偏微分と全微分

ここでは, 微分法を学んだ人に向けてさらに踏み込んだ微分の概念, 偏微分全微分について紹介する.

高校数学で登場する関数の多くは, 関数 \( f \) が1つの変数 \( x \) を指定することで値が定まる1変数関数 \( f=f(x) \) であることが多かった. しかし, 関数の変数の数は何も1つに限るわけではない.

例えば, ある物理量 \( A \) が時間 \( t \) , 位置 \( x \) を指定することで初めて決まるような状況は容易に考えられる. この場合, \( A \) は \( x \) と \( t \) の2つを変数とした2変数関数であり, \( A=A(t, x) \) などと書きあらわす.

このような2変数関数の場合, ”微分する”という言葉の意味は慎重にならなくてはならない. 微分とはある関数の変数を微小変化させた時に関数の値がどれだけ変化するかの割合をあらわすのであったので, 微小に変化させる量を指定する必要があるのである.

以下では複数の独立した変数によって指定される関数について偏微分及び全微分を導入する.

極限・微分・積分の時がそうであったように, 数学的な厳密さはある程度妥協しつつ直感的・形式的な説明も交えながら議論を進めていくことにする[1] … Continue reading.


偏微分

2変数関数の偏微分

2つの独立変数 \( x \) , \( y \) を持つ関数 \( z=f(x, y) \) について, 変数 \( y \) を変化させることなく固定して変数 \( x \) だけについて \( f \) を微分することを, \( f \) の \( x \) に関する偏微分という. そして, 関数 \( z=f(x, y) \) 上の点 \( \qty( a, b ) \) の周囲が十分になめらかであり, \[ \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h, b) – f(a, b)}{h} \] が極限値を持つとき, 関数 \( f(x, y) \) は点 \( \qty( a, b ) \) で \( x \) について偏微分可能であるといい, この極限値を偏微分係数という. \( f \) の \( \qty( a, b ) \) における \( x \) に関する偏微分係数を次のような記号で定義する. \[ \pdv{f(a, b)}{x} \coloneqq \lim_{h \to 0} \frac{f(a+h, b) – f(a, b)}{h} \quad . \] 同様に, 関数 \( f \) 上の点 \( \qty( a, b ) \) における \( y \) に関する偏微分係数も次式で定義する. \[ \pdv{f(a, b)}{y} \coloneqq \lim_{h \to 0} \frac{f(a, b+h) – f(a, b)}{h} \quad . \] 本来は”なめらか”という言葉の意味について, 関数の連続性偏微分可能性が数学的にどう表現されるのかについても触れなければならない.

しかし, ここではそれらの議論を割愛させていただき, なめらかという言葉についてはある程度直感に頼ることにする. すなわち, 見た目上とがっておらず, 途切れていないような関数だと思ってくれれば良いことにする[2]数学的な正確さが気にになる人にヒントを与えておくと, 関数の連続については \( \epsilon – \delta \) 論法という, … Continue reading.

数学的にはなめらかでない関数をいくらでも例示することができるが, 物理では幸いなことになめらかな関数について議論することがもっぱらであり, 数学的に大変都合の良い関数のみが議論の対象となる.

さて, 偏微分についても微分法で議論したときと同様, 点 \( \qty( a, b ) \) における偏微分係数の \( a \) , \( b \) をそれぞれ形式的に \( x \) , \( y \) に置き換えたものを関数 \( f \) の 偏導関数 という.

\( x \) に関する偏導関数 \( \displaystyle{\pdv{f(x, y)}{ x}} \) 及び \( y \) に関する偏導関数 \( \displaystyle{\pdv{f(x, y)}{ y}} \) をそれぞれ次式で定義する. \[ \begin{aligned} \pdv{z}{ x} &= \pdv{f(x, y)}{ x} \coloneqq \lim_{\Delta x \to 0} \frac{f(x+\Delta x, y) – f(x, y)}{\Delta x} \\ \pdv{z}{ y} &= \pdv{f(x, y)}{ y} \coloneqq \lim_{\Delta y \to 0} \frac{f(x, y+\Delta y) – f(x, y)}{\Delta y} \end{aligned} \] 偏導関数自体を偏微分と呼ぶことも多い.

偏導関数の書き方

偏導関数 \( \displaystyle{\pdv{f(x, y)}{ x}} \) の書き方にも幾つかの流儀があり, 以下の様なものがある \[ \pdv{f(x, y)}{ x} \ , \ \pdv{f}{ x} \ , \ f_{x} \] この他にも, 偏微分操作においてどの文字を定数とみなしたかを明示するため, 関数 \( f(x, y) \) について \( y \) を固定した \( x \) に関する偏導関数を \[ \qty( \pdv{f}{ x} )_{y} \] などと書くこともある.

同様に, 複数の独立変数を持つ関数 \( f(x, y, z) \) について \( y \) , \( z \) を固定した \( x \) に関する偏導関数を \[ \qty( \pdv{f}{ x} )_{y, z} \] と書く.

また, 関数 \( f(x, y) \) 上の点 \( \qty( a, b ) \) における偏微分係数を \[ \begin{aligned} \pdv{f(a, b)}{x} = \left. \pdv{f(x, y)}{ x} \right|_{x=a, y=b} \end{aligned} \] のように, 偏導関数に \( \left. {} \right| \) という棒を書き, 下付きの添字のようにどの点であるかや条件式を明示することもある.

偏微分の性質

\( k \) を実数とし, 関数 \( f(x, y) \) , \( g(x, y) \) がそれぞれ偏導関数をもつとき, 偏微分について以下の性質が成り立つ.

  1. \( \displaystyle{\qty( k f_{x} ) = k f_{x} } \)

  2. \( \displaystyle{\qty( f \pm g )_{x} = f_{x} \pm g_{x} } \)

  3. \( \displaystyle{\qty( f \cdot g )_{x} = f_{x} \cdot g + f \cdot g_{x} } \)

  4. \( \displaystyle{\qty( \frac{f}{g} )_{x} = \frac{f_{x} \cdot g – f \cdot g_{x} }{g^2} } \)

偏微分の合成関数

関数 \( z=f(u) \) において \( u \) が2変数関数 \( u=u(x, y) \) であるような合成関数 \( z=f(u(x, y)) \) について考える. 関数 \( z \) が \( u \) について微分可能であり, \( u \) が \( x \) もしくは \( y \) について偏微分可能な場合, 次のような合成関数の偏微分が成立することを証明することができる. \[ \begin{aligned} \pdv{f}{ x} &= \dv{ f}{u} \pdv{u}{ x} \\ \pdv{f}{ y} &= \dv{ f}{u} \pdv{u}{ y} \end{aligned} \] ここで \( f \) は \( u \) のみの関数であるから, \( f \) を \( u \) で微分することは通常の意味での微分であり微分を表す記号には \( d \) を用いている.

高階の偏微分

関数 \( f=f(x, y) \) の偏導関数 \( f_{x} \) や \( f_{y} \) などもなめらかな関数であり偏微分可能な場合には高階の偏導関数を定義することができ, 次のように書き表す. \[ \begin{aligned} f_{xx} & \coloneqq \pdv{f_{x} }{ x} = \pdv{ x} \qty( \pdv{f}{ x} ) = \pdv[2]{f}{x} \\ f_{xy} & \coloneqq \pdv{f_{x} }{ y} = \pdv{ y} \qty( \pdv{f}{ x} ) = \pdv{f}{y}{x} \\ f_{yx} & \coloneqq \pdv{f_{y} }{ x} = \pdv{ x} \qty( \pdv{f}{ y} ) = \pdv{f}{x}{y} \\ f_{yy} & \coloneqq \pdv{f_{y} }{ y} = \pdv{ y} \qty( \pdv{f}{ y} ) = \pdv[2]{f}{y} \end{aligned} \]

シュワルツの定理

関数 \( f \) の高階の偏導関数について, \( \displaystyle{f_{xy} = \pdv{f}{y}{x} = \pdv{y} \qty( \pdv{f}{ x} ) } \) と \( \displaystyle{f_{yx} = \pdv{f}{x}{y} = \pdv{ x} \qty( \pdv{f}{ y} ) } \) の両方が存在して, ともに連続であるならば \[ f_{xy} = f_{yx} \quad \qty( \pdv{f}{y}{x} = \pdv{f}{x}{y} ) \] が成立する. このことをシュワルツの定理という. したがって, シュワルツの定理の条件をみたすような関数 \( f \) については偏微分の順序をいれかえてもよいことになる.

幸い, 物理で登場する関数はシュワルツの定理を満足するような, 数学的に都合のよい関数について議論することが多いのでよほど厳密さを必要とされない限り偏微分の順序を入れ替えることができるという認識で構わない[3]当然, これを常識にしてしまってはいけない. 必要とあらば関数の微分可能性から見つめなおす必要がある..

高階の偏導関数についてもシュワルツの定理を素朴に拡張することができ, 関数 \( f(x, y) \) の高階の偏導関数 \( f_{xxy} \) , \( f_{xyx} \) , \( f_{yxx} \) についても \[ f_{xxy} = f_{xyx} = f_{yxx} \] などが成立する.

例題1

関数 \( z=x^3y^2 \) について, \[ \begin{aligned} \pdv{z}{ x} &= 3x^2y^2 \\ \pdv{z}{ y} &= 2x^3y \quad . \end{aligned} \]

例題2

関数 \( \displaystyle{z = \frac{1}{\sqrt{x^2 + y^2}} } \) について, 途中合成関数の微分の考え方を用いて, \[ \begin{aligned} \pdv{z}{ x} &= \pdv{ x} \qty( x^2 + y^2 )^{ – \frac{1}{2}} \\ &= \frac{-1}{2} \qty( x^2 + y^2 )^{ – \frac{3}{2}} \cdot \pdv{ x} \qty( x^2+y^2 )\\ &= -x \qty( x^2 + y^2 )^{ – \frac{3}{2}} \quad . \end{aligned} \]

全微分

2変数関数の全微分

2変数関数 \( z=f(x, y) \) について, \( f \) 上の点 \( A(x, y) \) から \( x \) を微小量 \( \dd{x} \) だけ, \( y \) を微小量 \( \dd{x} \) だけ変化させた \( f \) 上の点 \( D(x+\dd{x},y+\dd{y}) \) という2点の値の差 \[ f(x+\dd{x}, y+\dd{y}) – f(x, y) \] を関数 \( f(x, y) \) の全微分または完全微分といい, 記号 \( \dd{f} = \dd{z} \) であらわす.

やや天下り的であるが, 関数 \( f(x, y) \) の全微分 \( \dd{f} \) は偏導関数を用いて次のようにあらわすことができる. \[ \begin{aligned} \dd{f} \coloneqq & f(x+\dd{x}, y+\dd{y}) – f(x, y) \\ = & \pdv{f}{ x} \dd{x} + \pdv{f}{ y} \dd{y} \quad . \end{aligned} \] この意味については数学的な式変形を利用して説明するよりも下図に示すような図を用いて直感的に理解する方が手っ取り早い.

下図は \( z=f(x, y) \) がつくる曲面の中でも4つの点 \( A(x, y) \) , \( B(x+\dd{x}, y) \) , \( C(x, y+\dd{y}) \) , \( D(x+\dd{x},y+\dd{y}) \) に囲まれた微小な領域 \( ABCD \) について注目している.

本来 \( ABCD \) は曲面であり, 各頂点は同一平面上に存在するとは限らない. しかし, \( \dd{x} \) , \( \dd{y} \) が限りなく小さな微小量であることから \( ABCD \) が同一平面上にあるとみなせる状況を考えている.

この条件がどう生きてくるのかは以下の議論で明らかになっていく.

まずは関数 \( z=f(x, y) \) の値の変化を \( A \to B \to D \) という経路にそって変化させることを考える. 点 \( A \) から点 \( B \) への移動は, \( (x, y) \) から \( y \) を固定させて \( (x+\dd{x}, y) \) へ変化させるのであり, \( x \) 方向の傾き(勾配)は \( \displaystyle{\pdv{f}{ x}} \) であるので, \[ f(x+\dd{x}, y) = f(x, y) + \pdv{f(x, y)}{ x} \dd{x}\] で与えられる.

同様に, 点 \( B(x+\dd{x}, y) \) から \( x \) を固定させて点 \( D(x+\dd{x},y+\dd{y}) \) へ変化させるので, \[ \begin{aligned} f(x+\dd{x}, y+\dd{y}) &= f(x+\dd{x}, y) + \pdv{f(x+\dd{x}, y)}{ y} \dd{y}\\ &= f(x+\dd{x}, y) + \pdv{f(x, y)}{ y} \dd{y}\end{aligned} \] と書くことができる. 途中, \( \dd{x} \) , \( \dd{y} \) が微小量であることを利用して, \[ \pdv{f(x+\dd{x}, y)}{ y} = \pdv{f(x, y)}{ y} \] としたが, これは \( ABCD \) が同一平面上にあり, \( BD \) と \( AC \) が平行であることを利用している[4]数学的な厳密さがきになる人はこのあたりの議論の厳密さがますと思ってくれればよい..

ここまでの関係を用いて全微分を求めると次の結果を得る. \[ \begin{aligned} \dd{f} &= f(x+\dd{x}, y+\dd{y}) – f(x, y) \\ &= f(x+\dd{x}, y) + \pdv{f(x, y)}{ y} \dd{y} – f(x, y) \\ &= f(x, y) + \pdv{f(x, y)}{ x} \dd{x}+ \pdv{f(x, y)}{ y} \dd{y} – f(x, y) \\ \therefore \dd{f}&= \pdv{f(x, y)}{ x} \dd{x}+ \pdv{f(x, y)}{ y} \dd{y}\end{aligned} \] 以上の考え方は関数 \( z=f(x, y) \) の値の変化を \( A \to C \to D \) という経路について考えた場合にも, 途中で \( \displaystyle{\pdv{f(x, y+\dd{y})}{ x} = \pdv{f(x, y)}{ x} } \) という関係(= \( CD \) と \( AB \) が平行)を用いることで全微分 \[ \dd{f} = \pdv{f(x, y)}{ x} \dd{x}+ \pdv{f(x, y)}{ y} \dd{y}\] を求めることができる.

多変数関数の全微分

関数 \( f \) が \( n \) 個の独立した変数 \( x_{1}, x_{2}, \cdots , x_{n} \) によって決定されるような関数 \( f=f(x_{1}, x_{2}, \cdots , x_{n}) \) である場合の全微分は2変数関数の素朴な拡張で定義され, \[ \begin{aligned} \dd{f} \coloneqq & \pdv{f}{ x_{1}}\dd{x_{1}}+ \pdv{f}{ x_{2}}\dd{x_{2}}+ \cdots + \pdv{f}{ x_{n}}\dd{x_{n}}\\ =& \sum_{i=1}^{n} \pdv{f}{ x_{i}}\dd{x_{i}}\end{aligned} \] と書くことができる.

多変数関数の合成関数の微分

まずは2変数関数の合成関数の微分を考えることにする. 関数 \( z=f(x, y) \) が全微分可能であり, \( x=x(t) \) , \( y=y(t) \) が \( t \) について微分可能であるとき, 合成関数 \( z=f(x(t), y(t)) \) は \( t \) について微分可能であり, 次の性質が成り立つ. \[ \dv{f}{t} = \pdv{f}{ x} \dv{x}{t} + \pdv{f}{ y} \dv{y}{t} \] このきちんとした証明は省略するが形式的には全微分 \[ \dd{f} = \pdv{f}{ x} \dd{x} + \pdv{f}{ y} \dd{y} \] の両辺を \( \dd{t} \) で割った形 \[ \dv{f}{\textcolor{red}{t} } = \pdv{f}{ x} \dv{x}{\textcolor{red}{t} } + \pdv{f}{ y} \dv{y}{\textcolor{red}{t} } \] になっている.

これは関数 \( f \) が \( n \) 個の独立した多変数 \( x_{1}, x_{2}, \cdots , x_{n} \) によって決定されるような関数 \( f=f(x_{1}, x_{2}, \cdots , x_{n}) \) の場合も, \( x_{1}=x_{1}(t) \) , \( x_{2}=x_{2}(t) \) , \( \cdots \) , \( x_{n}=x_{n}(t) \) であってそれぞれが微分可能な場合, 合成関数の微分 \[ \begin{aligned} \dv{f}{t} \coloneqq & \pdv{f}{ x_{1}}\, \dv{x_{1}}{t} + \pdv{f}{ x_{2}}\dv{x_{2}}{t} + \cdots + \pdv{f}{ x_{n}} \dv{x_{n}}{t} \\ =& \sum_{i=1}^{n} \pdv{f}{ x_{i}} \dv{x_{i} }{t} \end{aligned} \] が成立する. これはやはり多変数関数の全微分を \( \dd{t} \) で形式的にわった形になっている.

特に, 関数 \( z=f(x, y, z, t) \) について \( x=x(t) \) , \( y=y(t) \) , \( z=z(t) \) の場合の微分は \[ \begin{aligned} \dv{f}{t} &= \pdv{f}{ x} \dv{x}{t} + \pdv{f}{ y} \dv{y}{t} + \pdv{f}{ z} \dv{z}{t} + \pdv{f}{ t} \underbrace{\dv{t}{t}}_{=1} \\ &= \pdv{f}{ t} + \pdv{f}{ x} \dv{x}{t} + \pdv{f}{ y} \dv{y}{t} + \pdv{f}{ z} \dv{z}{t} \end{aligned} \] となる.

また, \( z=f(x, y) \) において \( x=x(u, v) \) , \( y=y(u, v) \) であるとすると, \( z=f(x(u, v), y(u, v)) \) であり, それぞれが微分可能であるとすると, \[ \begin{aligned} \pdv{f}{\textcolor{red}{ u} } &= \pdv{f}{ x} \pdv{x}{\textcolor{red}{ u} } + \pdv{f}{ x} \pdv{x}{\textcolor{red}{ u} } \\ \pdv{f}{\textcolor{red}{ v} } &= \pdv{f}{ x} \pdv{x}{\textcolor{red}{ v} } + \pdv{f}{ x} \pdv{x}{\textcolor{red}{ v} } \end{aligned} \] が成立する.

物理と偏微分

物理量は一般的に更に別の物理量に依存しているものであり, 偏微分というのは物理のあらゆる場所で登場することになる.

以下には, 物理で使われる幾つかの例を示すことにする.

波動方程式

正弦波の式は一般的に, 位置 \( x \) と時間 \( t \) の関数として \[ f(x, t) = A \sin{\qty( \omega t – k x )} \] で与えられる. ここで \( A \) は振幅, \( \omega \) は角振動数, \( k \) は波数である. 角振動数 \( \omega \) は振動数 \( f \) および周期 \( T \) と \[ \omega = 2\pi f = \frac{2\pi}{T} \] の関係にあり, 波数 \( k \) は波長 \( \lambda \) と \[ k = \frac{2\pi}{\lambda} \] の関係にある.

このような波の式について, \[ \begin{aligned} \pdv[2]{f}{x} &= \pdv{ x} \qty( \pdv{f}{ x} ) \\ &= \pdv{ x} \pdv{ x} \qty( A \sin{\qty( \omega t – kx ) } ) \\ &=\pdv{ x} \qty[ A \qty( -k ) \cos{\qty( \omega t – kx ) } ] \\ &= A \qty( -k )^{2} \cdot \qty{ – \sin{\qty( \omega t – kx )} } \\ &= – k^2 A\sin{\qty( \omega t – kx ) } \\ &= – k^2 f \end{aligned} \] \[ \begin{aligned} \pdv[2]{f}{t} &= \pdv{ t} \qty( \pdv{f}{ t} ) \\ &= \pdv{ t} \pdv{ t} \qty( A \sin{\qty( \omega t – kx ) } ) \\ &=\pdv{ t} \qty[ A \omega \cos{\qty( \omega t – kx ) } ] \\ &= A \omega^{2} \cdot \qty{ – \sin{\qty( \omega t – kx )} } \\ &= – \omega^2 f \end{aligned} \] であり, \[ \begin{aligned} & \frac{1}{\omega^2} \pdv[2]{f}{t} – \frac{1}{k^2} \pdv[2]{f}{x} = – f – \qty( -f ) = 0 \\ \to \ & \frac{k^2}{\omega^2} \pdv[2]{f}{t} – \pdv[2]{f}{x} = 0 \end{aligned} \] が成立する. ここで, 波の速度を \( v \) とすると, \( v=f \lambda \) より \[ \begin{aligned} \frac{k^2}{\omega^2} = \qty( \frac{\frac{2\pi}{\lambda}}{2 \pi f} )^2 = \qty( \frac{1}{\lambda f} )^2 = \frac{1}{v^2} \end{aligned} \] が成立していることから, 正弦波について \[ \begin{aligned} & \frac{k^2}{\omega^2} \pdv[2]{f}{t} – \pdv{f}{x} = 0 \\ \to \ & \frac{1}{v^2} \pdv[2]{f}{t} – \pdv[2]{f}{x} = 0 \\ \end{aligned} \] が成立していることがわかる.

最終的に得られた式 \[ \frac{1}{v^2} \pdv[2]{f}{t} – \pdv[2]{f}{x} = 0 \] は波動方程式と言われ, 正弦波にかぎらず, 波動現象を記述するにあたって基本的な役割を果たす偏微分方程式である.

マクスウェルの関係式

大学初年度程度の熱力学で登場するマクスウェルの関係式の一端を紹介する. 熱力学に登場する諸物理量は互いに独立ではなく, 偏微分の関係によって結びつけることができる.

以下では各記号がどんな名前がついているかを補足で紹介しておくが, それらの物理的な意味には踏み込まず, 純粋に偏微分の関係を追い求めることにする.

以下, 内部エネルギーを \( U \) , エントロピーを \( S \) , 体積を \( V \) , 粒子数を \( N \) , 温度を \( T \) , 圧力を \( P \) , 化学ポテンシャルを \( \mu \) とする.

内部エネルギー \( U \) は \( U=U(S, V, N) \) である. また, エントロピー \( S \) , 圧力 \( P \) , 化学ポテンシャル \( \mu \) の定義は次式で与えらえる. \[ \left\{\begin{aligned} T & \coloneqq \qty( \pdv{U}{ S} )_{V, N} \\ P & – \coloneqq – \qty( \pdv{U}{ V} )_{N, S} \\ \mu & \coloneqq \qty( \pdv{U}{ N} )_{S, V} \end{aligned} \right. \] したがって, 内部エネルギーの微小変化-全微分 – \( \dd{U} \) は \[ \begin{aligned} \dd{U} &= \qty( \pdv{U}{ S} )_{V, N}\dd{S}+ \qty( \pdv{U}{ V} )_{N, S}\dd{V}+ \qty( \pdv{U}{ N} )_{S, V}\dd{N}\\ &= T\dd{S} – P \dd{V}+ \mu \dd{N}\\ \end{aligned} \] で与えられる.

また, 内部エネルギーの2次の偏微分について \[ \begin{aligned} \pdv{ V} \qty( \pdv{U}{ S} ) &= \pdv{ S} \qty( \pdv{U}{ V} ) = \pdv{U}{S}{V} \\ \pdv{ N} \qty( \pdv{U}{ V} ) &= \pdv{ V} \qty( \pdv{U}{ N} ) = \pdv{U}{V}{N} \\ \pdv{ S} \qty( \pdv{U}{ N} ) &= \pdv{ N} \qty( \pdv{U}{ S} ) = \pdv{U}{N}{S} \end{aligned} \] が成立し, \[ \begin{aligned} \pdv{U}{S}{V} & : \qty( \pdv{T }{ V} ) = \qty( \pdv{(-P)}{ S} ) \\ \pdv{U}{V}{N} & : \qty( \pdv{(-P)}{ N} ) = \qty( \pdv{\mu }{ V} ) \\ \pdv{U}{N}{S} & : \qty( \pdv{\mu }{ S} ) = \qty( \pdv{T}{ N} ) \end{aligned} \] \[ \therefore \ \left\{\begin{aligned} \qty( \pdv{T }{ V} )_{N, S} &= – \qty( \pdv{P}{ S} )_{V, N} \\ \qty( \pdv{P}{ N} )_{S, V} &= – \qty( \pdv{\mu }{ V} )_{N, S} \\ \qty( \pdv{\mu }{ S} )_{V, N} &= \qty( \pdv{T}{ N} )_{S, V} \end{aligned} \right. \] 熱力学にはこのような偏微分関係が相当数存在し, まとめてマクスウェルの関係式と言われる.

脚注

脚注
1 幸いなことに物理に登場する関数の多くは数学的に大変都合の良い性質を持っていることが多いことからこのような議論の仕方でも大きな問題は生じず, 問題が生じる場合都度に数学的に厳密な議論に立ち戻れば良い.
2 数学的な正確さが気にになる人にヒントを与えておくと, 関数の連続については \( \epsilon – \delta \) 論法という, 数学的に極限を扱う手法を勉強していただくことになる.
3 当然, これを常識にしてしまってはいけない. 必要とあらば関数の微分可能性から見つめなおす必要がある.
4 数学的な厳密さがきになる人はこのあたりの議論の厳密さがますと思ってくれればよい.