国際単位系SIとSI基本単位

2019年5月20日に国際単位系(SI)の定義が改定された。

定義定数に基づいてSI基本単位が構築される。SI基本単位は、秒、メートル、キログラム、アンペア、ケルビン、モル及びカンデラである。

一般に、物理量の測定値は数値単位の積で表現される。

例えば、棒状の物体の長さを定規で測定した結果、\(2.5\,\mathrm{m} \) と判明した場合について考えよう。 このとき、\(2.5 \) は数値を、\(\mathrm{m} \)は単位を表している。

さて、上述の測定結果は、棒状の物体の長さは単位長さ\(1\,\mathrm{m}\)の\(2.5\)倍であることを主張しており、我々はさらりと受けていれているが、\(1\,\mathrm{m}\)とはそもそもどの位の長さで、どのように定義されるのかは重要な着眼点であり、実験によっては測定精度に関わる大きな問題点ともなる[1]もちろん、測定に用いた定規がどのくらい正しい目盛りを持っていたのか、そのことを誰が保証してくれるのかも問題となり得る。

ここでは、世界で最も広く用いられている単位系である国際単位系SI[2]SIとは、国際単位系という意味のフランス語(Le Système internationaal d’unités)の頭文字である。)について紹介しよう。

余談であるが、世の中に存在する単位とその成り立ちについては調べごたえがある。 原始的な単位ほど人間生活に密着しており、当時の価値観、文化及び技術レベルを推し量れる点もなかなかに面白い。 個人の興味に応じて調べてみて欲しい。

なお、本ページの執筆にあたっては、国立研究開発法人産業技術総合研修所計量標準総合センターのSI文書第9版(2019)日本語版及び関連資料及び国際度量衡局のWebページを参考とし、SI基本単位の定義文についてはそのまま引用した。

国際単位系(SI)

物理に限らず、自然科学においては、興味がある量の測定や測定結果の比較という行為がつきまとう。 そして、測定という行為は、人種も言語も文化も異なる世界上のあらゆる場所あらゆる時刻に行われている。 それらの測定結果を学術論文などで世界に向けて発信する際、各々が独自の単位(基準)を使われていても比較に困るだけである。

しかし、世界中が共通した単位(基準)を用いれば、測定値の引用や比較において不要な換算作業や誤解の排除に貢献する。 これは、各コミュニティにとってはベストな結論とならずとも、全体としては好ましいことは明らかである。

次に気になるのは、単位(基準)自体がどの程度確かなものであるのか、すなわち、その安定性がどの程度担保されているのかである。 不安定な基準の設置は、混乱を引き起こすことが明らかであろう。 昨日の\(1\,\mathrm{m}\)は、今日の\(1\,\mathrm{m}\)と違いますと高頻度で言われても混乱するだけである。

したがって、単位というのは世界共通で、それ自身が長期間安定的であることが求められる。 これらの要求を満たしつつ各測定現場での実効性を考慮した、世界の多くで採用されている単位の枠組みこそ、国際単位系SI:以下、単にSIと呼称する。)である。

SIの策定、維持、改定及び供給といった努力は国際度量衡局(BIPM)を中心として国際的・組織的に続けられており、最新の定義が2019年5月20日(世界計量記念日)に施工された。

SI改定 – 定義と実現の分離

まず、長さを例として、とある単位とその定義を世界中に流布する方法について考えてみよう。

最も単純なストーリーは、恐らく次のようなものである。 すなわち、非常に頑強な(ように思われる)手ごろな棒状の物体を選出し、その長さを単位の基準として、単位記号を\(\textbf{m}\)で表すと宣言することである。そして、世界中の各コミュニティには、この棒状物体の複製物や、さらにその複製物またはその長さを再現できる何かしらの実験手法を供給することである。 実際、過去のSIの定義においては、このような手法で単位を決定していたものが存在する。

上述の手法について、問題となる点について考えてみよう。

まず、基準となる物体やその複製物の破損及び紛失には、大変な労力を要することになるだろう。 また、温度、湿度、圧力等の値やその変化によって、物体が歪むことも汚染されることも考えられる。 では、歪んでしまったことは、どのように示せばよいであろうか。 その物体こそが単位の基準であるにも関わらず、である。

このような問題点は、特定の物体やその組成について特別な地位を認め、単位の定義とその実現方法とが切り離せていない間は不可避の問題である。


今回のSI改定においては、人類が見出してきた物理定数のうちの七つを定義定数とし、その値は対応するSI単位で表現される。 すなわち、定義定数に厳密な値を与えることで単位を定義する流れが採用されることになる[3] … Continue reading

例えば、長さの単位(メートル)の定義においては、光速という普遍的(と考えられている)物理量を定義定数とし、別に定義された単位であるとを組み合わせることで定義される。

このように定義することで、光速を測定できる装置を準備し、その装置によって光速を算出した結果が定義定数の値と一致すれば、その装置が持つ目盛り[4]実際に目盛りがついているかどうかは別問題とする。は正しいものとして判断するのである[5] … Continue reading

したがって、単位の実現技術さえあれば誰もが光速を利用して長さの基準を自前で準備できるようになる。 また、その装置については、技術の発展に応じて適切な装置に置き換えることも可能となるのである。

今回のSI改定において、定義定数の実現方法については電子媒体でのみ刊行されることとなっている。国際度量衡局のウェブサイト(https://www.bipm.org/)を参照されたい。

このように、今回のSI改定においては単位の定義とその実現との分離が強く推し進められている。

定義定数

以前までのSIの定義においては、基本単位と呼ばれるものを定義し、その基本単位を組み合わせることによって組立単位が構築される構造となっていた。

しかし、今回からは、各基本単位を定義する前に七つの定義定数を与え、それら定義定数に基づいて単位が定義されるという流れとなっている[6] … Continue reading

以下に定義定数を列挙しておこう。 これらの定数は、不確かさを持たないものとして与えられる。

  1. セシウム133原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数 \(\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}\) \[\Delta \nu_{\mathrm{Cs}} \mathrel{\mathop:}= 9 192 631 770\,\mathrm{Hz}\]

  2. 真空中の光速 \(c\) \[c \mathrel{:}= 299 792 458\,\mathrm{m}/\mathrm{s}\]

  3. プランク定数 \(h\) \[h \mathrel{:}= 6.626 070 15 \times 10^{-34} \,\mathrm{J}\,\mathrm{s}\]

  4. 電気素量 \(e\) \[e \mathrel{:}= 1.602 176 634 \times 10^{-19} \,\mathrm{C}\]

  5. ボルツマン定数\(k\) \[k \mathrel{:}= 1.380 649 \times 10^{-23} \,\mathrm{J}/\mathrm{K}\]

  6. アボガドロ定数 \(N_{A}\) \[N_{A} \mathrel{:}= 6.022 140 76 \times 10^{23} \,\mathrm{mol}^{-1}\]

  7. 周波数\(540 \times 10^{12}\,\mathrm{Hz}\)の単色放射の視感効果度\(K_{\mathrm{cd}}\) \[K_{\mathrm{cd}} \mathrel{:}= 683 \,\mathrm{lm}/\mathrm{W}\]

ここで、単位記号\(\mathrm{Hz}\)(ヘルツ)、\(\mathrm{J}\)(ジュール)、\(\mathrm{C}\)(クーロン)、\(\mathrm{lm}\)(ルーメン)及び\(\mathrm{W}\)(ワット)は、 \(\mathrm{s}\)、\(\mathrm{m}\)、\(\mathrm{kg}\)、\(\mathrm{A}\)、\(\mathrm{K}\)、\(\mathrm{mol}\)及び\(\mathrm{cd}\)を単位記号とする単位である秒、メートル、キログラム、アンペア、ケルビン、モル及びカンデラと、 \(\mathrm{Hz}=\mathrm{s}^{-1}\)、 \(\mathrm{J}=\mathrm{kg} \, \mathrm{m}^{2} \, \mathrm{s}^{-2}\)、 \(\mathrm{C}=\mathrm{A} \, \mathrm{s}\)、 \(\mathrm{lm}=\mathrm{cd} \, \mathrm{m}^{2} \, \mathrm{m}^{-2}=\mathrm{cd} \, \mathrm{sr}\)及び \(\mathrm{W}=\mathrm{kg} \, \mathrm{m}^{2} \, \mathrm{s}^{-3}\)によって関連づけられる。

また、これから紹介する各単位と定義定数との依存関係を下図に示す。

SI基本単位

以下に、SIにおける基本単位を示す。

基本量 基本単位
名称 代表的な記号 名称 記号
時間 \(t\) \(\mathrm{s}\)
長さ \(l,\,x,\,r\)など メートル \(\mathrm{m}\)
質量 \(m\) キログラム \(\mathrm{kg}\)
電流 \(I,\,i\) アンペア \(\mathrm{A}\)
熱力学温度 \(T\) ケルビン \(\mathrm{K}\)
物質量 \(n\) モル \(\mathrm{mol}\)
光度 \(I_{\mathrm{v}}\) カンデラ \(\mathrm{cd}\)

これらの基本単位それぞれの定義が、一つ以上の定義定数を適切に組み合わせることによって導き出され、以下に示す定義が与えられている。

秒の定義

秒(記号は\(\mathrm{s}\))は、時間のSI単位であり、セシウム周波数\(\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}\)、すなわち、 セシウム133原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数を単位\(\mathrm{Hz}\)(\(\mathrm{s}^{-1}\)に等しい)で表したときに、その数値を\(9 192 631 770\)と定めることによって定義される。

この定義は、 \[ \Delta \nu_{\mathrm{Cs}} = 9 192 631 770\,\mathrm{Hz} \label{defnuCsval} \] という厳密な関係を表している。

式\eqref{defnuCsval}より、\(1\)秒(\(1\,\mathrm{s}\))は定義定数を用いて次式のように表すことができる。 \[1\,\mathrm{Hz} = \frac{\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}}{9192631770} \iff 1\,\mathrm{s} = \frac{9192631770}{\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}}\]

以前までのSIの定義と比較しても、秒の定義について実質的な変更はなく、セシウムの状態についてはより厳密に記述された形となった。

この定義を実現するための装置としては、セシウム原子時計が知られている。

原子・分子の世界の物理学(量子力学)では、原子・分子等はそれらがもつエネルギーの値が離散的な値となることが知られている。また、異なるエネルギー状態へ遷移する時、そのエネルギー差に応じた電磁波の出入りが生じる。 この電磁波の周波数を確認することで、原子・分子等に生じたエネルギー遷移がどのようなものであったのかを知ることができる。 逆に、特定の周波数の電磁波を与えることで原子・分子のエネルギー状態を遷移させることもできる。 このような物理を利用することで、周波数(秒の逆数)を測定する装置を原子時計という[7] … Continue reading

今回のSIの定義改定により、あるセシウム原子時計の正しさは、セシウム原子が特定の状態遷移に対応した電磁波の周波数が定義値と一致することによって確認されることとなる

メートルの定義

メートル(記号は\(\mathrm{m}\))は長さのSI単位であり、真空中の光の速さ\(c\)を単位\(\mathrm{m}\, \mathrm{s}^{-1}\)で表したときに、その数値を\(299 792 458\)と定めることによって定義される。ここで、秒はセシウム周波数\(\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}\)によって定義される。

この定義は、 \[ c = 299 792 458\,\mathrm{m}\,\mathrm{s}^{-1} \label{defcval} \] という厳密な関係を表している。

式\eqref{defcval}より、\(1\)メートル(\(1\,\mathrm{m}\))は定義定数を用いて次式のように表すことができる。 \[\begin{aligned} 1\,\mathrm{m} &= 1\,\left( \mathrm{m}\, \mathrm{s}^{-1} \right) \, \mathrm{s} \\ &= \left( \frac{c}{299792458} \right)\,\mathrm{s} \\ &= \frac{9192631770}{299792458} \cdot \frac{c}{\Delta \nu} \end{aligned}\]

以前までのSIの定義と比較しても、メートルの定義について実質的な変更はない。 というのも、長さの単位は1889年の国際メートル原器を用いた定義にはじまり、1960年のクリプトン\(86\)からの放射波長を用いた定義を経て、1983年に光速を用いた定義へと移行しており、単位の定義と実現が切り離せていない状態からいち早く脱却していたのである。

この定義の実現には、よう素安定化ヘリウムネオンレーザ装置光周波数コム装置といったものが知られている。

キログラムの定義

キログラム(記号は\(\mathrm{kg}\))は質量のSI単位であり、プランク定数\(h\)を単位 \(\mathrm{J}\, \mathrm{s}\) (\(\mathrm{kg}\, \mathrm{m}^{2}\, \mathrm{s}^{-1}\)に等しい)で表したときに、その数値を \(6.626 070 15 \times 10^{−34}\) と定めることによって定義される。ここで、メートルおよび秒は \(c\)および\(\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}\)に関連して定義される。

この定義は、 \[h = 6.626 070 15 \times 10^{−34} \,\mathrm{J}\, \mathrm{s} \label{defhval}\] という厳密な関係を表している。

式\eqref{defhval}より、\(1\)キログラム(\(1\,\mathrm{kg}\))は定義定数を用いて次式のように表すことができる。 \[\begin{aligned} 1\,\mathrm{kg} &=\left( \mathrm{kg}\, \mathrm{m}^{2}\, \mathrm{s}^{-1} \right) \mathrm{m}^{-2} \, \mathrm{s} \\ &=\left( \mathrm{J}\, \mathrm{s}\right) \mathrm{m}^{-2} \, \mathrm{s} \\ &=\left( \frac{h}{6.626 070 15 \times 10^{−34}} \right) \left( \frac{9192631770}{299792458}\frac{c}{\Delta \nu}\right)^{-2} \left( \frac{9192631770}{\Delta \nu} \right) \\ &= \frac{ \left( 299792458\right)^{2} }{ \left( 6.626 070 15 \times 10^{−34} \right) \left( 9192631770\right) } \cdot \frac{h \Delta \nu_{\mathrm{Cs}} }{c^{2}} \end{aligned}\]

キログラムの定義方法は、今回のSI改定によって大きく変化した。 1889年から採用され続けた、白金イリジウム製の国際キログラム原器と呼ばれる人工の分銅を用いた定義から、プランク定数という自然法則にまつわる定数から定義されることとなり、定義と実現とが分離した。

原器という固有の物体を用いたデメリットについては既にいくつか述べたように、その安定性の確保が困難であるという問題が存在する。 実際、ほぼ同時期に作成された原器郡の平均質量が数年で国際キログラム原器との間に差が生じていることがわかってきた[8]もちろん、国際キログラム原器の質量が変動していたのか、他の原器の質量が変化していたのか、その両方なのかは判然としない。

しかしながら、アボガドロ定数及びプランク定数の測定が、国際キログラム原器の質量に想定される不確かさよりも高精度で実現できたこともあり、今回の定義改定へと至った[9] … Continue reading

この定義を実現するための装置としては、キッブルバランス法と呼ばれるものやX線結晶密度法といったものが知られている。

なお、歴史的経緯もあり、キログラムはSI接頭語であるキロ(\(\mathrm{k}\))を用いた定義となっていることに注意されたい。

アンペアの定義

アンペア(記号は\(\mathrm{A}\))は、電流のSI単位であり、電気素量\(e\)を単位\(\mathrm{C}\)(\(\mathrm{A} \cdot \mathrm{s}\)に等しい)で表したときに、その数値を\(1.602 176 634 \times 10^{−19}\) と定めることによって定義される。 ここで、秒は\(\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}\)によって定義される。

この定義は、 \[e = 1.602 176 634 \times 10^{−19} \,\mathrm{C} \label{defeval}\] という厳密な関係を表している。

式\eqref{defeval}より、\(1\)アンペア(\(1\,\mathrm{A}\))は定義定数を用いて次式のように表すことができる。 \[\begin{aligned} 1\,\mathrm{A} &= 1\,\mathrm{A}\,\mathrm{s}\,\mathrm{s}^{-1} \\ &= 1\,\mathrm{C}\,\mathrm{s}^{-1} \\ &= \left( \frac{ e }{ 1.602 176 634 \times 10^{−19} } \right) \left( \frac{\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}}{9192631770} \right) \\ &= \frac{ 1 }{ \left( 1.602 176 634 \times 10^{−19} \right) \left( 9192631770\right) } \cdot \Delta \nu_{\mathrm{Cs}} e \end{aligned}\]

以前までのSIの定義に忠実にアンペアの定義を実現することは、実験装置の構成に大きな制限が存在していた[10] … Continue reading

また、電気関係の量の実質的な標準としては、ジョセフソン効果による電圧標準及び量子ホール効果を用いた抵抗標準を組み合わせることで決定される電流が採用されていた。つまり、電圧降下(\(\mathrm{V}\))及び抵抗(\(\mathrm{\Omega}\))の組合せとしての電流(\(\mathrm{A}\))が用いられていた経緯があり、SIに忠実な運用にはなっていなかったのである。

今回のSI改定では、上述した定義と実現の歪みが解消される。 というのも、ジョセフソン効果及び量子ホール効果という量子効果を記述する特徴的な基礎物理定数であるジョセフソン定数\(K_{\mathrm{J}}\)及びフォン・クリッツィング定数\(R_{\mathrm{K}}\)はそれぞれ、プランク定数\(h\)及び電気素量\(e\)を用いて、次式で記述される。 \[\begin{aligned} K_{\mathrm{J}} &= \frac{2e}{h} \\ R_{\mathrm{K}} &= \frac{h}{e^{2}}\end{aligned}\] ここで、\(h\)及び\(e\)が定義定数となったため、\(K_{\mathrm{J}}\)及び\(R_{\mathrm{K}}\)も不確かさを持たない定数となり、アンペアの定義をSIに準拠した形で実現可能となったのである。

なお、今回の改定により、磁気定数(真空の透磁率)\(\mu_{0}\)は測定量となる。

ケルビンの定義

ケルビン(記号は\(\mathrm{K}\))は、熱力学温度のSI単位であり、ボルツマン定数 \(k\)を単位 \(\mathrm{J} \,\mathrm{K}^{-1}\)(\(\mathrm{kg}\, \mathrm{m}^{2}\, \mathrm{s}^{-2}\, \mathrm{K}^{-1}\) に等しい)で表したときに、その数値を \(1.380 649 \times 10^{−23}\) と定めることによって定義される。ここで、キログラム、メートルおよび秒は\(h\)、\(c\)および\(\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}\)に関連して定義される。

この定義は、 \[k = 1.380 649 \times 10^{−23} \,\mathrm{J} \,\mathrm{K}^{-1} \label{defkval}\] という厳密な関係を表している。

式\eqref{defkval}より、\(1\)ケルビン(\(1\,\mathrm{K}\))は定義定数を用いて次式のように表すことができる。 \[\begin{aligned} 1\,\mathrm{K} &= \left( \mathrm{K} \cdot \mathrm{J}^{-1} \right) \left( \mathrm{J}\, \mathrm{s} \right) \mathrm{s}^{-1} \\ &= \left( \frac{1.380 649 \times 10^{−23}}{k} \right) \left( \frac{h}{6.626 070 15 \times 10^{−34}}\right) \left( \frac{\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}}{9192631770} \right) \\ &= \frac{ 1.380 649 \times 10^{−23} }{ \left( 6.626 070 15 \times 10^{−34} \right) \left(9192631770\right) } \cdot \frac{\Delta \nu_{\mathrm{Cs}} h }{k} \end{aligned}\]

以前までのSIの定義においては、ケルビンは水の三重点温度に基づいて定義されていた。 しかし、今回のSI改定により、水という特定の物質を用いた定義から脱却し、より普遍的な物理定数を用いた定義へ移行した。

ここで、セルシウス度(\({}^{\circ}\mathrm{C}\))で表記したセルシウス温度(記号は\(t\))とケルビンで表記した熱力学温度(起動は\(T\))ケルビン(\(\mathrm{K}\))との間に成立する関係式が次式で与えられることは変わらない。 \[t / {}^{\circ}\mathrm{C} = T / \mathrm{K} -273.15\]

この定義を実現するための装置としては、音響気体温度計、定積気体温度計、ジョンソンノイズ温度計、絶対放射温度計などが知られている。

モルの定義

モル(記号は\(\mathrm{mol}\))は、物質量のSI単位であり、\(1\)モルには、厳密に\(6.022 140 76 \times 10^{23}\) の要素粒子が含まれる。 この数は、アボガドロ定数 \(N_{\mathrm{A}}\)を単位 \(\mathrm{mol}^{-1}\) で表したときの数値であり、アボガドロ数と呼ばれる。 系の物質量(記号は \(n\))は、特定された要素粒子の数の尺度である。要素粒子は、原子、分子、イオン、電子、その他の粒子、あるいは、粒子の集合体のいずれであってもよい。

この定義は、 \[N_{\mathrm{A}} = 6.022 140 76 \times 10^{23} \,\mathrm{mol}^{-1} \label{defNAval}\] という厳密な関係を表している。

式\eqref{defNAval}より、\(1\)モル(\(1\,\mathrm{mol}\))は定義定数を用いて次式のように表すことができる。 \[1\,\mathrm{mol} = \left( \frac{6.022 140 76 \times 10^{23} }{N_{\mathrm{A}}} \right)\]

以前までのSIの定義においては、\(0.012\,\mathrm{kg}\)の炭素\(12\)中に存在する原子の数を用いて定義されていた。 しかし、今回のSI改定により、炭素\(12\)という特定の物質を用いた定義から脱却し、より普遍的な物理定数を用いた定義へ移行した。 また、以前までのSIの定義はキログラムの定義と連動していたが、この依存関係からも解消される。

この定義を実現する方法としてはキッブルバランス法やX線結晶密度法が知られている。

補足しておくと、炭素\(12\)の原子量を\(12\)とする原子量(相対原子質量)の値は変化しない。 しかしながら、原子量をモル質量に換算する際に用いる変換係数であるモル質量定数\(M_{\mathrm{u}}\)の値は、SI改定前の厳密な値\(M_{\mathrm{u}} = 1 \, \mathrm{g}\, \mathrm{mol}^{-1}\)から変化し、各種の測定値を組み合わせて定義される量となり、不確かさがわずかに存在することとなる[11] … Continue reading

カンデラの定義

カンデラ(記号は\(\mathrm{cd}\))は、所定の方向における光度のSI単位であり、周波数\(540 \times 10^{12}\, \mathrm{Hz}\)の単色放射の視感効果度\(K_{\mathrm{cd}}\)を単位\(\mathrm{lm}\,\mathrm{W}^{-1}\)(\(\mathrm{cd}\,\mathrm{sr}\,\mathrm{W}^{-1}\)あるいは\(\mathrm{cd}\,\mathrm{sr}\,\mathrm{kg}^{-1}\,\mathrm{m}^{-2}\,\mathrm{s}^{3}\)に等しい)で表したときに、その数値を\(683\)と定めることによって定義される。ここで、キログラム、メートルおよび秒は \(h\)、\(c\)および \(\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}\) に関連して定義される。

この定義は、周波数\(540 \times 10^{12}\, \mathrm{Hz}\)の単色放射について \[K_{\mathrm{cd}} = 683 \,\mathrm{lm} \mathrm{W}^{-1} \label{defKcdval}\] という厳密な関係を表している。

式\eqref{defKcdval}より、\(1\)カンデラ(\(1\,\mathrm{cd}\))は定義定数を用いて次式のように表すことができる。 \[\begin{aligned} 1\, \mathrm{cd} &= \left( \mathrm{cd}\,\mathrm{sr}\,\mathrm{W}^{-1} \right) \mathrm{sr}^{-1}\,\mathrm{W} \\ &= \left( \mathrm{lm}\,\mathrm{W}^{-1} \right) \cdot 1 \cdot \left( \mathrm{J}\,\mathrm{s} \right) \,\mathrm{s}^{-2} \\ &= \left( \frac{K_{\mathrm{Cd}}}{683} \right) \left( \frac{h}{6.626 070 15 \times 10^{−34}} \right) \left( \frac{\Delta \nu_{\mathrm{Cs}}}{9 192 631 770} \right)^{2} \\ &= \frac{1}{683 \left( 6.626 070 15 \times 10^{−34} \right) \left( 9 192 631 770\right)^{2} } \Delta \nu_{\mathrm{Cs}} h K_{\mathrm{Cd}} \end{aligned}\] ここで用いた単位、ステラジアン(\(\mathrm{sr}\))は、\(\mathrm{m}^{2}\)で表すことができる物理量同士の比であり、単位\(1\)の量である。

以前までのSIの定義と比較しても、カンデラの定義について実質的な変更はなく、特定の光源に依存しないカンデラの定義は実現している。

高校物理では登場する機会が乏しいが、人間の視覚を加味した光の強さを定量化し、その指標として用いられているものである。

補足

なお、上述のSIにおいては、個数の単位などは記述できない。これらの単位は\(1\)として扱う。 これは、同じ単位(次元)を持つ物理量同士の比なども該当する。

特に、平面角の単位であるラジアン( \(\mathrm{rad}\) )及び立体角の単位であるステラジアン( \(\mathrm{sr}\))を含む場合には、これらの単位を含有した物理量であることを明示的に示されることが多い。

脚注

脚注
1 もちろん、測定に用いた定規がどのくらい正しい目盛りを持っていたのか、そのことを誰が保証してくれるのかも問題となり得る。
2 SIとは、国際単位系という意味のフランス語(Le Système internationaal d’unités)の頭文字である。
3 それらの定義定数も元々は、以前までのSIの定義にしたがって十分に精度良く測定された値から決められている。したがって、何か日常生活に直接影響が生じるような整合性の破綻を招くものではない。
4 実際に目盛りがついているかどうかは別問題とする。
5 これにより、今回定義定数に数えられた定数達を測定するための実験装置達の位置付けが変化する。すなわち、ある実験装置を使用して、定義定数に相当する定数の測定実験装置を使って測定した結果、定義値と同じ値が得られた場合、その実験装置の目盛りが正しいことを意味するようになる。したがって、この正しい目盛りを持つ実験装置については、後の技術発展によって置き換えられる余地ができたと言える。
6 このため、本質的には基本単位と組立単位とを区別する必要なくなった。ただし、基本単位と組立単位という概念の有用性や歴史的経緯を鑑みて、破棄されるものではない。
7 もちろん、話はこんなに単純ではない。実際の実験系には、注目している物体の運動をかき乱す要因や原理的に排除できない雑音も存在している。このような要因の正確な見積もりを行う技術や排除するアイディアを持った人達に感謝申し上げたい。
8 もちろん、国際キログラム原器の質量が変動していたのか、他の原器の質量が変化していたのか、その両方なのかは判然としない。
9 質量の単位を定義する際、プランク定数で定義するのではなく、アボガドロ定数を用いて定義する案も考えられたが、電気素量の定義などの兼ね合いもあり、プランク定数を定義定数とするキログラムの定義となった。なお、アボガドロ定数\(N_{\mathrm{A}}\)とプランク定数\(h\)との間には、光速\(c\)、電子\(1\)モルの質量\(M_{\mathrm{e}}\)、微細構造定数\(\alpha\)及びリュードベリ定数\(R_{\infty}\)を用いて、\(N_{\mathrm{A}} = \frac{cM_{\mathrm{e}}\alpha^{2}}{2 R_{\infty} h}\)が成立する。
10 これは、アンペアの定義の実現が非常に理想化されたものとなっていたことに加えて、秒(\(\mathrm{s}\))、メートル(\(\mathrm{m}\))、キログラム(\(\mathrm{kg}\))といった単位を組み合わせる必要があり、力学的な作用を導入した実験装置構成でなければならなかったことに起因する。
11 さらに補足しておくと、定義定数であるアボガドロ定数\(N_{\mathrm{A}}\)、プランク定数\(h\)及び光速\(c\)並びに測定量である電子の原子量\(A_{r}(\mathrm{e})\)、微細構造定数\(\alpha\)及びリュードベリ定数\(R_{\infty}\)を用いて、\(M_{\mathrm{u}} = \frac{2 N_{\mathrm{A}} h}{ c} \frac{ R_{\infty} }{\alpha^{2}A_{r}(\mathrm{e})}\)と表すことができる。この\(M_{\mathrm{u}}\)には不確かさが存在するものの、高校化学で取り扱うような計算においては無視できるレベルである。