マーク式試験のテクニック

マーク式試験・記述式試験を問わず, 問題設定を把握して運動方程式や保存則を利用して解くことが物理の正攻法である. とはいうものの, 各種の試験で点数をとることも人生を左右する問題であり, 少しでも点数アップに繋がるようなテクニックも気になるところであろう.

このページでは, 正攻法とは少し異なる視点から問題を眺める方法(テクニック)すなわち, 物理の試験で適用できる消去法の類も紹介する[1]. これらの手法は, センター試験に代表されるマーク式試験(選択肢が与えられた問題)では有用であろう. それだけで正解にたどり着くことは滅多にできないが, 数ある選択肢から正解を絞り込むことはできる.

以下の考え方を知っておくことは大変意味のあることだが, あくまで正攻法で解いた結果の妥当性の検証及び正攻法の道筋が見えなかった問題での正答率を上げることに使ってほしい. 演習を十分に積んでいけば, 正攻法を行いながらも自然と以下のような視点を持ちつつ問題を解くことができる. そうなってしまえば記述式試験への応用も十分に可能となり, 物理的な考察に磨きがかかることであろう.

最終的には下記の事柄が諸君にとっても”常識“として定着することを願う.

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次元の確認
極端(特別)な値の代入 & 常識に反しないか確認
グラフの点に注目


次元の確認

問題が与えられたならば, 答えるべき物理量というものがある. そして, 各物理量には次元(単位)というものが備わっている. したがって, 答えるべき物理量が持つべき次元と異なる次元を持つ選択肢は問答無用で間違いである.

次元については単位と次元で詳しく説明しているが, ここでも簡単に説明しておく.

次元とは物理量の単位が基本単位をどのように組み合わせたのかを表現しているものである. SI単位系での基本単位には, 時間( \( \mathrm{s}\) : 秒), 長さ( \( \mathrm{m}\) : メートル), 質量( \( \mathrm{kg}\) : キログラム), 電流( \( \mathrm{A}\) : アンペア), 温度( \( \mathrm{K}\) : ケルビン), 物質量( \( \mathrm{mol}\) : モル), 光度( \( \mathrm{cd}\) : カンデラ)がある. 他の単位はこれら基本単位の組み合わせで表現できる.

単位と次元の異なる点は, 違う単位でも同じ次元を持つことがある点である. 例えば, \(1 \ \mathrm{mg}\)\(1 \ \mathrm{t}\) はどちらも基本単位 \( \mathrm{kg}\) を用いて \(1 \times 10^{-6} \ \mathrm{kg}\)\(1 \times 10^{3} \ \mathrm{kg}\) などと表すことができる. したがって, \(1 \ \mathrm{mg}\)\(1 \ \mathrm{t}\) は同じ次元を持つのである. 代表的な単位は単位一覧にまとめたので確認しておいて欲しい. また, 次元の異なる物理量同士の和差計算は禁止されていることも注意して欲しい.

単位とは別に次元を表すための記号が決められており, 時間( \( \mathrm{T}\) ), 長さ( \( \mathrm{L}\) ), 質量( \( \mathrm{M}\) ), 電流( \( \mathrm{I}\) ), 温度( \( \mathrm{\Theta}\) )などが使われる.

先ほどの例をそのまま使えば, \(1 \ \mathrm{mg}\)\(1 \ \mathrm{t}\) は, どちらも次元 \( \mathrm{M}\) を持つ. また, 速度の次元は \( \mathrm{ L T^{-1} }\), 体積の次元は \( \mathrm{ L^3 }\), エネルギーもしくは仕事の次元は \( \mathrm{ M L^{2} T^{-2} } \), 運動量もしくは力積の次元は \( \mathrm{ M L T^{-1}}\), などである.

物理量の次元を調べることの有用性は広く知られているので, 実際の問題で選択肢に次元が異なる量が並ぶことは多くないが出題された時にはすぐに気づいてほしい. また, 記述式試験においても自分の計算結果が求めるべき量の次元と異なってしまっていないかをチェックすることに用いてほしい.

次元を使った選択肢の絞り込みを次の問題に適用してみよう.

次元による選択肢の検証

なめらかな面上を運動する質量 \(m_{1}\), 速さ \(v_{1}\) で右方向に進んでいた物体1が, 質量 \(m_{2}\) で速さ \(v_{2} \ ( < v_1)\) で右方向に進んでいた物体2に衝突後, それぞれ別の速さとなった. 衝突時の反発係数を \(e\) とした時, 衝突の前後で失われたエネルギーの大きさを求めよ.

真面目に考えれば選択肢1が正解となる問題であるが(2体問題参照), 各選択肢を次元という観点から考えてみよう.

まず, 選択肢1,2,4に登場する \( \displaystyle{\frac{ m_{1} m_{2} }{ m_{1} + m_{2} }}\) の次元は \( \mathrm{M^2}/\mathrm{M} = \mathrm{M}\) であり, 質量の次元を持っている[2].

次に, 全ての選択肢に登場している反発係数 \(e\) である. 反発係数の定義は(衝突後の遠ざかる速さ)/(衝突前の近づく速さ)であり, 速さの次元( \( \mathrm{LT^{-1}}\) )同士の比である. したがって, 反発係数は次元を持たない無次元量である. 今回取り扱う次元の一致不一致の議論において無次元量は有効な手がかりを持っていない.

以上の二点に注意してみると, 選択肢1の次元は \( \mathrm{ML^2T^{-2}}\), 選択肢2の次元は \( \mathrm{MLT^{-1}}\), 選択肢3の次元は \( \mathrm{M^2L^2T^{-2}}\), 選択肢4の次元は \( \mathrm{ML^2T^{-2}}\) である. 求めるべき量はエネルギーと同じ次元( \( \mathrm{ML^2T^{-2}}\) )を持っていなければならないので, 選択肢2,3は問答無用で間違いと判断できる.

極端(特別)な値の代入 & 常識に反しないか確認

極端な値の代入

選択肢の答えに対して(仮定を逸脱しない範囲で)極端な値や特別な場合を代入した時に正しくない結論を導いてしまう選択肢も選ばないように注意してほしい. まずは次の簡単な問題について考えよう.

極端な値の設定

地面から角度 \( \theta\) だけ傾いた斜面上を滑り降りている時の加速度を求めよ. ただし, 重力加速度を \(g\), 斜面と物体との動摩擦係数を \( \mu'\) とする.

真面目に考えれば選択肢1が正解であるが, 選択肢に対して極端な値を代入する手法を適用して選択肢を絞ることを考えてみよう. ここで斜面の角度 \( \theta\) を様々に動かしてみる. 極端な例として \( \theta = 0^{\circ}\) とすれば水平面上での運動になるし, \( \theta = 90^{\circ}\) とすれば鉛直方向にそりたつ壁と見なすことができる. \( \theta=0^{\circ}\) の時には運動方向に働く力は運動を妨げる向きに摩擦力が働くだけである. しかし, 選択肢2,3,4に \( \theta=0^{\circ}\) を代入した結果, 摩擦係数が加速度と関係ない解答になってしまうので論外である.

あまりに簡単な例で張り合いがなかったと思うが, ある変数を含んだ解答に対して極端[特別]な値を代入した結果が現実に則していなければ間違いの選択肢である可能性が高い.

もう一題だけ, 極端な値や常識に反する選択肢が含まれた問題の例として, 次の問題を考えよう.

特別な状況の設定

振動数 \(f_0\) の音を出しながら運動する二つの音源1, 音源2が互いの位置関係を保ったまま左向きに速さ \(v\) で進んでいるとする. この音源1と音源2の間を右向きに速さ \(u\) で移動している間, 観測者には各音源から異なる振動数の音が聞こえる. 観測者が両音源に挟まれた領域を運動している間に音源1から聞こえる音の振動数を \(f_{1}\), 音源2から聞こえる音の振動数を \(f_2\) とする時, 振動数の差 \(f_1 – f_2\) として妥当なものを選べ. ただし, 空気中での音速を \(V\) として風邪などは吹いていないとする.

真面目に考えれば選択肢2が正解であることがわかるが, 極端な状況設定を考えることで選択肢1,3,4はそれぞれ排除することができる.

この場合の極端な状況設定とは \(u=-v\) が成立する時すなわち, 両音源と観測者の三者が全て左向きに速さ \(v\) で移動している時である. この状況下では音源と観測者の相対速度はゼロであり, ドップラー効果がそもそも生じないので \(f_{1} = f_{2} = f_{0}\) であり, \(f_{1} – f_{2} = 0\) は明らかである. したがって選択肢の \(u\)\(-v\) に置き換えて \(f_{1} – f_{2}\)\(0\) とならない選択肢1,3,4は論外としか言いようがないことがわかる.

この問題で与えられた仮定は”観測者と音源の位置及び移動関係”のみであり, ドップラー効果はその結果として”生じることもある”という状況設定である. したがって, 仮定の範囲内でドップラー効果が生じない特別な状況( \(u=-v\) )を考えたわけだが, それを解に含んでいない選択肢は不適切となる.

以上, 二つの問題を例にとったが, このように極端(特別)な状況設定を考える手法がよく適用できる例として,

  1. 斜面の角度 \( \theta\)\( \theta \to 0^{\circ} \) の水平状態や, \( \theta \to 90^{\circ}\) の鉛直な壁面状態を考えてみる.

  2. 摩擦係数 \( \mu\)\( \mu \to 0\) として摩擦が全く働かない状態や, \( \mu \to \infty\) として摩擦が大きすぎて摩擦が働く物体同士が一緒に運動している状態を考えてみる.

  3. 反発係数 \(e\)\(e \to 1\) として完全弾性衝突の問題に置き換えるか, \(e \to 0\) として完全非弾性衝突として考える.

  4. 二物体の質量比( \(m/M\) )について \(m/M \to 0\) として質量 \(M\) の物体に対して質量 \(m\) の物体が非常に軽い極限を考える.

  5. 相対速度がゼロになる状況設定を考えてみる.

  6. 時間が十分に経過した極限( \(t \to \infty\) )もしくは繰り返しの回数が無限の極限( \(n \to \infty \) )を考えてみる.
    (例えば地面との反発が繰り返し起きる問題では反発した回数 \(n \to \infty \) とすれば最終的には反発がなくなるハズ, など. )

  7. 浮力を与えている媒質の密度 \( \rho\)\( \rho \to 0\) としてその媒質が存在しない状況や, \( \rho \to \infty \) として剛体と近似できる極限を考える.

などが挙げられるが他にも多数存在する.

このように, 問題文中の物理量が極端[特別]な状況を考えると非常識になる解を含む選択肢には十分に注意してほしい. ただし, 極端な状況を考える場合も問題設定の仮定を変更しないように注意すべきであることを最後にもう一度だけ注意喚起しておく.

常識に反しないか確認

極端な値の代入と通じる考え方であるが, 求めた答えが常識に反していないかにも意識を向けておくことは大変意義深い. この考え方はマーク式試験よりは記述式試験で自分が求めた答えの妥当性の検証で役に立つ.

例えば, せいぜい室温程度の温度を自由運動する気体粒子の平均速度を求めさせる問題において, 値が \(3 \ \mathrm{m/s}\) とか, \(100 \ \mathrm{km/s}\) などとなってしまった場合には途中で計算間違いをした可能性が非常に大きい[3].

または, 油のような物質の屈折率を求める問題において導出した答えが \(1\) より小さいなども大変怪しいし, 可視光線の波長 \( \lambda\) を求めたつもりが \( \lambda = 1 \ \mathrm{mm}\) となっていてもその結果を疑わないことは, 物理学と現実との関わりに関心が薄すぎると言わざるをえない.

この常識的な値というのは, 教科書などでコラム的に紹介される程度であるし諸君もそれを必死に覚える必要はない. しかし, 物理学が現実世界の物理現象の説明に一役買っている学問であることを考えると, “どの程度のスケールで起きている物理現象なのか, どの程度の値が実現しているのか“などの感覚は少しは持っておいてほしいものである.

物理定数の値というのは”物理現象のスケール”を知るためのよい指標となり得るので, 物理定数については値を今一度確認しておいてほしい.

グラフの点に注目

物理現象をグラフにすることでその意味がわかりやすくなることからも分かるように, グラフには様々な情報が含まれており, この情報を使わない手はない. ここでは, グラフの見方を鍛えておくことで明らかに間違いな選択肢などを排除することを考える.

まず, 図を見た時に確認することは縦軸横軸の表す量である. 特に波動分野では軸の表す量が様々あるので注意してほしい. また, 始点終点の確認を怠ってはならない. 当然であるが, これらが与えられた問題文に適していない選択肢は考慮の対象外である.

消去法という観点からすれば, 先ほども議論したように特別な値の点には注意が必要である. 注目すべき点としては,

  • 縦軸の値がゼロになる点

  • 横軸の値がゼロになる点

  • グラフが最大値もしくは最小値を取る点

  • グラフの傾き(縦軸の物理量を横軸の量で微分した値)が最大値もしくは最小値を取る点

などが挙げられる. そして, 選択肢には上記の特別な場合を具体的に当てはめることで選択肢の妥当性を検証することができる.

グラフの概形から選択肢を絞る

今, \(x\) 軸方向へ進行する波がある. 時刻 \(t=0\) における波の波形を上に, 媒質の位置 \(x=0\) の点の波の高さの時間変化を下に示す. この波の変位を表す式として正しいものを答えよ.

真面目に考えると選択肢1が正解であるが, 選択肢とグラフの対応を考えてみよう. \(t=0\) では図に示されたように波の変位は \(-\sin\) の形状になっている. 各選択肢に \(t=0\) を代入すると, 選択肢2,4は \(+\sin\) であることがわかるので誤った選択肢であることがわかる. また, \(x=0\) では図に示されたように \(+\sin\) の形状になっている. 各選択肢に \(x=0\) を代入すると, 選択肢2,3は \(-\sin\) であるので誤った選択肢となっている.

今度はグラフを答えさせる問題について考えてみよう.

グラフを選択する問題

下図のように可変抵抗を含んだ回路を考える. 可変抵抗の抵抗値 \(R\) を上昇させていくときに検流計 \(G\) を点 \(B\) から \(C\) へ移動する電流 \(I\) の向きを正としたときの正しいグラフを選べ. (国家公務員試験改題)

真面目に考えると選択肢2が正解であることがわかる.

グラフを考える問題なので, 始点終点に着目してみよう. 可変抵抗 \(R\) の値が \(0 \ \Omega\) の時には点 \(A\) の電流は全て点 \(B\) に流れ込むことは明らかであるので, 選択肢4は論外である. また選択肢3は電流がこの状況下で限りなく大きな値に発散するように描かれているが, そのようなことは生じないので選択肢3も誤った選択肢と判断することができる.

ホイートストンブリッヂの考え方を利用すると可変抵抗の抵抗値が \(R=2 \ \Omega\) の時には検流計には電流が流れないので \(I =0 \ A\) となる. この条件はどのグラフも満たしているので今回は選択肢の絞り込みには利用できない.

最後に, 可変抵抗の値を限りなく大きくした場合には点 \(A\) の電流は全て点 \(C\) へ流れ込むことになり, \(BC\) 間では \(C \to B\) の電流しか存在しなくなる. このような状況が描かれているのは選択肢2のみである.

このように, グラフを用いた問題でも幾つかの着目ポイントを押さえておくことで選択肢の絞り込みは可能である.


以上, 幾つかの手法(テクニック)について紹介したが, 言われてみれば当然というところもあったであろう. しかし, これらのことを実際に試験中に運用するにはそれなりに慣れが必要であるので, 受験が近づいてきたらとにかく演習量を増やして経験値を貯めてほしい.

最終更新日



補足    (↵ 本文へ)
  1. 消去法“というと少し抵抗のある人や「邪道だ」と考えてしまう人もいるであろうが, ここで言うところの”消去法”は物理的に真っ当なことしかおこなっていないので安心してほしい. ただ, 思考の順序が正攻法と異なるというだけの話であり, 物理に習熟した人が感覚的に行っている事柄である.

  2. この量は換算質量というのであった.

  3. 実際, 室温程度の気体粒子の平均速度は気体分子運動論によって導出することができるので興味がある人は試してほしい. せいぜい数百 \( \mathrm{m/s}\) 程度である.

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