太陽系に属する惑星は, 太陽からの万有引力の影響を支配的に受けつつ周回運動を行っている. これらの惑星の運動を精密に観測することによって, ケプラーの法則と呼ばれる次の三つの法則が成り立つことが確かめられれた.
ケプラーの第1法則
太陽系の惑星は太陽を1つの焦点とする楕円運動を行う.ケプラーの第2法則
惑星の面積速度は各惑星ごとに一定である.ケプラーの第3法則
惑星の公転周期の2乗と楕円の長半径の3乗との比は太陽系の全ての惑星について共通な一定値である.
これらの法則の数学的な証明は後半に回し, まずは各法則の主張を確かめることにする. 後半の証明では, 証明が容易な順番に解説していくことにする.
ケプラーの第2法則の証明では角運動量保存則および外積の知識を, ケプラーの第1法則の証明では2次元極座標系の運動方程式の知識をそれぞれ用いることにするので, これらの事項が不安な人は再度確認しておいてほしい.
ケプラーの第1法則
ケプラーの第1法則とは, 太陽系の惑星は太陽を1つの焦点とした楕円軌道上を運動する, というものである. この意味を理解するために楕円について簡単に紹介しておこう.
楕円とは, 下図に示すように, 真円をある1方向に押し縮めたような図形である. 楕円は, 平面上に設けた二つの点 \( F \) , \( F^{\prime} \) に対し, \( FP+PF^{\prime} \) が常に一定であるような点 \( P \) の軌跡を追うことで描くことができ, 点 \( F \) , \( F^{\prime} \) のことをそれぞれ楕円の焦点という[1]真円では二つの焦点が完全に一致している..
下図に示した楕円軌道上の各点 \( P \) , \( P^{\prime} \) , \( P^{\prime\prime} \) などにおいて \[FP+PF^{\prime} = FP^{\prime}+P^{\prime}F^{\prime} = FP^{\prime\prime}+P^{\prime\prime}F^{\prime} \notag\] が成立していることになる.
上図のように二つの焦点 \( F \) , \( F^{\prime} \) を含む直線を \( x \) 軸, それに対して垂直な軸を \( y \) 軸とし, 二つの焦点の中点を原点とする. また, \( a, c\, (a > c > 0 ) \) を定数として, 二つの焦点の位置を \( F\qty( c , 0 ) \) , \( F^{\prime}\qty( -c , 0 ) \) とし, 点 \( P(x, y) \) と各焦点との距離の和 \( FP+PF^{\prime} \) が \( 2a \) であるための条件について考えよう.
これらの量について, 上図を参考にすると \[FP + PF^{\prime} = \sqrt{\qty( x-c )^{2} + y^{2} } + \sqrt{\qty( x+c )^{2} + y^{2} } = 2 a \notag\] が成立していることがわかる. 幾分面倒な式変形ののち, \( b \coloneqq \sqrt{a^{2} – c^{2}} \) と定義することで楕円の方程式として次式が得られる. \[\qty( \frac{x}{a} )^{2} + \qty( \frac{y}{b} )^{2} = 1 \quad . \notag\] ここで, \( a \) のことを長半径, \( b \) のことを短半径といい, \[e \coloneqq \frac{c}{a} \quad \qty( 0 < e < 1 ) \notag\] を楕円の離心率といい, \( e \) が \( 0 \) に近いほど真円に近い楕円となっている. また楕円の面積は \( \pi a b \) で与えられる.
話を物理に戻そう.
太陽系の質量の殆どは太陽が担っている. また, 太陽系の各惑星同士は十分に離れていることから, 各惑星同士が及ぼす万有引力の影響は太陽が各惑星に及ぼすものに対して無視することができる. したがって, 各惑星の周回軌道は太陽との万有引力によってのみ決定されると考えることができる. このような近似のもとで, 太陽系の各惑星の軌道が楕円でありその焦点の一つは太陽である, という主張がケプラーの第1法則である.
ケプラーの第2法則
太陽系で楕円軌道上を周回しているとある惑星に注目する. そして, 時刻 \( t \) において, 焦点 \( F \) に存在する太陽からみた小物体の位置ベクトルを \( \vb*{r}(t) \) , 惑星の速度ベクトルを \( \vb*{v}(t) \) , \( \vb*{r} \) と \( \vb*{v} \) の成す角を \( \theta \) とする. この瞬間の位置ベクトル \( \vb*{r} \) と速度ベクトル \( \vb*{v} \) とで張られる仮想的な三角形の面積 \[\frac{1}{2} r v \sin{\theta} \notag\] を面積速度と呼ぶ. そして, ケプラーの第2法則とは面積速度 \( \frac{1}{2}rv\sin{\theta} \) が時間によらずに各惑星ごとに一定であることである.
下図には, 小物体がある点 \( P \) , \( P^{\prime} \) , \( P^{\prime\prime} \) に存在するときの各位置ベクトルを \( \vb*{r} \) , \( \vb*{r}^{\prime} \) , \( \vb*{r}^{\prime\prime} \) , 各点での速度ベクトルを \( \vb*{v} \) , \( \vb*{v}^{\prime} \) , \( \vb*{v}^{\prime\prime} \) , 各位置ベクトルと各速度ベクトルとの成す角を \( \theta \) , \( \theta^{\prime} \) , \( \theta^{\prime\prime} \) としたとき, 各位置ベクトルと各速度ベクトルで張られる仮想的な三角形を色付きで示している. この仮想的な三角形の面積が面積速度の大きさに対応しており, ケプラーの第2法則の主張はこの面積(面積速度)が時間によらず, 各惑星ごとに一定であるということである.
ケプラーの第3法則
太陽系には太陽を一つの焦点とした楕円軌道を周回している惑星がいくつも存在している. これらの惑星に共通した性質を示すものがケプラーの第3法則である.
ケプラーの第3法則とは, 惑星の公転周期の2乗と楕円の長半径の3乗との比は太陽系の全ての惑星について共通の一定値である, というものである. ここで, 長半径とは楕円の最も離れた2点の半分の距離であり, 公転周期とは惑星が楕円軌道を一周するのに要する時間のことである.
下図のように点 \( F \) に存在する太陽と \( F^{\prime} \) を焦点に持つようなある惑星の軌道に注目し, その楕円軌道の長半径を \( a \) , 公転周期を \( T \) としよう. この惑星について, ケプラーの第3法則より \[\frac{a^{3}}{T^{2}} = \mathrm{const.} \notag\] が成立する.
さらに, 太陽(点 \( F \) )と点 \( F^{\prime\prime} \) を焦点とする別の楕円軌道(長半径 \( a^{\prime} \) )を運動する惑星の公転周期が \( T^{\prime} \) であるならば, この軌道についても \[\frac{{a^{\prime} }^{3}}{{T^{\prime}}^{2}} = \mathrm{const.} \notag\] であり, たとえ軌道が違ったとしても, 太陽を一つの焦点に持っていることにより, \[\frac{a^{3}}{T^{2}} = \frac{{a^{\prime} }^{3}}{{T^{\prime}}^{2}} = \mathrm{const.} \notag\] が成立するということがケプラーの第3法則の主張である.
ケプラーの第3法則により, 地球についての(長半径) \( ^{3} / \) (公転周期) \( ^{2} \) のことを \( \left.\frac{a^{3}}{T^{2}}\right|_{\text{地球}} \) と言った具合に書くことにすると, 太陽系の惑星について \[\left.\frac{a^{3}}{T^{2}}\right|_{\text{水星}} = \left.\frac{a^{3}}{T^{2}}\right|_{\text{金星}} = \left.\frac{a^{3}}{T^{2}}\right|_{\text{地球}} = \left.\frac{a^{3}}{T^{2}}\right|_{\text{火星}} = \cdots = \mathrm{const.} \notag\] が成立することになる.
ケプラーの第2法則の証明
ケプラーの第2法則または面積速度一定の法則と呼ばれるものは, 万有引力を受けた物体の角運動量保存則と等価であることを議論しよう. 角運動量保存則の詳細は別ページでも議論しているが, ここでも簡単にまとめておく.
角運動量保存則
ある時刻 \( t \) において, 位置 \( \vb*{r}(t) \) に存在する小物体(質量 \( m \) )の運動量が \( \vb*{p}(t) = m\vb*{v} \) であるとき, 運動量 \( \vb*{p} \) の時間変化率と小物体が受けている合力 \( \vb*{F} \) との間に, 運動方程式 \[\dv{\vb*{p}}{t} = \vb*{F} \notag\] が成立している. そして, このような物体の角運動量(ベクトル) \( \vb*{L} \) は外積を用いて次式のように定義される. \[\vb*{L} \coloneqq \vb*{r} \times \vb*{p} \quad . \notag\] 角運動量 \( \vb*{L} \) の時間変化率を計算すると, \[\begin{aligned} \dv{\vb*{L}}{t} &= \dv{t} \qty( \vb*{r} \times \vb*{p} ) \notag \\ &= \dv{\vb*{r}}{t} \times \vb*{p} + \vb*{r} \times \dv{\vb*{p}}{t} \notag \\ &= \vb*{v} \times \vb*{p} + \vb*{r} \times \vb*{F} \notag \end{aligned}\] となるが, \( \vb*{v} \) は \( \vb*{p} \) と同じ向きであるので外積の性質により \( \vb*{v} \times \vb*{p} = \vb*{0} \) である. また, 物体に働く合力 \( \vb*{F} \) が位置 \( \vb*{r} \) に平行もしくは反平行な力(中心力)の場合には \( \vb*{r} \times \vb*{F} = \vb*{0} \) が成立する. 万有引力はまさしくこのような中心力であることから, 角運動量の時間変化率について \[\dv{ \vb*{L} }{t} = \vb*{0}\] が成立する. この式は角運動量 \( \vb*{L} \) が時間によらずに向きも大きさも常に一定なベクトルであることを示しており, 角運動量保存則という.
角運動量の大きさは \( \vb*{r} \) と \( \vb*{p} \) の成す角度を \( \theta \) とすると, \[\begin{aligned} \abs{\vb*{L} } &= \abs{\vb*{r} \times \vb*{p} } \notag \\ &= r p \sin{\theta} \notag \\ &= m r v \sin{\theta} \notag \end{aligned}\] と表すことができる. したがって, 万有引力(中心力)のみを受けている物体について \[L = m r v \sin{\theta} = \mathrm{const.} \label{kep1_Lcons}\] が成立している. なお, この法則は惑星の軌道がどうなるのかについては何も述べていないことに注意してほしい[2]この軌道が楕円であることを主張しているのはケプラーの第1法則である..
さて, ある点 \( F \) に固定された質量 \( M \) の物体周りを質量 \( m \) の小物体が周回運動を行なっており, この点を \( P \) とする. また, 互いに万有引力のみを及ぼし合っているとしよう.
時刻 \( t \) における点 \( F \) から点 \( P \) への位置ベクトルを \( \vb*{r}(t) \) , 小物体の速度ベクトルを \( \vb*{v}(t) \) とし, \( \vb*{r}(t) \) と \( \vb*{v}(t) \) との成す角を \( \theta \) とする. このとき, 時刻 \( t \) から微小時間 \( \Delta t \) だけ経過する間の微小変位は \( \vb*{v}\,\Delta t \) と近似することができる.
そして, 時刻 \( t \sim t+ \Delta t \) の間に線分 \( FP \) が掃いた(= \( \vb*{r}(t) \) と \( \vb*{v}\,\Delta t \) によって張られた)微小面積 \( \Delta S \) は \[\begin{aligned} \Delta S &= \frac{1}{2}\abs{\vb*{r} \times \vb*{v}\,\Delta t } \notag \\ &= \frac{1}{2} r v \sin{\theta} \,\Delta t \notag \\ \to \ \frac{\Delta S}{\Delta t} &= \frac{1}{2} r v \sin{\theta} \notag \end{aligned}\] と書くことができる. ここで, \( \Delta t \to 0 \) の極限をとると, \[\lim_{\Delta t \to 0} \frac{\Delta S}{\Delta t} = \dv{S}{t} = \frac{1}{2} r v \sin{\theta} \notag\] が成立し, \( \dv{S}{t} \) を面積速度という. さらに, 上式に角運動量保存則(式\eqref{kep1_Lcons})を適用することで, \[\dv{ S}{t}= \frac{1}{2} r v \sin{\theta} = \frac{L}{2m} = \mathrm{const.} \label{kep2_dsdt}\] が得られ, 面積速度が時間によらずに一定であるという面積速度一定の法則が得られた. 特に, 太陽を焦点とした惑星の運動に対して成立する面積速度一定の法則のことをケプラーの第2法則と呼ぶ.
また, 面積速度の式\eqref{kep2_dsdt}をみると, 下図のように位置ベクトル \( \vb*{r} \) と速度ベクトル \( \vb*{v} \) とで張られる仮想的な三角形の面積 \[\frac{1}{2} \abs{\vb*{r} \times \vb*{v} } = \frac{1}{2} r v \sin{\theta} \notag\] が面積速度の大きさに一致していることがわかる. この仮想的な三角形の面積が一定であることを面積速度一定の法則(ケプラーの第2法則)と呼んでもよい.
ケプラーの第3法則の証明
ケプラーの第3法則とは, 惑星の公転周期 \( T \) の2乗は, 楕円の長半径 \( a \) の3乗に比例することをいう.
上図のように楕円軌道の焦点 \( F(c, 0) \) に質量 \( M \) の物体が存在し, もう一方の焦点を \( F^{\prime}(-c, 0) \) とする. そして, 焦点 \( F \) から位置 \( \vb*{r} \) に存在する質量 \( m \) , 速度 \( \vb*{v} \) の小物体について考える. また, 楕円軌道の長半径を \( a \) , 短半径を \( b \) とし, 2物体が最も近づく点での2物体間の距離を \( r_1 \) , 最も遠ざかる点での2物体間の距離を \( r_2 \) とする. なお, 点 \( F \) に置かれた物体が太陽である太陽系であるあらば, \( r_{1} \) , \( r_{2} \) はそれぞれ近日点距離, 遠日点距離などと呼ばれる.
と, \( r_{1} \) , \( r_{2} \) , \( a \) の3つの量について \[r_{1} + r_{2} = 2a \label{r1r2a}\] が成立している.
面積速度一定の法則(ケプラーの第2法則)より, 位置ベクトル \( \vb*{r} \) と速度ベクトル \( \vb*{v} \) とのなす角を \( \theta \) とすると, 面積速度 \[s_{0} \coloneqq \dv{S}{t} = \frac{1}{2}r v \sin{\theta} \label{kep3_L}\] は時間によらず一定に保たれる.
万有引力の位置エネルギーの基準点を無限遠点に取ったとき, 焦点 \( F \) から距離 \( r \) の小物体の力学的エネルギー \( E \) は, \[E = \frac{1}{2}mv^2 – G\frac{mM}{r} \label{kep3_E}\] で与えられ, 力学的エネルギー保存則により, \( E \) も時間に依存しない定数となる.
力学的エネルギー保存則の式\eqref{kep3_E}に対して面積速度一定の法則(式\eqref{kep3_L})を適用すると, \[\begin{aligned} & E = \frac{1}{2} m \qty( \frac{2s_{0} }{r\sin{\theta} } )^2 – G\frac{mM}{r} \notag \\ \to \ & E \sin[2]{\theta} r^2 + GmM \sin[2]{\theta} r -2ms_{0}^2 = 0 \notag \end{aligned}\] となり, これは \( r \) についての2次方程式とみなすことが出来る. 特に, \( \abs{\sin{\theta} } = 1 \) をみたすとき, すなわち, \( \vb*{r} \) と \( \vb*{v} \) が直交する \( \theta=\frac{\pi}{2} \) である場合は, \[E r^2 + GmM r -2ms_{0}^2 = 0\] と書くことができる. このような条件が成立するのは, 周回物体と焦点との距離が最も近づいたときか離れたとき, すなわち, \( r \) が近日点距離 \( r_{1} \) か遠日点距離 \( r_{2} \) のときである.
したがって, 上式を満たす \( r \) の解は \( r_1 \) と \( r_2 \) であり, 解と係数の関係により次式を得る. \[\begin{align} r_1 + r_2 &= – G\frac{mM}{E} \label{grar1r2a} \\ r_1 r_2 &= – \frac{2ms_{0}^2}{E} \quad . \label{grar1r2b} \end{align}\] ここで, 式\eqref{r1r2a}を式\eqref{grar1r2a}に代入すると, \[\begin{align} & r_{1}+r_{2} = 2a = – G\frac{mM}{E} \notag \\ & \iff \ a = – G\frac{mM}{2E} \quad . \label{grar1r2a2} \end{align}\] また, 短半径 \( b \) と式\eqref{grar1r2b}について次の関係が成立していることが確かめられる. \[\begin{align} b &= \sqrt{a^{2} – c^{2} } \notag \\ &= \sqrt{\qty( a + c ) \qty( a – c ) } \notag \\ &= \sqrt{r_{1} r_{2} } \notag \\ \therefore \ b^{2} &= r_{1} r_{2} = – \frac{2ms_{0}^2}{E} \label{grar1r2b2} \end{align}\] ここで, 小物体が楕円軌道を一周するのに要する時間, すなわち, 公転周期を \( T \) とする. また, 楕円の面積が \( \pi a b \) で与えられ, \[\qty( \text{面積速度} )\cdot \qty( \text{公転周期} ) = \qty( \text{楕円の面積} ) \notag\] が成立することから, \[T \cdot s_{0}= \pi a b \notag\] となるので, 周期 \( T \) の2乗と楕円の長半径 \( a \) の3乗の比は, \( a \) と \( b \) の値(式\eqref{grar1r2a2}と式\eqref{grar1r2b2})をもちいて, \[\begin{aligned} \frac{a^3}{T^2} &= \frac{a^3}{\frac{1}{s_{0}^{2}} \pi^2 a^2 b^2 } \notag \\ &= \frac{s_{0}^{2}}{\pi^{2}} \frac{a}{b^{2}} \notag \\ &= \frac{s_{0}^{2}}{\pi^{2}} \frac{\qty( -G\frac{mM}{2E} ) }{\qty( – \frac{2ms_{0}^2}{E} ) } \notag \\ &= \frac{GM}{4 \pi^2} \notag \end{aligned}\] となり, 焦点に置かれた物体の質量 \( M \) と定数 \( \frac{G}{4\pi^{2}} \) のみで決まり, 楕円軌道上にいる小物体がどのような質量を持っているのかは関係ないのである.
例として太陽系惑星について考えてみると, 太陽系惑星は太陽を一つの焦点として楕円運動をしている(ケプラーの第1法則)ので, これらの各惑星について \( \frac{a^3}{T^2} \) は焦点に存在する太陽の質量のみで定まり, 太陽系のどの惑星についても同じ値となる. これはケプラーの第3法則と呼ばれる.
ケプラーの第1法則の証明
2次元直交座標系で記述した座標 \( \qty( x, y ) \) を原点からの距離 \( r \) と偏角 \( \theta \) で記述する2次元直交座標系との間には, \[\left\{\begin{aligned} x = r \cos{\theta} \notag \\ y = r \sin{\theta} \notag \end{aligned} \right.\] が成立しており, 2次元極座標系で記述した質量 \( m \) の物体の運動方程式は, 動径方向および角度方向それぞれについて \[\begin{aligned} m \qty( \dv[2]{r}{t} – r \qty( \dv{\theta}{t} )^{2} ) &= F_{r} \notag \\ m \frac{1}{r} \dv{t} \qty( r^{2} \dv{\theta}{t} ) &= F_{\theta} \notag \end{aligned}\] で与えられるのであった. ここで, \( F_{r} \) と \( F_{\theta} \) はそれぞれ動径方向と角度方向に分解した合力の成分である. (2次元極座標系の運動方程式)
万有引力は動径方向成分のみが存在し, 力の向きは動径方向とは逆方向であるので, 運動方程式は \[\begin{align} m \qty( \dv[2]{r}{t} – r \qty( \dv{\theta}{t} )^{2} ) &= – G \frac{mM}{r^{2}} \label{kep1_Fr} \\ m \frac{1}{r} \dv{t} \qty( r^{2} \dv{\theta}{t} ) &= 0 \label{kep1_Ftheta} \end{align}\] 式\eqref{kep1_Ftheta}より, \[\dv{t} \qty( r^{2} \dv{\theta}{t} ) = 0 \iff \ r^{2} \dv{\theta}{t} = \mathrm{const.} \notag\] であるので[3]これはケプラーの第2法則に相当している., \[A \coloneqq r^{2} \dv{\theta}{t} \label{kep1_r_kep2}\] という定数を定義しよう.
動径方向の運動方程式(式\eqref{kep1_Fr})の両辺に \( \dv{r}{t} \) を乗じて, \( A \) を用いて表すと, \[\begin{aligned} & m \qty( \dv[2]{r}{t} – r \omega^{2} ) = – G \frac{mM}{r^{2}} \notag \\ \to \ & \dv{r}{t} \dv[2]{r}{t} – r \dv{r}{t} \omega^{2} + G \frac{M}{r^{2}} \dv{r}{t} =0 \notag \\ \to \ & \dv{r}{t} \dv[2]{r}{t} – \frac{1}{r^{3}} \dv{r}{t} A^{2} + G \frac{M}{r^{2}} \dv{r}{t} =0 \notag \\ \to \ & \dv{t} \left\{\frac{1}{2} \qty( \dv{r}{t} )^{2} + \frac{1}{2r^{2} }A^{2} – G \frac{M}{r} \right\} = 0 \notag \end{aligned}\] \[\therefore \ \frac{1}{2} \qty( \dv{r}{t} )^{2} +\frac{1}{2r^{2} }A^{2} – G \frac{M}{r} = \mathrm{const.} \notag\] 第2項と第3項を \( \frac{1}{r} \) の関数とみなして平方完成を行うと, \[\begin{aligned} & \frac{1}{2} \qty( \dv{r}{t} )^{2} + \frac{1}{2r^{2} }A^{2} – G \frac{M}{r} = \mathrm{const.} \notag \\ \to \ & \frac{1}{2} \qty( \dv{r}{t} )^{2} + \frac{A^{2}}{2} \left\{\frac{1}{r } – \frac{GM}{A^{2}} \right\}^{2} – \frac{G^{2}M^{2}}{2A^{2}}= \mathrm{const.} \notag \\ \to \ & \qty( \dv{r}{t} )^{2} + A^{2} \left\{\frac{1}{r } – \frac{GM}{A^{2}} \right\}^{2} = \mathrm{const.} \notag \end{aligned}\] ここで, 右辺の定数を \( C^{2} \) と書き表すと, \[\begin{aligned} \qty( \dv{r}{t} )^{2} + A^{2} \left\{\frac{1}{r } – \frac{GM}{A^{2}} \right\}^{2} = C^{2} \notag \\ \frac{1}{C^{2}}\qty( \dv{r}{t} )^{2} + \frac{A^{2}}{C^{2}} \left\{\frac{1}{r } – \frac{GM}{A^{2}} \right\}^{2} = 1 \quad . \notag \end{aligned}\] この式が, \( \bigcirc^{2} + \triangle^{2}= 1 \) という形になっていることに注目すると, 適当な関数 \( \phi(t) \) を用いて \[\begin{align} \sin{\phi} & \coloneqq \frac{1}{C}\dv{r}{t} \label{kep1_phisin} \\ \cos{\phi} & \coloneqq \frac{A}{C} \qty( \frac{1}{r } – \frac{GM}{A^{2}} ) \label{kep1_phicos} \end{align}\] と書くことができる. 式\eqref{kep1_phicos}の両辺を時間で微分すると, \[\begin{align} &\dv{t} \cos{\phi} = \dv{\phi}{t}\dv{\phi} \cos{\phi} = – \dv{\phi}{t} \sin{\phi} \notag \\ & \dv{t} \left\{\frac{A}{C} \qty( \frac{1}{r } – \frac{GM}{A^{2}} ) \right\} = \frac{A}{C} \dv{r}{t} \dv{r} \qty( \frac{1}{r } ) = – \dv{r}{t} \frac{A}{Cr^{2}} \notag \\ & \therefore \ \dv{\phi}{t} \sin{\phi} = \dv{r}{t}\frac{A}{Cr^{2}} \label{kep1_phicosdt} \end{align}\] 式\eqref{kep1_phicosdt}と式\eqref{kep1_phisin}とを見比べると, \[\dv{\phi}{t} = \frac{A}{r^{2}} \notag\] であり, \( A \) の定義 \( A=r^{2}\dv{\theta}{t} \) を代入すると, \[\dv{\phi}{t} = \dv{\theta}{t} \ \iff \phi = \theta + \alpha\] である. ここで \( \alpha \) は積分定数である.
式\eqref{kep1_phicos}に \( \phi = \theta + \alpha \) を代入して整理すると, \[\begin{aligned} \frac{1}{r } &= \frac{GM}{A^{2}} + \frac{C}{A} \cos{\qty( \theta + \alpha )} \notag \\ \therefore \ r &= \frac{A^{2}/GM}{1 + \frac{AC}{GM}\cos{\qty( \theta + \alpha )}} \end{aligned}\] ここで, \[e \coloneqq \frac{AC}{GM}, \quad a \coloneqq \frac{A}{C} \notag\] と定義すると, \[r = \frac{ae}{1 + e\cos{\qty( \theta + \alpha )}} \label{kep1_goal}\] と書くことができ, これは離心率 \( e \) の楕円(正確には二次曲線)の方程式を極座標系で記述したものであることが知られている.
この式を直交座標系で書き直すことで楕円の方程式と一致していることの確認は補足で行おう.
補足
簡単のため, 式\eqref{kep1_goal}に含まれる初期位相 \( \alpha \) をゼロとして議論する.
極座標 \( \qty( r, \theta ) \) と2次元直交座標系 \( \qty( x, y ) \) は \[\left\{\begin{aligned} x &= r\cos{\theta} \notag \\ y &= r\sin{\theta} \notag \end{aligned} \right.\] という変換で結びついているので, これらを式\eqref{kep1_goal}に代入すると, \[\left\{\begin{aligned} x &= \frac{ae}{1 + e\cos{\theta }} \cos{\theta} \notag \\ y &= \frac{ae}{1 + e\cos{\theta }} \sin{\theta} \notag \end{aligned} \right.\] 第1式より \[\cos{\theta} = \frac{x }{e \qty( a-x ) } \quad . \notag\] \( \cos{\theta} \) を \( y \) の式に代入すると, \[\begin{aligned} y &= \frac{ae}{1 + e \frac{x }{e \qty( a-x ) } } \sin{\theta} \notag \\ &= e\qty( a-x ) \sin{\theta} \notag \\ \therefore \ \sin{\theta} &= \frac{y}{e\qty( a – x ) } \quad . \notag \end{aligned}\] したがって, \[\sin[2]{\theta} + \cos[2]{\theta} = 1 \notag\] は, \( x \) , \( y \) を用いて次のように書き換えることができる. \[\begin{aligned} & \left\{\frac{y}{e\qty( a – x ) } \right\}^{2} + \left\{\frac{x }{e \qty( a-x ) } \right\}^{2} = 1 \notag \\ \to \ & x^{2} + y^{2} = e^{2} \qty( a – x )^{2} \notag \\ \to \ & \qty( 1 – e^{2} ) x^{2} + 2ae^{2} x + y^{2} = a^{2}e^{2} \quad . \notag \end{aligned}\] これは二次曲線をあらわしており, 更に式変形していくと, \[\qty( x + a \frac{e^{2}}{1-e^{2}} )^{2} + \qty( \frac{y}{\sqrt{1 – e^{2}}} )^{2} = \qty( \frac{ae}{1-e^{2}} )^{2} \notag\] といった具合に式変形できる.