1階微分方程式 \[f(x, y, y^{\prime}) = 0 \notag\] の中でも特に, \( x \) のみの関数 \( P(x) \) と \( y \) のみの関数 \( Q(y) \) を用いて, \[y^{\prime} = P(x) Q(y) \notag\] のように, 導関数 \( y^{\prime} \) が \( P(x) \) と \( Q(y) \) の積として書ける微分方程式を変数分離形の微分方程式という.
たとえば, \[y^{\prime} = xy \notag\] や \[y^{\prime} = – a\qty( y – b ) \qq{ \( a, b \) は定数} \notag\] といった微分方程式は変数分離形であり, 物理でも頻繁に登場する形の微分方程式である.
以下では変数分離形の微分方程式の一般的な解について議論する[1]通常, 微分方程式は必ずしも解けるとは限らない. いや, 解けないものがほとんどである. したがって, … Continue reading. まずは置換積分の考え方を用いて微分方程式を解く. その後, 微分方程式を形式的に変形することで同じ結論が得られる, 物理屋さんがよく用いる手法を紹介する.
置換積分を用いた解法
変数分離形の微分方程式 \[\dv{y}{x} = P(x) Q(y) \label{hensu1}\] について考える.
\( Q(y)=0 \) の場合
微分方程式\eqref{hensu1}において \( Q(y)=0 \) となるような \( y \) の値が \( b \) であり, \[y = b\] という定数関数を考えよう. このとき, \( y^{\prime}=0 \) であるので, \( y=b \) は微分方程式\eqref{hensu1}の解となっている.
\( Q(y)\neq 0 \) の場合
微分方程式\eqref{hensu1}の両辺を \( Q(y) \) で割ると, \[\frac{1}{Q(y)}\dv{y}{x} = P(x) \notag\] となる. この両辺を \( x \) で積分して途中で置換積分の公式を用いると, \[\begin{aligned} & \int \frac{1}{Q(y)} \dv{y}{x} \dd{x} = \int P(x) \dd{x} \notag \\ \to \ & \int \frac{1}{Q(y)} \dd{y} = \int P(x) \dd{x} + C \notag \end{aligned}\] となる. ここで, \( C \) は任意の積分定数である.
したがって, 微分方程式 \[\frac{1}{Q(y)}\dv{y}{x} = P(x) \notag\] の解は \[\int \frac{1}{Q(y)} \dd{y} = \int P(x) \dd{x} + C \label{hensu1kai1}\] となる. この左辺は \( y \) だけの関数, 右辺は \( x \) だけの関数となっており, 変数分離形という名前の由来はココにある.
式\eqref{hensu1kai1}は積分を含んだ式ではあるが, \( y \) の導関数 \( y^{\prime} \) は含まれておらず, 1つの任意定数を含んでいることから1階微分方程式の一般解となっており, 微分方程式\eqref{hensu1}は式\eqref{hensu1kai1}を得た段階で「解けた」ということになる.
補足には, 合成関数の微分を用いた同等の解法を示しておく.
合成関数の微分を用いた解法
\[\frac{1}{Q(y)}\dv{y}{x} = P(x) \notag\] の左辺に関連する事項として \[\begin{aligned} \dv{x} \left\{\int \frac{1}{Q(y)} \dd{y} \right\} &= \dv{y}{x} \dv{y} \left\{\int \frac{1}{Q(y)} \dd{y} \right\} \notag \\ &= \dv{y}{x} \frac{1}{Q(y)} \notag \end{aligned}\] が成立することから, \[\begin{aligned} & \frac{1}{Q(y)}\dv{y}{x} = P(x) \notag \\ \to \ & \dv{x} \left\{\int \frac{1}{Q(y)} \dd{y} \right\} = P(x) \notag \end{aligned}\] と書き換えることができる. この両辺を \( x \) で積分すると, \[\begin{aligned} & \int \dv{x} \left\{\int \frac{1}{Q(y)} \dd{y} \right\} \dd{x} = \int P(x) \dd{x} \notag \\ \therefore \ & \int \frac{1}{Q(y)} \dd{y} = \int P(x) \dd{x} + C \notag \end{aligned}\] が得られる.
普段は本文で紹介したような手法で素早く計算してしまえばよいが, いざというときにはこのような説明も出来るように訓練しておきたいところである.
形式的な式変形による解法
変数分離形の微分方程式 \[\dv{y}{x} = P(x) Q(y) \label{hensu2}\] において, 物理屋がよく用いる形式的な解法について紹介しておこう. それは, \( \dv{y}{x} \) を形式的な分数とみなすものである.
\( \dv{y}{x} \) を \( \dd{y} \div \dd{x} \) とみなせば, 微分方程式\eqref{hensu2}は形式的に \[\frac{1}{Q(y)} \dd{y} = P(x) \dd{x} \notag\] と式変形でき, この両辺をそれぞれ積分することで, \[\int \frac{1}{Q(y)} \dd{y} = \int P(x) \dd{x} + C \notag\] となり, 置換積分を用いた場合と同じ結論を手っ取り早く得ることができる.
変数分離形の微分方程式の具体例
例えば, 次の微分方程式の解について考えてみよう. \[\dv{y}{x} = xy \quad . \label{hensugutairei1}\] これは, 微分方程式\eqref{hensu1}において, \( P(x)=x \) , \( Q(y)=y \) としたものであり, 変数分離形の微分方程式の具体例といえる.
上記の微分方程式を見た瞬間に \( y=0 \) という定数関数が解の一つであることはわかる.
\( y\neq 0 \) の場合には, \[\begin{aligned} & \dv{y}{x} = xy \notag \\ \to \ & \frac{1}{y} \dv{y}{x} = x \notag \\ \to \ & \int \frac{1}{y} \dd{y} = \int x \dd{x} \notag \\ \to \ & \log{\abs{y }} = \frac{1}{2}x^{2} + C_{1} \qq{ \( C \) は任意定数} \notag \\ \to \ & \abs{y } = e^{\frac{1}{2}x^{2} + C_{1}} \notag \\ \to \ & y = \pm e^{C_{1}} e^{\frac{1}{2}x^{2}} \notag \end{aligned}\] ここで, \( \pm e^{C_{1}} \) というのは単なる定数であるので, あたらめて定数を \( C \) と置き換えると, \[y = C e^{\frac{1}{2}x^{2}} \label{hensugutaikai1}\] が得られ, \( y=0 \) という定数関数は解(式\eqref{hensugutaikai1})において \( C=0 \) とした特殊解であることがわかる[2]定数 \( C=\pm e^{C_{1}} \) がゼロであるとは, \[\lim_{C_{1} \to – \infty} \left\{\pm e^{C_{1}} \right\} = 0 \notag \] … Continue reading.
以上より, 微分方程式\eqref{hensugutairei1}の一般解は任意定数を一つ含んだ式\eqref{hensugutaikai1}で与えられることがわかる.
実際, 式\eqref{hensugutaikai1}を \( x \) で微分すると, \[\begin{aligned} \dv{y}{x} &= \dv{x} \left\{C e^{\frac{1}{2} x^{2} } \right\} \notag \\ &= C \dv{x} \qty( \frac{1}{2} x^{2} ) \left\{e^{\frac{1}{2} x^{2} } \right\} \notag \\ &= x C e^{\frac{1}{2} x^{2} } \notag \\ \therefore \ \dv{y}{x} &= x y \notag \end{aligned}\] となり, 微分方程式\eqref{hensugutairei1}が得られることが確認できる.
脚注
⇡1 | 通常, 微分方程式は必ずしも解けるとは限らない. いや, 解けないものがほとんどである. したがって, 現実の問題において知りたい方程式が変数分離形の微分方程式に帰着できたならば「しめた」ものなのである. また, 1階線形微分方程式については解の公式とも言えるものが存在するので, 1階線形微分方程式で詳しく議論する. |
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⇡2 | 定数 \( C=\pm e^{C_{1}} \) がゼロであるとは, \[\lim_{C_{1} \to – \infty} \left\{\pm e^{C_{1}} \right\} = 0 \notag \] という極限を意味していることに注意してほしい. したがって微分方程式 \( y^{\prime}=xy \) の解は, \( y=0 \) と \( y=\pm e^{C_{1}} e^{\frac{1}{2}x^{2}} \) であるのだが, \( C_{1} \) に対する極限操作まで含めて \( y= C e^{\frac{1}{2}x^{2}} \) と記述しているのである. |