位置と \( x \) – \( t \) グラフ

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(2016年09月29日)

位置・速度・加速度と微分
位置・速度・加速度と積分
等速度運動と等加速度運動


物理でまず身につけておかなくてはならないのは, 物体の位置をどのように表現するのかである.

そこで, 能動的あるいは受動的に動いている物体の位置を表現することを目標にしよう.

このページでは, 最も簡単な運動の例として, ある直線上のみを移動できる電車のような物体の運動 — 1次元運動 — を考えてみよう.

また, 以下の議論では非常に小さな点状の物体に対する位置について考えることにする[1]点状の物体の位置を表現することができるようになれば, 我々のような大きさのある物体の位置も表現できるようになる. これは, … Continue reading.

位置

まずは物体の位置を記述するための準備から行う.

下図のように物体の運動方向に沿ったを考え, この軸を \( x \) 軸と名付けよう. そして, \( x \) 軸の好きな方向を正方向, その逆方向を負方向と決める. 通常は軸の先端に矢印を描いてその矢印の方向を \( x \) 軸の正の方向とする.

さらに, この軸上のどこかに原点という基準となる点を設置し, その点を記号 \( O \) で表そう.

上記の一連の準備を座標(軸)を設定するなどと表現する.

このように, 原点と軸(および正方向)を設定しておくことで, この軸上に存在する物体の位置原点から正(または負)方向に〇〇だけ進んだ場所といった具合に表現をすることが可能となる.

このように軸と原点を設定したうえで, この軸上に存在するある物体の位置(座標)を記号 \( x \) で表すことにしよう.

例えば, 原点から \( x \) 軸のの方向に距離 \( a(>0) \) だけ離れた物体の位置 \( x \) を \[x = a \notag\] とか, 原点から \( x \) 軸のの方向に距離 \( b(>0) \) だけ離れた物体の位置 \( x \) を \[x = – b \notag\] といった具合に表現するのである.

このように位置 \( x \) は原点からの距離という情報と原点に対して正負のどちら側に存在しているのかという情報をひとまとまりにした量である.

ところで, 軸の向き原点は我々が勝手に指定したものである. したがって, 同じ場所であっても, 座標軸の取り方や原点の取り方が異なれば位置(座標)というのは異なる可能性があることを頭の片隅に置いておいてほしい.

また, なんの断りもなく距離という用語を使ってしまったのでここで補足しておこう. 2点間の距離といった場合, その2点を最短で結んだ線分の長さ距離を定義している.

この定義の性質上, 距離は常に正の値をとるものとする.

\( x \) – \( t \) グラフ

一般に, 物体は時々刻々とその位置を変えていく.

そこで, 物体の位置を時間 \( t \) に依存して決定されるモノととらえることにしよう. これは, 数学的には位置 \( x \) を時間 \( t \) の関数と解釈することを意味している.

位置 \( x \) が時間の関数であることを明示的に表したい時には位置を \( x(t) \) と書くことにする. これは数学において \( x \) の値によって値が決まる量を \( x \) の関数 \( f(x) \) といった具合に表現することと全く同じである.

さて, \( x \) 軸上のある物体の位置を観測測定する術を持っていたとしよう. 測定を行うことで, ある瞬間の物体の位置を記録した情報が手に入ることになる. このような測定を多数回行なった場合, 数値だけでみるよりもグラフ化して視覚に訴えることで情報を精査しやすくなることが予想される.

そこで, 横軸を時間 \( t \) , 縦軸をその時刻 \( t \) における物体の位置 \( x(t) \) とした \( x \) – \( t \) グラフを導入する.

測定の間隔が飛び飛びであれば下図左のようなグラフが得られることになるが, この測定の間隔を非常に短くすることで下図右のように, 位置の連続的な変化を知ることができるようになる.

物理の問題では, 物体の位置情報が断片的に与えられていることもあれば, \( x(t) \) の関数が与えられていたり, \( x \) – \( t \) グラフが与えられている場合もある. その逆に, これらを求めることが目的である場合もある.

まずはこのようにして物体の位置を \( x(t) \) であらわし, 時間と位置の情報を1つのグラフにまとめた \( x \) – \( t \) グラフという表現方法があることを把握しておいてほしい.

変位と走行距離

物体がいつ, どこにあるのかは, 時刻 \( t \) における物体の位置の関数 \( x(t) \) が明らかになっているか, \( x \) – \( t \) グラフ上に \( x(t) \) が描かれていればわかるのであった. 次に気になるのは, 位置の変化を表す方法である.

位置の変化を表す方法として, 位置変化の途中経路がどのようなものであったかを気にした量途中経路を気にしない量とが考えられる. 前者を走行距離とか移動距離または道のりといい, 後者を変位という.

走行距離変位の違いを \( x \) – \( t \) グラフを通して明らかにしてみよう.

ある時刻 \( t_{1} \) における物体の位置 \( x(t_{1}) \) を \( x_{1} \) と書き, 時刻 \( t_{1} \) における物体の位置 \( x(t_{2}) \) を \( x_{2} \) とし, \( x_{2} \) は \( x_{1} \) から \( x \) 軸の正方向に距離 \( l \) だけ離れているとする. このような2点 \( x_{1} \) , \( x_{2} \) を通るような全く異なる二つの経路を考える.

下図のように, 経路1は \( x \) – \( t \) グラフの傾きが常に一定であり, 経路2はもう少し複雑な運動を行なっている.

経路1は位置 \( x_{1} \) から常に \( x \) 軸の正方向へ移動し距離 \( l \) だけ進んだ位置 \( x_{2} \) へ移動している. この場合, 物体が経路1を通って \( x_{1} \) から \( x_{2} \) へ移動する間の走行距離 \( s_{1} \) は実際に物体が通った長さ \( l \) である.

経路2は位置 \( x_{1} \) から \( x \) 軸の負方向へ距離 \( l_{1}(>0) \) だけ移動したのち, \( x \) 軸の正方向へ距離 \( l_{2}(>0) \) だけ進んで位置 \( x_{2} \) へ移動している. このような場合, 途中で逆方向へ進んだことまで加味し, 物体が通った長さ(距離)の総和を走行距離という. したがって, 経路2を通った物体の走行距離(道のり) \( s_{2} \) は \( l_{1}+l_{2} \) である.

続いては, 走行距離とは別に変位という量を考えることにする.

時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間に \( x_{1} \) から \( x_{2} \) へと物体の位置が移動したとき, \[x_{2} – x_{1} \notag\] を, 時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間の変位という.

変位はある時間幅の最初の位置と最後の位置だけで計算可能であるので, 時刻 \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間の変位は経路1でも経路2でも同じ値となる. まさしく, 途中経路を気にしない量なのである.

より一般に, ある時間幅の中における最後の位置を最初の位置で引いた値をその時間幅における変位というのである.

物理では, を表す記号としてギリシャ文字 \( \Delta \) (デルタ)がもちいられる. そして, 位置の変化を表す変位を記号 \( \Delta x \) (デルタ エックス)と書くことにしよう. ここで \( \Delta x \) は \( \Delta \cdot x \) という掛け算を意味しているのではなく, 二つのアルファベットをあわせて1つの量(変位)を意味している.

時刻 \( t_{1} \) に位置 \( x_{1} \) , 時刻 \( t_{2} \) に位置 \( x_{2} \) であることがわかっているとき, \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の間の変位 \( \Delta x \) は \[\Delta x = x_{2} – x_{1} \notag\] と, (最後の位置) – (最初の位置)で与えられる.

定義の性質上, 変位は距離と違って負の値を取り得ることがわかる. 先ほどの \( x \) – \( t \) グラフでは \[x_{2} = x_{1}+l \ \to \ x_{2} > x_{1} \notag\] としたので, \( x_{2} – x_{1} \) は正の値となったが, もしも \( x_{2} < x_{1} \) の場合には変位 \( x_{2} – x_{1} \) が負の値となる.


下図のように, より複雑な経路を考えてみよう. \( x \) – \( t \) グラフからこの物体は \( x \) 軸の正方向へ進んだり逆走したりしながら運動しており, 物体が進行方向をかえる時刻 \( t_{1}, t_{2}, \cdots , t_{5} \) とその位置座標 \( x_{1}, x_{2}, \cdots , x_{5} \) がわかっているとしよう.

時刻 \( t_1 \) から \( t_{5} \) の間の変位 \( \Delta x \) は \[\Delta x = x_{5} – x_{1} \label{x1tox5}\] で計算することが出来る. これは \( t_1 \) から \( t_{5} \) の間にどんな経路を通ったかには関係なく決まる.

式\eqref{x1tox5}を変形すると, \[\begin{aligned} \Delta x &= x_{5} – x_{1} \\ &= x_{5} \underbrace{- x_{4} + x_{4}}_{=0} \underbrace{- x_{3} + x_{3}}_{=0} \underbrace{- x_{2} + x_{2}}_{=0} – x_{1} \\ &= \qty( x_{5} – x_{4} ) + \qty( x_{4} – x_{3} ) + \qty( x_{3} – x_{2} ) + \qty( x_{2} – x_{1} ) \end{aligned}\] と書くことができる. 最右辺の第1項は \( t_{4} \) から \( t_{5} \) の間の変位, 第2項は \( t_{3} \) から \( t_{4} \) の間の変位, 第3項は \( t_{2} \) から \( t_{3} \) の間の変位, 第4項は \( t_{1} \) から \( t_{3} \) の間の変位となっている.

ここで各時間幅における変位を次式のように書き表すことにしよう. \[\begin{aligned} \text{ \( t_{1} \) から \( t_{2} \) の変位} &= \Delta x_{1} = x_{2} – x_{1} \\ \text{ \( t_{2} \) から \( t_{3} \) の変位} &= \Delta x_{2} = x_{3} – x_{2} \\ \text{ \( t_{3} \) から \( t_{4} \) の変位} &= \Delta x_{3} = x_{4} – x_{3} \\ \text{ \( t_{4} \) から \( t_{5} \) の変位} &= \Delta x_{4} = x_{5} – x_{4} \end{aligned}\] これら, 各時間幅における変位を用いると, 式\eqref{x1tox5}は \[\Delta x = \Delta x_{1} + \Delta x_{2} + \Delta x_{3} + \Delta x_{4}\] と書き表すことができ, ある時間の間の変位は, その時間を細分化した各時間幅の変位の総和に等しいということがわかる[2]すでにベクトルを学んだ人は, 変位がベクトル量であり, 変位の和の計算はベクトルの和のそれと同じであることに気づいたであろう..

一方, 走行距離というのは物体が実際に通った長さ(距離)の総和で与えられるのであった. したがって, ( \( x_{1} \to x_{2} \) の距離) \( + \) ( \( x_{2} \to x_{3} \) の距離) \( + \cdots + \) ( \( x_{4} \to x_{5} \) の距離)である. 各距離は対応する変位の絶対値で計算することができるので, 走行距離を \( s \) とすると, \[\begin{aligned} s &= \abs{x_{5} – x_{4} } + \abs{x_{4} – x_{3} } + \abs{x_{3} – x_{2} } + \abs{x_{2} – x_{1} } \\ &= \abs{\Delta x_{4} } + \abs{\Delta x_{3} } + \abs{\Delta x_{2} } + \abs{\Delta x_{1} } \end{aligned}\] で計算することができる.

以上より, 時刻 \( t_{1} \) から \( t_{5} \) の間の変位 \( \Delta x \) と走行距離 \( s \) はそれぞれ, \[\begin{aligned} \Delta x &=\Delta x_{1} + \Delta x_{2} + \Delta x_{3} + \Delta x_{4} \\ s &= \abs{\Delta x_{1} } + \abs{\Delta x_{2} } + \abs{\Delta x_{3} } + \abs{\Delta x_{4} } \end{aligned}\] という関係にあることがわかる[3]一般に, 時刻 \( t_{i} \) に位置 \( x_{i} \) にいた物体が \( \Delta t_{i} \) の間同一方向へ進み, 位置 \( x_{i+1} \) へ移動したとする. この間の変位を \( \Delta … Continue reading.

このように, 物体の進行方向が途中で変化する場合, 進行方向が変わる位置を事前にもとめておかなければ総走行距離を計算することができないことに注意してほしい.

脚注

脚注
1 点状の物体の位置を表現することができるようになれば, 我々のような大きさのある物体の位置も表現できるようになる. これは, 我々のような大きさのある物体の中のある点に注目して, そこを我々の位置と呼べばいいだけなのだから.
2 すでにベクトルを学んだ人は, 変位がベクトル量であり, 変位の和の計算はベクトルの和のそれと同じであることに気づいたであろう.
3 一般に, 時刻 \( t_{i} \) に位置 \( x_{i} \) にいた物体が \( \Delta t_{i} \) の間同一方向へ進み, 位置 \( x_{i+1} \) へ移動したとする. この間の変位を \( \Delta x_{i} \) を \[\Delta x_{i} = x_{i+1} – x_{i} \notag\] と定義すると, 変位 \( \Delta x \) と走行距離 \( s \) はそれぞれ次式で与えられる. \[\begin{aligned} \Delta x &= \sum_{i} \qty( x_{i+1} – x_{i} ) \\ s &= \sum_{i} \abs{x_{i+1} – x_{i} } \end{aligned}\] で与えられる. ここで, \( i \) は計算に必要な範囲の間で和を取ることを意味している.