物理学は、測定を行うことで様々な物理量の値を決定していく。しかし、測定器具や測定対象によって、どれだけ正確な値を測ることができるのかには制限がつき、測定値と真の値(真値)との間にはズレが生じるのが一般的である。
もっといえば、我々は真の値と期待される推定値を実験から見出し、推定値とその推定値を得るために行なった各測定結果のズレのことを誤差と呼んでいる。
まっとうな測定(実験)を行うと、誤差を持つ測定結果が得られる。ここでは、誤差の種類や表し方を簡単に紹介する。
測定値には誤差がある
誤差について、高校物理の教科書又は参考書で十分に紹介されているとは言い難い状況にある。ただし、これは致し方ないことでもある。実際、誤差に話題を限っても、本を一冊まるまる書き上げることができるほど奥深いのである。議論に用いられる数学自体は難しくはないが、少なくとも高校数学程度は自由に使える状態でないと議論がスムーズに展開しにくいという事情もある。
ここでも深入りすることは避けるが、測定値には誤差があることは心に留めておいてほしい。この感覚を失って、「物理学を使えば、物理量についてどこまでも正確な値を知ることができる」という過信を生んでしまう [1] 実際、大学の理系学部へ進学した学生さん達でも誤差の扱いに苦しんでいる実情もあるし、教える側も誤差の指導には一苦労している。。 実際に値が厳密に定まる量は、定義量か純粋に数学的な量くらいであり、測定結果には誤差が必ず含まれている。
誤差の原因の種類
まっとうな測定において、誤差の原因の種類は系統誤差と偶然誤差とに大別することができる
以下では議論を簡単にするため、ある物理量を測定する実験で、誤差がまったく無視できる場合に得られる測定値のことを真の値と呼ぶことにする。
系統誤差
系統誤差とは、主に計測機器、外部環境、測定者等によって生じ、測定値全体が真の値から偏りをもってずれる誤差である。
例えば、計測に用いた定規が熱で膨張して歪んでいた、目盛りを読む人のクセで毎回値を大きめに見積ってしまった、などがこれに相当する。人間も一つの計測機器とみなせば、計測機器に固有の誤差と表現することもできる。
系統誤差は、その原因の発見がそもそも難しかったり、避けることができないなどの困難がつきまとうが、原因がわかっていればその影響を小さくする・補正するといったことが可能である。
偶然誤差
偶然誤差とは、測定者に制御できないような偶然事象によって引き起こされる誤差であり、測定値が真の値の近傍にばらつく誤差である。
偶然誤差が測定値に与える影響を減らすための手段としてはなんども測定を行うことである。
測定の回数が増えれば増えるほど、統計学の力を借りることでもっともらしい測定値を割り出すことが可能になる。その結論は、測定の平均値をもっともらしい測定値として採用することである。このもっともらしい値もやはり真の値とは異なるのが普通であるので、測定の平均値から求めたもっともらしい値を真の値とは区別して最良推定値や最確値というが、用語の使われ方に幾分バラつきがあるので適宜確認していただきたい。
偶然誤差は統計的な操作で扱える誤差であるので統計誤差ともいう[2] … Continue reading。
この他にも測定以外で決まる数字による誤差もある。 たとえば計算結果に無理数などが含まれていればどこかで四捨五入するなり切り捨てするなりの操作を行うことになるが、これらによる誤差は有効数字の考え方を導入してルールを共有することでその影響を抑えることができる。
誤差の表しかたの種類
誤差の表しかたには絶対誤差と相対誤差の2種類がある。
絶対誤差は、測定値と真の値(推定値)との残差の絶対値のことである。 \[ \text{絶対誤差} = \abs{\text{測定値} – \text{真値} } \]
一方、相対誤差は真の値(推定値)に対する絶対誤差の割合で表され、こちらも正の値になように次式で定義される。 \[ \text{相対誤差} = \frac{\text{絶対誤差} }{\abs{\text{真値}} } \times 100 \ \qty[\mathrm{\%}] \] 相対誤差を用いることで、真値(推定値)が異なる測定においてどちらがより高い測定精度を持っているのかなどを議論することができる。