ミルマンの定理

ミルマンの定理または帆足-ミルマンの定理とは, 電圧源と抵抗素子を含んだ複数の枝路を並列接続した回路において有効であり, 下図のような回路における \( a_{i}b_{i} \, \qty( i = 1, 2, \cdots , n ) \) 間の電位差を素早く求めることができる定理である.

図のような回路において, \( b_{1} \) に対する \( a_{1} \) の電位 \( V_{a_{1}b_{1}} \) は \( b_{2} \) に対する \( a_{2} \) の電位 \( V_{a_{2}b_{2}} \) と等しい. 同様に考えると, \( b_{i} \) に対する \( a_{i} \) の電位 \( V_{a_{i}b_{i}} \) は全て等しいことは明らかである[1]\( a_{1} \) と \( a_{2} \) は理想的な導線によって接続されているので等電位である. 同様に, \( b_{1} \) と \( b_{2} \) も同電位であることから \( V_{a_{1}b_{1}} … Continue reading. そこで, 回路の \( b_{i} \) 側に対する \( a_{i} \) 側の電位を \( V_{ab} \) と書くことにしよう. \[V_{ab} \coloneqq V_{a_{1}b_{1}} = V_{a_{2}b_{2}} = \cdots = V_{a_{n}b_{n}} \quad . \notag\] ミルマンの定理とは, この電位差 \( V_{ab} \) が次式で与えられることである. \[\begin{align} V_{ab} &= \frac{\frac{E_{1}}{R_{1}} + \frac{E_{2}}{R_{2}} + \cdots + \frac{E_{n}}{R_{n}} }{\frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \cdots + \frac{1}{R_{n}} } \notag \\ &= \frac{1}{\displaystyle{\sum_{i=1}^{n} \frac{1}{R_{i}} } } \sum_{i=1}^{n} \frac{E_{i}}{R_{i}} \label{MillmanIntro} \end{align}\] 以下ではまずミルマンの定理の証明を行い, 簡単な例題を通してその使い方を紹介する.

なお, 電圧源と電流源の変換を利用した証明方法はミルマンの定理の別証明で紹介する.

ミルマンの定理の証明

下図のような回路において, \( b_{i} \) に対する \( a_{i} \) の電位が \( V_{ab} \) であるとする.

このとき, 各枝路を \( b_{i} \) から \( R_{i} \) を経由して \( a_{i} \) に向かって流れる電流を \( I_{i} \) とする. さらに, 点 \( a_{n} \) と点 \( b_{n} \) に \( b_{n} \) から \( a_{n} \) にむけて起電力 \( E_{0}=V_{ab} \) である電圧源を含んだ枝路を接続した回路について考えよう(下図).

このとき, \( b_{i} \) 側に対する点 \( a_{i} \) 側の電位は \( V_{ab} \) であったことから, \( ab \) 間には電圧源接続後も電流は流れないことに注意してほしい.

点 \( a_{n} \) に対してキルヒホッフの第1法則を適用すると次式を得る. \[I_{1} + I_{2} + \cdots + I_{n} = 0 \quad . \label{MillKirchI}\]

次に, 閉回路 \( a_{1}abb_{1}a_{1} \) に対してキルヒホッフの第2法則を適用することで次式を得る. \[E_{1} – E_{0} = R_{1}I_{1} \ \iff \ I_{1} = \frac{E_{1} – E_{0}}{R_{1}} \quad . \notag\] 同様に, 閉回路 \( a_{2}abb_{2}a_{2} \) に対してキルヒホッフの第2法則を適用することで次式を得る. \[E_{2} – E_{0} = R_{2}I_{2} \ \iff \ I_{2} = \frac{E_{2} – E_{0}}{R_{2}} \quad . \notag\] この議論をくり返し行い, 閉回路 \( a_{i}abb_{i}a_{i} \) に対してキルヒホッフの第2法則を適用することで次式を得る. \[E_{i} – E_{0} = R_{i}I_{i} \ \iff \ I_{i} = \frac{E_{i} – E_{0}}{R_{i}} \quad . \ \qty( i = 1 , 2, \cdots , n ) \label{MillKirchII}\]

キルヒホッフの第2法則で得られた式\eqref{MillKirchII}をキルヒホッフの第1法則で得られた式\eqref{MillKirchI}に代入して整理する. \[\begin{aligned} & I_{1} + I_{2} + \cdots + I_{n} = 0 \notag \\ \iff \ & \frac{E_{1} – E_{0}}{R_{1}} + \frac{E_{2} – E_{0}}{R_{2}} + \cdots + \frac{E_{n} – E_{0}}{R_{n}} = 0 \notag \\ \iff \ & \frac{E_{1}}{R_{1}} + \frac{E_{2}}{R_{2}} + \cdots + \frac{E_{n}}{R_{n}} = E_{0} \qty[ \frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \cdots + \frac{1}{R_{n}} ] \notag \\ \iff \ & E_{0} = \frac{\frac{E_{1}}{R_{1}} + \frac{E_{2}}{R_{2}} + \cdots + \frac{E_{n}}{R_{n}} }{\frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \cdots + \frac{1}{R_{n}} } \notag \quad . \end{aligned}\] したがって, \( V_{ab} \) として, \[\begin{align} V_{ab} &= E_{0} \notag \\ &= \frac{\frac{E_{1}}{R_{1}} + \frac{E_{2}}{R_{2}} + \cdots + \frac{E_{n}}{R_{n}} }{\frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \cdots + \frac{1}{R_{n}} } \notag \\ &= \frac{1}{\displaystyle{\sum_{i=1}^{n} \frac{1}{R_{i}} } } \sum_{i=1}^{n} \frac{E_{i}}{R_{i}} \label{Millpr1} \end{align}\] を得ることができる. この値は \( E_{0} \) の電源装置を含む前の回路において \( b_{i} \) 側に対する \( a_{i} \) 側の電位に等しいことから, ミルマンの定理(式\eqref{MillmanIntro})を示すことが出来た.

この導出過程からもわかるように, ミルマンの定理を適用する場合には, 次のように約束する.

  1. \( E_{j} \) の向きが \( a_{j} \) 側から \( b_{j} \) 側に向かう場合, 式\eqref{Millpr1}における \( E_{j} \) の符号は正負を反転させて計算する.

  2. \( a_{k} \) と \( b_{k} \) との間に電圧源が存在しない場合, 式\eqref{Millpr1}における \( E_{k} \) の値はゼロとして計算する.

例:2つの電源と3つの抵抗を含んだ回路

下図に示すような, 2つの電圧源( \( E_{1} \) , \( E_{2} \) )と3つの抵抗素子( \( R_{1} \) , \( R_{2} \) , \( R_{3} \) )を含んだ幾分複雑な回路に対してミルマンの定理を適用してみよう.

なお, この例題はキルヒホッフの法則, 重ね合わせの理, テブナンの定理, テレゲンの定理と電力保存則, ノートンの定理でも取り扱っているので参考にしてほしい.

議論をわかりやすくするために, 下図のように回路上の各点に \( a_{1}, a_{2}, a_{3} \) , \( b_{1}, b_{2}, b_{3} \) の記号を割り当てる.

ミルマンの定理により, \( b_{i} \) 側に対する \( a_{i} \) 側の電位 \( V_{ab} \) は \[\begin{aligned} V_{ab} &= \frac{\frac{E_{1}}{R_{1}} + \frac{E_{2}}{R_{2}} + \frac{0}{R_{3}} }{\frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \frac{1}{R_{3}} } \notag \\ &= \qty( \frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \frac{1}{R_{3}} )^{-1} \cdot \qty( \frac{E_{1}}{R_{1}} + \frac{E_{2}}{R_{2}} ) \notag \end{aligned}\] となる. ただし, \( a_{3}b_{3} \) 間には電圧源が存在しないことを考慮して, ミルマンの定理(式\eqref{MillmanIntro})に登場する \( E_{3} \) の値にゼロとして計算を行っている.

この時点で, ミルマンの定理が並列回路の電位差計算を素早く行うにあたって有用なものであることがわかる. あとは必要に応じて \( V_{ab} \) をつかって各枝路に流れる電流を計算しさえすればよい.

点 \( a_{3} \) から点 \( b_{3} \) に向かって流れる電流 \( I_{3} \) を求めよう. \( b_{3} \) に対する \( a_{3} \) の電位差が \( V_{ab} \) であるので, \[\begin{aligned} V_{ab} &= R_{3}I_{3} \notag \\ \iff I_{3} &= \frac{1}{R_{3}} V_{ab} \notag \\ &= \frac{1}{R_{3}} \qty( \frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \frac{1}{R_{3}} )^{-1} \cdot \qty( \frac{E_{1}}{R_{1}} + \frac{E_{2}}{R_{2}} ) \notag \\ &= \frac{1}{R_{3}} \cdot \frac{R_{1}R_{2}R_{3}}{R_{1}R_{2} + R_{2}R_{3} + R_{3}R_{1} } \cdot \qty( \frac{E_{1}}{R_{1}} + \frac{E_{2}}{R_{2}} )\notag \\ &= \frac{R_{2}E_{1} + R_{1}E_{2}}{R_{1}R_{2} + R_{2}R_{3} + R_{3}R_{1} } \notag \end{aligned}\] となる. これは与えられた回路に対して素直にキルヒホッフの法則を適用して得られた結果と全く同じものとなっている.(キルヒホッフの法則)

点 \( b_{2} \) から点 \( a_{2} \) に向かって流れる \( I_{2} \) も求めてみよう. \( b_{2} \) に対する \( a_{2} \) の電位差が \( V_{ab} \) であるので, \[V_{ab} – E_{2} = – R_{2}I_{2} \notag \] これを \( I_{2} \) について整理すればよい. \[\begin{aligned} I_{2} &= – \frac{1}{R_{2}} \left\{V_{ab} – E_{2} \right\} \notag \\ &= – \frac{1}{R_{2}} \left\{\qty( \frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \frac{1}{R_{3}} )^{-1} \cdot \qty( \frac{E_{1}}{R_{1}} + \frac{E_{2}}{R_{2}} ) – E_{2}\right\} \notag \\ &= – \frac{1}{R_{2}} \qty( \frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \frac{1}{R_{3}} )^{-1} \left\{\qty( \frac{E_{1}}{R_{1}} + \frac{E_{2}}{R_{2}} ) – \qty( \frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \frac{1}{R_{3}} ) E_{2} \right\} \notag \\ &= – \frac{1}{R_{2}} \qty( \frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \frac{1}{R_{3}} )^{-1} \left\{\frac{E_{1}}{R_{1}} – \qty( \frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{3}} )E_{2}\right\} \notag \\ &= \frac{-R_{3}E_{1}+\qty( R_{1}+R_{3} )E_{2}}{R_{1}R_{2}+R_{2}R_{3}+R_{3}R_{1}} \quad . \end{aligned}\]

文字式のまま計算すると, 式の整理に労力を幾分割くことになるが, 具体的な値を代入する場合などは素早い計算が可能となる.

補足: \( E_{2} \) の向きが反対だった場合

上述の問題において, 電圧源 \( E_{2} \) の向きが反対であった場合について補足しておこう.

\( a_{i} \) 側と \( b_{i} \) 側の電位差 \( V_{ab} \) は, ミルマンの定理の約束事によって次のように \( E_{2} \) の符号を反転させて計算することに注意してほしい. \[\begin{aligned} V_{ab} &= \frac{\frac{E_{1}}{R_{1}} {\textcolor{red}{-}} \frac{E_{2}}{R_{2}} + \frac{0}{R_{3}} }{\frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \frac{1}{R_{3}} } \notag \\ &= \qty( \frac{1}{R_{1}} + \frac{1}{R_{2}} + \frac{1}{R_{3}} )^{-1} \cdot \qty( \frac{E_{1}}{R_{1}} {\textcolor{red}{-}} \frac{E_{2}}{R_{2}} ) \notag \end{aligned}\]

脚注

脚注
1 \( a_{1} \) と \( a_{2} \) は理想的な導線によって接続されているので等電位である. 同様に, \( b_{1} \) と \( b_{2} \) も同電位であることから \( V_{a_{1}b_{1}} \) は \( V_{a_{2}b_{2}} \) に等しい, といった具合に考えていけば良い.