理想気体の状態方程式

高校物理の熱力学では, 気体が封入された系に対して様々な操作を加えてその状態を変化させる.

このとき議論の対象となる気体は, 実在の気体よりも振る舞いが単純化された気体であり, 理想気体と呼ばれる[1]では, 実在の気体をどのように記述する試みがあるのかについては, ファン・デル・ワールスの状態方程式で議論する..

ここでは, 理想気体の振る舞いを決定する理想気体の状態方程式を導くとともに, 具体的な値を決定するときに必要となる理想気体の気体定数を実験による測定値をもとに与える.


状態方程式

ボイル・シャルルの法則で述べたように, 比較的低圧・高温状況下で熱平衡状態にある気体の圧力 \( P \) , 体積 \( V \) , 温度 \( T \) は次の関係式を満たす. \[\frac{PV}{T} = \mathrm{const.} \quad . \label{bc}\]

また, 一定の圧力・温度の気体のある体積中に含まれる粒子数は気体の種類によらず一定であるというアボガドロの法則により, 物質量 \( n \, [\mathrm{mol}] \) の気体の体積 \( V \) は, \( 1 \, \mathrm{mol} \) あたりの気体の体積を \( v \) とすると次式が成立する [2]ここで注意してほしいのは, \( v \) は単位モルあたりの体積であり, \( V \) の単位が \( \mathrm{m}^{3} \) の場合には, \( v \) の単位は \( … Continue reading. \[V = n v \quad . \label{avo_Vnv}\]

そして, 式\eqref{avo_Vnv}を式\eqref{bc}に代入したボイル・シャルルの法則 \[\frac{PV}{T} = n\frac{Pv}{T} \label{bc2}\] に対して, \( P = 1.01325 \times 10^{5} \, \mathrm{Pa} \) , \( T = 273.15 \, \mathrm{K} \) に保たれた \( 1\,\mathrm{mol} \) の気体の体積が \( 22.414\times10^{-3}\,\mathrm{m^3} \) である( \( v = 22.414\times10^{-3}\,\mathrm{m^3/mol} \) )という実験事実を用いると, \[\begin{aligned} \frac{PV}{T} & = n \frac{Pv}{T} \\ & = n \cdot \frac{1.01325\times10^{5}\,\mathrm{N/m^2} \cdot 22.414\times10^{-3}\,\mathrm{m^3/mol}}{273.15\,\mathrm{K}} \\ \therefore \ \frac{PV}{nT} & = 8.3145\,\mathrm{J/K \cdot mol} \quad . \end{aligned}\] が成立する. この定数を(理想気体の)気体定数といい, 記号 \( R \) で表す.

以上より, 比較的低圧・高温の状況下で, 圧力 \( P \) , 体積 \( V \) , 物質量 \( n \) , 温度 \( T \) の気体について次式が成立している. \[PV = nRT \quad . \label{PVNRT}\]

一般に, 熱平衡状態のある物質量の気体の圧力 \( P \) , 体積 \( V \) , 温度 \( T \) に対して成立する関係式 \[f(P, V, T ) = 0\] を状態方程式といい, 先に導出した式\eqref{PVNRT}はまさしく状態方程式である.

理想気体

状態方程式\eqref{PVNRT}はボイル・シャルルの法則, アボガドロの法則をもとに導出された.

しかし, ボイル・シャルルの法則は比較的低圧・高温状況下の気体に対する観測事実から得られた近似的な法則であった. したがって, 実在する気体の状態方程式は必ずしも式\eqref{PVNRT}のような簡潔な関係式とはなっていないことが知られている.

高校物理では, 実在の気体の特徴をより抽出した理論の学習に移行することはせず, 常に式\eqref{PVNRT}の状態方程式が成立している仮想的な気体である理想気体についてのみ取り扱い, 式\eqref{PVNRT}を理想気体の状態方程式という.

実在気体の状態方程式が式\eqref{PVNRT}からずれる理由は次のとおりである.

気体を構成する各分子の間には分子間力(ファン・デル・ワールス力)という比較的束縛力が弱い力が働いており, 気体分子の大きさもゼロでなく, しかも気体の種類によって異なる. これら二つの特徴が顕著となるのは気体を構成する各粒子の距離が短い状態が長く実現する状態である.

気体分子運動論で明らかになるように, 気体が高圧・低温であることは粒子が密集した状況に対応しており, ボイル・シャルルの法則が成立しないため, 実在気体には式を適用することができないのである.

このような, 実在気体はファン・デル・ワールス気体などと呼ばれ, 理想気体とは区別して扱われる. 当サイトにおいてはファン・デル・ワールスの状態方程式で議論する.

小括:理想気体の状態方程式

物質量 \( n \) , 圧力 \( P \) , 体積 \( V \) , 温度 \( T \) の理想気体について, 次式の理想気体の状態方程式が成立する. \[PV = nRT \notag \] ここで, \( R = 8.3145\,\mathrm{J/K \cdot mol} \) は理想気体の気体定数である.

脚注

脚注
1 では, 実在の気体をどのように記述する試みがあるのかについては, ファン・デル・ワールスの状態方程式で議論する.
2 ここで注意してほしいのは, \( v \) は単位モルあたりの体積であり, \( V \) の単位が \( \mathrm{m}^{3} \) の場合には, \( v \) の単位は \( \mathrm{m}^{3}/\mathrm{mol} \) である.