微分方程式の解(一般解, 特殊解, 特異解)

微分方程式のと, 解を求めるときに使用する条件にもそれぞれ名前が付いているので紹介しておく.

詳しくは後述するが, 与えられた \( n \) 階微分方程式に対して \( n \) 個の独立な任意定数を含んだ一般解, 一般解の任意定数を固定することで得られる特殊解, 一般解の任意定数をどのように選んでも得られない特異解といった解が存在する.


一般解

関数 \( y \) が \( x \) を独立変数としているとき, \( y \) についての \( n \) 階微分方程式 \[f(x, y, y^{\prime}, y^{\prime \prime}, \cdots , y^{(n)} ) = 0 \notag\] ののうち, \( n \) 個の独立した任意定数を含んだ解を一般解という.

このことを, 2階線形微分方程式 \[y^{\prime \prime} = – \omega^{2} y \label{gsex1}\] を例に考えてみよう. ここで, \( \omega \) は正の定数である.

式\eqref{gsex1}で表される2階微分方程式の一般解は, 2個の任意定数を \( C_{1} \) , \( C_{2} \) として, \[y = C_{1} \sin{\qty( \omega x )} + C_{2} \cos{\qty( \omega x )} \label{gsex1sol}\] であることが知られている.

式\eqref{gsex1sol}が微分方程式\eqref{gsex1}を満たしていることは, 実際に式\eqref{gsex1sol}の第2次導関数を求めることで簡単に確認することができる. \[\begin{aligned} y^{\prime \prime} &= \dv[2]{}{x} \left\{\omega C_{1} \sin{\qty( \omega x )} + C_{2} \cos{\qty( \omega x )} \right\} \notag \\ &= \dv{x} \left\{\omega C_{1} \cos{\qty( \omega x )} – \omega C_{2} \sin{\qty( \omega x )} \right\} \notag \\ &= – \omega^{2} C_{1} \sin{\qty( \omega x )} – \omega^{2} C_{2} \cos{\qty( \omega x )} \notag \\ &= – \omega^{2} y \quad . \notag \end{aligned}\] ここで, 任意定数の数について注意を与える.

たとえば, 次の関数 \[y = C_{1} \sin{\qty( \omega x )} + C_{2} \sin{\qty( \omega x )} \label{gsex1uc}\] も見かけ上は二つの任意定数を含んでいて, かつ, 微分方程式\eqref{gsex1}を満たしているが, \[\begin{aligned} y &= C_{1} \sin{\qty( \omega x )} + C_{2} \sin{\qty( \omega x )} \notag \\ &= \qty( C_{1} + C_{2} ) \sin{\qty( \omega x )} \notag \end{aligned}\] とし, \( C_{1}+C_{2} \) という定数あらたに \( C \) と書けば, \[y = C \sin{\qty( \omega x )} \notag\] のように, 実質的に1個の任意定数で記述することができることから, 式\eqref{gsex1uc}は2階線形微分方程式の一般解足り得ない.

別の注意事項として, 微分方程式の解というのは見かけ上異なることがあることを知っておいてほしい.

実際, 微分方程式 \( y^{\prime \prime} = – \omega^{2} y \) の一般解 \[y = C_{1} \sin{\qty( \omega x )} + C_{2} \cos{\qty( \omega x )} \notag\] において, \[y = \sqrt{C_{1}^{2} + C_{2}^{2} } \left\{\frac{C_{1}}{\sqrt{C_{1}^{2} + C_{2}^{2} }} \sin{\qty( \omega x )} + \frac{C_{2}}{\sqrt{C_{1}^{2} + C_{2}^{2} }} \cos{\qty( \omega x )} \right\} \notag\] とし, 新しい二つの任意定数 \( A \) , \( \alpha \) を \[\begin{aligned} & A \coloneqq \sqrt{C_{1}^{2} + C_{2}^{2} } \notag \\ & \sin{\alpha} \coloneqq \frac{C_{2}}{\sqrt{C_{1}^{2} + C_{2}^{2} }} \ , \quad \cos{\alpha} \coloneqq \frac{C_{1}}{\sqrt{C_{1}^{2} + C_{2}^{2} }} \notag \end{aligned}\] とした, \[y = A \sin{\qty( \omega x + \alpha )} \notag\] も任意定数を二つ含んだ微分方程式\eqref{gsex1}の一般解であることにかわりない.

もしくは, オイラーの公式 \[e^{i\theta} = i\sin{\theta} + \cos{\theta} \notag\] をもちいて, \( \sin{\qty( \omega x )} \) , \( \cos{\qty( \omega x )} \) を \[\sin{\qty( \omega x )} = – i\frac{e^{i \omega x} – e^{- i \omega x} }{2}, \quad \cos{\qty( \omega x )} = \frac{e^{i \omega x} + e^{- i \omega x} }{2} \notag\] のように書き換え, \[\begin{aligned} y &= C_{1} \sin{\qty( \omega x )} + C_{2} \cos{\qty( \omega x )} \notag \\ &= \qty( \frac{-iC_{1}+C_{2}}{2} )e^{i\omega x } + \qty( \frac{iC_{1}+C_{2}}{2} )e^{-i\omega x } \notag \end{aligned}\] において \( \qty( \frac{-iC_{1}+C_{2}}{2} ) \) , \( \qty( \frac{iC_{1}+C_{2}}{2} ) \) をあらためて \( C_{+} \) , \( C_{-} \) と書き換えた式 \[y = C_{+} e^{i\omega x } + C_{-} e^{-i\omega x } \notag\] も2個の任意定数を含んだ2階微分方程式\eqref{gsex1}の一般解と言えるのである.

特殊解

一般解に含まれる任意定数に具体的な値を代入して得られる個々の解を特殊解という.

例えば, 2階線形微分方程式 \[y^{\prime \prime} = – \omega^{2} y \qq{ \( \omega \) は定数} \notag\] の一般解は, \[y = C_{1} \sin{\qty( \omega x )} + C_{2} \cos{\qty( \omega x )} \qq{ \( C_{1}, C_{2} \) は任意定数} \notag\] に対して, \( C_{1}=1 \) , \( C_{2}=10 \) とした \[y = \sin{\qty( \omega x )} + 10 \cos{\qty( \omega x )} \notag\] や, \( C_{1}=0 \) , \( C_{2}=A \) とした \[y = A \cos{\qty( \omega x )} \notag\] は微分方程式 \( y^{\prime \prime} = – \omega^{2} y \) の一般解に具体的な値を代入した特殊解ということになる.

初期条件と境界条件

独立変数がある値をとるときの関数およびその導関数の値が決定されるような条件を初期条件という. 一方, 独立変数の複数の値において, 関数またはその導関数の値が決定されるような条件を境界条件という.

初期条件と境界条件の意味は, 物理と絡めることでより明白となるので, ニュートンの運動の法則を持ちだして考えてみよう.

ニュートンの運動の法則によると, 時間 \( t \) を独立変数として, 地表付近で落下している質量 \( m \) の小物体の位置 \( x \) は \( t \) によって決まる関数である.

空気抵抗が無視できる小物体の運動方程式は, 地表を原点, 鉛直上向きを \( x \) の正方向にとり, 物体の速度 \( v \) が \( v = \dv{x}{t} \) , 物体の加速度 \( a \) が \( a = \dv[2]{x}{t} \) であることを利用すると, \[m \dv[2]{x}{t} = – mg \qq{ \( g \) は重力加速度定数}\] で与えられる. この式は \( x \) についての2階線形微分方程式となっている[1]このように, 高校物理で登場するような単純な力をうける物体の運動方程式を書き下すと \[f(t, x , \dv{x}{t}, \dv[2]{x}{t}) = 0 \notag\] … Continue reading.

この一般解は, \( x \) の導関数である \( \dv{x}{t} \) , \( \dv[2]{x}{t} \) を含まない形で \[x = – \frac{1}{2}gt^{2} + v_{0} t + x_{0} \notag\] と, 二つの任意定数 \( v_{0} \) , \( x_{0} \) を含んだ式となる.

このような運動の問題でよく与えられる条件, 時刻 \( t=0 \) において高さ〇〇におり, 速度は下向きに大きさ〇〇であったは, 独立変数 \( t \) が \( 0 \) という値であった時の \( x \) およびその導関数 \( v=\dv{x}{t} \) の値を指定する条件であるので, 初期条件と呼ばれる.

一方, 時刻 \( t=0 \) において高さ〇〇であり, その後, 時刻 \( t=T \) ではじめて地表とぶつかったという条件は, 独立変数 \( t \) の異なる値における \( x \) を指定しているような条件であるので, 境界条件と呼ばれる.

微分方程式の一般解には任意定数が含まれているので, 適切な数の初期条件や境界条件を与えることでそれらの定数を決定していき, 個々の事象に対する特殊解をみつけていく問題に多く出会うことになる.

特異解

微分方程式の一般解にどのような値を代入しても得ることができないような解のことを特異解という.

たとえば, 1つの任意定数 \( C \) を含んだ式 \[y = \qty( x – C )^{2} \label{tokui1a}\] を一般解に持つような任意定数を含まない1階微分方程式を考えてみよう. これは \[y^{\prime} = 2 \qty( x -C ) \label{tokui1b}\] であることから, 式\eqref{tokui1a}及び式\eqref{tokui1b}より, \[\qty( y^{\prime} )^{2} = 4 y \notag\] となるので, この微分方程式は式\eqref{tokui1a}を一般解に持つ微分方程式であることがわかる.

逆に, 1階非線形微分方程式 \[\qty( y^{\prime} )^{2} = 4 y \label{tokui1de}\] が与えられたとき, その一般解は式\eqref{tokui1a}で与えられるのだが, それとは別に \[y = 0 \label{tokui1detokui}\] という定数関数も明らかに微分方程式\eqref{tokui1de}を満たすであることがわかる. しかし, 一般解(式\eqref{tokui1a})の任意定数 \( C \) にどのような値を代入しても恒等的に \( y=0 \) とはならないので, 定数関数 \( y=0 \) は微分方程式\eqref{tokui1de}の特異解である.

微分方程式によっては一般解に加えて特異解を持つこともあるので, 一般解さえ求めれば解の全てが求められたとは言い切れない. この意味で, 一般解一般は全ての解を含有していることは意味しないことに注意してほしい.

さらに補足しておくと, 上記の例では特異解を簡単に求めることができたが, 一般的な微分方程式においては特異解自身および特異解を持つかどうかの判定は容易ではない.

脚注

脚注
1 このように, 高校物理で登場するような単純な力をうける物体の運動方程式を書き下すと \[f(t, x , \dv{x}{t}, \dv[2]{x}{t}) = 0 \notag\] という微分方程式が得られることがもっぱらである.