微分方程式を議論するにあたり, 諸君は高校数学程度で扱う微分法及び積分法が使いこなせるものと想定する.
特に, 三角関数及び指数・対数関数が絡む微分・積分については習熟しておいてほしいところである.
まずは導関数の表記を確認し, 微分方程式の分類を紹介しておく.
導関数の表記
以下,関数 \( y \) は(独立)変数 \( x \) によって決まる量であり, \( y=y(x) \) とする. このとき, \[\lim_{\Delta x \to 0} \frac{y(x+\Delta x) – y(x)}{\Delta x } \notag\] で定義される \( y \) の導関数を表す記法は幾つかあり, \[y^{\prime} , y^{(1)}, \dv{y}{x} \notag\] などがある. このうち, 1番目のような記法をラグランジュの記法, 3番目のような記法をライプニッツの記法という.
ライプニッツの記法は分数 \( \dd{y} \div \dd{x} \) のように書き表されているが, 実際には分数ではないことに注意してほしい. ただし, 形式的に分数として扱うことで議論がすっきりするなどの利点があり, 形式的な式変形を用いた議論では大変使い勝手のよい記法となっている.
また, 第2次導関数は \[y^{\prime \prime} , y^{(2)}, \dv[2]{y}{x} \notag\] といった具合であらわし, 第 \( n \) 次導関数は \[y^{\prime \prime \cdots \prime} , y^{(n)}, \dv[n]{y}{x} \notag\] などと書くことにする.
微分方程式
まずは(常)微分方程式と呼ばれるものがどんなものかを説明しておこう.
いま, \( y \) は \( x \) を独立変数とした関数であり, \[y = y (x) \notag\] とする.
このような, \( x \) , \( y \) および \( y \) の導関数 \( y^{\prime}, y^{\prime \prime} , \cdots , y^{(n)} \) を含む \( \qty( n+2 ) \) 個の変数を持つ一般的な方程式 \[f\qty( x, y , y^{\prime}, y^{\prime \prime}, \cdots , y^{(n)} ) = 0 \notag\] を(常)微分方程式という[1]偏微分を含んだものは偏微分方程式という..
そして, 微分方程式を満たすような \( y(x) \) または微分方程式を満たす, \( y \) の導関数を含まないような \( y \) の方程式をもとめることができれば, それらを微分方程式の解という. また, 微分方程式の解をもとめることを微分方程式を解くという.
たとえば, \( x \) の関数 \( P(x) \) と \( y \) の関数 \( Q(y) \) を含んだ微分方程式 \[\dv{y}{x} = P(x) Q(y) \label{kairei1Q}\] を満たす \( y \) を知るためには, \[\int \frac{1}{Q(y)} \dd{y} = \int P(x) \dd{x} + C \qq{ \( C \) は任意定数} \label{kairei1A}\] を計算すれば良いという事実を変数分離形の微分方程式の項目で紹介することになる. 式\eqref{kairei1A}は \( y= \) ◯◯という形に整理されてはいないが, 式\eqref{kairei1A}の微分方程式を満たし, かつ, \( y \) の導関数が含まれていない方程式となっているので, 微分方程式\eqref{kairei1Q}の解と呼ぶのである.
より具体的な微分方程式 \[\dv{y}{x} = – y \notag\] を満たすような \( y \) は \[y=C e^{-x} \qq{ \( C \) は任意定数} \notag\] で与えられる. このように \( y= \) ◯◯の形でこたえることができればそれも微分方程式の解と呼ぶのである[2]
より正確には一般解とよばれるものであるが, ここではその話に踏み込まない..
微分方程式の分類
微分方程式はその方程式が持つ特徴に応じて様々に分類される. ここでは微分方程式に触れ始めた人達が最初に出会うであろう幾つかの基本的な分類とその呼称についてまとめていく.
微分方程式の階数
微分方程式の階数とは, 微分方程式に含まれる導関数の最高階数のことである.
したがって, 微分方程式 \[f(x, y, y^{\prime}, y^{\prime \prime }, \cdots , y^{(n)}) = 0 \notag\] の階数は \( n \) であり, \( n \) 階微分方程式と呼ぶ.
例えば, 微分方程式 \[y^{\prime} = ax + by \notag\] に含まれている導関数の最高階数は, \( y^{\prime} \) の \( 1 \) であるので, 1階微分方程式に分類される.
また, 微分方程式 \[\qty( ay^{\prime \prime \prime} + y )^{2} = by^{\prime \prime} \notag\] に含まれる導関数は \( y^{\prime \prime }, y^{\prime \prime \prime} \) であるので, 3階微分方程式に分類される.
線形微分方程式
与えられた \( n \) 階微分方程式を整理した結果, \( x \) の関数 \( P_{i} = P_{i}(x) \) および \( Q=Q(x) \) をもちいて, \[P_{0} y^{(n)} + P_{1} y^{(n-1)} + P_{2} y^{(n-2)} + \cdots + P_{n-1} y^{(1)} + P_{n} y = Q \quad \qty( P_{0} \neq 0 ) \label{senkeibibunn}\] と, 各導関数の1次式の和に整理できるものを( \( n \) 階)線形微分方程式という.
微分方程式 \[y^{\prime} = ax + by \notag\] は, \( y \) , \( y^{\prime} \) の1次式の和であらわされているので, (1階)線形微分方程式ということになる.
さらに, 微分方程式\eqref{senkeibibunn}において, \( Q(x) \) が恒等的にゼロであるような微分方程式 \[P_{0} y^{(n)} + P_{1} y^{(n-1)} + P_{2} y^{(n-2)} + \cdots + P_{n-1} y^{(1)} + P_{n} y = 0 \notag\] を( \( n \) 階線形)同次方程式と呼ぶ.
これに対比して \( Q \neq 0 \) であるような微分方程式\eqref{senkeibibunn}を( \( n \) 階線形)非同次方程式と呼ぶ.
非線形微分方程式
微分方程式のうち, 線形微分方程式でないものを非線形微分方程式という.
例えば, 微分方程式 \[\qty( ay^{\prime \prime \prime} + y )^{2} – by^{\prime \prime} \notag = 0\] には \( \left\{y^{\prime \prime \prime } \right\}^{2} \) や, \( y^{\prime \prime \prime } \) と \( y \) の積などが含まれており, \( x \) , \( y \) およびその導関数の1次式の和となっておらず, 3階非線形微分方程式ということになる.
一般に, 非線形微分方程式は線形微分方程式に比べて扱いが格段に難しくなることが知られている.