クレローの微分方程式

関数 \( y=y(x) \) についてのクレローの微分方程式とは, 次のように書くことが出来る微分方程式のことである. \[y = xy^{\prime} + f(y^{\prime} ) \notag \quad .\]

このクレローの微分方程式特異解を持つ微分方程式であるので, 一般解と特異解それぞれの導出方法を議論する.

また, 一般解と特異解との間には幾何学的なつながりもあるのでこの点についても議論する.


クレローの微分方程式の解

クレローの微分方程式 \[y = xy^{\prime} + f(y^{\prime} ) \label{ClaEq}\] の両辺を微分すると, \[\begin{aligned} & y^{\prime} = y^{\prime} + x y^{\prime \prime} + f^{\prime}(y^{\prime})y^{\prime \prime }\notag \\ \to \ & y^{\prime \prime} \left\{x + f^{\prime}(y^{\prime}) \right\} =0 \notag \end{aligned}\] となる. したがって, クレローの微分方程式を満たすような \( y \) については \[\begin{cases} y^{\prime \prime} = 0 \\ x + f^{\prime}(y^{\prime}) = 0 \end{cases} \notag\] のどちらかは成立していることになる.

\( y^{\prime \prime}=0 \) のとき

クレローの微分方程式を満たす \( y \) のうち, \( y^{\prime \prime}=0 \) が成立する場合には, \[y^{\prime} = C_{1} \notag\] である. この \( y^{\prime} \) をクレローの微分方程式(式\eqref{ClaEq})に代入すると, \[y = C_{1} x + f(C_{1}) \label{ClaKai1}\] と, 任意定数を1個含んだ一般解が得られる.

\( x + f^{\prime}(y^{\prime}) = 0 \) のとき

クレローの微分方程式を満たす \( y \) のうち, \( x + f^{\prime}(y^{\prime}) = 0 \) が成立する場合, すなわち, \[x = – f^{\prime}(y^{\prime}) \notag\] であるとき, \( x \) をクレローの微分方程式(式\eqref{ClaEq})に代入すると, \[y = – f^{\prime}(y^{\prime}) y^{\prime} + f(y^{\prime}) \notag\] となる.

したがって, 次の二つの式 \[\begin{cases} x = – f^{\prime}(y^{\prime}) \\ y = – f^{\prime}(y^{\prime}) y^{\prime} + f(y^{\prime}) \end{cases}\] から \( y^{\prime} \) を消去した曲線が解である. もし \( y^{\prime} \) を上手く消去出来なくとも, \( y^{\prime} \) を媒介変数として上二式で定義された曲線がクレローの微分方程式の解となる.

このように導出された解は任意定数を含んでおらず, 先に得られた一般解(式\eqref{ClaKai1})の任意定数をどのように決めても得られない解なので, 特異解ということになる.

クレローの微分方程式の一般解と特異解との関係

クレローの微分方程式について具体的な問題を考え, クレローの微分方程式の一般解と特異解との間にどんな関係があるのかを紹介しよう.

次のクレローの微分方程式 \[y = x y^{\prime} – \qty( y^{\prime} )^{2} \label{ClaEx1}\] について考える.

\( y^{\prime \prime}=0 \) のとき, クレローの微分方程式の一般解は \[\begin{aligned} y &= C_{1} x + f(C_{1}) \notag \\ &= C_{1} x – C_{1}^{2} \label{ClaEx1ippan} \end{aligned}\] である.

続いて, \( x + f^{\prime}(y^{\prime}) = 0 \) のとき, \[\begin{aligned} x &= – f^{\prime}(y^{\prime}) \notag \\ &= – \dv{x} \left\{ – \qty( y^{\prime} )^{2} \right\} \notag \\ &= 2 y^{\prime} \label{ClaEx1tokuia} \end{aligned}\] であり, この式と与式\eqref{ClaEx1}を用いて \( y^{\prime} \) を消去すると, 特異解を得る. \[\begin{aligned} y &= x y^{\prime} – \qty( y^{\prime} )^{2} \notag \\ &= x \qty( \frac{x}{2} ) – \qty( \frac{x}{2} )^{2} \notag \\ &= \frac{x^{2}}{4} \quad . \label{ClaEx1tokuib} \end{aligned}\]

したがって, クレローの微分方程式 \[y = x y^{\prime} – \qty( y^{\prime} )^{2} \notag\] の一般解は \[y = C_{1} x – C_{1}^{2} ,\] 特異解は \[y = \frac{x^{2}}{4}\] であることがわかった. この一般解の任意定数に適当な値を代入した曲線群と特異解の描く直線を同時に描いたのが下図である.

図を見てもらえば分かるように, クレローの微分方程式の特異解は, 一般解から得られる曲線群の全てとどこかに接点を持つ曲線となっている. このような曲線は包絡線(ほうらくせん)と呼ばれる.