連続型確率変数が従う確率分布の代表例として指数分布が知られている.
指数分布は, 同じ品質の機械が壊れる間隔や, ある放射性元素が崩壊してから次の崩壊が生じるまでの時間間隔といった, ランダムに生じるある事象の発生間隔を(連続)確率変数 \( X \) とみなした場合に確率変数 \( X \) が従う分布として知られている.
指数分布の関数の基本形は指数関数 \( e^{ – \lambda x} \) を用いて次式のようにあらわされる. \[f(x)= \begin{cases} (\mathrm{const.}) \times e^{ – \lambda x} & (0 \le x ) \\ 0 & (x < 0) \end{cases} \quad . \notag\] ここで, 定数 \( \lambda (>0) \) (ラムダ)は指数関数がどれだけはやく減衰していくかを表す指標となっており, \( \lambda \) が大きいほど指数関数の減衰は早くなる.
また, 後の計算で明らかになるように, 指数分布の期待値 \( E(X) \) は \( \lambda^{-1} \) で与えられ, 分散なども \( \lambda \) のみを含んだ式で与えられる. したがって, 指数分布に従うような確率変数の場合, その期待値さえ知っておけばその関数を決定することができるという重要な性質を持っている.
指数分布の規格化
ここで \( 0 \le x \) の範囲内における確率密度関数を定数 \( N \) を用いて, \[f(x) = N e^{ – \lambda x} \quad (0 \le x ) \notag\] とあらわすことにしよう.
この定数 \( N \) は確率密度関数 \( f(x) \) が満たすべき性質 \[\int_{ – \infty}^{\infty} f(x) \dd{x} =1 \label{pc_nat}\] から定めることができる. この条件を規格化条件という.
いま, \[f(x)= \begin{cases} Ne^{ – \lambda x} & (0 \le x ) \\ 0 & (x < 0) \end{cases}\] を式\eqref{pc_nat}に代入すると, \[\begin{aligned} \int_{ – \infty}^{\infty} f(x) \dd{x} &= \int_{ – \infty}^{0} f(x) \dd{x} + \int_{0}^{\infty} f(x) \dd{x} \\ &= \int_{ – \infty}^{0} 0 \dd{x} + \int_{0}^{\infty} Ne^{ – \lambda x} \dd{x} \\ &= \qty[ – \frac{1}{\lambda} Ne^{ – \lambda x} ]_{0}^{\infty} \\ &= \frac{N}{\lambda}\end{aligned}\] したがって, \[N=\lambda \notag \] とすることで, 規格化条件の式\eqref{pc_nat}を満たすことができる.
結局, 規格化された指数分布の確率密度関数は次式で与えられることになる. \[f(x)= \begin{cases} \lambda e^{ – \lambda x}& (0 \le x) \\ 0 & (x < 0) \end{cases} \notag \] また, 指数分布は \( \mu = \lambda^{-1} \) だけで書き表す流儀も有り, \[f(x)= \begin{cases} \frac{1}{\mu} e^{ – \frac{x}{\mu}} & (0 \le x ) \\ 0 & (x < 0) \end{cases} \notag \] も同じ指数分布をあらわしている. なお, すぐに明らかになるように \( \mu=\lambda^{-1} \) は指数分布の期待値と一致している.
下図にはいつくかの \( \lambda \) に対する確率密度関数を書き表した.
指数分布の期待値
指数分布 \[f(x)= \begin{cases} \lambda e^{ – \lambda x} & (0 \le x ) \\ 0 & (x < 0) \end{cases} \notag\] の期待値 \( E(X) \) を期待値の定義式 \[\int_{ – \infty}^{\infty} x\,f(x) \dd{x} \] により求めてみよう.
一般に, \( x \) の関数 \( f(x), g(x) \) に対して部分積分 \[\int_{a}^{b} f \qty( \dv{g}{x} ) \dd{x}= [fg]_{a}^{b} – \int_{a}^{b}\qty( \dv{f}{x} )g \dd{x} \] を用いた結果, 次の等式が得られる[1]証明を与えておく. \[\begin{aligned} \int_{0}^{\infty} x e^{ – \lambda x } \dd{x} &\underbrace{=}_{\text{部分積分}} \qty[ x \qty( – \frac{1}{\lambda}e^{ – \lambda x} … Continue reading. \[\int_{0}^{\infty} x e^{ – \lambda x } \dd{x} = \frac{1}{\lambda^2} \label{pint_1}\] これを用いれば, \[\begin{aligned} E(X) &= \int_{ – \infty}^{\infty} x\,f(x) \dd{x} \\ &= \int_{0}^{\infty} x \lambda e^{ – \lambda x } \dd{x} \\ &= \lambda \int_{0}^{\infty} x e^{ – \lambda x } \dd{x} \\ &\underbrace{=}_{\text{式\eqref{pint_1}}} \lambda \cdot \frac{1}{\lambda^2} = \frac{1}{\lambda}\end{aligned}\] \[\therefore \ E(X) = \frac{1}{\lambda} \quad .\] となり, 冒頭で述べたように, 指数分布の期待値は \( \lambda^{-1} \) と, \( \lambda \) だけで表すことが出来る.
指数分布の分散, 標準偏差
指数分布の分散 \( V(X) \) は期待値 \( \mu \) を用いて次式の左辺で定義され, 右辺のように書き換えることが出来るのであった. \[\int_{ – \infty}^{\infty} \qty( x – \mu )^2f(x) \dd{x} = E(X^2) – \left\{E(X)\right\}^2\] また, 部分積分を繰り返し用いることで得られる次の等式[2]証明を与えておく. \[\begin{aligned} \int_{0}^{\infty} x^2e^{ – \lambda x}\dd{x}&\underbrace{=}_{\text{部分積分}} \qty[ x^2 \qty( – \frac{1}{\lambda}e^{ – \lambda x} … Continue reading \[\int_{0}^{\infty} x^2 e^{ – \lambda x } \dd{x} = \frac{2}{\lambda^3} \label{pint_2}\] を式\eqref{pint_1}とあわせて用いると, \[\begin{aligned} V(X) &= E(X^2) – \left\{E(X) \right\}^2 \\ &= \int_{ – \infty}^{\infty} x^2 f(x) \dd{x} – \left\{\int_{ – \infty}^{\infty} x f(x) \dd{x} \right\}^2 \\ &= \int_{0}^{\infty} x^2 \lambda e^{ – \lambda x} \dd{x} – \left\{\int_{0}^{\infty} x \lambda e^{ – \lambda x } \dd{x} \right\}^2 \\ &= \lambda \cdot \frac{2}{\lambda^3} – \left\{\lambda \cdot \frac{1}{\lambda^2} \right\}^2 \\ &= \frac{1}{\lambda^2}\end{aligned}\] \[\therefore \ V(X) = \frac{1}{\lambda^2}\] であることがわかる.
標準偏差 \( \sigma \) は分散の平方根で定義されるので, \[\sigma = \sqrt{V(X)} = \frac{1}{\lambda}\] と, 期待値と同じ値となる.
指数分布
次式のような規格化された確率密度関数 \( f(x) \) に従う確率変数がつくる分布を指数分布という. \[f(x)= \begin{cases} \lambda e^{ – \lambda x}& (0 \le x) \\ 0 & (x < 0) \end{cases} \notag \] ここで記号 \( \lambda (>0) \) は期待値の逆数に一致しており, \( \mu = \lambda^{-1} \) を用いて次のようにもあらわされる. \[f(x)= \begin{cases} \frac{1}{\mu} e^{ – \frac{x}{\mu}}& (0 \le x) \\ 0 & (x < 0) \end{cases} \notag \]一様分布の期待値 \( E \) , 分散 \( V \) , 標準偏差 \( \sigma \) はそれぞれ次のように与えられる. \[ \begin{aligned} E(X) &= \frac{1}{\lambda} \\ V(X) &= \frac{1}{\lambda^2} \\ \sigma &= \frac{1}{\lambda} \end{aligned} \]
脚注
⇡1 | 証明を与えておく. \[\begin{aligned} \int_{0}^{\infty} x e^{ – \lambda x } \dd{x} &\underbrace{=}_{\text{部分積分}} \qty[ x \qty( – \frac{1}{\lambda}e^{ – \lambda x} ) ]_{0}^{\infty} – \int_{0}^{\infty} \qty( – \frac{1}{\lambda}e^{ – \lambda x} ) \dd{x} \\ &= \qty[ – \frac{1}{\lambda^2 } e^{ – \lambda x} ]_{0}^{\infty} \\ &= \frac{1}{\lambda^2} \end{aligned}\] \[\therefore \ \int_{0}^{\infty} x e^{ – \lambda x } \dd{x} = \frac{1}{\lambda^2} \label{pint_1sub}\] |
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⇡2 | 証明を与えておく. \[\begin{aligned} \int_{0}^{\infty} x^2e^{ – \lambda x}\dd{x}&\underbrace{=}_{\text{部分積分}} \qty[ x^2 \qty( – \frac{1}{\lambda}e^{ – \lambda x} ) ]_{0}^{\infty} – \int_{0}^{\infty} 2x \qty( – \frac{1}{\lambda}e^{ – \lambda x} ) \dd{x} \\ &= \frac{2}{\lambda} \int_{0}^{\infty} x e^{ – \lambda x} \dd{x} \\ &\underbrace{=}_{\text{式\eqref{pint_1sub}}} \frac{2}{\lambda}\cdot\frac{1}{\lambda^2} \\ &= \frac{2}{\lambda^3} \end{aligned}\] \[\therefore \ \int_{0}^{\infty} x^2 e^{ – \lambda x } \dd{x} = \frac{2}{\lambda^3} \label{pint_2sub}\] |