原関数を微分したものや積分したもののラプラス変換についてはラプラス変換の微分法則, 積分法則で触れた.
今度は像関数の微分や積分がどのように表されるのかを求めておこう.
以下の議論では, 複素数である変数 \( s \) について微分や積分を行う. なお, 本来ならば, 複素数の微分や積分がどのような意味を持っているのかやその詳細な計算方法に触れるべきであるのは重々承知している. しかし, 複素関数の扱いについて触れると話が非常に込み入り, このサイトで想定している読者の対象からそれることになりかねないので, ここでは形式的な式変形に終止することをお許し頂きたい.
像関数の微分法則
関数 \( f(t) \) が区間 \( ( 0, \infty) \) で定義され, 区分的に連続な関数であるとしよう. また, 指数 \( \alpha \) 位の関数であるとする. このとき, \( \mathrm{Re}\qty[ s ] > \alpha \) を満たすような \( s \) の領域において次式が成立する. \[\mathcal{L}\left\{t f(t) \right\} = – \dv{s} F(s) \label{Fsdif}\] この式を, 像関数の微分法則という.
以下では像関数の微分法則(式\eqref{Fsdif})の証明を行おう. まず, ラプラス変換の定義より, 像関数 \( F(s) \) を次式で定義する. \[\mathcal{L}\left\{f(t)\right\} = F(s) = \int_{0}^{\infty} e^{-st} f(t) \dd{t} \notag\] この両辺を \( s \) で形式的に微分すると, \[\begin{aligned} \dv{s} F(s) & = \dv{s} \qty[ \int_{0}^{\infty} e^{-st} f(t) \dd{t} ] \notag \\ & = \int_{0}^{\infty} \dv{s} \qty[ e^{-st} f(t) ] \dd{t} \notag \\ & = – \int_{0}^{\infty} e^{-st} \left\{t f(t) \right\} \dd{t} \notag \\ &= – \mathcal{L}\left\{t f(t) \right\} \end{aligned}\] となり, 式\eqref{Fsdif}を示すことができた[1]上記の計算の途中, \( s \) の微分と \( t \) の積分の順序を入れ換えた. この操作が正当化されるためには, … Continue reading.
上記の結論より, 関数 \( f(t) \) に \( t \) を乗じてラプラス変換を実行することは, 像関数を微分して符号を反転することに対応していることがわかる
より一般の場合, 式\eqref{Fsdif}を繰り返し適用することで, より高次の場合について次の関係式が得られる. \[\begin{aligned} \mathcal{L} \left\{t^{n} f(t) \right\} &= \mathcal{L} \left\{t \cdot t^{n-1} f(t) \right\} \notag \\ &= \qty( -1 ) \cdot \dv{s}\mathcal{L} \left\{t^{n-1} f(t) \right\} \notag \\ &= \qty( -1 ) \cdot \dv{s} \qty[ \mathcal{L} \left\{t \cdot t^{n-2} f(t) \right\} ] \notag \\ &= \qty( -1 )^{2} \cdot \dv[2]{}{s}\mathcal{L} \left\{t^{n-2} f(t) \right\} \notag \\ &= \cdots \notag \\ &= \qty( -1 )^{n} \dv[n]{}{s} \mathcal{L}\left\{f(t) \right\} \notag \end{aligned}\] \[\therefore \quad \mathcal{L} \left\{t^{n} f(t) \right\} = \qty( -1 )^{n} \dv[n]{}{s} \mathcal{L}\left\{f(t) \right\} \notag\]
像関数の積分法則
像関数の積分法則は, 次式で与えられる. \[\mathcal{L}\left\{\frac{f(t)}{t}\right\} = \int_{s}^{\infty} F(\tau) \dd{\tau}\quad . \label{Fsint}\] 以下では, 式の証明\eqref{Fsint}を行う.
関数 \( F(\tau) \) を \[F(\tau) = \int_{0}^{\infty} e^{ – \tau t} f(t) \dd{t} \notag\] と定義し, この両辺を \( s \) で形式的に積分しよう.(ただし, 積分範囲を \( \tau = s \) から \( \infty \) とする.) \[\begin{aligned} \int_{s}^{\infty} F(\tau) \,d \tau &= \int_{s}^{\infty} \int_{0}^{\infty} e^{ – \tau t} f(t) \dd{t} \dd{\tau}\notag \\ &= \int_{0}^{\infty} \qty( \int_{s}^{\infty} e^{ – \tau t}\,d \tau ) f(t) \dd{t}\notag \\ &= \int_{0}^{\infty} \qty[ \frac{-1}{t}e^{ – \tau t} ]_{s}^{\infty} f(t) \dd{t}\notag \\ &= \int_{0}^{\infty} e^{-st} \frac{f(t)}{t} \dd{t}\notag \\ &= \mathcal{L}\left\{\frac{f(t)}{t}\right\} \notag \end{aligned}\] したがって, 式\eqref{Fsint}を示すことができた.
上記の結論より, 関数 \( f(t) \) を \( t \) で除してラプラス変換を実行することは, 像関数を積分することに対応していることがわかる
脚注
⇡1 | 上記の計算の途中, \( s \) の微分と \( t \) の積分の順序を入れ換えた. この操作が正当化されるためには, 被積分関数が一様収束することを示すことが必要であるが, その議論はここでは割愛する. |
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