電圧源とは別の種類の電源装置である電流源について議論する. (定)電流源とは, 回路に組み込むことによってその装置毎に決められた電流を回路に供給し続けるような素子のことである.
電圧源と同じく, 理想的な電流源というのは実際には存在しない. しかし, 近似的に電流源として取り扱うことができるような回路を考えることができるので, まずはその概念を紹介する.
その後, 理想的な電流源と内部抵抗の並列接続からなる電源 = 理想的でない電流源を考え, これが理想的な電圧源と内部抵抗の直列接続からなる電源 = 理想的でない電圧源と等価に扱える条件を示すことにする.
電流源は, 電池のような身近な例に置き換えて考えることができる電圧源に比べると馴染みのない素子であろう. しかし, トランジスタなどの増幅機構を持つ素子の働きを理解する上ではこの電流源という考え方が役に立つ.
電流源の概念
ここでは, 近似的に電流源とみなせる電源の機構について紹介することにしよう.
まず, 強制的に電位差を作り出す電圧源の基本的原理は金属のイオン化傾向で説明できるのであった. そして, 電流というのは電位差によって電子が移動する, その運動に関係するものである. したがって, 電流源というべき装置自身にも電位差を作り出す機構 – (理想的な)電圧源 – が備わっている必要があることがわかる. 残る問題は, どのような回路に組み込んでも設計値通りの電流を供給できるようにするにはどうすればよいかである.
以下では, 回路に一定の電流を供給する定電流源のモデルについて解説する.
下図には, 起電力 \( E \) , 内部抵抗 \( r \) からなる電源を, 抵抗値を自由に設定可能な可変抵抗 \( R \) に接続している.
この電源の構造は, 形式上は内部抵抗を持つ電圧源と同じだが, この電源に特定の条件を加えることで電流源とみなすことができることを示そう.
キルヒホッフの第2法則により, この回路に流れる電流を \( I \) は次式で与えられることがわかる. \[E= rI + RI \ \to \ I = \frac{E}{r+R} \quad .\notag\]
さて, 可変抵抗 \( R \) の値を内部抵抗 \( r \) の \( k \) 倍の値 \( R=kr \) に設定したとしよう. このとき, 回路に流れる電流 \( I \) は \[\begin{aligned} I &= \frac{E}{r+R} \notag \\ &= \frac{E}{r}\frac{1}{1+k} \notag \end{aligned}\] と表すことができる. したがって, この電源は \( k \) を変数として \( I(k) = \frac{E}{r} \frac{1}{1+k} \) の電流を回路に供給する装置とみなすことができる.
\( I(k) \) の関数形からも明らかなように, \( k \to 0 \) の極限ではこの装置から回路に供給される電流 \( I \) の値が電源の起電力 \( E \) と内部抵抗 \( r \) のみで決まり, 回路に一定の電流を供給する装置だと近似的にみなすことが可能となる. \[\lim_{k \to 0 } I(k) = \lim_{k \to 0 } \frac{E}{r}\frac{1}{1+k} = \frac{E}{r} \quad . \label{Iklim0}\] 式\eqref{Iklim0}において \( k \) が小さいことは, 内部抵抗 \( r \) に対する抵抗 \( R \) の値が小さいことを意味している.
すなわち, \( R \) が \( r \) よりも十分に小さければ, 起電力 \( E \) , 内部抵抗 \( r \) の電源は, 合成抵抗 \( R \) の回路に対して \( I=\frac{E}{r} \) の定電流を供給する電流源と近似的にみなすことができるのである. これが(定)電流源と呼ばれる素子の基本的な概念である.
ここで, 具体的な値として \( E=10^{6}\, \mathrm{V} \) , \( r=10^{6}\, \mathrm{\Omega} \) として, \( k \) を変数とみなした電流 \( I \) の曲線を下図に示した. 下図の横軸は内部抵抗 \( r \) に対する抵抗 \( R \) の比率であり, \( k=10^{-5} \sim 10^{5} \) の広い範囲に渡って図示するために片対数グラフであらわしている.
図からも分かるように, \( k=10^{-3} \) 程度以下では \( I \) の値をほぼ一定のように扱うことができることが分かる.
実際, \( k \) に幾つかの値を代入したものを下表に示す.
\( k \ \qty( R\, [\mathrm{\Omega}] ) \) | \( I\, [\mathrm{A}] \) |
\( 10^{-3}\ \qty( 10^{3} ) \) | \( \approx 9.9900\cdots \times 10^{-1} \) |
\( 10^{-4}\ \qty( 10^{2} ) \) | \( \approx 9.9990\cdots \times 10^{-1} \) |
\( 10^{-5}\ \qty( 10^{1} ) \) | \( \approx 9.9999\cdots \times 10^{-1} \) |
一般に, 測定をどの程度精密に行う必要があるのか, またはどの程度精密に測定できるのかは実験内容や実験装置に依存している. しかし, 電流の測定値として2桁しか必要としないような場合, 上記のいずれの \( k \) であっても \( I \) の測定値として \( 1.0 \, \mathrm{A} \) を得ることになるであろう. 3桁目まで気にするような場合[1]すなわち, 数 \( \% \) 程度の測定精度が必要とされる場合である.でも可変抵抗の値がおよそ \( 10^{3}\, \mathrm{\Omega} \) 以下で変化する間は電流の読みは \( 10.0 \, \mathrm{A} \) として扱うことになる.
再び一般論に戻ろう.
起電力 \( E \) , 内部抵抗 \( r \) の電源は, \( r \) の値がこの電圧源を組み込む先の回路の合成抵抗 \( R \) よりも十分に大きければ, \( R \) の値に関係のない(定)電流源とみなすことができる. したがって, 理想的な電流源の内部抵抗は無限大であるということができる.
電流源を表す記号としては次のようなものが使われている.
理想的でない電流源
以下では, 理想的な電流源の存在を仮定したうえで, 理想的でない電流源をどのように表すのかについて考えることにする.
理想的でない電流源を表現するために, 理想的でない電圧源のときのように内部抵抗を直列接続してみてはどうであろうか. しかし, 理想的な電流源の内部抵抗は無限大であるのだから, そこに抵抗を直列接続してもなんの変化も生じない.
したがって, 理想的な電流源に対して内部抵抗を並列接続したものを理想的でない電流源の表現として用いることになる.
電流源と電圧源の変換
これまでに電源の種類として電圧源と電流源の二つがあることを紹介した. ここではこれらの電源が相互に変換可能であることを示そう.
一般的な(理想的でない)電圧源とは, 内部抵抗 \( r_{e} \) と起電力 \( E \) の理想的な電圧源とが直列接続された回路のことであった. また, 一般的な(理想的でない)電流源とは, 内部抵抗 \( r_{i} \) と電流 \( i \) を供給する理想的な電流源とが並列接続された回路のことであった.
これらをある回路に組み込んだときに, その様相が変わらずに等価である条件を求めればよいのである.
まず, 電圧源(起電力 \( E \) , 内部抵抗 \( R_{e} \) )を接続したことによって抵抗 \( R \) に流れる電流 \( I_{e} \) は次式で与えられる. \[I_{e} = \frac{E}{R+R_{e}} \quad . \label{vsupIe}\] 次に, 電流源(供給電流 \( i \) , 内部抵抗 \( R_{i} \) )を接続したことによって抵抗 \( R \) に流れる電流 \( I_{i} \) は次式で与えられる. \[I_{i} = \frac{R_{i}}{R+R_{i}}i \quad . \label{IsupIi}\] そして, 式\eqref{vsupIe}と式\eqref{IsupIi}は, 次の条件式 \[E=R_{i}\cdot i , \quad R_{e} =R_{i} \notag\] を満たせば, \( I_{e} = I_{i} \) が恒等的に成立することがわかる.
したがって, 起電力 \( E=ri \) の理想的な電圧源と内部抵抗 \( r \) が直列接続された電源は, 電流 \( i \) を供給する理想的な電流源と内部抵抗 \( r \) が並列接続された電源と等価であり, 相互に変換可能である.
脚注
⇡1 | すなわち, 数 \( \% \) 程度の測定精度が必要とされる場合である. |
---|