熱力学第0法則

高校物理での議論の対象は()平衡状態についてである. ここではまず熱平衡状態とはどのような状態で, どのようにして実現されるのかについて議論する.

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熱平衡状態
熱力学第0法則
熱平衡の計算


熱平衡状態

熱力学的な系

熱力学の対象となる気体や液体などの特定領域のことをと呼ぶ. 力学では2つの物体からなる系などを考えたが, 熱力学でいうところの系の中には十分にたくさんの粒子(例えば気体分子や液体分子)が存在していることが仮定されている. 

今, 系の中に \(N\) 個の粒子が存在していたとする. このような系について議論しようと思った時, \(N\) 個すべての粒子の運動方程式を解くことは現実気には不可能である[1]. したがって, 力学の発想をそのまま使って多数の粒子が存在しているような系を特徴づけるのは困難である. そこで, 個々の粒子が持っている速度や位置の情報には目を瞑り, 系全体で平均化された情報を用いて系を特徴づけるような試みが必要となる. このような平均化された粒子の特徴が, 我々にとっては温度や圧力といった形で観測されているのである.

これまでに述べてきたことをまとめると, 熱力学は実際には微小的(ミクロ)な粒子の集まりである系の特徴を巨視的(マクロ)な視点で観測した結果を体系的にまとめた学問ということができる.

熱平衡状態

高校物理で扱う熱力学は熱平衡状態という状態にある系に適用できる法則である.

平衡状態とは, ある系のなかからどの部分を取り出しても他の部分を取り出した時と同じ結果が得られるような系の状態である. コップの中に長放置された水などは平衡状態にある系のいい例であり, 系の中のどの部分を眺めても大差ない. しかし, 水の中に絵の具を1滴垂らした時には, 絵の具が徐々に拡散していくので, 系の中に明確な区別が生じてしまっており平衡状態にあるとはいえない. 更に十分な時間が経過すると, 最終的には垂らしたインクと同じ色の一様な水が出来上がり, 再び系のどの部分をみても区別が出来ない系(平衡状態)が出来上がる.

上記は色の違う物質同士を混ぜた時について例示したが, 熱力学で主題となるのは温度の異なる物体である. 色の場合と同様に, 温度の異なる2つの系A( \(T_A \ \mathrm{K}\) )と系B( \(T_B \ \mathrm{K}\) )を下図のように接触させて十分な時間が経過すると, 両者の温度が等しく( \(T'\ \mathrm{K}\))対流のない系となり, それ以上状態が変化しない状態を熱平衡状態という.

熱平衡を表す図

熱力学的な系

熱力学は系に含まれるミクロな粒子の平均化された情報をマクロに観測した結果について議論する.

系の内部に対流などがなく一様で, 系のどの部分をみても区別が出来ないような状態を熱平衡状態という.

熱力学第0法則

熱力学第0法則とは, 系Aと系Bが互いに熱平衡状態であり, 系Aと系Cもまた互いに熱平衡状態であるならば, 系Bと系Cも熱平衡状態である, という法則であり, 熱力学の大前提である. 高校物理では特に説明されることはないが, このような経験的事実の積み重ねで熱力学が構成されていることは知っておいてほしい.

熱力学第0法則

熱力学第0法則 :
系Aと系Bが互いに熱平衡状態であり, 系Aと系Cもまた互いに熱平衡状態であるならば, 系Bと系Cも熱平衡状態である.

熱平衡の計算

異なる物体同士を接触させて十分な時間が経過すると, ある温度を持った別の平衡状態へ収束することを紹介した. この時, 経験的な法則として高温物体側から低温物体側に熱が流れ込むことが知られている[2]. このことについて溶液や個体及びそれらの容器を含んだ系の熱平衡について考える.

相が変化しない場合の熱平衡

容器の熱容量を考慮しない場合

質量 \( m_{1} \) , 比熱 \( c_{1} \) , 温度 \( T_{1} \) の液体 \( 1 \) と質量 \( m_{2} \) , 比熱 \( c_{2} \) , 温度 \( T_{2} ( > T_{1}) \) の液体 \( 2 \) とを混ぜると, 熱のやりとりが行われたのち最終的にある温度 \( T \) になったとする. ただし, 熱のやりとりは両者の間でのみ行われ容器などに熱が逃げていかず, 両者の相が変化しないものとする.

熱の移動は高温物体から低温物体へ自然に移るので, 液体 \( 1 \) から熱が失われてその分の熱を液体 \( 2 \) が獲得することになる.

液体が失った熱量は \( \Delta Q_{1} \)\[\Delta Q_{1} = m_{1} c_{1} \left( T_{1} – T \right)\] , 液体 \( 2 \) が獲得した熱量 \( \Delta Q_{2} \)\[\Delta Q_{2} = m_{2} c_{2} \left( T – T_{2} \right)\] である. これらが等しいことから

\[m_{1} c_{1} \left( T_{1} – T \right) = m_{2} c_{2} \left( T – T_{2} \right)\] が成立する. この式を熱平衡に至ったときの温度 \( T \) について整理すると,

\[T = \frac{ m_{1}c_{1}T_{1}+ m_{2}c_{2}T_{2} }{ m_{1}c_{1} + m_{2}c_{2} }\] であり, 液体 \( 1, 2 \) の熱容量を \( C_{1}, C_{2} \) とすれば,

\[T = \frac{ C_{1}T_{1}+ C_{2}T_{2} }{ C_{1} + C_{2} }\] となる.

容器の熱容量を考慮する場合

熱容量 \( C_1 \) , 温度 \( T_{1} \) の容器に質量 \( m_{2} \) , 比熱 \( c_{2} \) , 温度 \( T_{2} \) の液体を注いで十分な時間が経過し, 平衡状態となったときの温度を \( T \) とする.

\( T_{1} > T_{2} \) の場合に容器の失った熱量は \( C_{1}\left(T_{1} – T\right) \) , 液体の獲得した熱量は \( m_{2}c_{2}\left(T – T_{2}\right) \) である. したがって,

\[C_{1}\left(T_{1} – T\right) = m_{2}c_{2}\left(T – T_{2}\right)\] となる[3]. この式を熱平衡に至ったときの温度 \( T \) について整理すると,

\[T = \frac{ C_{1}T_{1}+ m_{2}c_{2}T_{2} }{ C_{1} + m_{2}c_{2} }\] となり, 容器内の物体の熱容量を \( C_{2} \) とすれば

\[T = \frac{ C_{1}T_{1}+ C_{2}T_{2} }{ C_{1} + C_{2} }\] がまたも成立することになる.

以上をまとめて一般化しておく. 反応の前後で相が変化しないような \( i = 1 \sim N \) 個の物体の熱容量を \( C_{i} \ \left( = m_{i} c_{i} \right) \) , 反応直前の各物体の温度を \( T_{i} \) とすると, 最終的な熱平衡温度 \( T \)\[\begin{aligned} T &= \frac{C_{1}T_{1} + C_{2}T_{2} + \cdots + C_{N}T_{N} }{C_1 + C_2 + \cdots + C_{N} } \\ &= \frac{\sum_{i=1}^{N} C_{i}T_{i} }{ \sum_{i=1}^{N} C_{i} } = \frac{\sum_{i=1}^{N} m_{i}c_{i}T_{i} }{ \sum_{i=1}^{N} m_{i}c_{i} } \end{aligned}\] で求めることができる.

最終的に得られた平衡温度の式は重心の定義式の質量を熱容量に, 位置を温度に, 重心を熱平衡温度に置き換えた式になっている.

相が変化する場合の熱平衡

相が変化している最中の物体は熱量を与えても温度が変わらず, 見た目上では与えた熱量が物体の内部に”潜って”しまっているように見えることから, 相を変化させることに使われる熱量を潜熱という.

潜熱には幾つかの種類があり, 固体が液体になるときの潜熱を融解熱, 液体が気体になるときの潜熱を気化熱, 固体が直接気体になるときの潜熱を昇華熱などという.

高温の水と氷を混ぜた結果, 氷の一部あるいは全てが溶けて水になる場合なども考えられる. このような場合, 相が変化しない, 熱量の受け渡しが等価である式を用いたほうが実践的である.

熱平衡の計算

熱の出入りが二物体(または複数の物体)間で行われる場合, 高温物体の物質が失う熱量は低温物体が獲得する熱量に等しい.

反応の前後で相が変化しないような\( i = 1 \sim N \) 個の各熱容量が \( C_{i} \ \left( = m_{i} c_{i} \right) \) の物体の反応直前の各温度を \( T_{i} \) とすると, 最終的な熱平衡温度 \( T \) は次式で与えられる. \[ T = \frac{\sum_{i=1}^{N} C_{i}T_{i} }{ \sum_{i=1}^{N} C_{i} } \]

物体の相が変化している間は熱を与えても温度が変化せず, その間に吸収される熱を潜熱という. 潜熱には融解熱, 気化熱, 昇華熱などがある.

最終更新日
熱と温度 状態方程式



補足    (↵ 本文へ)
  1. このような系に含まれる \(N\) 個の粒子の完全な情報を得るためには, それぞれの位置座標と速度という6成分の量を知っておく必要があり, ある瞬間の \(6N\) 個の情報を必要とするのである.

  2. この熱の移動における不可逆性は熱力学第2法則という形にまとめられている.

  3. もし \( T_{1} < T_{2} \) の場合であっても容器が獲得する熱量 \( C_{1}\left( T – T_{1}\right) \) と液体が失った熱量 \( m_{2}c_{2}\left(T_{2} – T \right) \) が等しいので, \[\begin{aligned} C_{1}\left(T – T_{1} \right) &= m_{2}c_{2}\left(T_{2} – T \right) \\ \Leftrightarrow \ C_{1}\left(T_{1} – T\right) &= m_{2}c_{2}\left(T – T_{2}\right) \end{aligned}\] が成立する.

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