直交した2軸で作られる座標系を2次元直交座標系, 直交した3軸で作られる座標系を3次元直交座標系という.
位置ベクトル \( \vb*{r} \) は2次元直交座標系では \( \vb*{r}=(x, y) =x\vb*{e}_{x}+y\vb*{e}_{y} \) , 3次元直交座標系では \( \vb*{r}=(x, y, z) =x\vb*{e}_{x}+y\vb*{e}_{y}+z\vb*{e}_{z} \) とあらわされる. ここで \( \vb*{e}_{x} \) , \( \vb*{e}_{y} \) , \( \vb*{e}_{z} \) は各軸方向を向いた大きさ \( 1 \) の単位ベクトルである.
物体の位置を明確にするには座標系を定義する必要がある. これは要するに, 物体が配置された空間に対して目盛りや向きを付け加えることに相当する. この座標系を適切に定めることにより, 物体の位置が明確になるだけでなく, 向きを持つ物理量の方向なども明確に記述できるようになる.
また, 座標系の設定は人間が好き勝手に行うものであり, これによって何か物理現象が変わるというわけではないので, 注目している運動の性質が一番良く分かるような座標系の設定を自身で行えるようになることは後々非常に重要な事項となる.
典型的な座標系の設定方法は複数あるが, まずは最も単純な座標系として各座標軸が互いに直交する直交座標系について考えることにしよう.
以下では, ベクトルという量も扱うことになる. これはいくつかの数字の組をひとまとまりに扱うものであり, ある量 \( a \) がベクトルであることは, \( \vb*{a} \) という太字, または \( \vec{a} \) といった具合に文字の上に矢印を書くことで表現する.
2次元直交座標
諸君も経験的に理解できるように, 平面上のある位置を指定するときには縦と横といった具合に互い独立した二つの数の組でもって指定することが可能となる.
机の上に置かれた消しゴムの位置を指定するために, 机の四隅のいずれか一箇所を基準にとして縦方向に \( 5\,\mathrm{cm} \) , 横方向に \( 12\,\mathrm{cm} \) といった具合である.
このような考え方をより一般化し, 平面上のある点 \( P \) の位置を記述する方法について考えよう.
2次元直交座標系とは, 下図に示すように, 二つの数直線が直角に交わる(直交する)ような座標系のことをいう. このとき, 二つの数直線をそれぞれ \( x \) 軸, \( y \) 軸と呼び, それらの交点を原点 \( O \) と呼ぶ. 通常, 原点 \( O \) は \( x \) 軸と \( y \) 軸の両方の値がゼロとなるように設定する.
通常, 各座標軸には正方向に矢印を書き加える. 下図の場合, 右向きが \( x \) 軸の正の方向であり, \( x \) 軸の正方向に対して反時計回りに \( 90^{\circ} \) 回転した方向を \( y \) 軸の正方向と定めることが多い[1]このような \( x \) 軸と \( y \) 軸の向きの関係を右手系などと呼ぶ..
このような座標軸を設定することにより, 点 \( P \) の位置は \( x \) 軸上の値と \( y \) 軸上の値の両方を指定することで指定できるようになる. 点 \( P(x, y) \) と書いたとき, 点 \( P \) から \( x \) 軸におろした垂線と \( x \) 軸との交点の値( \( x \) 座標成分)が \( x \) で, 点 \( P \) から \( y \) 軸におろした垂線と \( y \) 軸との交点の値( \( y \) 座標成分)が \( y \) であることを表している.
点 \( P(x, y) \) を表す別の表現として, 位置ベクトルというものを導入しよう. 位置ベクトルとは, 原点 \( O \) から点 \( P \) へと向かう, 向きまで考慮した線分(有向線分)のことである. 2次元直交座標系の場合, 点 \( P(x, y) \) を表す位置ベクトル \( \vb*{r} \) は \( x \) 座標の値と \( y \) 座標の値という二つの数値をひとまとまりにした, \[\vb*{r} = \qty( x, y ) \notag\] といった具合に表す. ベクトルのうち, このような二つの量で指定できるベクトルのことを2次元[平面]ベクトルなどともいう. このベクトルの性質の詳細についてはベクトルの項を参照していただきたい.
\( x \) 軸, \( y \) 軸それぞれの正の方向を向いた大きさが \( 1 \) であるようなベクトルを単位ベクトルといい, 記号 \( \vb*{e}_{x} \) , \( \vb*{e}_{y} \) で表すことにする. \[\begin{aligned} \vb*{e}_{x} &= \qty( 1, 0 ) \notag \\ \vb*{e}_{y} &= \qty( 0, 1 ) \notag \end{aligned} \quad . \notag\] そして, 2次元直交座標系の位置ベクトル \( \vb*{r} = \qty( x, y ) \) は, 単位ベクトルをもちいて次のように書くことができる. \[\begin{aligned} \vb*{r} &= \qty( x , y ) \notag \\ &= \qty( x , 0 ) + \qty( 0 , y ) \notag \\ &= x \vb*{e}_{x} + y \vb*{e}_{y} \notag \end{aligned}\] なお, 直交する二つの単位ベクトル \( \vb*{e}_{x} \) と \( \vb*{e}_{y} \) との内積 \( \vb*{e}_{x} \cdot \vb*{e}_{y} \) はゼロであり, \[\vb*{e}_{x} \cdot \vb*{e}_{y} = 0 \notag\] が成立している.
3次元直交座標
続いては, 空間上のある点 \( P \) の位置を記述する方法について考えよう. 以下の議論は, 平面の場合のそれの素直な拡張である.
空間上のある位置を指定するときには縦, 横, 高さといった具合に互い独立した三つの数の組でもって指定することが可能となる.
3次元直交座標系とは, 下図に示すように, 三つの座標軸( \( x \) 軸, \( y \) 軸, \( z \) 軸)が原点 \( O \) で互いに直交するように交わっている座標系のことを指す.
\( z \) 軸の正方向をどちら向きにとるかの任意性が残っているが, 下図のような正方向の決め方をした座標系を右手系といい, 下図とは \( z \) 軸の正方向が反対にしたような座標系を左手系という. 物理分野では, 特に断りのない限り右手系で議論がなされているとして良い.
点 \( P(x, y, z) \) を表す位置ベクトルも平面ベクトルのときのそれの素直な拡張であり, ベクトルの成分が一つ増えた3次元[空間]ベクトル \[\vb*{r} = \qty( x, y, z ) \notag\] で表すことにする.
また, \( x \) 軸, \( y \) 軸, \( z \) 軸それぞれの正の方向を向いた大きさが \( 1 \) であるようなベクトルを単位ベクトルといい, 記号 \( \vb*{e}_{x} \) , \( \vb*{e}_{y} \) , \( \vb*{e}_{z} \) で表すことにする. \[\begin{aligned} \vb*{e}_{x} &= \qty( 1, 0, 0 ) \notag \\ \vb*{e}_{y} &= \qty( 0, 1, 0 ) \notag \\ \vb*{e}_{z} &= \qty( 0, 0, 1 ) \notag \end{aligned} \quad . \notag\] 三次元の位置ベクトル \( \vb*{r} = \qty( x, y, z ) \) は, 単位ベクトルをもちいて次のように書くことができる. \[\vb*{r} = x \vb*{e}_{x} + y \vb*{e}_{y} + z \vb*{e}_{z} \quad . \notag\] なお, 直交する三つの単位ベクトルのうち, 互いに異なる二つのベクトルの内積はゼロとなる. \[\vb*{e}_{x} \cdot \vb*{e}_{y} = \vb*{e}_{y} \cdot \vb*{e}_{z} = \vb*{e}_{z} \cdot \vb*{e}_{x} = 0 \notag \quad .\]
その他の座標系
以上では直交座標系のみを考えた. しかし, 冒頭でも述べたように, 座標系とは人間が自然現象を的確に述べるための共通の目盛りとしてしいたものであるので, 様々な目盛りのとり方が存在してもよい.
物理現象によっては直交座標系以外で議論したほうが便利なこともある. 実際, 原点周りを円運動しているような物体についてを議論するときには下図左のような碁盤の目状の直交座標系ではなく, 極座標系と呼ばれる円形の目盛りを持った下図右のような座標系を考えたほうが都合がよいことをいずれ取り扱う.
2次元極座標系の運動方程式
脚注
⇡1 | このような \( x \) 軸と \( y \) 軸の向きの関係を右手系などと呼ぶ. |
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