円運動

高校物理の教科書において円運動の運動方程式を書き下すとき, 円運動の時の加速度 \( a \) として \( r \omega^2 \) もしくは \( \displaystyle{\frac{v^2}{r} } \) が導入される.

しかし, この見た目上の差異はただ単に座標系の選択をどうするかの問題であり, 運動方程式自体に特別な変化が加えられているわけではないことについて議論する.

円運動の運動方程式を導出するにあたり, 高校物理の範囲内に限った場合の簡略化された証明方法もある. しかし, 以下では一般の回転運動に対する運動方程式に対して特定の条件を与えることで高校物理で扱う円運動の運動方程式を導くことにする[1]簡略化された円運動の運動方程式の導出については, 円運動の運動方程式 — 角振動数一定の場合 —円運動の運動方程式を参照してほしい..

2次元極座標系における運動方程式についても簡単にまとめるが, まずは2次元極座標系における運動方程式の導出に目を通していただきたい.

円運動

2次元極座標系の概要

円運動を議論するにあたり, 下図に示したような2次元極座標系に対して行った議論を引用しておく.

物体の位置 \( \vb*{r} \) , 速度 \( \vb*{v} \) , 及び加速度 \( \vb*{a} \) , を, 直交座標系 \( o-xy \) から角度 \( \theta \) だけ回転した座標系 \( o-x^{\prime}y^{\prime} \) での直交した単位ベクトル \( \vb*{e}_{r} , \vb*{e}_{\theta} \) , 及び角速度 \( \displaystyle{\omega = \dv{ \theta}{t} } \) で表すと, \[ \begin{aligned} \vb*{r} & = r\vb*{e}_r \\ \vb*{v} & = \dv{ \vb*{r} }{t} = \dv{ r}{t} \vb*{e}_r + r \omega \vb*{e}_\theta \\ \vb*{a} & = \dv[2]{\vb*{r} }{t} \\ & = \qty( \dv[2]{r}{t} – r{\omega }^2 )\vb*{e}_{r} + \frac{1}{r} \dv{t} \qty( r^2 \omega ) \vb*{e}_{\theta} \end{aligned}\] であった.


円運動の運動方程式

上記の事柄を踏まえて円運動の議論へ移ろう.

高校物理で登場する円運動とは, 下図に示すように, 座標原点から物体までの距離 \( r \) が一定の運動を意味することが多い. この場合, \[ \dv{r}{t}=0 \notag \] が成立することになる.

半径が一定という条件式を2次元極座標系の速度, 加速度に代入すると, \[ \begin{aligned} \vb*{v} & = r \omega \vb*{e}_\theta \\ \vb*{a} & = – r{\omega }^2 \vb*{e}_{r} + r \dv{ \omega}{t} \vb*{e}_{\theta} \end{aligned}\] を得る. これらの式は角度方向の速度の成分 \[ v_{\theta} = r \omega \notag \] を用いて, 次式のように表すこともできる. \[ \begin{aligned} \vb*{v} & = v_{\theta} \vb*{e}_\theta \\ \vb*{a} & = – \frac{{v_{\theta}}^2 }{r } \vb*{e}_{r} + \dv{ v_{\theta} }{t} \vb*{e}_{\theta} \quad . \end{aligned}\]

したがって, 質量 \( m \) の物体に力 \( \vb*{F} = F_{r} \vb*{e}_{r} + F_{\theta} \vb*{e}_{\theta} \) が加えられて円運動を行っているときの運動方程式は \[ \begin{aligned} & m \vb*{a} = \vb*{F} \\ \to \ & – m \frac{{v_{\theta}}^2 }{r } \vb*{e}_{r} + m \dv{ v_{\theta} }{t} \vb*{e}_{\theta} = F_{r} \vb*{e}_{r} + F_{\theta} \vb*{e}_{\theta} \end{aligned}\] であるので, 動径方向( \( \vb*{e}_r \) 方向)と角度方向( \( \vb*{e}_{\theta} \) 方向)の運動方程式はそれぞれ, \[ – m \frac{{v_{\theta}}^2 }{r }= F_r \label{PolEqr} \] \[ m \dv{ v_{\theta} }{t} = F_\theta \label{PolEqtheta_2} \] と表すことができる.

高校物理で円運動を扱う時には動径方向( \( \vb*{e}_r \) 方向)とは逆方向である向心方向( \( – \vb*{e}_r \) 方向)について整理することが多い. そこで, 向心方向の力の成分 \( F_{\substack{向心力}} \) を \( F_{\substack{向心力}} = – F_r \) で定義し, 円運動における向心方向( \( – \vb*{e}_r \) 方向)の運動方程式として次式を得る. \[ m \underbrace{\frac{{v_{\theta}}^2 }{r } }_{= r \omega^2} = F_{\substack{向心力}} \quad . \label{PolEqr_2} \] この式こそ, 高校物理で登場した円運動の運動方程式そのものである. したがって, 円運動における加速度の見た目が変わった理由は, ただ単に, 円運動を記述するために便利な座標系を選択したからというだけであり, なにも特別な運動方程式を導入したわけではない.

円運動の運動方程式まとめ

円運動の条件式 \[ \dv{r}{t}=0 \notag \] 角速度 \( \displaystyle{\omega } = \dv{ \theta}{t} \) で円運動している物体の速度・加速度 \[ \begin{aligned} \vb*{v} & = r \omega \vb*{e}_\theta = v_{\theta} \vb*{e}_\theta \\ \vb*{a} & = – r \omega^2 \vb*{e}_{r} + r \dv{ \omega }{t} \vb*{e}_{\theta} \\ & = – \frac{{v_{\theta}}^2 }{r } \vb*{e}_{r} + \dv{ v_{\theta} }{t} \vb*{e}_{\theta} \quad . \end{aligned}\] 向心方向( \( – \vb*{e}_r \) 方向)の運動方程式 : \[ \begin{aligned} & m \frac{{v_{\theta}}^2 }{r } = F_{\substack{向心力}} \\ \Leftrightarrow \ & m r{\omega }^2 = F_{\substack{向心力}} \end{aligned}\] 角度方向( \( \vb*{e}_{\theta} \) 方向)の運動方程式 : \[ m \dv{ v_{\theta} }{t} = F_\theta \notag \]

円運動とエネルギー保存則

下図を例にして円運動におけるエネルギー保存則を導く.

円運動する物体の向心方向及び接線方向に対する運動方程式は \[ m \frac{v^2}{l} = F_{\substack{向心力}} = T – mg \cos{\theta} \quad \label{CirE1}\] \[ m \dv{ v }{t} = – mg \sin{\theta} \quad \label{CirE2}\] 接線方向の運動方程式\eqref{CirE2}の両辺に \( v = l \dv{ \theta}{t } \) をかけて時間 \( t \) で積分をする. \[ \begin{aligned} & \int_{t=t_1}^{t=t_2} m \dv{ v }{t} v \dd{t}= – \int_{t_1}^{t_2} mg \sin{\theta} v \dd{t}\\ \to \ & \int_{v(t_1)}^{v(t_2)} m v \dd{v}= – \int_{t_1}^{t_2} mg \sin{\theta} l \dv{ \theta}{t } \dd{t}\\ \to \ & \int_{v(t_1)}^{v(t_2)} m v \dd{v}= – \int_{\theta(t_1)}^{\theta(t_2)} mgl \sin{\theta} \dd{\theta}\\ \to \ & \qty[ \frac{mv^2(t)}{2} ]_{v(t_1)}^{v(t_2)} = \qty[ mgl \cos{\theta} ]_{\theta(t_1)}^{\theta(t_2)} \\ \to \ & \qty[ \frac{mv^2(t)}{2} – mgl \cos{\theta(t)} ]_{t_1}^{t_2} = 0 \end{aligned}\] したがって, \[ \frac{mv^2(t)}{2} – mgl \cos{\theta(t)} = \text{一定} \notag \] というエネルギー保存則が得られる, 補足しておくと, 第一項は運動エネルギーを表し, 第二項は天井面をエネルギーの基準とした位置エネルギーを表している.

したがって, \( t=t_1 \) で \( \theta(t_1)= \theta_1, v(t_1)= v_1 \) , \( t=t_2 \) で \( \theta(t_2)= \theta_2, v(t_2)= v_2 \) だった場合には, \[ \frac{{mv_{1}}^2 }{2} – mgl \cos{\theta_1 } – \qty( \frac{{mv_{2}}^2 }{2} – mgl \cos{\theta_2 } )= 0 \notag \] と関係付けられる.

より具体的な例として, \( \theta_1 = – \frac{\pi}{3} , v_1 =0 \) , \( \theta_2 = \frac{\pi}{6} \) の時の \( v_2 \) を求めると, \[ \begin{aligned} & \frac{m0^2 }{2} – mgl \cos{\qty( – \frac{\pi}{3} )} – \qty( \frac{{mv_{2}}^2 }{2} – mgl \cos{\frac{\pi}{6} } )= 0 \notag \\ \to \ & 0 – \frac{1}{2}mgl – \frac{{mv_{2}}^2 }{2} + \frac{\sqrt{3} }{2} mgl = 0 \notag \\ \therefore \ & v_2 = \sqrt{\qty( \sqrt{3} -1 )gl } \end{aligned}\] となる.

このように, 接線方向の運動方程式に速度をかけて積分することでエネルギー保存則を導出することができる.

具体例

円筒面内での運動とエネルギー保存則

下図を例にして円運動におけるエネルギー保存則を導く.

円運動する物体に対する向心方向と接線方向の運動方程式はそれぞれ \[ m \frac{v^2}{l} = F_{\substack{向心力}} = N – mg \cos{\theta} \label{CirE1_2}\] \[ m \dv{ v }{t} = – mg \sin{\theta} \label{CirE2_2}\] 先と同様にして, 接線方向の運動方程式\eqref{CirE2_2}に速度をかけて積分することで, \[ \frac{mv^2(t)}{2} – mgl \cos{\theta(t)} = \text{一定} \notag \] というエネルギー保存則が得られる.

具体的な例として, \( t=t_1 \) で \( \theta(t_1)= 0 , v(t_1)= v_0 \) , \( t=t_2 \) で \( \theta(t_2)= \theta , v(t_2)= v \) だった場合には, \[ \begin{aligned} &\frac{mv^2(t_1)}{2} – mgl \cos{\theta(t_1)} – \qty( \frac{mv^2(t_2)}{2} – mgl \cos{\theta(t_2)} )= 0 \\ &\frac{mv_0^2}{2} – mgl – \qty( \frac{mv^2 }{2} – mgl \cos{\theta)} )= 0 \end{aligned}\] より, \[ \frac{mv^2 }{2} = \frac{mv_0^2}{2} – mgl \qty( 1 – \cos{\theta} ) \notag \] 上式を式\eqref{CirE1_2}に代入して垂直抗力 \( N \) について解くと, \[ N = \frac{m{v_0}^2}{l} + mg \qty( 3 \cos{\theta} – 2 ) \notag \] となる, こうして垂直抗力を求めれば, よくある「物体が床から離れる条件」は \( N=0 \) より, \[ \frac{m{v_0}^2}{l} = mg \qty( 2 – 3 \cos{\theta} ) \notag \] などと求まる.

脚注

脚注
1 簡略化された円運動の運動方程式の導出については, 円運動の運動方程式 — 角振動数一定の場合 —円運動の運動方程式を参照してほしい.