物理の記述試験では、回答者の論理構築過程、最終的な結論等の総合的な能力が試されることになる。これは、回答する側も大変であるが、採点する側にも様々な苦労が伴うこととなる。
ここでは、当サイト管理人の私見や、各予備校における模試の採点基準で謳われている注意事項について述べる。もちろん、実際の試験の採点基準とは異なる部分もあるだろうが、解答作成時又は自己採点時の参考になれば幸いである。
減点ポイント
大前提として、回答者は採点者に優しい回答を心がけること。可読性の低い字では、採点者が識別できない、読み間違えてしまう等、減点・不可(部分点無し)につながることとなる。
添字の間違い、書き忘れ
物理量を表す記号には、添字がついている場合も少なくない。例えば、 \( x_1 \) や \( m_2 \) といった具合である。 これらの添字の書き忘れや付け間違いは、減点・不可につながるであろう。
回答を書いた後には、一度落ち着いて添字までチェックしてほしい。
答えだけの回答
駿台予備学校の大学入試完全対策シリーズ(東大)では、答えだけでも点数を与えるが少しでも間違いがあれば不可という採点基準を採用しているようである。ただし、記述型の問題で論理展開を記述をしないというのは、採点者にとって釈然としないものであるので避けるべきであろう。
近似の不実行
問題文中に近似の条件が示されているにも関わらず、近似を実行していない場合には不可・減点対象であろう。特に、近似結果をその後も使い続ける場合にはほぼ間違いなく不可になるであろう。
問題文中に近似式が与えられていることが多いが、日頃から「Aに対してBは無視できる」とか「十分小さい」などの条件文は見逃さないように注意してほしい。
近似を実行する場合、「近似を行うと」などのことわり文をいれておくのがより良いと思われる。
文字指定にしたがっていない
問題文に「 \( x \) , \( d \) , \( L \) のみを用いて回答せよ」などと指示がある場合、 \( x \) , \( d \) , \( L \) 以外の記号を使った場合には不可となるであろう。回答後に問題文をもう一度読む癖をつけておくことで。このような事態は防ぐことができる。
同様に、問題文中で使用されていない量や記号を、記述の途中で独自に定義した場合、それらが最終的な結果に残らないように注意してほしい。
符号の間違い
計算途中の符号の間違いは減点・不可の対象となるであろう。特に、立式すること自体が目的である問題の場合には物理を正しく記述していないとみなされてしまうので、不可は免れないだろう。
グラフの概形
物理過程をグラフに描画するときには、その曲線の傾きや凹凸をある程度意識したものを書かないと減点の可能性がある。求めた関数が横軸として使用する量にどのように依存しているのを簡単に解析して書き込んでほしい。
また、熱力学分野の \( P-V \) グラフや電磁気分野のコンデンサの充電・放電過程など、教科書や参考書に載っているグラフの概形を頭に入れておくと、グラフ描画の一助となるであろう。日頃から興味をもって眺めておいてほしい。
座標系と物理量の向き
答える物理量が向きを含めて記述する必要がある場合、問題文で座標系の向きの定義が与えられている場合は、それに従う必要がある。また、与えられていない場合には自分で明言しないと減点対象となる可能性がある。
論理
駿台予備学校の大学入試完全対策シリーズ(東大)は、東京大学の物理が全て記述試験の出題形式となっているからであろうか、採点基準に次のような記述がある。
物理学は論理学ではない
<中略 >
部分的に正しい理由から正しい結果が導かれているならば部分的に誤った説明が含まれていても減点しない。
<中略 >
完全に誤った推論により偶然正しい結果が導かれている場合、減点することがある。
要するに、温情得点を与える方向で採点を行うと宣言されているが、これはあくまで独自の基準である。繰り返すが、大学側がどう採点しているかは定かでない。
加点ポイント
記述試験で加点対象となり得る内容について紹介する。記述問題は計算過程が採点者にもわかるように書く必要があるので少しばかり敷居が高くなるが、部分点をもぎ取ることもできる。難易度の高い問題でも下記にあげる事項のうち、取り組めるものは粘り強く取り組んで1点でも高得点となることを目指してほしい。
各軸方向に沿った運動方程式or保存則
運動方程式や、運動量保存則を筆頭とするベクトル量に対して成立する保存則は軸の数だけ立式することができる。それらのうち自明でない式を書くことができれば加点の可能性がある。
自明な場合とは、床に置かれた物体に水平方向の力しか働いていない時には鉛直方向には等速直線運動を行う、などである。この場合は加点対象となりにくいであろう。
また、熱力学では状態方程式と熱力学第1法則のどちらかだけでもきちんと書いておくと加点の可能性があるといった具合に、適用可能な保存則や書き出すことができる条件式を見つけて記述してほしい。
拘束条件や各種の条件式
問題ごとに条件は異なるが、問題に登場する未知数の数を減らすことができる条件式や幾何学的に成立する条件を拘束条件という。この拘束条件を正しく考慮できていれば、加点が期待できる。
波動分野では、「強め合いの条件」などを数式を用いて表しておくことで同等の価値が有るだろう。
ただし、拘束条件を記述したとしても、その条件式がなぜ成立するのかなどを言葉で補足しておくなどしないと、採点者を困惑させてしまうことになりかねないので注意してほしい。
物理の理解
条件式の加点と似た事情であるが、物理が正しく理解できていることが説明文等で採点者に伝わるならば、加点の可能性がある。
グラフの一部
グラフを描かせる問題では、その一部を描いておくことで部分点が得られる可能性もある。
例えば、途中で振動周期が変化する単振動をしている物体の位置の時間推移をグラフとして描かせる問題などでは、途中までのグラフを描くことで加点の可能性がある。また、複数の曲線を描かせる問題では挙動がわかる曲線だけでも描いておくことで加点の可能性がある。
その他
かけ算の順序、数学的同値
位置エネルギーを表す \( mgh \) と \( hmg \) はかけ算の順番こそ違えど、数学的には全く同じ意味を持っていることが明らかである。このような書き方で減点となることはないであろう。現行の高等教育では外積計算は登場しないが、外積計算では積の順序は気にする必要があるので注意してほしい。
実行可能な約分や共通因数で多項式を括るなどをしておいたほうがいいであろう。しかし、共通因数で括らないほうが物理的意味が分かりやすいこともままあり、好みの問題といえる。
例えば、力学的エネルギー \[ \frac{1}{2} m v^2 + mgh \] は、共通因数として \( m \) を持つが、わざわざ \[ m \qty( \frac{1}{2} v^2 + gh ) \] とする必要はないであろう。
ほかにも、抵抗があるときの単振動の運動方程式 \[ m a = -kx – mg \] を、振動中心を分かりやすくするために \[ m a = -k \qty( x + \frac{mg}{k} ) \] と式変形しておくこともままある。書き方を指定されている場合をのぞいて、どちらでも問題ないであろう。
なお、三角関数の公式 \( \sin[2]{\theta} + \cos[2]{\theta} = 1 \) を使って式を整理するなどは、見通しのよさの観点からやっておくほうが無難であろう。
式番号
物理では多数の式を扱うことになる。自分の書いた式に独自に式番号をつけて引用することに全く問題ないし、逆に全ての式に式番号をふる必要もなかろう。
注意することとしては、途中で記述を修正する場合である。この場合、途中の式番号が変わってしまうこともありえるので、自分の答案を採点するつもりでもう一度読み、式番号のズレがないか確認する必要がある。
また、問題側で特定の式に式番号が割り当てられていることもあるで、問題には事前に目を通し、自身が用いる式番号と問題文に登場する式番号とで異なる命名規則になるよう工夫してほしい。
図より
議論の対象としている物理に対して適切な図を描き、「右図より」といった形で回答を補完することは認められるだろう。これはベクトル量の方向が複雑である場合などは採点者に優しいだけでなく、回答者自身の考えを整理することにも役にたつ。
ただし、図を描くときには、原点、各軸を表す物理量などが分かるようにしなければ、採点者が正しく意図をくみとれなくので注意してほしい。これは、試験に限らず、実験結果のレポートなどでも共通することである。
座標系の選択
慣性力の考慮が必要な問題の場合、「〇〇からみた運動方程式」などのことわり文を入れるべきであ。また、「◯◯からみた運動方程式をかけ」などの観測者の指定がない場合には慣性系(地上)からの立式が妥当であろう。
状態の変化を表す記号
ある状態が別の状態に変化するときに「 \( \to \) 」記号を用いる人も多い。記述回答でも許容範囲であろう。
参考にした問題集
入試攻略問題集東京大学理科 2015―物理・化学・生物 (河合塾シリーズ)
入試攻略問題集京都大学理科 2015―物理・化学 (河合塾シリーズ)
CD付東京大学〈理科〉前期日程・上 2016 (大学入試完全対策シリーズ 7)
京都大学〈理系〉前期日程 2016―過去5か年 (大学入試完全対策シリーズ 14)
大阪大学〈理系〉前期日程 2015―過去5か年 (大学入試完全対策シリーズ 17)
東京大学への理科 2016―実戦模試演習 (大学入試完全対策シリーズ)
京都大学への理科 2016―実戦模試演習 (大学入試完全対策シリーズ)
大阪大学への理科 2016―実戦模試演習 (大学入試完全対策シリーズ)