公式のまとめ-熱力学篇-

熱学

セルシウス温度と絶対温度

絶対温度 \( T\, [\mathrm{K}] \) とセルシウス温度 \( t\, [{}^{\circ}\mathrm{C}] \) は同じ温度間隔をもっており, 次式のような関係にある. \[ T = t + 273.15 \quad . \] \( 0\, \mathrm{K} = – 273.15\, \mathrm{{}^{\circ}C} \) を絶対零度という.

熱容量と比熱

温度変化による体積の変化が無視できるような場合, 吸収[放出]した熱量を \( \Delta Q\, [\mathrm{J}] \) , 温度の上昇量[減少量]を \( \Delta T\, [\mathrm{K}] \) とすると次式が成立する. \[ \begin{aligned} \Delta Q &= m c \Delta T \\ \Delta Q &= C \Delta T \quad \qty( C \coloneqq mc ) \end{aligned} \] ここで, \( m \) は質量, \( c \) は物体の比熱, \( C \) は物体の熱容量をあらわす.

物体同士の接触

温度の異なる2つの物体を接触させて十分な時間が経過すると熱平衡状態となる.

物体1の温度を \( t_{1}\, [\mathrm{{}^{\circ}C}] \) , 熱容量を \( C_{1}\, [\mathrm{J/K}] \) , 比熱を \( c_{1}\, [\mathrm{J/\qty( C \cdot kg )}] \) , 質量を \( m_{1}\, [\mathrm{kg}] \) , 物体2の温度を \( t_{2}\, [\mathrm{{}^{\circ}C}] \) , 熱容量を \( C_{2}\, [\mathrm{J/K}] \) , 比熱を \( c_{2}\, [\mathrm{J/\qty( C \cdot kg )}] \) , 質量を \( m_{2}\, [\mathrm{kg}] \) とする.

これらの物体を接触させて十分な時間が経過した後の熱平衡状態の温度を \( t\,[\mathrm{{}^{\circ}C}] \) とすると, \( t_{2} > t > t_{1} \) が成立する.

熱平衡状態になるまでの間, 熱の受け渡しはこの物体間のみで行われているとすると, 物体2が失った熱量 \( \Delta Q_{2} \) は物体1が得た熱量 \( \Delta Q_{1} \) と等しく, 次式が成立する. \[ \Delta Q_{1} = \Delta Q_{2} \quad . \] 熱容量を用いて次のように表現される. \[ \begin{aligned} & \left\{\begin{aligned} \Delta Q_{1} &= C_{1} \qty( t – t_{1} ) \\ \Delta Q_{2} &= C_{2} \qty( t_{2} – t ) \end{aligned} \right. \\ & C_{1} \qty( t – t_{1} ) = C_{2} \qty( t_{2} – t ) \\ \iff \ & C_{1} \qty( t – t_{1} ) + C_{2} \qty( t – t_{2} ) =0 \quad . \end{aligned} \] また, 比熱を用いて次のように表現される. \[ \begin{aligned} & m_{1} c_{1} \qty( t – t_{1} ) = m_{2} C_{2} \qty( t_{2} – t ) \\ \iff \ & m_{1} c_{1} \qty( t – t_{1} ) + m_{2} C_{2} \qty( t – t_{2} ) = 0 \end{aligned} \]

熱平衡と重心の類似

反応の前後で相が変化しないような \( N \) 個の物体の熱容量を \( C_{i} (=m_{i}c_{i}) \) , 反応直前の各物体の温度を \( T_{i}\,[\mathrm{K}] \) とすると, 最終的な熱平衡温度 \( T\,[\mathrm{K}] \) は \[ \begin{aligned} T &= \frac{C_{1}T_{1} + C_{2} T_{2} + \cdots + C_{N}T_{N} }{C_{1} + C_{2} + \cdots + C_{N} } \\ &= \frac{\sum_{i=1}^{N} C_{i}T_{i}}{\sum_{i=1}^{N} C_{i}} \end{aligned} \] で求めることができる. この式は重心の定義式において質量を熱容量 \( C \) に, 座標を温度 \( T \) に置き換えた式となっている.

潜熱

固体が液体へ変わり始める温度を融点, 液体が気体へ変わり始める温度を沸点という.

融点または沸点に達した物体に熱を与えてもしばらくは相が変化するために熱が消費され, 物体の温度が変化しない.

ある物体が固体から液体へと変化するのに必要な(単位質量あたりの)熱量を融解熱, 液体から気体へと変化するのに必要な(単位質量あたりの)熱量を気化熱という.

融点[沸点]に到達後に物体与えた熱量 \( \Delta Q \) がその物体の相が完全に変化するのに必要な熱量 \( \Delta Q^{\prime } \) よりも小さい場合( \( \Delta Q < \Delta Q^{\prime } \) )には, 物体の一部のみの相が変化した状態となる.

理想気体の状態方程式

ボイルの法則, シャルルの法則

気体の圧力が十分に低い場合, 気体の種類に関係なく次の2つの法則, ボイルの法則, シャルルの法則が成立する.

ボイルの法則とは, 温度 \( T \) を一定に保つと, 気体の圧力 \( P \) と体積 \( V \) の間に次式が成立することである. \[ PV = \mathrm{const.} \quad . \] 圧力 \( P \) を一定に保って温度を上昇させていくと, \( 1\,[\mathrm{{}^{\circ}C}] \) 上昇するごとに体積が \( \displaystyle{\frac{1}{273.15}V_{0}} \) だけ膨張することが知られている. ここで, \( V_{0} \) は \( 0\,[\mathrm{{}^{\circ}C}] \) における体積である.

したがって, \( t\,[\mathrm{{}^{\circ}C}] \) における体積を \( V(t) \) とすると, \[ \begin{aligned} V(t) &= V_{0} \qty( 1 + \frac{t}{273.15} ) \\ \frac{V(t)}{273.15 + t} &= \frac{V_{0}}{273.15} \quad \qty( = \frac{V_{0}}{273.15+0} ) \end{aligned} \] が成立し, シャルルの法則またはゲイ-リュサックの法則という.

シャルルの法則は絶対温度 \( T = t + 273.15 \) を用いると, 次式が成立することを意味する. \[ \frac{V}{T} = \mathrm{const.} \]

ボイル-シャルルの法則と理想気体の状態方程式

ボイルの法則とシャルルの法則とを合わせると, 圧力 \( P \) , 体積 \( V \) , (絶対)温度 \( T \) との間に次の関係式が成立する. \[ PV = \qty( \mathrm{const.} ) \times T \] この式をボイル-シャルルの法則という.

\( 0\,\mathrm{{}^{\circ}} \) , \( 1\,\mathrm{mol} \) の気体( \( 22.4\, \mathrm{L} = 22.4 \times 10^{-3}\,\mathrm{m^{3}} \) )について \[ \begin{aligned} \frac{PV}{T} &= \frac{\qty( 1.013 \times 10^{5}\,\mathrm{Pa} ) \cdot \qty( 22.4 \times 10^{-3} \,\mathrm{m^{3}} )}{273.15\,\mathrm{K}} \\ & = 8.31 \, \mathrm{J/ K} \end{aligned} \] が成立し, 気体定数 \( R \) を \( R = 8.31 \, \mathrm{J/ \qty( mol \cdot K )} \) とすると, \[ PV = nRT \] が成立し, この式が常に成立する気体を理想気体という.

理想気体の状態方程式は次式で与えられる. \[ PV = nRT \] 現実の気体も希薄な場合には理想気体に近似することができる.

ファン・デル・ワールスの状態方程式

理想気体の状態方程式を現実の気体に適用するための近似式としての状態方程式, ファン・デル・ワールスの状態方程式が知られている. \[ \qty( P + \frac{an^2}{V^2} ) \qty( V – bn )=nRT \] ここで, 定数 \( a \) や定数 \( b \) は分子間に働く引力や粒子の大きさによって決まる.

気体分子運動論

気体分子運動論

一辺が \( L \) の立方体内部に存在する一つの粒子が壁面との(完全)弾性衝突によって, 壁面に加えられた力積の \( x \) 成分 \( I_{x} \) は, 1回の衝突につき \[ I_{x} = \abs{mv_{x} – \qty( -mv_{x} ) } = 2mv_{x} \quad . \] 粒子が同じ壁面に衝突するのにかかる時間 \( T \) は \[ T = \frac{2L}{v_{x}} \quad . \] \( 1\,\mathrm{s} \) 間に衝突する回数は \[ \frac{1}{T} = \frac{v_{x}}{2L} \quad . \] \( \Delta t\, \mathrm{s} \) の間に粒子が壁面へ与える力積の大きさは \[ I_{x} \cdot \frac{1}{T} \cdot \Delta t = \frac{mv_{x}^{2}}{L} \Delta t \quad . \] 一方, \( \Delta t\, \mathrm{s} \) の間に粒子が壁面へ与える力積の大きさは力 \( F_{x} \) と微小時間 \( \Delta t \) の積であることから, \[ \begin{aligned} & \frac{mv_{x}^{2}}{L} \Delta t = F_{x} \Delta t \\ & \to \ F_{x} = \frac{mv_{x}^{2}}{L} \end{aligned} \] 立方体内部に \( N \) 個の粒子が存在すると, 全粒子が壁面に加えている平均の力 \( \overline{F_{x}} \) は, \( v_{x}^{2} \) を平均値 \( \overline{v_{x}^{2}} \) に置き換えて, \[ \overline{F_{x}} = N \cdot \frac{m\overline{v_{x}^{2}}}{L} \] ここで, 気体運動の等方性を利用し, \[ \begin{aligned} & \left\{\begin{aligned} & \overline{v_{x}^{2}} = \overline{v_{y}^{2}} =\overline{v_{z}^{2}} \\ & \overline{v^{2}} = \overline{v_{x}^{2}} + \overline{v_{y}^{2}} + \overline{v_{z}^{2}} \end{aligned} \right. \\ & \to \ \overline{v_{x}^{2}} = \overline{v_{y}^{2}} =\overline{v_{z}^{2}} =\frac{1}{3}\overline{v^{2}} \end{aligned} \] であるので, \[ \overline{F_{x}} = N \cdot \frac{m\overline{v^{2}}}{3L} \quad . \] 壁面に単位面積あたりに加えられる力の大きさ, すなわち圧力 \( P \) は \[ \begin{aligned} P &= \frac{\overline{F_{x}} }{L^2} \\ &= \frac{Nm\overline{v^{2}}}{3L^3} \\ \therefore P &= \frac{Nm\overline{v^{2}}}{3V} \quad . \end{aligned} \] \( n\,[\mathrm{mol}] \) の気体に含まれる粒子数 \( N \) はアボガドロ数 \( N_{A} \) を用いて \( N=nN_{A} \) であること, 理想気体の状態方程式 \( PV=nRT \) を用いると, 一つの粒子の運動エネルギーの平均値は温度のみの関数として表すことができる. \[ \begin{aligned} \frac{1}{2}m\overline{v^{2}} &= \frac{3}{2} \frac{PV}{N} = \frac{3}{2} \frac{nRT}{nN_{A}} \\ &= \frac{3}{2} \frac{R}{N_{A}} T \\ \therefore \ \frac{1}{2}m\overline{v^{2}} &= \frac{3}{2} k T \quad \qty( k \coloneqq \frac{R}{N_{A}} ) \end{aligned} \] ここで定数 \( \displaystyle{k \coloneqq \frac{R}{N_{A}} = 1.38 \times 10^{-23}\,\mathrm{J/K}} \) をボルツマン定数という.

また, 速度の2乗平均の平方根は次式であらわされる. \[ \begin{aligned} \sqrt{\overline{v^{2}}} &= \sqrt{\frac{3kT}{m}} \\ &= \sqrt{\frac{3RT}{mN_{A}}} \\ &= \sqrt{\frac{3RT}{M}} \quad \qty( M \coloneqq mN_{A} ) \end{aligned} \] ここで, \( M\coloneqq mN_{A} \) はモル質量である.

内部エネルギー

現実的な気体が持つ内部エネルギーは構成粒子の持つ微視的なエネルギーの総和であるが, 理想気体の場合には分子間の引力などを無視することができる. 理想気体の内部エネルギーは温度のみに依存し, 定積モル比熱 \( C_{v} \) を用いて次式で与えられる. \[ U = n C_{v} T \quad . \] 定積モル比熱 \( C_{v}\,[\mathrm{J/\qty( mol \cdot K )}] \) の理想気体が温度 \( T_{1}\,[\mathrm{K}] \) から温度 \( T_{2}\,[\mathrm{K}] \) へ変化した時の内部エネルギーの変化量 \( \Delta U \) は温度の変化量 \( \Delta T \) のみに依存する. \[ \begin{aligned} \left\{\begin{aligned} \Delta T = T_{2} – T_{1} \\ \Delta U = n C_{v} \Delta T \end{aligned} \right. \end{aligned} \]

単原子分子理想気体の場合

単原子分子理想気体の場合, 定積モル比熱は \( C_{v}=\frac{3}{2}R \) であり, \[ \begin{aligned} \Delta U &= n C_{v} \Delta T \\ &= \frac{3}{2} nR\Delta T \quad . \end{aligned} \]

二原子分子理想気体の場合

常温程度の二原子分子理想気体の場合, 定積モル比熱は \( C_{v}=\frac{5}{2}R \) であり, \[ \begin{aligned} \Delta U &= n C_{v} \Delta T \\ &= \frac{5}{2}nR\Delta T \quad . \end{aligned} \] 高温の場合, 定積モル比熱は \( C_{v}=\frac{7}{2}R \) であり, \[ \begin{aligned} \Delta U &= n C_{v} \Delta T \\ &= \frac{7}{2}nR\Delta T \quad . \end{aligned} \]

熱力学第1法則

ある系が吸収した熱量を \( Q \) , 内部エネルギーの上昇量を \( \Delta U \) , 気体が外部にした仕事を \( W \) とすると, 熱力学第1法則 \[ Q = \Delta U + W \] が成立する. 熱力学第1法則は様々な記号の定義がされているので, 熱力学第1法則が与えられたときには各記号がどのような定義であるのかに注意してほしい.

『高校物理の備忘録』では主に, 吸収した微小な熱量を \( \dd{Q} \) , 内部エネルギーの上昇の微小量を \( \dd{U} \) , 気体が外部にした微小な仕事を \( \dd{W} \) として, 微小量に対する熱力学第1法則 \[ \dd{Q} = \dd{U} + \dd{W} \] の形で議論している[1]微小量について成立する熱力学第1法則を \[ {\dd}^{\prime} Q = \dd{U} + {\dd}^{\prime}W \] と書く方法も一般的である. 記号 \( {\dd}^{\prime} \) は熱量 \( Q \) や仕事 … Continue reading.

気体のする仕事

圧力 \( P \) の気体が外部にする仕事 \( W \) は圧力による力 \( F \) の加えられている面積を \( S \) として, \[ \begin{aligned} W &= \int \dd{W}= \int F \dd{x}\\ &= \int \frac{F}{S} \dd{V}= \int P \dd{V}\end{aligned} \] で与えられる.

理想気体の状態変化

マイヤーの式

理想気体の定積モル比熱 \( C_{v} \) と定圧モル比熱 \( C_{p} \) との間にマイヤーの式が成立する. \[ C_{p} = C_{v} + R \]

等温変化

準静的な等温変化 \( \qty( P, V, T ) \to \qty( P^{\prime }, V^{\prime }, T ) \) について, 各量は状態方程式と熱力学第一法則により次のように計算される.

内部エネルギーの上昇量: \[ U = \int \dd{U} = 0 \] 外部へした仕事: \[ \begin{aligned} W &= \int P \dd{V} = \int \frac{nRT}{V} \dd{V} \\ &= nRT \log{\qty( \frac{V^{\prime }}{V} )} \end{aligned} \] 吸収した熱量: \[ Q = W = nRT \log{\qty( \frac{V^{\prime }}{V} )} \]

定圧変化

準静的な定圧変化 \( \qty( P, V, T ) \to \qty( P, V^{\prime }, T^{\prime } ) \) について, 各量は状態方程式と熱力学第一法則により次のように計算される.

内部エネルギーの上昇量: \[ \begin{aligned} U &= \int \dd{U} =\int n C_{v} \dd{T}\\ &= nC_{v} \qty( T^{\prime } – T ) \end{aligned} \] 外部へした仕事: \[ W = \int P \dd{V} = P \qty( V^{\prime } – V ) \] 吸収した熱量: \[ \begin{aligned} Q &= U + W \\ &= nC_{v} \qty( T^{\prime } – T ) + P \qty( V^{\prime } – V ) \\ &= n \qty( C_{v} + R ) \qty( T^{\prime } – T ) \end{aligned} \] また, 定圧変化における吸熱量は定圧モル比熱を用いて \[ Q = n C_{p} \qty( T^{\prime } – T ) \] と表されるはずであり, 上記の2通りの方法で求めた吸熱量が等しいことからマイヤーの式が導かれている.

定積変化

準静的な定積変化 \( \qty( P, V, T ) \to \qty( P^{\prime }, V, T^{\prime } ) \) について, 各量は状態方程式と熱力学第一法則により次のように計算される.

内部エネルギーの上昇量: \[ \begin{aligned} U &= \int \dd{U} =\int n C_{v} \dd{T}\\ &= nC_{v} \qty( T^{\prime } – T ) \end{aligned} \] 外部へした仕事: \[ W = 0 \] 吸収した熱量: \[ Q = U = nC_{v} \qty( T^{\prime } – T ) \]

断熱変化

準静的な断熱変化 \( \qty( P, V, T ) \to \qty( P^{\prime }, V^{\prime }, T^{\prime } ) \) について,各量は状態方程式と熱力学第一法則により次のように計算される.

吸収した熱量: \[ Q = 0 \] 内部エネルギーの微小な上昇量: \[ \begin{aligned} \dd{U} = n C_{v} \dd{T}\end{aligned} \] 外部へした微小な仕事: \[ \dd{W} = P \dd{V} \] 熱力学第一法則より, \[ \dd{U} = – \dd{W} \ \iff \ n C_{v} \dd{T}= – P \dd{V} \] また, 理想気体の微小な状態変化 \( \qty( P, V, T ) \) \( \to \) \( \qty( P+\dd{P}, V+ \dd{V}, T+ \dd{T} ) \) について次式が成立する. \[ P \dd{V} +V \dd{P} =nR \dd{T} \] 以上より, \[ \begin{aligned} & \left\{\begin{aligned} & n C_{v} \dd{T}= – P \dd{V} \\ & P \dd{V} +V \dd{P} =nR \dd{T} \end{aligned} \right. \\ & \to P \qty( \frac{C_{v} + R }{C_{v} } ) \dd{V} + V \dd{P} =0 \end{aligned} \] ここで, 比熱比 \( \gamma \) を \[ \gamma \coloneqq \frac{C_{p}}{C_{v}} =\frac{C_{v} + R}{C_{v}} \] で定義すると, \[ \begin{aligned} & P\gamma , \dd{V} + V\dd{P}=0 \\ \underbrace{\to}_{\frac{1}{PV}\text{倍}} & \gamma \frac{dV}{V} + \frac{dP}{P} = 0 \quad . \end{aligned} \] 積分すると, \[ \begin{aligned} & \int \gamma \frac{dV}{V} + \int \frac{dP}{P} \\ =& \gamma \log{V} +\log{P} = \mathrm{const.} \\ \to \ & \log{PV^{\gamma}} = \mathrm{const.} \\ \to \ & PV^{\gamma} = \mathrm{const.} \end{aligned} \] したがって, 準静的な断熱変化においてはポアソンの関係式 \[ PV^{\gamma} = \mathrm{const.} \] が成立する. ポアソンの関係式と等温変化で成立する関係式 \( PV=\mathrm{const.} \) を見比べると, 断熱変化の方が \( V \) 依存性が大きく, \( P \) – \( V \) グラフ上では等温変化に比べて急な傾きを持つことがわかる.

ポアソンの公式と状態方程式を組み合わせるといくつかの同等の表現が可能である. \[ \begin{aligned} &PV^{\gamma} = \mathrm{const.} \\ \iff \ &TV^{\gamma-1} = \mathrm{const.} \\ \iff \ &TP^{\frac{1 – \gamma}{\gamma}} = \mathrm{const.} \end{aligned} \] ポアソンの公式を用いると, 断熱変化による仕事を直接計算することができる. \[ \begin{aligned} W &= \int_{V}^{V^{\prime }} p \dd{V} = pV^{\gamma} \int_{V}^{V^{\prime }}V^{ – \gamma} \dd{V} \\ &= \frac{nRT}{\gamma -1 } \left\{1 – \qty( \frac{V}{V^{\prime }} )^{\gamma-1}\right\} \\ &= \frac{nRT}{\gamma -1 } \left\{1 – \qty( \frac{P^{\prime }}{P} )^{\frac{\gamma-1}{\gamma}}\right\} \\ &= \frac{nRT}{\gamma -1 } \left\{1 – \qty( \frac{T^{\prime }}{T} )\right\} \\ \end{aligned} \]

断熱自由膨張

断熱自由膨張では系が仕事をせず( \( \dd{W}=0 \) ), 吸熱/放熱量もゼロ( \( \dd{Q}=0 \) )であるので, 熱力学第1法則より系の内部エネルギー(温度)は上昇しない( \( \dd{U}=0 \) ) .

熱効率

正味の仕事

\( P \) – \( V \) グラフ上の閉曲線 \( C \) が囲う面積は系が外部へ行った正味の仕事量 \( W_{\mathrm{net}} \) をあらわす. \[ W_{\mathrm{net}} = \oint \dd{W} = \oint p \dd{V} \]

熱効率

系がサイクルを一周する間, 実際に外部から吸収した熱量の総和が \( Q_{\mathrm{abs}} \) , 正味の仕事が \( W_{\mathrm{net}} \) の時, 熱効率 \( \eta \) (イータ)を次式で定義する. \[ \eta = \frac{W_{\mathrm{net}}}{Q_{\mathrm{abs}}} \]

脚注

脚注
1 微小量について成立する熱力学第1法則を \[ {\dd}^{\prime} Q = \dd{U} + {\dd}^{\prime}W \] と書く方法も一般的である. 記号 \( {\dd}^{\prime} \) は熱量 \( Q \) や仕事 \( W \) が系が吸収・放出するエネルギーの形態を表す量であることを意味しており, 系自体が持っている状態を表す量( \( P \) , \( V \) , \( T \) など)で決まる内部エネルギー \( U \) とは物理的な性質が異なることを強調する時に用いられる. これは, 内部エネルギーが始状態と終状態で決まる量であるのに対して, 熱や仕事はその経路によって変化することを区別していると考えてもよい.