ここではまず, 弧度法という角度の表現方法について述べておく.その後, 直角三角形の2辺の比を利用して三角比という概念を導入する.
三角比は, 力の合成・分解というものと密接に関わっており, 学校教育においても数学より先に物理で出くわす人も多いであろう.
高校物理を学ぶ上では, 三角比を求めること自体はそれほど機会が多いわけではなく, むしろ1辺と1つの三角比から別の1辺を求めるという操作に習熟してもらいたい.
最後には三角比を用いた, 三角形および円について成立する余弦定理, 正弦定理について紹介する.
度数法と弧度法
角度を表す方法として, 度数法と弧度法とが知られている.
度数法
円の中心角を \( 360 \) 分割した角度を \( 1^{\circ} \) と定義し, ある角度が \( 1^{\circ} \) の何倍かで表す方法を度数法という.
高校理科を学ぶようなような諸君は, 度数法についてはすでに十分習熟していることであろう.
弧度法
度数法に登場する \( 360 \) という数字はどこからきた数字なのであろうか. これは, 人間にとって都合が良さそうな数として我々の祖先が便宜的に定めただけのものである[1]この経緯について詳細に調べてはいないが, 暦の数や約数の数に関係あるなど諸説あるらしいと認識している..
しかし, 物理や数学において物事を統一的に記述するにあたっては, 人間が勝手に導入する数を最小限におさえておきたいものである.
そこで, 人間の決め打ちした値に依存せずに角度を表現でき, 他の数学分野との関連も絡めてうまくいっている方法が弧度法である.
弧度法とは, 弧の長さが \( l \) , 半径が \( r \) の扇形のなす中心角 \( \theta \) (シータ)を \[\theta \coloneqq \frac{l}{r} \notag\] で定義する方法である. この弧度法で記述した角度 \( \theta \) の単位は \( \mathrm{rad} \) (ラジアン)であらわされる.
弧度法の定義に従えば, 円の中心角が成す角度 – 度数法でいうところの \( 360^{\circ} \) – は \[\theta = \frac{2 \pi r}{r} \,\mathrm{rad}= 2\pi \,\mathrm{rad} \notag\] となる.
度数法と弧度法との関係
度数法と弧度法との対応関係について確認しておこう.
下図に示すように, 半径 \( r \) の円上のある点 \( P \) から長さ \( r \) の弧 \( PQ \) を考えよう.
弧 \( PQ \) を持つような扇形の中心角を度数法で表したものを \( \phi \) (ファイ), 弧度法を用いて表したものを \( \theta \) としよう.
\( \phi \) と \( \theta \) はそれぞれ \[\begin{aligned} \phi &= 360^{\circ} \cdot \frac{r}{2\pi r} = \frac{180^{\circ}}{\pi}\notag \\ \theta &= \frac{r}{r} = 1\,\mathrm{rad} \notag \end{aligned}\] である. これらが等しいので, 度数法と弧度法との間には \[1\,\mathrm{rad} = \frac{180^{\circ}}{\pi} \approx 57.3^{\circ} \notag\] という関係が成立していることが分かる.
代表的な角度について, 度数法と弧度法のそれぞれの値をまとめておこう.
度数法 \( [{}^{\circ}] \) | \( 30 \) | \( 45 \) | \( 60 \) | \( 90 \) |
弧度法 \( [\mathrm{rad}] \) | \( \frac{\pi}{6} \) | \( \frac{\pi}{4} \) | \( \frac{\pi}{3} \) | \( \frac{\pi}{2} \) |
度数法 \( [{}^{\circ}] \) | \( 120 \) | \( 135 \) | \( 150 \) | \( 180 \) |
弧度法 \( [\mathrm{rad}] \) | \( \frac{2\pi}{3} \) | \( \frac{3\pi}{4} \) | \( \frac{5\pi}{6} \) | \( \pi \) |
三角比
斜辺, 対辺, 隣辺の定義
下図に示すような角 \( C \) が \( 90^{\circ} \) であるような直角三角形 \( ABC \) において, 辺 \( AB \) の長さを \( c \) , 辺 \( BC \) の長さを \( a \) , 辺 \( AC \) の長さを \( b \) とする. そして, 三角形の内角のうち直角でない一方の角度の大きさを \( \theta \) としよう. 下図の場合, \( \angle BAC=\theta \) である.
直角である角 \( C \) に向かい合う辺 \( AB \) のことを斜辺( \( =c \) ), 注目する角(角度 \( \theta \) の角)に向かい合う辺を対辺( \( =a \) ), 斜辺とあわせて角度 \( \theta \) を成している辺のことを隣辺と呼ぶ.
三角比の導入
三角形のうちの2辺の比というのは, 相似な三角形の対応する2辺の比においても変わらずに一定であることはご存知のことであろう.
例えば, 直角三角形 \( ABC \) と \( ABC \) に相似な直角形 \( A^{\prime}B^{\prime}C^{\prime} \) について考えよう. ここで, 直角三角形 \( A^{\prime}B^{\prime}C^{\prime} \) の各辺は, 三角形 \( ABC \) の対応する各辺を \( k\,(>0) \) 倍した長さのものであるとする. このとき, 斜辺 \( A^{\prime}B^{\prime} \) , 対辺 \( B^{\prime}C^{\prime} \) , 隣辺 \( A^{\prime}C^{\prime} \) の長さは次のように書けるものとしよう. \[\begin{aligned} A^{\prime}B^{\prime} &= k \cdot AB = kc \notag \\ B^{\prime}C^{\prime} &= k \cdot BC = ka \notag \\ A^{\prime}C^{\prime} &= k \cdot AC = kb \quad . \notag \end{aligned}\]
直角三角形 \( A^{\prime}B^{\prime}C^{\prime} \) の各辺の長さの比で定義される量として \[\frac{B^{\prime}C^{\prime}}{A^{\prime}B^{\prime}}, \ \frac{A^{\prime}C^{\prime}}{A^{\prime}B^{\prime}}, \ \frac{A^{\prime}C^{\prime}}{B^{\prime}C^{\prime}}, \ \frac{A^{\prime}B^{\prime}}{B^{\prime}C^{\prime}}, \ \frac{A^{\prime}B^{\prime}}{A^{\prime}C^{\prime}}, \ \frac{B^{\prime}C^{\prime}}{A^{\prime}C^{\prime}} \notag\] を考えることができるが, これらの量は \[\begin{aligned} \frac{B^{\prime}C^{\prime}}{A^{\prime}B^{\prime}} = \frac{ka}{kc} = \frac{a}{c}, & \quad\frac{A^{\prime}C^{\prime}}{A^{\prime}B^{\prime}} = \frac{kb}{kc} = \frac{b}{c}, \notag \\ \frac{A^{\prime}C^{\prime}}{B^{\prime}C^{\prime}} = \frac{kb}{ka} = \frac{b}{a}, & \quad \frac{A^{\prime}B^{\prime}}{B^{\prime}C^{\prime}} = \frac{kc}{ka} = \frac{c}{a}, \notag \\ \frac{A^{\prime}B^{\prime}}{A^{\prime}C^{\prime}} = \frac{kc}{kb} = \frac{c}{b}, & \quad \frac{B^{\prime}C^{\prime}}{A^{\prime}C^{\prime}} = \frac{ka}{kb} = \frac{a}{b} \notag \end{aligned}\] といった具合に, 元の三角形 \( ABC \) の辺の長さの比に一致している.
したがって, 相似な直角三角形においては \( ( \) 対辺 \( ) / ( \) 斜辺 \( ) \) や \( ( \) 対辺 \( ) / ( \) 隣辺 \( ) \) など, 三角形のうちの2辺の比は相似な三角形においても変化しないことがわかる.
このような, 直角三角形を構成する辺のうちの2つの長さの比で定義される量を総称して三角比と呼ぶ.
三角比の中でも代表的なものは正弦, 余弦, 正接と呼ばれるものである[2]他にも, 余接, 正割, 余割と呼ばれるものが存在するが, これらは正接, 余弦, 正弦の逆数で表すことができるのでここではこれ以上取り扱わない..
直角三角形 \( ABC \) のある角に対する正弦, 余弦, 正接は次式で定義される. \[\begin{aligned} \text{正弦} &= \frac{\text{対辺}}{\text{斜辺}} \notag \\ \text{余弦} &= \frac{\text{隣辺}}{\text{斜辺}} \notag \\ \text{正接} &= \frac{\text{対辺}}{\text{隣辺}} \notag \end{aligned}\] これらの正弦, 余弦, 正接は角度 \( \theta \) を指定することで定まる量であるので, 角度 \( \theta \) の関数といえる. そこで, \( \theta \) に対する正弦, 余弦, 正接をそれぞれ \( \sin{\qty( \theta )} \) (サイン シータ), \( \cos{\qty( \theta )} \) (コサイン シータ), \( \tan{\qty( \theta )} \) (タンジェント シータ)という. または括弧を省略して \( \sin{\theta} \) , \( \cos{\theta} \) , \( \tan{\theta} \) などと書くことにする.
これまでにも扱ってきた, 下図に示した直角三角形について, \( \sin{\theta} \) , \( \cos{\theta} \) , \( \tan{\theta} \) は次のように書くことができる. \[\begin{aligned} \sin{\theta } &= \frac{a}{c} \notag \\ \cos{\theta } &= \frac{b}{c} \notag \\ \tan{\theta } &= \frac{a}{b} \notag \end{aligned} \quad .\]
三角比の表
正弦, 余弦, 正接という三角比はそれぞれ角度 \( \theta \) の関数であるとして導入した.
以下には \( \theta \) とそれに対する \( \sin{\theta} \) , \( \cos{\theta} \) , \( \tan{\theta} \) を一覧にしたものを示す. ただし, 小数第5位を四捨五入し, 小数部は4桁になるようにまとめた.
三角比の表
このような表を作るための最も原始的な手法は, 実際に角度 \( \theta \) を内角に持つ直角三角形を描いてそれぞれの辺を測定することである. ただし, 現在ではそのような手法で三角比の表をつくることはしない. 代わりに, テイラー展開という手法を用いることで必要なだけの桁数(精度)で三角比の値を求めることができる.
三角比の使い方
さて, 角 \( C \) が直角で角 \( A \) の大きさが \( \theta \) であるような直角三角形 \( ABC \) において, 対辺 \( BC=a \) , 隣辺 \( AC=b \) , 斜辺 \( AB=c \) と定義することで正弦 \( \sin{\theta} \) , 余弦 \( \cos{\theta} \) および正接 \( \tan{\theta} \) は次式であらわされるのであった. \[\begin{aligned} \sin{\theta} &= \frac{a}{c} \notag \\ \cos{\theta} &= \frac{b}{c} \notag \\ \tan{\theta} &= \frac{a}{b} \notag \end{aligned} \quad .\] 三角比について, このような書き方をすると, 2辺から1つの三角比を求めているという関係にみえるであろう. 実際, 上記のような定義を拡張したものを利用して三角比の表というものを作成することができるのであった.
ただし, 高校物理の計算でよくお世話になるのは三角比を求めることではなく, 1辺と1つの三角比から別の1辺を求めることである.
例えば, 上式の一つは \[a = c \sin{\theta} \notag\] と書くこともできる. この式の右辺に登場する \( \sin{\theta} \) という量は角度 \( \theta \) によってのみ決まる量であり, 三角比の表を見れば \( \sin{\theta} \) の値を知ることができる. したがって, 斜辺 \( c \) と \( \theta \) の正弦( \( \sin{\theta} \) )によって, 対辺 \( a \) を求めることができる式とみなすのである.
このような観点からすれば, 三角比と辺の関係式を次のように覚えておくほうが有用かも知れない. \[\begin{aligned} a &= c \sin{\theta} \notag \\ b &= c \cos{\theta} \notag \\ a &= b \tan{\theta} \notag \end{aligned}\] 上2式は, 斜辺 \( c \) と角度 \( \theta \) を知っておくことで対辺と隣辺をそれぞれ求めることができること, 3式目は隣辺と角度 \( \theta \) を知っておくことで対辺を求めることができることを示している.
特別な角度の三角比
三角比のうち, 幾つかの角度についてはよくよく暗記しておくことが求められる.
\( 30^{\circ} \) , \( 45^{\circ} \) , \( 60^{\circ} \) の三角比
諸君は次に挙げる2つの直角三角形について十分な知識を持っていることであろう.
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辺の比が \( 1:1:\sqrt{2} \) で書けるような, 内角が \( 45^{\circ} \) , \( 45^{\circ} \) , \( 90^{\circ} \) である直角(二等辺)三角形.
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辺の比が \( 1:2:\sqrt{3} \) で書けるような, 内角が \( 30^{\circ} \) , \( 60^{\circ} \) , \( 90^{\circ} \) である直角三角形.
まずは辺の比が \( 1:1:\sqrt{2} \) で書けるような三角形に注目し, \( 45^{\circ} \) の三角比の値を求めよう. このような直角三角形に相似なもののうち, 最も簡単なものは辺の長さが \( 1 \) , \( 1 \) , \( \sqrt{2} \) を持つようなものである.
以下に示す図により, 次のような関係式が即座に得られる.
\[\left\{\begin{aligned} \sin{45^{\circ}} &= \frac{1}{\sqrt{2}} = \frac{\sqrt{2}}{2} \\ \cos{45^{\circ}} &= \frac{1}{\sqrt{2}} = \frac{\sqrt{2}}{2} \notag \\ \tan{45^{\circ}} &= \frac{1}{1} = 1 \notag \end{aligned}\right. \quad .\]
次に, 辺の比が \( 1:2:\sqrt{3} \) で書けるような三角形のうち \( 30^{\circ} \) の角に注目して, \( 30^{\circ} \) の三角比の値を求めよう. このような直角三角形に相似なもののうち, 最も簡単なものは辺の長さが \( 1 \) , \( 2 \) , \( \sqrt{3} \) を持つようなものである.
以下に示す図により, 次のような関係式が即座に得られる.
\[\left\{\begin{aligned} \sin{30^{\circ}} &= \frac{1}{2} \notag \\ \cos{30^{\circ}} &= \frac{\sqrt{3}}{2} \notag \\ \tan{30^{\circ}} &= \frac{1}{\sqrt{3}} = \frac{\sqrt{3}}{3} \notag \end{aligned} \right. \quad .\]
また, 同じ三角形のうち \( 60^{\circ} \) の角に注目すれば \( 60^{\circ} \) の三角比の値を求めることができる. このとき, \( 30^{\circ} \) の角度に注目したときとは対辺と隣辺が入れ換わっていることに注意してほしい. 対辺や隣辺といった用語は直角三角形のうちのどの角度に注目するのかでその指示す角が異なることは忘れてはならない.
以下に示す図により, 次のような関係式が即座に得られる.
\[\left\{\begin{aligned} \sin{60^{\circ}} &= \frac{\sqrt{3}}{2} \notag \\ \cos{60^{\circ}} &= \frac{1}{2} \notag \\ \tan{60^{\circ}} &= \frac{\sqrt{3}}{1} = \sqrt{3} \notag \end{aligned} \right.\]\( 0^{\circ} \) , \( 90^{\circ} \) の三角比
これまでに, 三角比は直角三角形の内角の一つに注目して定義してきたので, \( \theta \) の定義域は暗に \( 0 < \theta < 90^{\circ} \) としていた. ここでは, \( \theta = 0^{\circ}, 90^{\circ} \) のときの三角比をこれまでの議論の素直な拡張で決めておこう.
まず, 直角三角形において斜辺 \( c \) の値を一定に保ちつつ \( \theta \) を \( 0^{\circ} \) に近づけていこう. すると, \( a \) は限りなく \( 0 \) に近づき, \( b \) は限りなく \( 1 \) に近づいていくことになる.
そこで, \( \sin{0^{\circ}} \) , \( \cos{0^{\circ}} \) , \( \tan{0^{\circ}} \) を次のように定める. \[\begin{aligned} \sin{0^{\circ}} &\coloneqq 0 \notag \\ \cos{0^{\circ}} &\coloneqq 1 \notag \\ \tan{0^{\circ}} &\coloneqq 0 \notag \end{aligned} \quad .\] 続いて, 下図の三角形において斜辺 \( c \) の値を一定に保ちつつ \( \theta \) を \( 90^{\circ} \) に近づけていこう. すると, \( a \) は限りなく \( 1 \) に近づき, \( b \) は限りなく \( 0 \) に近づいていくことになる.
そこで, \( \sin{90^{\circ}} \) , \( \cos{90^{\circ}} \) を次のように定める. \[\begin{aligned} \sin{90^{\circ}} &\coloneqq 1 \notag \\ \cos{90^{\circ}} &\coloneqq 0 \quad . \notag \end{aligned}\] \( \tan{90^{\circ}} \) については, \( \tan{\theta}=\frac{a}{b} \) の分母がゼロとなってしまうが, これは数学では御法度の演算であるので, \( \tan{90^{\circ}} \) という量は定義しないことにする.
以上の計算結果から, \( 0^{\circ}=0\,\mathrm{rad} \) , \( 30^{\circ} = \frac{\pi}{6}\,\mathrm{rad} \) , \( 45^{\circ} = \frac{\pi}{4}\,\mathrm{rad} \) , \( 60^{\circ} = \frac{\pi}{3}\,\mathrm{rad} \) , \( 90^{\circ}=\frac{\pi}{2}\,\mathrm{rad} \) ,という角度に対する正弦, 余弦, 正接は次の表で与えられることがわかる.
三角比と三平方の定理
直角三角形 \( ABC \) について成立する三平方の定理 \[a^{2} + b^{2} = c^{2} \notag\] について, \[\begin{aligned} a &= c \sin{\theta} \notag \\ b &= c \cos{\theta} \notag \end{aligned}\] を適用すると, \[\begin{aligned} & \qty( c \sin{\theta} )^{2} + \qty( c \cos{\theta} )^{2} = c^{2} \notag \\ \to \ & \qty( \sin{\theta} )^{2} + \qty( \cos{\theta} )^{2} = 1 \notag \end{aligned}\] が成立することがわかる.
ここで, 三角比の2乗を \[\sin[2]{\theta} \coloneqq \qty( \sin{\theta} )^{2} , \ \cos[2]{\theta} \coloneqq \qty( \cos{\theta} )^{2} \quad . \notag\] といった具合に書くことを約束すると, 三角比について成り立つ式を \[\sin[2]{\theta} + \cos[2]{\theta} = 1 \notag\] と書くことができる.
また, 両辺を \( \cos[2]{\theta} \) で割ると, 正接を用いて次のように書くことも出来る. \[1 + \tan[2]{\theta} = \frac{1}{\cos[2]{\theta}} \notag\] さらに, 直角三角形の図からも明らかなように, \( 0 < \theta < 90^{\circ} \) では次のような関係式が成立する. \[\begin{aligned} \sin{\qty( \frac{\pi}{2} – \theta )} &= \cos{\theta} \notag \\ \cos{\qty( \frac{\pi}{2} – \theta )} &= \sin{\theta} \notag \\ \tan{\qty( \frac{\pi}{2} – \theta )} &= \frac{\sin{\qty( \frac{\pi}{2} – \theta )}}{\cos{\qty( \frac{\pi}{2} – \theta )}} \notag \\ &=\frac{\cos{\theta}}{\sin{\theta}} = \frac{1}{\tan{\theta}} \notag \end{aligned}\]
三角比と三角形の面積
三角形について, 2辺の長さとその間の角の大きさがわかっているとき, その面積がどのように記述されるのかを調べよう.
三角形 \( ABC \) について, \( BC \) , \( CA \) の長さがわかっており, それぞれを \( BC=a \) , \( CA=b \) とする. また, その2辺がなす角 \( \angle BCA \) の大きさが \( \theta \) であるとしよう.
このとき, 点 \( B \) から辺 \( CA \) に垂線を下ろしその交点を \( D \) とすると, 三角形 \( BCD \) が直角三角形を成していることがわかる.
ここで, 角 \( \theta \) の正弦 \( \sin{\theta} \) をもちいると, \[BD = a \sin{\theta} \notag\] であることがわかる. 辺 \( BD \) の長さは辺 \( AC \) を底辺とみなしたときの三角形 \( ABC \) の高さに相当しているので, 三角形 \( ABC \) の面積 \( S \) は \[S = \frac{1}{2} b \cdot a \sin{\theta} \notag\] となる.
したがって, 2辺の長さとその成す角がわかっている三角形の面積 \( S \) は, 2辺の長さを \( a \) , \( b \) , なす角を \( \theta \) とすると, 次式で与えられることがわかる. \[S = \frac{1}{2}ab\sin{\theta} \notag \]
余弦定理
三角形の3辺の長さと1つの角度について成立する余弦定理について紹介する.
余弦定理は本来, 三角形の内角が鈍角か鋭角には依存しないのであるが今持ち合わせている知識では鋭角三角形に話が限られてしまう. 以下の議論は角度 \( \theta \) が鋭角の三角形に対する余弦定理である.
三角形 \( ABC \) の各辺の長さが \( BC=a \) , \( CA=b \) , \( AB=c \) であり, 角 \( \angle BCA \) の大きさが \( \theta \) であるとしよう.
このとき, 点 \( B \) から辺 \( CA \) に垂線を下ろしその交点を \( D \) とすると, 三角形 \( BCD \) が直角三角形を成していることがわかる.
ここで, 直角三角形 \( ABD \) に対して三平方の定理を適用すると, \[\begin{aligned} c^{2} & = \qty( a\sin{\theta} )^{2} + \qty( b – a\cos{\theta} )^{2} \notag \\ & = a^{2} \sin[2]{\theta} + b^{2} – 2ab \cos{\theta} + a^{2}\cos[2]{\theta} \notag \end{aligned}\] ここで, \( \sin[2]{\theta}+\cos[2]{\theta}=1 \) をもちいると最終的に次の関係式が成立していることがわかる. \[c^{2} = a^{2} + b^{2} – 2ab \cos{\theta} \notag\] この関係式を( \( \theta \) が鋭角の三角形に対する)余弦定理という.
三角関数の項で取り扱うが, \( \theta \) が \( 90^{\circ} \) よりも大きい場合には次の公式 \[ \cos{\qty( \pi – \theta )} = – \cos{\theta} \notag \] を用いて計算を行うことになる. この公式をあわせて使うことで上記の余弦定理は鋭角・鈍角に関わらずに成立することになる.
正弦定理
三角形 \( ABC \) とその外接円および対となる角と辺について成立する正弦定理について紹介する. なお, 鈍角を持つ三角形に対する正弦定理についてはまだ上記では取り扱わなかった公式を与えることで証明する.
鋭角三角形に対する正弦定理
角 \( \angle BAC = A \) が \( 90^{\circ} \) 以下の三角形 \( ABC \) について, 辺 \( BC=a \) とする. この三角形の外接円を描き, その中心点を \( O \) , 半径を \( R \) とする. また, 点 \( O \) から辺 \( BC \) に垂線をおろし, その交点を \( D \) とする.
これらの状況を下図にまとめた.
ここで, 角 \( \angle BOC \) の大きさは \( 2A \) であるので, \( \angle DOC = A \) であり, 三角形 \( DOC \) に注目することで, \[\sin{A} = \frac{\frac{a}{2}}{R} \ \iff \ 2R = \frac{a}{\sin{A}} \notag\] を示すことができる.
他の角度についても全く同様の議論が成立するので, \( A \) , \( B \) , \( C \) が鋭角ならば次の正弦定理が成立する. \[2R = \frac{a}{\sin{A}} = \frac{b}{\sin{B}} = \frac{c}{\sin{C}} \label{LOSine1}\]
鈍角三角形に対する正弦定理
次に, 角 \( \angle BAC = A \) が \( 90^{\circ} \) より大きなの三角形 \( ABC \) について同様の議論を行おう. ただし, 角度 \( \theta \) が \( 90^{\circ} \) よりも大きいときにも一般的に成立する公式 \[\sin{\qty( \pi – \theta ) } = \sin{\theta} \label{LOSineF}\] をもちいることにする. この公式は三角関数の項目で再度取り使うこととする.
鈍角 \( A \) を持つ三角形の外接円を描き, 弧 \( BAC \) 上ではない円周上の点 \( D \) を設ける.
\( \angle BDC = \pi – A \) は鋭角であるので, 三角形 \( BCD \) に対して(鋭角三角形について成立する)正弦定理(式\eqref{LOSine1})を適用することにより, \[2R = \frac{a}{\sin{\qty( \pi – A ) }} \notag\] が成立する. ここで, 公式\eqref{LOSineF}を適用すると, \( 90^{\circ} \) よりも大きな角 \( A \) に対して \[2R = \frac{a}{\sin{A}} \notag\] が成立することになる. この式は鋭角三角形について成立する正弦定理(式\eqref{LOSine1})と全く同じ形となっている.
これらの議論は他の角度についても全く同様に成立するので, \( A \) , \( B \) , \( C \) が鋭角か鈍角かに関わらず次の正弦定理が成立することが示された. \[2R = \frac{a}{\sin{A}} = \frac{b}{\sin{B}} = \frac{c}{\sin{C}} \quad . \notag\]