高校物理で登場する微分方程式

ある物理量とその微分量との間に成り立つ物理法則を解き明かすための数学に微分方程式と呼ばれるものがある. 微分方程式という名前で”ムズカシソウダナ”と思われてしまうのだが, 高校物理で登場する微分方程式は指数関数と三角関数までわかっていれば十分対応できるものしか登場しないので安心してほしい.

まずは微分と積分を簡単に復習し, 高校物理でよく登場する微分方程式について議論する. 高校物理に登場する微分方程式に話題を絞るので用語の使い方が大学程度の自然科学で使われるより一般的な微分方程式のそれと異なる場合があるが, 容赦していただきたい.

なお, 本格的な微分方程式については別途まとめページを設けているので, 適宜参照していただきたい.
(微分方程式)


微分と積分の復習

関数 \( y=F(x) \) を \( x \) について微分した関数を \( f(x) \) とすると, \[ f(x) = \dv{y}{x} = \dv{F}{x} \] と書くのであった. このとき \( F(x) \) は \( f(x) \) の原始関数という.

関数 \( f(x) \) とその原始関数 \( F(x) \) との積分関係は積分定数を \( C \) として, \[ \int f(x) \dd{x}= F(x) + C \] と書くのであった.

上記の二つの関係より微分と積分が互いに逆演算であることはすでに学んだ. 微分方程式では積分計算を行うので, 代表的な積分公式を今一度まとめておく. なお, 積分定数は省略している. \[ \begin{aligned} & \int x^{n} \dd{x}= \frac{1}{n+1} x^{n+1} \\ & \int e^{ax} \dd{x}= \frac{1}{a} e^{ax} \\ & \int a^{x} \dd{x}= \frac{a^{x}}{\log{a}} \quad ( a > 0 ) \\ & \int \frac{1}{x} \dd{x}=\log{\abs{x }} \quad ( x \neq 0 ) \\ & \int \frac{f^{\prime }(x)}{f(x)} \dd{x}= \log{\abs{f(x) }} \quad ( f(x) \neq 0 ) \\ & \int \sin{ax} \dd{x}= – \frac{1}{a} \cos{ax} \\ & \int \cos{ax} \dd{x}= \frac{1}{a} \sin{ax} \end{aligned} \]

微分方程式

微分方程式の中でも単純なものについて議論する. 最初の議論はただの積分だと思われてしまうが, 積分は計算テクニックの一つであると割り切りながら目を通して, 微分方程式がどういうことを目指しているのかをつかんでほしい.

関数 \( y \) について, 「関数 \( y \) の形はわからないが, その1階の微分量 \( \displaystyle{\dv{y}{x}} \) が \( x \) の関数 \( f(x) \) である」ことがわかっているとしよう. つまり, \[ \dv{y}{x} = f(x) \] であるとき, 関数 \( y \) を知る方法は \( f(x) \) を \( x \) で積分することであり \[ \begin{aligned} y &= \int \dv{y}{x} \dd{x}= \int f(x) \dd{x}\\ &= F(x) + C \end{aligned} \] ここで \( F(x) \) は \( f(x) \) の原始関数で, \( C \) は任意の定数(積分定数)である. 1階の微分量を不定積分すると1つの任意定数を用いたが得られるわけだが, このように任意定数を含んだ解を一般解という.

より一般に, \( n \) 階の微分量が与えられている場合には \( n \) 個の任意定数を含んだ一般解を求めることが微分方程式の目的である.

微分方程式の一般解には任意定数が含まれているが, この任意定数を決定するために一般解に具体値を当てはめることで決定する. このような関係式は初期条件境界条件と呼ばれ, 問題ごとに異なる条件が与えられる.

1階微分方程式

\( x \) の関数 \( y \) とその1階微分 \( \displaystyle{\dv{y}{x}} \) が定数 \( \alpha \) , \( b \) を用いて \[ \dv{y}{x} + a y + b = 0 \] という関係にある1階微分方程式の一般解を求めてみよう[1]より一般の1階(線形)微分方程式は \[ \dv{y}{x} + P(x)y=Q(x) \] である..

このような方程式を満たす \( y \) を探すときに注意することは「 \( y \) が \( x \) のどんな関数かがわかっていないので, \( y \) を含んだ式を \( x \) で積分しようとする限りは答えにたどり着かない」ということである. 一方で「 \( y \) を含んだ式を \( y \) で積分する( \( x \) を含んだ式を \( x \) で積分する)」のはこれまで何度も行ったきたことを思い出してほしい. このことを念頭に式変形を行なっていく. \[ \begin{aligned} & \dv{y}{x} = – a \qty( y + \frac{b}{a} ) \\ & \frac{1}{\qty( y + \frac{b}{a} )} \dd{y}= – a \dd{x}\end{aligned} \] ここまで式変形をすれば左辺は \( y \) だけの式を \( y \) で積分しているし, 右辺は定数を \( x \) で積分しているので両辺共に容易に積分できる. 積分を実行すると, \[ \log{\abs{y + \frac{b}{a} } } = – a x + C_1 \] ここで \( C_1 \) は積分定数である. この式を \( y \) について整理していくと, \[ \begin{aligned} & \abs{y + \frac{b}{a} } = e^{- a x + C_1 } \\ & y + \frac{b}{a} = \pm e^{C_1 } e^{- a x} \end{aligned} \] ここで新しい任意定数 \( C \) を \( C = \pm e^{C_1} \) とすれば, \( y \) の一般解は \[ y = C e^{- a x} – \frac{b}{a} \] となる. あとは任意定数 \( C \) を初期条件や境界条件で決めればよい.

上記の計算では, 各項がある変数だけで構成されたもの分離(変数分離)して計算を容易にするテクニックを用いているので変数分離型(微分方程式)とも呼ばれる.

高校物理では速度に比例した物体の運動方程式や, コンデンサの充電, 原子分子の半減期などで登場する微分方程式である.

高校物理に登場する1階微分方程式

1階微分方程式 \[ \dv{y}{x} + a y + b = 0 \] の一般解は, \[ y = C e^{- a x} – \frac{b}{a} \] で与えられる. 導出過程では変数分離を行う.

2階微分方程式

\( x \) の関数 \( y \) とその2階微分量 \( \displaystyle{\dv[2]{y}{x}} \) との間に \[ \dv[2]{y}{x} + a^2 y = 0 \quad \Leftrightarrow \quad \dv[2]{y}{x} = – a^2 y \] が成立する場合について考えよう. これは一般の2階微分方程式の中でも特殊な場合であるが, 高校物理ではこの場合について考えれば十分である[2]より一般の2階(線形)線形微分方程式は \[ \dv[2]{y}{x} + P(x)\dv{y}{x} + Q(x)y = R(x) \] である..

一般解を求めるときには「この微分方程式は2階の微分量があるので一般解には任意定数は2個必要だろう」ということ, 「 \( \sin{a x} \) と \( \cos{a x} \) は上記の微分方程式を満たしている」ことを組み合わせて考えると, \[ y = C_1 \sin{a x } + C_2 \cos{a x} \] が一般解であることがわかる. または, 三角関数の合成をつかい, \[ \begin{aligned} & y = C_1 \sin{a x } + C_2 \cos{a x} \\ & \to \ \left\{\begin{array}{l} y = \sqrt{C_1^2 + C_2^2 } \sin{\qty( a x + \alpha ) } \\ \sin{\alpha} = \frac{C_2}{\sqrt{C_1^2 + C_2^2 }} \ , \ \cos{\alpha} = \frac{C_1}{\sqrt{C_1^2 + C_2^2 }} \end{array} \right. \end{aligned} \] と変形して, あたらしい積分定数を \( \displaystyle{C = \sqrt{C_1^2 + C_2^2}} \) \[ y = C \sin{\qty( ax + \alpha )} \] としても同じことである. いずれにせよ一般解に加えて初期条件もしくは境界条件から未知数2つを決定できれば具体的な解を求めることができる.

この解は三角関数で書かれているので振動することがわかる. 高校物理では単振動や交流回路で登場し, 一般解を知っていると受験においても重宝するので是非ともマスターしてもらいたい.

高校物理に登場する2階微分方程式

2階微分方程式 \[ \dv[2]{y}{x} + a^2 y = 0 \] の一般解は任意定数を \( C_1 \) , \( C_2 \) として, \[ y = C_1 \sin{a x } + C_2 \cos{a x} \] または任意定数を \( C \) , \( \alpha \) として, \[ y = C \sin{\qty( ax + \alpha )} \] で与えられる.

脚注

脚注
1 より一般の1階(線形)微分方程式は \[ \dv{y}{x} + P(x)y=Q(x) \] である.
2 より一般の2階(線形)線形微分方程式は \[ \dv[2]{y}{x} + P(x)\dv{y}{x} + Q(x)y = R(x) \] である.