次元
物理量の単位は、基本単位の組み合わせで構成される(単位一覧)。
一方、物理量の次元は、 物理量の単位が基本単位をどのように組み合わせているのかを表す[1] 文脈から誤解することはないであろうが、座標を指定するのに必要な数を表す次元とは別物である。。そして、ある量 \( A \) の次元を \( \qty[A] \) 又は \( \dim{A} \) で表す。
下表には、物理量の基本単位とその次元を表す記号をまとめる。ある物理量 \( A \) が長さの次元を持つ量なのであれば、 \( \qty[A] = \dim{A} = \mathrm{L} \) といった具合である。
量 | 基本単位(記号) | 次元の記号 |
---|---|---|
長さ (Length) | メートル ( \( \mathrm{m} \) ) | \( \mathrm{L} \) |
質量 (Mass) | キログラム ( \( \mathrm{kg} \) ) | \( \mathrm{M} \) |
時間 (Time) | 秒 ( \( \mathrm{s } \) ) | \( \mathrm{T } \) |
電流 | アンペア ( \( \mathrm{A } \) ) | \( \mathrm{I } \) |
熱力学温度 | ケルビン ( \( \mathrm{K } \) ) | \( \mathrm{\Theta } \) |
物質量 | モル ( \( \mathrm{mol } \) ) | \( \mathrm{N } \) |
光度 | カンデラ ( \( \mathrm{cd } \) ) | \( \mathrm{J } \) |
単位と次元
単位と次元の違い
長さの単位には、 \( \mathrm{km} \) , \( \mathrm{cm} \) など様々あり、これらは長さの基本単位 \( \mathrm{m} \) の定数倍( \( 10^3 \ \mathrm{m} \) , \( 10^{-2}\ \mathrm{m} \) )で表現可能である。一方、次元は単位の組み合わせを表現したものであり、 \( \mathrm{m} \) , \( \mathrm{km} \) , \( \mathrm{cm} \) の次元はどれも \( \mathrm{L} \) である。 \[ \qty[\mathrm{m}] = \qty[\mathrm{km}] = \qty[\mathrm{cm}] = \mathrm{L} \quad . \]
同様に、速度の単位 \( \mathrm{cm/s} \) , \( \mathrm{km/h} \) も、基本単位である \( \mathrm{m} \) 及び \( \mathrm{s} \) の組合せ \( \mathrm{m/s} \) の定数倍で表すことができる。このような時間に対する長さの比の単位を持つ量の次元は \( \mathrm{LT^{-1}} \) であり、次式が成立する。 \[ \qty[\mathrm{cm/s}] = \qty[\mathrm{km/h}] = \mathrm{LT^{-1}} \quad . \]
他の物理量についても同様に、単位の組み合わせは次元で表現可能である。
無次元量
次元を持っていない量を無次元量という。無次元量には、単に数学的な数字、同じ次元を持つ物理量の比で表される量などがある。
例えば、角度を表す単位であるラジアン( \( \mathrm{rad} \) )は無次元量である。ラジアンは、弧の長さが \( l \) で、半径が \( r \) の扇形の中心角の大きさ \( \theta \) のことである。(弧度法) \[ \theta = \frac{l}{r} \quad . \]
ここで、 \( r \) も \( l \) も長さを表しており、両者の次元はともに \( \mathrm{L} \) である。したがって、これらの比である \( \theta \) は次元を持たない無次元量である。
その他の例として、動摩擦係数 \( \mu^{\prime} \) について考えよう。
水平面上を運動する小物体が床から受ける垂直抗力が \( N \) であるとき、運動方向とは反対向きに大きさ \( F \) の摩擦力が働き、 \( F \) と \( N \) は次式のような関係にあることが知られている。 \[ F = \mu^{\prime} N \] ここで、 \( \mu^{\prime} \) は \( F \) と \( N \) の大きさ関係を表す比例係数である。そして、 \( F \) と \( N \) はどちらも力であり、その次元は \( \mathrm{MLT^{-2}} \) である。(ここで、力の単位ニュートン \( \mathrm{N} \) の次元が、 \( \qty[\mathrm{N}] = \qty[\mathrm{kg \cdot m / s^2}] = \mathrm{MLT^{-2}} \) であることを用いた。)したがって、同じ次元を持つ量 \( F \) と \( N \) の比で表される動摩擦係数 \( \mu^{\prime} = \frac{F}{N} \) は、次元を持っていてはいけない。つまり、無次元量である。
その他、高校物理に登場する代表的な無次元量には、角度 \( \theta \) 、摩擦係数 \( \mu \) 、反発係数 \( e \) 、熱効率 \( e \) 、屈折率 \( n \) などがある。
なお、無次元量 \( A \) の次元 \( \qty[A] = \dim{A} \) は \( 1 \) である。これは、無次元量が同じ単位の比であることからも納得できるであろう。
次元解析
次元を利用することで、各物理量の間に成立する関係式を推定することであり、次元解析などと呼ばれる。
例として、質量を無視できるの長さ \( l \) の糸の先に質量 \( m \) の質点をとりつけた振り子を微小角で単振動させることを考える。このとき、振り子の周期 \( T \) についてどんな関係式が成立するのかを次元を用いて推定しよう。
まず、「振り子を特徴付ける量は \( l \) , \( m \) 及び重力加速度 \( g \) であるので、振り子の周期もこれらの物理量の組み合わせで書き下せるだろう」とするのである[2]ここで、重力加速度 \( g \) … Continue reading。
次に、周期 \( T \) は \( m, l, g \) と、無次元量 \( A, a, b, c \) を用いて次式で表されると仮定する。 \[ T = A m^{a} l^{b} g^{c} \label{dim_ana} \] ここで、両辺の次元は等しいことを利用して \( a, b, c \) を決定していく。なお、 \( A \) は \( T \) と \( m^{a} l^{b} g^{c} \) との比を表す無次元量であり、この後議論する次元解析ではその値を定めることができないことを注意してほしい。
\eqref{dim_ana}の両辺の次元は、質量の次元 \( \mathrm{M} \) 、長さの次元 \( \mathrm{L} \) 、時間の次元 \( \mathrm{T} \) を用いて次式で表される。 \[ \begin{align} & \qty[T] = \qty[ A m^{a}l^{b}g^{c} ] \\ & \to \mathrm{T} = \mathrm{M}^{a} \mathrm{L}^{b} ( \mathrm{LT^{-2}})^{c} \\ & \to \mathrm{M}^{0} \mathrm{L}^{0} \mathrm{T}^{1} = \mathrm{M}^{a} \mathrm{L}^{(b+c)} \mathrm{T}^{-2c} \end{align} \] ここで、両辺の \( \mathrm{M}, \mathrm{L}, \mathrm{T} \) の指数に着目すると、 \[ \left\{\begin{split} 0 & = a &\text{( \( M \) の次元)}\\ 0 & = b + c &\text{( \( L \) の次元)} \\ 1 & = – 2c &\text{( \( T \) の次元)} \end{split} \right. \] であり、これらを整理すると次式を得る。 \[ \left\{\begin{split} a & = 0 \\ b & = \frac{1}{2} \\ c & = – \frac{1}{2} \end{split} \right. \] したがって、 \( a, b, c \) を\eqref{dim_ana}に代入することで振り子の周期について次式が成立することが推定される。 \[ T = A m^{0} l^{\frac{1}{2}} g^{^{\frac{1}{2}}} = A \sqrt{\frac{l}{g} } \quad . \]
実際、このような振り子の周期を適宜近似を用いて計算すると、振り子の単振動の周期 \( T \) は \( \displaystyle{\sqrt{\frac{l}{g} } } \) に比例することを示すことができる。
このように、次元解析を行なうことで、物理量の間に成立する関係式を推定可能である。ただし、無次元の比例係数は次元解析からは決定できないことに注意してほしい。今回の場合、無次元量 \( A \) の値を次元解析で求めることはできない。
次元解析の計算については以上である。ただ、ここで終わってしまっては物理的な面白みが乏しいので、導いた結論にもう少しだけ考察を加えてみよう。以下は余談なので読み飛ばしてもらってもよい。
まず、周期 \( T \) と振り子の長さ \( l \) は、 \( T \) と \( \sqrt{l} \) とが比例関係にある。これは、振り子が長ければ長いほど周期も長くなることを表すので、日常的な感覚と整合する。
次に、周期 \( T \) と重力加速度 \( g \) は、 \( T \) と \( \sqrt{g} \) とが反比例関係にある。つまり、重力加速度が小さいほど周期が長くなることを意味する。極端な場合、重力加速度がゼロの無重力状態では周期が無限大となる。無重力空間では振り子は振動をしない、すなわち、周期が無限大だろうと容易に想像できるので、これも日常的な感覚と整合しているといえる。
最後に、周期 \( T \) は質量 \( m \) に無関係であると推定されていた。これが日常的な感覚と整合するかは議論の余地があり、実験で確かめてみたくなる面白さがある。今回は、\eqref{dim_ana}を半ば強引に仮定したので、最終的な結果についてもあまり強く主張することができず、あくまで推定に留まるといえる。
次元が異なる量の四則計算
物理の計算では、物理量が次元を持っているがゆえに気をつけることがある。
物理で成立しない計算の代表は、次元が異なる量の和差計算である。例えば、 \( 1 \mathrm{m} + 1 \mathrm{kg} \) が何を意味するのかは全く明らかでない。異なる次元を持つ物理量の和差計算はご法度である。
では、次元を持つ物理量の乗除計算はどうかといえば、これは認められる。例えば、 \( a \qty[\mathrm{m}] \) と \( b \qty[\mathrm{s}] \) という二つの物理量の積\[ a \qty[\mathrm{m}] b \qty[\mathrm{s}] = c \qty[\mathrm{m \cdot s}] \]を考えると、 \( \mathrm{m \cdot s} \) は確かに \( \mathrm{m} \) とも \( \mathrm{s} \) とも違う新しい単位であるももの、 \( c \) は \( \mathrm{m} \) にも \( \mathrm{s} \) にも比例する量という物理的意味を与えることができる。
除法についても同様に、 \( a [\mathrm{m}] \) と \( b [\mathrm{s}] \) という二つの物理量をつかって\[ \frac{a \qty[\mathrm{m}]}{b \qty[\mathrm{s}]} = v \ \qty[\mathrm{m/s}] \]を考えると、 \( v \) は \( \mathrm{m} \) に比例し、 \( \mathrm{s} \) に反比例する量という物理的意味を与えることができる。また、 \( v \qty[\mathrm{m/s}] \) に対して単位 \( \mathrm{s} \) を持つ量 \( t \) をかけると \( \mathrm{m} \) の単位を持つ量 \( vt \) へと変換することができる。したがって、 \( v \qty[\mathrm{m/s}] \) は単位時間( \( t=1\,\mathrm{s} \) )と距離 \( v \cdot 1 \mathrm{m} \) とを結びつける物理量であることも意味している。
物理の計算を行う時、これら次元の考え方を用いることで、変数の抜けなどをチェックすることもできる。四則演算(特に和差計算)実行時や計算結果の物理量が不適切なものとなっていないかは常に確認する癖をつけておきたい。