テレゲンの定理と電力保存則

電圧源から回路に供給された総電力と抵抗素子で消費される総電力が等しいことを電力保存則という.

電力保存則を示す補助的な定理として, テレゲンの定理を示す.

電気回路におけるエネルギー保存則とでも言うべきテレゲンの定理について議論する.

まず, \( n \) 個の素子を含んだ回路について注目しよう. このとき, \( k \) 番目の素子に流れる電流を \( I_{k} \) , 電流と同じ方向への電圧降下を \( V_{k} \) とする. そして, 電流 \( I_{k} \) と電圧降下 \( V_{k} \) との積 \( V_{k}I_{k} \) を回路中の各素子について計算して全て足し合わせると総和がゼロとなることを示すことができ, テレゲンの定理と呼ばれる. \[\sum_{k=1}^{n}V_{k} I_{k} = 0 \quad . \label{telleintro}\]

ここで, テレゲンの定理(式\eqref{telleintro})を計算するときの, 電流 \( I_{k} \) の方向と抵抗素子での電圧降下 \( V_{k} \) の関係および電流 \( I_{k} \) の方向と起電力 \( E_{k}>0 \) の電圧源での \( V_{k} \) の関係を下図に示した. 下図にも示したとおり, 電圧源を流れる電流 \( I_{k} \) の正方向はその電圧源の順方向とは逆方向(正方向から負方向へ向かう向き)と定義する.

以下では, テレゲンの定理がどのようなものかを簡単な具体例をとおして理解してもらい, 電圧源による供給電力と素子による消費電力との間に成立する関係 – 電力保存則 – について議論していく.

なお, テレゲンの定理の証明自体は最後に確認することにする.

例1:単純な回路への適用例

下図に示すような, 起電力 \( E_{1} \) の電圧源と抵抗 \( R_{1} \) , \( R_{2} \) の抵抗素子が直列接続された回路において, 流れる電流を \( I \) とする.

電圧源の順方向と電流の方向とが一致しているので, 電圧源における電圧降下と電流の積は \( \qty( -E_{1} )I \) である.

抵抗 \( R_{1} \) と抵抗 \( R_{2} \) に流れる電流はどちらも \( I \) なので各抵抗における電圧降下はオームの法則により \( V_{1}=R_{1}I \) , \( V_{2}=R_{2}I \) である. したがって, 各抵抗における電圧降下と電流の積は \( V_{1}I \) , \( V_{2}I \) である.

この回路におけるテレゲンの定理とは次式が成立することである. \[\begin{aligned} & \qty( -E_{1} )I + V_{1}I + V_{2}I = 0 \notag \\ & \to \ E_{1}I = R_{1}I^{2} + R_{2}I^{2} \quad .\notag \end{aligned}\] この式は, 上記の回路にキルヒホッフの第2法則を適用した式 \[E_{1} = R_{1}I + R_{2}I \notag\] から得られるものと一致しており, テレゲンの定理が機能していることが確認できる.

例2:2つの電源と3つの抵抗を含んだ回路

下図に示すような, 2つの電源(起電力 \( E_{1} \) , 起電力 \( E_{2} \) )と3つの抵抗素子(抵抗 \( R_{1} \) , \( R_{2} \) , \( R_{3} \) )を含んだ回路に対してテレゲンの定理を適用してみよう.

なお, この例題はキルヒホッフの法則, 重ね合わせの理, テブナンの定理, ミルマンの定理, ノートンの定理でも取り扱っているので参考にしてほしい.

各素子を流れる電流を向きまで含めて上図のように設定する. このとき, 抵抗 \( R_{1} \) , 抵抗 \( R_{2} \) , 抵抗 \( R_{3} \) における電圧降下 \( V_{1} \) , \( V_{2} \) , \( V_{3} \) はそれぞれオームの法則により, \[V_{1} = R_{1}I_{1},\ V_{2} = R_{2}I_{2},\ V_{3} = R_{3}I_{3} \notag\] である. ここで, キルヒホッフの第1法則により \( I_{3}=I_{1}+I_{2} \) である.

また, \( I_{1} \) と \( I_{2} \) の方向と電源 \( 1 \) , 電源 \( 2 \) の順方向が一致していることから, 各電源における電圧降下はそれぞれ \( -E_{1} \) , \( -E_{2} \) として計算する.

上記の回路にテレゲンの定理を適用すると, \[\begin{align} & \qty( – E_{1} ) I_{1} + V_{1} I_{1} + \qty( – E_{2} ) I_{2} + V_{2} I_{2} + V_{3}I_{3} = 0 \notag \\ \to \ & E_{1}I_{1} + E_{2}I_{2} = V_{1} I_{1} + V_{2} I_{2} + V_{3} I_{3} \notag \\ \to \ & E_{1}I_{1} + E_{2}I_{2} = R_{1} I_{1}^{2} + R_{2} I_{2}^{2} + R_{3}\qty( I_{1}+I_{2} )^{2} \label{telleex2a} \end{align}\] が成立することになる.

キルヒホッフの法則による確認

テレゲンの定理によって得られた式\eqref{telleex2a}が, キルヒホッフの法則を用いて得られることを確認しておこう.

キルヒホッフの第1法則及び第2法則とオームの法則とを適宜用いながら上述の回路を解析すると, \[\begin{aligned} E_{1} &= \qty( R_{1} + R_{3} ) I_{1} + R_{3} I_{2} \notag \\ E_{2} &= R_{3} I_{1} + \qty( R_{2}+ R_{3} ) I_{2} \notag \end{aligned}\] が得られる.

テレゲンの定理と比較するために, 上2式のそれぞれに各電源を通る電流の値を乗じた \[\begin{aligned} E_{1}I_{1} &= \qty( R_{1} + R_{3} ) I_{1}^{2} + R_{3} I_{1}I_{2} \notag \\ E_{2}I_{2} &= R_{3} I_{1}I_{2} + \qty( R_{2}+ R_{3} ) I_{2}^{2} \notag \end{aligned}\] の辺々の和を取ると, \[E_{1} I_{1} + E_{2} I_{2} = R_{1} I_{1}^{2} + R_{2} I_{2}^{2} + R_{3}\qty( I_{1}+I_{2} )^{2} \notag\] となる. これはテレゲンの定理で得られた結論(式\eqref{telleex2a})と一致していることから, テレゲンの定理が正しく機能していることが確かめられた.

電力保存則

テレゲンの定理 \[\sum_{k=1}^{n}V_{k}I_{k} = 0 \notag\] において, 電圧源による項と抵抗素子による項とを初めから分離して表記することを考えよう.

いま, 回路中の枝路 \( 1, 2, \cdots, a \) には起電力 \( E_{1}, E_{2}, \cdots , E_{a} \) の電圧源が, 枝路 \( a+1, a+2, \cdots , n \) では電圧降下 \( V_{a+1}, V_{a+2}, \cdots , V_{n} \) が生じているとする.

電圧源を流れる電流と電圧源の順方向とが一致するように定めると, テレゲンの定理により \[\sum_{k=1}^{n}V_{k}I_{k} = \sum_{i=1}^{a} \qty( – E_{i} )I_{i} + \sum_{j=a+1}^{n} V_{j}I_{j} \notag\] が成立し, \[\sum_{i=1}^{a} E_{i} I_{i} = \sum_{j=a+1}^{n} V_{j}I_{j} \label{tellePcon}\] と, 起電力に関する項と抵抗素子に関する項とに分離することができた.

式\eqref{tellePcon}の左辺は回路上に存在する各起電力が回路に供給する電力の総和となっており, 右辺は回路中で抵抗素子によって消費される電力の総和となっている. したがって, 電圧源から回路に供給された総電力と抵抗素子で消費される総電力が等しいことを意味しており, 電力保存則などと呼ばれる[1]ここではこれ以上踏み込まないが, … Continue reading.

テレゲンの定理の証明

テレゲンの定理の証明を行おう.

電気回路上の枝路 \( k \) が節点 \( i \) と節点 \( j \) の2点によって形成されているとする.

節点 \( i \) , \( j \) の, 基準点からの電位をそれぞれ \( v_{i} \) , \( v_{j} \) とし, 節点 \( j \) からみた節点 \( i \) の電圧を \( V_{ij} \) とする. また, 節点 \( i \) から節点 \( j \) へと流れる電流を \( I_{ij} \) とする.

このとき, 節点 \( i \) から節点 \( j \) へ枝路 \( k \) (に存在する素子)を通ることによって引き起こされる電圧降下を \( V_{k}=V_{ij} \) , 素子を通る電流を \( I_{k}=I_{ij} \) とすると,

\[V_{k}I_{k} = V_{ij} I_{ij} = \qty( v_{i} – v_{j} ) I_{ij} \label{tellepr1}\]

と表すことができる[2]また, 量 \( V_{k}I_{k} \) は \( I_{ij} = – I_{ji} \) , \( V_{ij} = – V_{ji} \) をもちいると, \[V_{k}I_{k} = V_{ji} I_{ji} = \qty( v_{j} – v_{i} ) I_{ji} \notag \] … Continue reading.

さて, \eqref{tellepr1}の左辺 \( V_{k}I_{k} \) を枝路の数 \( n \) だけ和を取った量 \( \displaystyle{\sum_{k=1}^{n}V_{k}I_{k} } \) がどうなるのかを考えよう. ただし, \eqref{tellepr1}の左辺は枝路によって, \eqref{tellepr1}の右辺は枝路を形成する節点によって各物理量が指定されていることに注意して, 和のとり方を工夫する必要があるのでこの点について補足しておく.

まず, \eqref{tellepr1}の右辺に用いられている添字 \( i \) , \( j \) は, 節点 \( i \) , \( j \) が枝路を形成するような場合についてのみ和をとることにし, 節点 \( i \) , \( j \) が枝路を形成していない場合には \( I_{ij}=0 \) と約束しよう.

また, 回路網上の枝路 \( k \) 節点によって指定するとき, 枝路 \( k \) の始点と終点となる2つの節点を指定すればよい. したがって, 2つの節点を用いて枝路 \( k \) を指定する方法としては, 始点となる節点 \( i \) と終点となる節点 \( j \) に挟まれた枝路 \( k \) と言う方法と始点となる節点 \( j \) と終点となる節点 \( i \) に挟まれた枝路 \( k \) と言う方法の2通りが存在することになる.

これ等に注意しつつ, \eqref{tellepr1}を枝路の数 \( n \) だけ和を取った量は

\[\sum_{k=1}^{n} V_{k} I_{k} = \frac{1}{2} \sum_{j=1}^{N} \sum_{i=1}^{N} \left\{\qty( v_{i} – v_{j} ) I_{ij} \right\} \label{tellepr4}\]

とあらわすことができる. ここで \( N \) は回路上に存在している節点の数を意味している. また, 総和計算は枝路の始点となる節点 \( i \) と終点となる節点 \( j \) の両方について和をとるために二重に行っていることに注意してほしい[3]腑に落ちない人は簡単な図形を幾つか描いて各自で確認されたし..

上式右辺の計算を進めると, \[\begin{aligned} &\frac{1}{2} \sum_{j=1}^{N} \sum_{i=1}^{N} \left\{\qty( v_{i} – v_{j} ) I_{ij} \right\} =\frac{1}{2} \sum_{j=1}^{N} \sum_{i=1}^{N} v_{i}I_{ij} – \frac{1}{2} \sum_{j=1}^{N} \sum_{i=1}^{N} v_{j}I_{ij} \notag \\ & \quad =\frac{1}{2} \sum_{i=1}^{N} \left\{v_{i} \qty( \sum_{j=1}^{N} I_{ij} ) \right\} – \frac{1}{2} \sum_{j=1}^{N} \left\{v_{j} \qty( \sum_{i=1}^{N} I_{ij} ) \right\} \notag \end{aligned}\] ここで, \( \displaystyle{\sum_{j=1}^{N} I_{ij} } \) というのは, 節点 \( i \) と隣り合う全ての節点に向けて節点 \( i \) から流れる(向きまで考慮した)電流の総和 \[\sum_{j=1}^{N} I_{ij} = I_{i1} + I_{i2} + \cdots + I_{iN} \notag\] を意味している. これは, キルヒホッフの第1法則により \( 0 \) となる.

ここで, \( \displaystyle{\sum_{i=1}^{N} I_{ij} } \) というのは, 節点 \( j \) と隣り合う全ての節点から節点 \( j \) へ流れこむ(向きまで考慮した)電流の総和 \[\sum_{i=1}^{N} I_{ij} = I_{1j} + I_{2j} + \cdots + I_{Nj} \notag\] を意味している. これもキルヒホッフの第1法則より \( 0 \) となる.

したがって, 式\eqref{tellepr4}の右辺はゼロとなる. 以上より, 素子(による電圧降下)が存在する全ての枝路について, 各枝路における電圧降下 \( V_{k} \) と電流の大きさ \( I_{k} \) の積 \( V_{k} I_{k} \) の総和は \[\begin{aligned} \sum_{k=1}^{n}V_{k} I_{k} = 0 \notag \end{aligned}\] となることが示された. この式をテレゲンの定理という.

脚注

脚注
1 ここではこれ以上踏み込まないが, 交流回路や抵抗素子以外の素子においても回路中の複素電力について同様の関係式が成立することが示すことができる.
2 また, 量 \( V_{k}I_{k} \) は \( I_{ij} = – I_{ji} \) , \( V_{ij} = – V_{ji} \) をもちいると, \[V_{k}I_{k} = V_{ji} I_{ji} = \qty( v_{j} – v_{i} ) I_{ji} \notag \] と表すことでもできるので, 量 \( V_{k}I_{k} \) は \( I_{ij} \) と \( I_{ji} \) を用いて \[\begin{aligned} V_{k}I_{k} &= \frac{1}{2} \left\{V_{ij} I_{ij} + V_{ji} I_{ji} \right\} \notag \\ \to \ V_{k}I_{k} &= \frac{1}{2}\left\{\qty( v_{i} – v_{j} ) I_{ij} \right\} + \left\{\qty( v_{j} – v_{i} ) I_{ji} \right\} \notag \end{aligned}\] と表すことも出来る.
3 腑に落ちない人は簡単な図形を幾つか描いて各自で確認されたし.