テブナンの定理

抵抗や直流電源を多数含んだ回路において, 特定の抵抗で生じている電位差ある特定の枝路に流れている電流値を知りたいときに使い勝手のよい定理として, テブナンの定理と呼ばれるものがある.

テブナンの定理とは, 抵抗素子や直流電源が入り乱れた回路を, 内部抵抗を含んだ直流電圧源に置き換えることが出来るというものである[1]ここでは詳しく記述しないが, 実際には電圧源のみでなく電流源を含んでいるような回路であってもテブナンの定理は適用可能である..

回路全体の各枝路に流れる電流を知りたいのであれば, キルヒホッフの法則重ね合わせの理によって回路全体を解析すればよいが, 回路中のある部分の電流だけを知りたい場合にはテブナンの定理のほうが圧倒的に手早く計算することができる.

以下で議論するように, テブナンの定理は幾分複雑な直流回路の部分的な解析に大変有用であるので, 是非とも自らの手を動かして習得してほしい[2]なお, テブナンの定理は交流においても成立することが鳳によって示されており, 鳳-テブナンの定理とも呼ばれる. … Continue reading.

まずは2つほど具体例を示し, 定理の概要と計算手順を理解してもらう. その後にテブナンの定理の証明をあらためて与えることにする. テブナンの定理の証明では電気回路の重ね合わせの考え方が重要であるので, 証明を理解したい人は重ね合わせの理も参照していただきたい.

なお, 抵抗素子や直流電源が入り乱れた回路を, 内部抵抗を含んだ直流電流源に置き換えることが出来るというノートンの定理も存在する.


例1:単純な回路への適用例

まずは, テブナンの定理の計算手順を習得してもらうために, 下図に示すような簡単な回路において, 抵抗 \( R_{3} \) に流れる電流 \( I \) を求めよう.

step1 : 回路を2つの領域に分離する

注目している抵抗 \( R_{3} \) の両端を点 \( a \) , 点 \( b \) とし, この2点によって回路を2つの領域に分離する.

以下では, \( R_{3} \) を含んでいない領域を領域1, \( R_{3} \) を含んだ領域を領域2とする.

step2 : 開放電圧を求める

以下しばらく, 領域1と領域2を切り離し, 領域1に注目する.

領域1について考えている間, 点 \( a \) と点 \( b \) の先は断線されたとして取り扱う. すなわち, \( ab \) 間に無限大の抵抗が存在するかのように考える. このような置き換え操作を開放すると表現する.

この領域1の回路における点 \( a \) と点 \( b \) の電位差 \( V_{ab} \) を求めることが次に行うことである. このような電圧 \( V_{ab} \) を開放電圧という.

領域1中の抵抗素子 \( R_{2} \) には電流が流れないので, 開放電圧 \( V_{ab} \) は点 \( b \) を電位の基準として次式で与えられる. \[V_{ab} = E_{1} \quad . \notag\]

step3 : 点 \( ab \) から見た合成抵抗を求める

続いても領域1に注目するが, 今回は領域1に含まれている電圧源を抵抗ゼロの導線に置き換えた回路を考える. このような置き換え操作を短絡すると表現する.

つまり, 領域1の回路を下図のように置き換えて, \( ab \) 間の合成抵抗 \( R_{0} \) を求めることが次に行うことである.

今の場合, \[\begin{aligned} R_{0} &= R_{2} + \frac{R_{1} \cdot 0}{R_{1}+0} \notag \\ &=R_{2} \notag \end{aligned}\] である.

等価電圧源に置き換える

以上までで, テブナンの定理の下ごしらえは終了している.

テブナンの定理とは, 元の回路における領域1は電位差 \( V_{ab} \) を作る電源(起電力 \( E_{0}=V_{ab} \) )と内部抵抗 \( R_{0} \) で構成された電圧源にそっくりそのまま置き換えることができるというものである. 置き換えられた電源のことを等価電圧源なとどいう.

テブナンの定理を適用し, 領域1と領域2を接続した下図のような回路の抵抗 \( R_{3} \) に流れる電流 \( I \) を求める問題に置き換えよう.

このようにして元の回路をテブナンの定理によって置き換えた回路を等価回路という.

この等価回路で抵抗素子 \( R_{3} \) に流れる電流を求めることは容易で, キルヒホッフの法則により次式で与えられる. \[\begin{aligned} E_{0} &= \qty( R_{0} + R_{3} ) I \notag \\ \to \ I &= \frac{E_{0}}{R_{0} +R_{3}} \notag \\ &=\frac{E_{1} }{R_{2} + R_{3}} \quad . \notag \end{aligned}\] このような単純な回路では有り難みがうすいが, 考える回路が複雑になるほどテブナンの定理の有り難みが増してくることになる.

例2:2つの電源と3つの抵抗を含んだ回路

次のような, 幾分複雑な回路において抵抗 \( R_{3} \) に流れる電流 \( I_{3} \) を, テブナンの定理を用いて求めてみよう.

なお, この例題はキルヒホッフの法則, 重ね合わせの理, ミルマンの定理, テレゲンの定理と電力保存則, ノートンの定理でも取り扱っているので参考にしてほしい.

step1 : 回路を2つの領域に分離する

抵抗 \( R_{3} \) の両端を \( a \) , \( b \) とし, この2点を境に抵抗 \( R_{3} \) を含まない領域1抵抗 \( R_{3} \) のみを含む領域2の2つの領域に分離して考える.

step2 : 開放電圧を求める

領域1において, \( ab \) 間が開放された回路は下図のようになる.

このときの \( ab \) 間の電位差 \( V_{ab} \) を求める. 点 \( a \) での電位を \( V_a \) , 点 \( b \) での電位を \( V_b \) として点 \( b \) を電位の基準点に選ぶと, \[\begin{aligned} V_{ab} &=V_{a} – V_{b} \notag \\ &= E_{2} + \frac{R_{2}}{R_{1}+R_{2}}\qty( E_{1} – E_{2} ) \notag \end{aligned}\] である.

step3 : 点 \( ab \) から見た合成抵抗を求める

つづいて, 同じ領域1に存在する電源が短絡された回路は下図のようになる.

このときの領域1における \( ab \) 間の合成抵抗 \( R_{0} \) は \[\begin{aligned} \frac{1}{R_{0}} &= \frac{1}{R_{1}} +\frac{1}{R_{2}} \notag \\ \iff \ R_{0} &= \frac{R_{1}R_{2}}{R_{1}+R_{2}} \notag \end{aligned}\] である.

step4 : 等価電圧源に置き換える

テブナンの定理により, 領域1は電位差 \( V_{ab} \) を生む電源 \( E_{0} \) と内部抵抗 \( R_{0} \) で構成される等価電圧源に置き換えることができる.

領域1を等価電圧源に置き換えたものを領域2と接続したのが下に示す回路である.

あとはこの単純な回路に対してキルヒホッフの法則を適用することにより, \[\begin{aligned} E_{0} &= I_{3} \qty( R_{0} + R_{3} ) \notag \\ I_{3} &= \frac{E_{0}}{R_{0} + R_{3} } \notag \\ &= \frac{E_{2} + \frac{R_{2}}{R_{1}+R_{2}}\qty( E_{1} – E_{2} )}{\frac{R_{1}R_{2}}{R_{1}+R_{2}}+R_{3}} \notag \\ &= \frac{\qty( R_{1}+R_{2} )E_{2}+\qty( E_{1} – E_{2} )R_{2}}{R_{1}R_{2}+R_{2}R_{3}+R_{3}R_{1}} \notag \\ &= \frac{R_{1}E_{2}+R_{2}E_{1}}{R_{1}R_{2}+R_{2}R_{3}+R_{3}R_{1}} \notag \end{aligned}\] と電流 \( I_{3} \) を求めることができた.


本来ならばキルヒホッフの法則や重ね合わせの理による連立方程式を解くことで電流を求めなくてはならないところを, テブナンの定理を使うことで非常に素早く, 短く解くことができる.

回路全体の各枝路に流れる電流を知りたければ, 結局キルヒホッフの法則を適用した場合と同程度の計算をすることにはなるのだが, 回路中のある部分だけの電流を知りたい場合やキルヒホッフで求めた解があっているかの検算などではテブナンの定理のほうがあきらかにスピード感を持って解くことが出来る.

テブナンの定理の証明

最後に, テブナンの定理の証明を与えておこう.

下図には \( n \) 個の直流電圧源(起電力 \( E_{1},\ E_{2},\ \cdots ,\ E_{n} \) )と \( m \) 個の抵抗素子(抵抗 \( R_{1},\ R_{2},\ \cdots ,\ R_{m} \) )と抵抗 \( R \) が絡み合って形成された回路を示した. このうち, 抵抗 \( R \) に流れる電流 \( I \) を手早く知る方法を探ることが目的である.

抵抗 \( R \) の両端を点 \( a \) , 点 \( b \) とし, 点 \( b \) に対する点 \( a \) の電位が \( V_{ab} \) であったとしよう.

次に, \( V_{ab} \) に等しいような起電力を持つ2つの直流電圧源 \( E_{0} \) , \( E_{0}^{\prime} \) を互いに逆向きにして抵抗 \( R \) と点 \( b \) の間に挿入しよう.

この操作は抵抗 \( R \) に流れる電流 \( I \) の値を変えることもなく, また, \( E_{1},\ E_{2},\ \cdots ,\ E_{n} \) と \( R_{1},\ R_{2},\ \cdots ,\ R_{m} \) から成る回路網にもなんら影響を与えない.

さらに, 上図は次に示す2つの回路を重ね合わせた結果だと解釈することもできる(重ね合わせの理).

すなわち, 電圧源が \( E_{0} \) のみである回路(左図) \( E_{1}, E_{2}, \cdots , E_{n} \) と \( E_{0}^{\prime} \) の電圧源を持つ回路(右図)との重ね合わせと考えることができる.

まず, 電圧源が \( E_{0} \) のみである回路(左図)について考えてみよう. この回路では元々の回路網に存在した \( E_{1}, E_{2}, \cdots , E_{n} \) は全て短絡され, ただの導線扱いをする.

ここで, 抵抗 \( R \) に流れる電流を \( i \) , 抵抗 \( R_{1},\ R_{2},\ \cdots ,\ R_{m} \) を含んだ回路網の合成抵抗を \( R_{0} \) とすると, キルヒホッフの第2法則により \[\begin{align} E_{0} &= \qty( R_{0} + R ) i \notag \\ i &= \frac{E_{0}}{R_{0} + R} \label{thevpri1}\end{align}\] と書き表すことができる.

次に, \( E_{1}, \ E_{2}, \ \cdots ,\ E_{n} \) と \( E_{0}^{\prime} \) の電圧源を持つ回路(右図)について考えよう. この回路に存在する電圧源 \( E_{1},\ E_{2},\ \cdots ,\ E_{n} \) によって端子 \( ab \) 間に作られる電位差は \( V_{ab} \) であった. この \( V_{ab} \) とは逆向きで, 大きさが等しい起電力 \( E_{0}^{\prime} \) が存在するので, 抵抗 \( R \) に流れる電流 \( i^{\prime} \) は \( 0 \) であることがわかる. \[i^{\prime} = 0 \quad . \label{thevpri2}\]

したがって, 抵抗 \( R \) に流れる電流について議論する上では \( E_{1},\ E_{2},\ \cdots ,\ E_{n} \) と \( E_{0}^{\prime} \) の電圧源を持つ回路の影響は無視することができるのである.


以上より, 元々考えていた回路網において抵抗 \( R \) に流れる電流 \( I \) は式\eqref{thevpri1}と式\eqref{thevpri2}より, \[\begin{aligned} I &= i + i^{\prime} = i \notag \\ &= \frac{E_{0}}{R_{0} + R} \notag \end{aligned}\] ここで, \( R_{0} \) は端子 \( ab \) から抵抗 \( R \) を含まない側の回路網を眺めた時の合成抵抗である.

以上の議論により, 与えられた回路の中である抵抗に流れる電流 \( I \) について着目すれば下図のような置き換えが可能であることを示された. これがテブナンの定理である.

脚注

脚注
1 ここでは詳しく記述しないが, 実際には電圧源のみでなく電流源を含んでいるような回路であってもテブナンの定理は適用可能である.
2 なお, テブナンの定理は交流においても成立することが鳳によって示されており, 鳳-テブナンの定理とも呼ばれる. 交流回路についてテブナンの定理を適用する場合には, このページの議論で登場する抵抗インピーダンス(抵抗を拡張した概念)で考えればよい.