異なる物体同士を接触させて十分な時間が経過すると, 熱平衡状態となるのであった. このとき, 経験的な法則として高温物体側から低温物体側に熱伝播する[1]この熱の移動における不可逆性は熱力学第二法則という形にまとめられている. .
ここでは, 溶液や固体又はそれらを入れる容器を系とみなし, 系の外部に熱が逃げないような孤立系とみなした温度変化について考える.
熱量保存の法則
いま, 注目している高温物体と低温物体との間でのみ熱の出入りが許されるとき,高温物体が失った熱量は, 低温物体が獲得した熱量に等しいという熱量保存の法則が成立し, 熱に関するエネルギー保存則である.
相
物体は, その温度や圧力に応じて, 液体, 固体及び気体というそれぞれ物理的に明確に異なる状態をとる. 各状態は物体を構成する微小な粒子の運動やその配置構造によって区別され, 相と呼ばれる. すなわち, 液体, 固体及び気体の各状態を液相, 固相及び気相と呼ぶ.
一般に, 圧力が一定の条件下では物体の温度を変化させることで相が移り変わること(相転移)が可能である. また, 相転移させるのに必要な単位質量あたりの熱量を総称して潜熱というが, 以下しばらくは相転移が起きないような場合の熱量保存について議論する.
相が変化しない場合の熱量保存の法則の適用例
質量 \( m_{1} \) , 比熱 \( c_{1} \) , 温度 \( T_{1} \) の液体1と質量 \( m_{2} \) , 比熱 \( c_{2} \) , 温度 \( T_{2} ( > T_{1}) \) の液体2とを混ぜ合わせたときの熱量保存の法則について考える. ここで, 反応の間に両者の相は変化せず, 熱のやりとりは両者の間でのみ行われ, 温度 \( T \) の熱平衡状態となったとする.
いま, 熱は高温物体から低温物体へ伝播するので, 液体2からは熱が失われ, その分の熱を液体1が獲得することになる.
液体1が獲得した熱量 \( \Delta Q_{1} \) と, 液体2が失った熱量 \( \Delta Q_{1} \) はそれぞれ \[\begin{aligned} \Delta Q_{1} &= m_{1} c_{1} \qty( T – T_{1} ) \\ \Delta Q_{2} &= m_{2} c_{2} \left( T_{2} – T \right)\end{aligned}\] であり, これらが等しいことから次式が成立する. \[m_{1} c_{1} \qty( T – T_{1} ) = m_{2} c_{2} \qty( T_{2} – T ) \quad . \label{hconvex1}\] 上式を熱平衡に至ったときの温度 \( T \) について整理すると, \[T = \frac{m_{1}c_{1}T_{1}+ m_{2}c_{2}T_{2} }{m_{1}c_{1} + m_{2}c_{2} }\] であり, 液体1及び2の熱容量をそれぞれ \( C_{1}, C_{2} \) とすれば, \( T \) は次式で与えられる. \[T = \frac{C_{1}T_{1}+ C_{2}T_{2} }{C_{1} + C_{2} } \quad .\]
最後に, 温度 \( T \) は \[\begin{aligned} T – T_{1} &= \frac{C_{1}T_{1}+ C_{2}T_{2} }{C_{1} + C_{2} } – T_{1} \\ &= \frac{C_{2} }{C_{1} + C_{2} } \qty( T_{2} – T_{1} ) > 0 \\ T_{2} – T &= T_{2} – \frac{C_{1}T_{1}+ C_{2}T_{2} }{C_{1} + C_{2} } \\ &= \frac{C_{1} }{C_{1} + C_{2} } \qty( T_{2} – T_{1} ) > 0\end{aligned}\] より, \( T_{1} < T < T_{2} \) を満たしていることに注意してほしい.
なお, 今回は液体同士の熱量保存則について求めたが, 液体と固体との熱量保存則についても各物体の相が変化しない限りは全く同様の計算によって熱平衡に達した時の温度を求めることができる.
相が変化しない場合の熱量保存の法則の一般形
先ほどと全く同じ問題について改めて考え, より一般的な熱量保存の法則について記述を目指す.
上記の解法では, 液体1と液体2を混ぜ合わせた終状態の温度 \( T \) が \( T_{1} < T < T_{2} \) であるとして導いた式\eqref{hconvex1}を導いたが, 式\eqref{hconvex1}を変形し, 次式のように書いておけば液体1と液体2のどちらが高温なのかといった区別が必要なくなる. \[m_{1} c_{1} \qty( T – T_{1} ) + m_{2} c_{2} \qty( T – T_{2} ) = \sum_{i=1}^{2} m_{i} c_{i} \left( T – T_{i} \right) = 0 \quad .\] また, このように書くことで混ぜ合わせる液体の数が増えても容易に拡張可能となる.
\( N \) 個の液体を混ぜ合わせるとき, 混ぜ合わせる前の液体の質量, 比熱, 熱容量及び温度をそれぞれ \( m_{i}, c_{i}, C_{i} = m_{i}c_{i}, T_{i} \ ( i = 1 \sim N ) \) とし, 最終的な熱平衡温度を \( T \) とすると, 次式の熱量保存の法則が成立する. \[\sum_{i=1}^{N} m_{i} c_{i} \qty( T – T_{i} ) = 0 \quad .\] したがって, 終状態の温度 \( T \) は次のように一般的に求めることができる. \[\begin{aligned} & \sum_{i=1}^{N} m_{i} c_{i} T – \sum_{i=1}^{N} m_{i} c_{i} T_{i} = 0 \\ \to \ & T \sum_{i=1}^{N} m_{i} c_{i} – \sum_{i=1}^{N} m_{i} c_{i} T_{i} = 0 \\ \therefore \ & T = \frac{\sum_{i=1}^{N} m_{i} c_{i} T_{i} }{\sum_{i=1}^{N} m_{i} c_{i}} = \frac{\sum_{i=1}^{N} C_{i} T_{i}}{\sum_{i=1}^{N} C_{i}} \quad .\end{aligned}\]
最後に, 終状態の温度の存在範囲について確認しておこう. いま, \( T_{1} \) が最も低温で, \( T_{N} \) が最も高温であったとする. \[\begin{aligned} T_{N} – T &= T_{N} – \frac{\sum_{i=1}^{N} C_{i} T_{i} }{\sum_{i=1}^{N} C_{i}} \\ &= \frac{\sum_{i=1}^{N} C_{i} T_{N} – \sum_{i=1}^{N} C_{i} T_{i}}{\sum_{i=1}^{N} C_{i}} \\ &= \frac{\sum_{i=1}^{N-1} C_{i} \qty( T_{N} – T_{i} )}{\sum_{i=1}^{N} C_{i}} \quad .\end{aligned}\] であり, \( T_{N} \) は \( T_{i} \ (i= 1 \sim N) \) の中で最大であるとしたので, \( T_{N} – T_{i} \ge 0 \ (i= 1 \sim N) \) が成立する. したがって, 次式が成立する. \[T \le T_{N}\]
同様に, \( T_{1} \) は \( T_{i} \ (i= 1 \sim N) \) の中で最小なので, \( T_{i} – T_{1} \ge 0 \ (i= 1 \sim N) \) が成立することを用いると, \[\begin{aligned} T – T_{1} &= \frac{\sum_{i=1}^{N} C_{i} T_{i} }{\sum_{i=1}^{N} C_{i}} – T_{1} \\ &= \frac{\sum_{i=1}^{N} C_{i} T_{i} – \sum_{i=1}^{N} C_{i} T_{1}}{\sum_{i=1}^{N} C_{i}} \\ &= \frac{\sum_{i=1}^{N-1} C_{i} \qty( T_{i} – T_{1} )}{\sum_{i=1}^{N} C_{i}} \ge 0 \\ \therefore \ T \ge T_{1} &\end{aligned}\] である.
以上より, \( T_{1} \le T \le T_{N} \) が常に成立することが確かめられた.
脚注
⇡1 | この熱の移動における不可逆性は熱力学第二法則という形にまとめられている. |
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