充電・放電時の, コイルの端子間電圧, コイルを流れる電流, コイルの蓄えるエネルギーは下図のように時間変化する.
指数関数 \( e^{ – \frac{1}{\tau} t } \) における \( \tau \) (タウ)を時定数といい, 指数関数的に変化する物理量の変化速度の指標として用いられる.
自己インダクタンス \( L \) のコイルと抵抗 \( R \) の抵抗素子を直列接続した場合, コイルの充電・放電過程における電流及び電圧の時定数は \( \frac{L}{R} \) で与えられる.
コンデンサでは, 電源から供給されたエネルギーを電場と言う形態で蓄えることができたように[1]これを静電エネルギーと呼んだ., コイルも電源から共有されたエネルギーを磁場という形態で蓄えることができる.
ここでは, コンデンサの充電・放電過程のときと同じく, キルヒホッフの法則と簡単な微分方程式をつかって, コイルの充電・放電の過渡現象について議論する.
なお, 過渡現象の時定数についてはコンデンサの充電・放電過程で詳しく議論しているのでそちらを参照してほしい.
電流の定義とコイルの性質の復習
ある時刻におけるある点の電流とは, その点を通る電荷 \( Q \) の時間微分で与えられるのであった. \[I = \dv{Q}{t} \quad . \notag\] コイルについて, コイルに流れる電流を \( I \) , コイルに固有の自己リアクタンスを \( L \) , コイルによって生じる逆起電力を \( E_{L} \) とすると次式が成立するのであった. \[E_{L} = – L\dv{I}{t} \quad . \notag\] ここで, 負号は電流の変化を妨げる向きに起電力が生じていることを意味している.
コイルの充電
電流の流れていない自己リアクタンス \( L \) のコイル, オームの法則に従う抵抗素子 \( R_{1} \) , \( R_{2} \) , 起電力 \( E \) の直流電圧源およびスイッチ \( S_{1} \) , \( S_{2} \) を下図のように接続して回路を構成する. また, はじめはスイッチ \( S_{1} \) , \( S_{2} \) の両方が開かれていたとする.
上記の回路でスイッチ \( S_{1} \) を閉じることで回路に電流が流れ, その電流によってコイル付近で生じる磁場という形態でコイルはエネルギーを蓄えていくことになる. このような過程をコイルの充電と称する.
さて, スイッチ \( S_{1} \) を閉じた時刻を \( t=0 \) とし, 時刻 \( t(>0) \) においてコイルに流れている電流を \( I=I(t) \) とし, 計算時には電流の正方向を上図に示した向きにとる.
時刻 \( t \) において, 電流 \( I(t) \) とコイルの逆起電力 \( E_{L}(t) \) について次式が成立している. \[E_{L}(t) = – L\dv{I}{t} \quad . \notag\] また, 回路を流れる電流はコイルを流れている電流 \( I \) に等しく, 抵抗 \( R_{1} \) で生じている電位差は \( R_{1}I \) で与えられることになる.
以上より, 与えられた閉回路に対してキルヒホッフの第2法則を適用すると, 任意の時刻において成立する微分方程式 \[E + E_{L} = R_{1}I \ \to \ E – L \dv{I}{t} = R_{1}I \label{CoilDiffI1}\] が得られる. 同じことだが, この式を \[E = R_{1}I + L \dv{I}{t} \quad . \notag\] と書いておくと, コイルは, 電圧降下 \( V= L \dv{I}{t} \) が生じている素子だと読み直すことができる. 以下でコイルの消費電力などを計算するときにはこの \( V \) を用いたほうが符号の間違いなどが減るであろう.
さて, 式\eqref{CoilDiffI1}のような形の微分方程式の解き方はよく知られているので, 式変形を粛々と続けよう.(変数分離形) \[\begin{aligned} & L \dv{I}{t} = – R_{1} \qty( I – \frac{E}{R_{1}} ) \notag \\ \to \ & \frac{1}{\qty( I – \frac{E}{R_{1}} )} \dv{I}{t} = – \frac{R_{1}}{L} \notag \\ \to \ &\int \frac{1}{\qty( I – \frac{E}{R_{1}} )} \dv{I}{t} \dd{t} = – \int \frac{R_{1}}{L} \dd{t} \notag \\ \to \ &\int \frac{1}{\qty( I – \frac{E}{R_{1}} )} \dd{I} = – \int \frac{R_{1}}{L} \dd{t} \notag \\ \to \ & \log_{e}{\abs{I – \frac{E}{R_{1}} }} = – \frac{R_{1}}{L}t + A \quad \qty( A = \mathrm{const.} ) \notag \\ \to \ & \abs{I – \frac{E}{R_{1}} } = e^{ – \frac{R_{1}}{L}t + A } \notag \\ \to \ & I = \pm e^{A} \cdot e^{ – \frac{R_{1}}{L}t} + \frac{E}{R_{1}} \quad . \notag \end{aligned}\] ここで, 定数 \( A^{\prime} \) を \( A^{\prime} \coloneqq \pm e^{A} \) で定義すると, \[I(t) = A^{\prime} e^{ – \frac{R_{1}}{L}t} + \frac{E}{R_{1}} \label{CoilDiffI2}\] となる.
したがって, 式\eqref{CoilDiffI2}に含まれている未知定数 \( A^{\prime} \) を決定することができれば, コイルに流れる電流 \( I \) の時間的な変化を完全に把握することができる.
時刻 \( t= 0 \) においてコイルに電流が流れていなかったという初期条件, \( I(0)=0 \) を用いると, 式\eqref{CoilDiffI2}より, \[\begin{aligned} & I(0) = 0 = A^{\prime} e^{ – \frac{R_{1}}{L}0} + \frac{E}{R_{1}} = A^{\prime} + \frac{E}{R_{1}} \notag \\ \therefore \ & A^{\prime} = – \frac{E}{R_{1}} \quad . \notag \end{aligned}\] 上式で得られた \( A^{\prime} \) を式\eqref{CoilDiffI2}に代入することで, \( I(t) \) の関数として \[\begin{align} I(t) &= – \frac{E}{R_{1}} e^{ – \frac{R_{1}}{L}t} + \frac{E}{R_{1}} \notag \\ &= \frac{E}{R_{1}} \qty( 1 – e^{ – \frac{R_{1}}{L}t} ) \label{COcIt} \end{align}\] が得られた. これより, スイッチ \( S_{1} \) を閉じてから十分な時間が経過したときに回路に流れている電流 \( I_{\infty} \) は \[I_{\infty}=\lim_{t \to \infty} I(t) = \lim_{t \to \infty} \frac{E}{R_{1}} \qty( 1 – e^{ – \frac{R_{1}}{L}t} ) = \frac{E}{R_{1}} \notag\] となることがわかる. これは, コイルをただの導線とみなしてキルヒホッフの第2法則を適用したときに得られる電流値と同じ値となっている.
下図にはコイルに流れる電流 \( I(t) \) の時間変化の様子を示した.
また, コイルによる電圧降下 \( V \) の大きさを知りたければ電流 \( I(t) \) (式\eqref{COcIt})を時間微分して \( L \) を乗じればよく, \[V(t) = L \dv{I}{t} = E e^{ – \frac{R_{1}}{L}t} \label{COcVt}\] で与えられる. したがって, はじめは電圧源の起電力 \( E \) と同じだけの電圧降下を示すが, スイッチ \( S_{1} \) を閉じてから十分な時間が経過したときには \[\lim_{t \to \infty} V(t) = \lim_{t \to \infty} E e^{ – \frac{R_{1}}{L}t} = 0 \notag\] となり, コイルでは電圧降下が生じないことになる.
下図にはコイルによる電圧降下 \( V(t) \) の時間変化の様子を示した.
最後に, コイルに蓄えられるエネルギーの増加量の時間変化について計算しておこう. スイッチ \( S_{1} \) を閉じたあとのコイルに蓄えられるエネルギーの増加量 \( \Delta U \) は, \( t=0 \) から時刻 \( t \) までの間にコイルに供給された電力に等しい. したがって, コイルで生じている電圧降下(式\eqref{COcVt})とコイルに流れる電流(式\eqref{COcIt})との積を積分すればよく, \[\begin{aligned} \Delta U &= \int_{0}^{t} V(t^{\prime}) I(t^{\prime}) \dd{t} \notag \\ &=\int_{0}^{t} E e^{ – \frac{R_{1}}{L}t^{\prime}} \cdot \frac{E}{R_{1}} \qty( 1 – e^{ – \frac{R_{1}}{L}t^{\prime}} ) \dd{t^{\prime}} \notag \\ &=\frac{E^{2}}{R_{1}}\int_{0}^{t} \qty( e^{ – \frac{R_{1}}{L}t^{\prime}} – e^{ – \frac{2R_{1}}{L}t^{\prime}} ) \dd{t^{\prime}} \notag \\ &=\frac{E^{2}}{R_{1}} \qty[ – \frac{L}{R_{1}} \cdot e^{ – \frac{R_{1}}{L}t^{\prime}} + \frac{L}{2R_{1}} e^{ – \frac{2R_{1}}{L}t^{\prime}} ]_{0}^{t} \notag \\ &= \frac{1}{2} L \qty( \frac{E}{R_{1}} )^{2} \qty( e^{ – \frac{2R_{1}}{L}t} -2 e^{ – \frac{R_{1}}{L}t} + 1 ) \notag \end{aligned}\] となる. また, \( \frac{E}{R_{1}} \) はスイッチを閉じてから十分時間が経過したときに回路に流れる電流 \( I_{\infty} \) に等しいことから, \[\therefore \ \Delta U(t) = \frac{1}{2} L I_{\infty}^{2} \qty( e^{ – \frac{2R_{1}}{L}t} -2 e^{ – \frac{R_{1}}{L}t} + 1 ) \notag\] と書くことができる.
下図には, 充電過程におけるコイルの電圧降下 \( V(t) \) , コイルに流れる電流 \( I(t) \) , コイルの蓄えるエネルギーの増加量 \( \Delta U(t) \) の様子を一緒くたに示す[2]ここでは詳しく議論しないが, 充電過程におけるエネルギー収支について簡単に述べておこう. スイッチ \( S_{1} \) … Continue reading.
時定数
コイルの充電(および放電)にもコンデンサの充電・放電過程でも頻出であった指数関数的な現象が多く見られる. そこで, 指数関数的に変化する量の変化の速さを表す指標である時定数を求めておこう.
正の定数を \( \alpha \) として, 指数関数 \( e^{ – \alpha t} \) にしたがって変化するような物理量の時定数 \( \tau \) は \[\alpha \tau = 1 \notag\] で定義される. 式\eqref{COcIt}および式\eqref{COcVt}をみれば, コイルの充電時の電流および電圧降下(逆起電力)の時定数は, \[\tau = \frac{L}{R_{1}} \notag\] であることがわかる.
コイルの放電
コイルの充電のときに用いた回路について引き続き考えることにする.
スイッチ \( S_{1} \) のみを閉じるとコイルの充電が開始されることは既に学んだとおりである. スイッチ \( S_{1} \) を閉じてからある程度時間が経過したのちにスイッチ \( S_{1} \) を開き, 直後にスイッチ \( S_{2} \) を閉じるとコイルに磁場の形態で蓄えられていたエネルギーが徐々に回路に流れこむことになる. このような過程をコイルの放電と称する.
ここでは, 放電時のコイルの挙動について, 充電のときと同じように議論を行う.
さて, スイッチ \( S_{2} \) を閉じた時刻を \( t=0 \) とし, \( t=0 \) においてコイルを流れている電流を \( I_{0} \) [3]もちろん, スイッチ \( S_{1} \) を閉じてから十分な時間が経過した時の \( I_{0} \) の値は, コイルの充電の議論から \[I_{0} = \frac{E}{R_{1}} \notag\] となる. … Continue reading, 時刻 \( t(>0) \) においてコイルに流れる電流を \( I=I(t) \) とし, 電流の正方向を図に示した向きにとる.
放電時の回路に対してキルヒホッフの第2法則を適用すると, 任意の時刻において成立する式 \[0 = R_{2}I + L \dv{I}{t} \quad . \label{CoilDiffI3}\] が得られる. これは式\eqref{CoilDiffI1}の微分方程式において \( E \to 0 \) , \( R_{1} \to R_{2} \) という置き換えを実行したものである.
この微分方程式\eqref{CoilDiffI3}を解く過程はコイルの充電時のそれと同様であるので省略するが, 実際に計算すると放電時のコイルの電流として次式を得る. \[I(t) = A^{\prime \prime} e^{ – \frac{R_{2}}{L}t} \quad . \label{CoilDiffI4}\] ここで, \( A^{\prime \prime} \) は初期条件によって定まる未知定数である.
初期条件より, 時刻 \( t= 0 \) においてコイルを流れる電流 \( I(0) \) は \( I_{0} \) であるので, \[\begin{aligned} & I(0) = I_{0} = A^{\prime \prime} e^{ – \frac{R_{2}}{L}0} = A^{\prime \prime} \notag \\ \therefore \ & A^{\prime \prime} = I_{0} \quad . \notag \end{aligned}\] であり, この \( A^{\prime \prime} \) を式\eqref{CoilDiffI4}に代入することで, \[I(t) = I_{0} e^{ – \frac{R_{2}}{L}t} \label{COdcIt}\] が得られる. これより, スイッチ \( S_{2} \) を閉じてから十分な時間が経過したときにコイルを流れる電流は \[\lim_{t \to \infty} I(t) = \lim_{t \to \infty} I_{0} e^{ – \frac{R_{2}}{L}t} = 0 \notag\] となること, 時定数が \( \frac{L}{R_{2}} \) であることがわかる.
コイルで生じている電圧降下は, 電流 \( I \) の時間微分に \( L \) を乗じればよく, \[V(t) = L\dv{I}{t} = L \cdot \qty( – \frac{R_{2}}{L} ) I_{0} e^{ – \frac{R_{2}}{L}t} = – R_{2} I_{0} e^{ – \frac{R_{2}}{L}t} \label{COdcVt}\] で与えられることになる. ここで, \( V(t)<0 \) であることから, 上図に示した向きとは逆方向に電圧降下が生じていることになる. また, 電流と同様に時定数は \( \frac{L}{R_{2}} \) であることがわかる.
最後に, スイッチを閉じたあとのコイルの蓄えているエネルギーの上昇量 \( \Delta U \) は, コイルの電圧降下(式\eqref{COdcVt})および電流(式\eqref{COdcIt})の積の積分で得られるので, \[\begin{aligned} \Delta U(t) &= \int_{0}^{t} V(t^{\prime})I(t^{\prime}) \dd{t} \notag \\ &= \int_{0}^{t} \qty( -R_{2}I_{0} e^{ – \frac{R_{2}}{L}t^{\prime}} ) \cdot I_{0} e^{ – \frac{R_{2}}{L}t^{\prime}} \dd{t^{\prime}} \notag \\ &= -R_{2}I_{0}^{2} \int_{0}^{t} e^{ – \frac{2R_{2}}{L}t^{\prime}} \dd{t^{\prime}} \notag \\ &= – \frac{1}{2}LI_{0}^{2} \qty( 1 – e^{ – \frac{2R_{2}}{L}t} ) \notag \end{aligned}\] となる. ここで \( \Delta U(t)<0 \) であることから, コイルの放電時にはコイルからエネルギーが回路へと放出されていることがわかる.
脚注
⇡1 | これを静電エネルギーと呼んだ. |
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⇡2 | ここでは詳しく議論しないが, 充電過程におけるエネルギー収支について簡単に述べておこう. スイッチ \( S_{1} \) を閉じてから十分な時間が経過するまでの間に電圧源が回路の供給する電力量は \[\begin{aligned} & \lim_{t \to \infty} \int_{0}^{t} E I(t^{\prime}) \dd{t^{\prime}} = \frac{E^{2}}{R_{1}} \lim_{t \to \infty} \int_{0}^{t} e^{ – \frac{R_{1}}{L}t^{\prime}} \dd{t^{\prime}} \notag \\ &\ = L \qty( \frac{E}{R_{1}} )^{2} \lim_{t \to \infty} \qty( 1 – e^{ – \frac{R_{1}}{L}t} ) \notag \\ &\ = LI_{\infty}^{2} \notag \end{aligned}\] である. 一方, 抵抗で消費されるエネルギーは \[\begin{aligned} & \lim_{t \to \infty} \int_{0}^{t} V(t^{\prime}) I(t^{\prime}) \dd{t^{\prime}} = \frac{E^{2}}{R_{1}} \lim_{t \to \infty} \int_{0}^{t} e^{ – \frac{2R_{1}}{L}t^{\prime}} \dd{t^{\prime}} \notag \\ &\ = \frac{1}{2}L\qty( \frac{E}{R_{1}} )^{2} \lim_{t \to \infty} \qty( 1 – e^{ – \frac{2R_{1}}{L}t} ) \notag \\ &\ = \frac{1}{2}LI_{\infty}^{2} \notag \end{aligned}\] となる. したがって, 電圧源によって供給されたエネルギー \( LI_{\infty}^{2} \) のうち, \( \frac{1}{2}LI_{\infty}^{2} \) は抵抗でジュール熱として消費され, \( \frac{1}{2}LI_{\infty}^{2} \) はコイルに蓄えられることになる. |
⇡3 | もちろん, スイッチ \( S_{1} \) を閉じてから十分な時間が経過した時の \( I_{0} \) の値は, コイルの充電の議論から \[I_{0} = \frac{E}{R_{1}} \notag\] となる. しかし, ここでは議論の一般性を保つために \( I_{0} \) と表記することにする. |