熱平衡と熱力学第0法則

高校物理で扱う熱力学は, 熱平衡という状態にある系に適用できる法則の集合であるので, その意味について述べる.

一般に, 平衡状態とはある系のなかからどの部分を取り出しても, 他の部分を取り出した時と同じ結果が得られるような系の状態である. 例えば, 水の中に絵の具を1滴垂らした時には, 絵の具が徐々に拡散していくので系の中に明確な違いが生じてしまっており平衡状態にあるとはいえない. それでも十分な時間が経過すると, 最終的にはインクが一様に広がった水となり, どの部分をみても区別が出来ない系が出来上がる.

温度についても同様の議論が成立し, 温かさが異なる2つの物体を接触させて長時間放置すると, 両物体の温かさが一致し, 共にそれ以上変化が生じない状態に遷移する. このような状態を熱平衡といい, 両者の温度が等しいという.

このような経験則を一般化させると, 次のような関係が成立することが経験的に知られており, 熱力学第0法則と呼ばれる. すなわち,互いに接していない物体 \( A \) と物体 \( B \) が存在し, 物体 \( A \) と物体 \( C \) が熱平衡にあり, 物体 \( B \) と物体 \( C \) が熱平衡にあるならば, 物体 \( A \) と物体 \( B \) もまた熱平衡にある.

ここで, 熱力学第0法則をあたらめて出発点として考えると, ある系を選択すれば, その系と熱平衡にある系は全て互いに熱平衡にあることになる. これらの系はすべて共通のある物理量を保持していると解釈でき, その物理量を温度と定義しよう.

上述の熱力学第0法則において, 物体 \( C \) を温度計をみなせば, 物体 \( A \) と物体 \( B \) をそれぞれ温度計(物体 \( C \) )によって温度計測することで, 物体 \( A \) と物体 \( B \) の温度が等しいという議論が可能となる.