, さらに \( \delta \) の2次の項を無視すると, \[\begin{aligned} I^{\prime} &\approx – \frac{1}{2\qty( R_{1} + R_{3} ) \qty( 1 + k ) }\qty( 1 – \frac{\frac{k}{1+k}R_{1}+R_{3}}{R_{1}+R_{3}} \delta ) \cdot \delta \cdot E \notag \\ &\approx – \frac{1}{2\qty( R_{1} + R_{3} ) \qty( 1 + k ) } \cdot \delta \cdot E \notag \end{aligned}\] ここで, \( R_{1} \) と \( R_{3} \) はどちらも正の定数であるので相加相乗平均をもちいると, \( I^{\prime} \) の絶対値について \[\begin{aligned} \abs{I^{\prime} } &= \frac{1}{4 \qty( \frac{R_{1} + R_{3}}{2} ) \qty( 1 + k ) } \cdot \delta \cdot E \notag \\ &\le \frac{1}{4 \sqrt{R_{1} R_{3} } \qty( 1 + k ) } \cdot \delta \cdot E \notag \end{aligned}\] が成立する. 検流計に流れる電流の大きさ \( \abs{I^{\prime} } \) が最大となるのは上式の等号が成立する, \( R_{1}=R_{3} \) のときである. このとき, \[\begin{aligned} \abs{I^{\prime} } &\le \frac{1}{4 \sqrt{R_{1} R_{1} } \qty( 1 + k ) } \cdot \delta \cdot E \notag \\ &= \frac{1}{4\qty( R_{1} + kR_{1} ) } \cdot \delta \cdot E \notag \\ &= \frac{1}{4\qty( R_{1} + R_{2} ) } \cdot \delta \cdot E \notag \end{aligned}\] となり, 再び相加相乗平均をもちいることで, \[\begin{align} \abs{I^{\prime} } &\le \frac{1}{4\qty( R_{1} + R_{2} ) } \cdot \delta \cdot E \notag \\ &\le \frac{1}{8 \sqrt{R_{1} R_{2} } } \cdot \delta \cdot E \label{whGpowerMaxI} \end{align}\] が成立し, 電流の大きさ \( \abs{I^{\prime} } \) が最大となるのは \( R_{1}=R_{2} \) のときである.

以上より, ホイートストンブリッジの平衡条件(式\eqref{whheikok})と, 検流計に流れる電流 \( \abs{I^{\prime} } \) が最大になる条件( \( R_{1}=R_{2}=R_{3} \) )とを組み合わせると, \( R_{1}= R_{2}= R_{3}= R_{4} \) のときにホイートストンブリッジの電流感度が最大になることが示された.

また, \( \abs{I^{\prime} } \) が最大となるのは式\eqref{whGpowerMaxI}より, \[I^{\prime}= – \frac{1}{8 \sqrt{R_{1} R_{1} } } \cdot \delta \cdot E = – \frac{\delta \cdot E}{8 R_{1}}\] で与えられ[7]この式を見る限りでは, \( E \) が大きいほどにホイートストンブリッジの感度が上がるようにもみえるが, 現実にはそんなに簡単な問題ではない. \( E … Continue reading, \( \abs{I^{\prime} } \) が最大であるときの等価電圧源の起電力 \( E_{0}^{\prime} \) は式\eqref{wheqE}に, \( R_{2} = R_{1} \) , \( R_{3}=R_{1} \) , \( R_{4} \to R_{1} \qty( 1 + \delta ) \) を適用すると, \[\begin{aligned} E_{0}^{\prime} &= \frac{R_{1}R_{1} – R_{1}R_{1}\qty( 1 + \delta )}{\qty( R_{1}+R_{1} ) \left\{R_{1}+R_{1}\qty( 1 + \delta ) \right\} } E \notag \\ &= \frac{- R_{1} \delta}{2\qty( 2R_{1} + R_{1}\delta ) } E = – \frac{\delta}{4 \qty( 1 + \frac{\delta}{2} ) } E \notag \\ &\approx – \frac{\delta}{4 } \qty( 1 – \frac{\delta}{2} ) E \notag \\ &\approx – \frac{\delta}{4 } E \notag \end{aligned}\] であることがわかる.

\( \abs{I^{\prime} } \) が最大であるときの電圧源の内部抵抗 \( R_{0}^{\prime} \) は, 式\eqref{whsensitiveI}において, \( E_{0} \to E_{0}^{\prime} \) , \( R_{0} \to R_{0}^{\prime} \) , \( I_{0} \to I_{0}^{\prime} \) とすることで求めることができる. \[\begin{aligned} R_{0}^{\prime} &= \frac{1}{2} \frac{E_{0}^{\prime}}{I^{\prime}} = \frac{1}{2} \frac{\qty( – \frac{\delta}{4}E )}{\qty( – \frac{\delta}{8} E )} \notag \\ &= R_{1} \quad . \notag \end{aligned}\] したがって, 検流計の内部抵抗の値 \( R = R_{0} \) も \( R_{1}=R_{2}=R_{3}=R_{4} \) に等しくすることによってホイートストンブリッジが最大の感度を持つことが示された[8]以上では, 検流計の内部抵抗を無視せず, … Continue reading

脚注

脚注
1 現実的には, 電圧源の値などは電流測定の感度には関係してくる,
2 もちろん, 未知の抵抗は \( R_{1} \) であっても \( R_{2} \) であってもよく, 1つの未知の抵抗と3つの既知抵抗の組であれば良い.
3 もちろん, 行列の知識がある諸君は6元1次方程式を愚直に解くようなことはせず, 行列の知識を駆使して求めてほしい.
4 多少面倒な計算であったが, やっていることはただの四則演算なので, いざという時にはきちんと解けるだけの計算力は持っておきたいところである.
5 この事実を理解するには検流計の測定原理自体に踏み込む必要があるが, ここではこれ以上踏み込むことはしない. 興味がある人は「電気計測演習, 鈴木登紀男 他, 学献社」や「電気計器, 電気学会」などを参照していただきたい.
6 このとき, 検流計に供給される電力が最大となる.(最大供給電力の定理)
7 この式を見る限りでは, \( E \) が大きいほどにホイートストンブリッジの感度が上がるようにもみえるが, 現実にはそんなに簡単な問題ではない. \( E \) が大きい場合には回路上の各素子や導線上での発熱量も大きくなり, 抵抗の値が温度によって変化することなども考慮に入れなくてはならないからである.
8 以上では, 検流計の内部抵抗を無視せず, 検流計の内部抵抗がテブナン等価回路の抵抗に等しいときに感度が最大になるという事実を用いて上記の事柄を導いた. しかしながら, 内部抵抗が無視できる検流計に流れる電流 \( I = \frac{E_{0}}{R_{0}} \) が最大になる条件について考えることで以上と同じ条件(最大感度を得る条件が \( R_{1}=R_{2}=R_{3}=R_{4} \) )が得られることになる.