球対称な物体による万有引力

これまで, 地球が地表付近の物体に及ぼす万有引力を計算する時には, 地球の全質量がその中心(重心)に集中した質点とみなして計算を行なってきた. 証明を与えずに用いてきたこの事実を数学的に示しておこう.

これから証明することをより正確にいうと, 球対称な密度分布を持つ物体 \( A \) (質量 \( M \) )がその重心から距離 \( r \) だけ離れた質点 \( B \) (質量 \( m \) )に及ぼす万有引力の値は, 物体 \( A \) の重心に置かれた質量 \( M \) の質点が質点 \( B \) に及ぼす万有引力に一致するという事実である.

また, この定理の証明に付随して得られる事実として, 球対称な物体のとでは相手の物体に及ぼす万有引力が異なることについても触れることになる.

たとえば, 下図に示すように球対称な質量分布を持つ球 \( A \) の内部に存在する質点 \( B \) に対して球 \( A \) が及ぼす万有引力の大きさは, 球 \( A \) の質量のうち質点 \( B \) の位置よりも内部の質量 \( M_{\mathrm{in}} \) が球 \( A \) の重心に集中したとみなした質点が及ぼす万有引力の大きさに等しいことを示すことが出来る.

これらの事実はNewton’s Shell Theoremとして知られている[1]この定理のそれらしい和訳をあまり見かけないが, 球殻定理とでもいったところか..


球面上の点の座標

三次元空間上のある点 \( P \) の位置は, 座標系を三次元直交座標 \( O \) – \( xyz \) とすれば, \( x \) , \( y \) , \( z \) 座標という三つの量を指定することで一点に定まる.

ところで, 球対称性があるような問題について考える場合, 単純に \( x \) , \( y \) , \( z \) で位置を指定するよりも便利な方法が知られている. それは, 三次元空間上のある点の座標を, 原点からの距離 \( s \) , \( z \) 軸との成す角度 \( \theta \) , \( x \) 軸との成す角度 \( \phi \) という三つの量 \( s \) , \( \theta \) , \( \phi \) を用いて三次元空間上の点を指定する方法である.

下図には半径 \( s \) の球と球面上のある点 \( P \) の \( x \) , \( y \) , \( z \) 座標の値を \( s \) , \( \theta \) , \( \phi \) で記述する方法を図示している.

原点 \( O \) から点 \( P \) までの距離は \( s \) であり, \( z \) 軸と点 \( P \) の成す角を \( \theta \) とする. このとき, 点 \( P \) から \( z \) 軸に下ろした垂線と \( z \) 軸との交点の座標は \( \qty( 0, 0, s \cos{\theta} ) \) で与えられる.

また, 点 \( P \) から \( x \) – \( y \) 平面へと下ろした垂線と \( x \) – \( y \) 平面との交点を \( Q \) とし, \( x \) 軸と点 \( Q \) との成す角を \( \phi \) とする. このとき, 点 \( Q \) から \( x \) 軸に下ろした垂線と \( x \) 軸との交点の座標は \( \qty( s\sin{\theta}\cos{\phi}, 0, 0 ) \) , 点 \( Q \) から \( y \) 軸に下ろした垂線と \( y \) 軸との交点の座標は \( \qty( 0, s\sin{\theta}\sin{\phi}, 0 ) \) で与えられることがわかる.

以上より, 点 \( P \) の位置座標 \( \qty( x, y, z ) \) は \( s \) , \( \theta \) , \( \phi \) を用いて, \[ \mqty( x \\ y \\ z ) = \mqty( s\sin{\theta} \cos{\phi} \\ s\sin{\theta} \sin{\phi} \\ s\cos{\theta} ) \notag\] と記述することが可能となる.

このように, \( \qty( x, y, z ) \) の組で座標を指定するのではなく, \( \qty( s, \theta, \phi ) \) の組で指定するような座標系を考えることもでき, 球座標系と呼ばれる.

ここでは球座標系の詳細には立ち入らず, 三次元空間上のある点を \( \qty( s, \theta, \phi ) \) で指定できるという考え方だけを利用して議論を展開する.

球面に張り付いた微小要素の体積

下図に示す様な, 半径 \( s \) の球面上に張り付いた微小要素の体積を記述することを考えよう.

半径 \( s \) の球面上のある点 \( P \) の座標は, \( z \) 軸と成す角 \( \theta \) , \( x \) 軸と成す角 \( \phi \) を用いた \( \qty( s , \theta, \phi ) \) の組で指定できることは既に示したとおりである.

そこで, \( s \) , \( \theta \) , \( \phi \) のそれぞれが微小量 \( \dd{s } \) , \( \dd{\theta} \) , \( \dd{\phi} \) だけ変化したとき, \( s \sim s+\dd{s} \) , \( \theta \sim \theta+\dd{\theta} \) , \( \phi \sim \phi+\dd{\phi} \) で囲まれる微小要素の体積がどのように記述されるかを考えよう [2]図形を描かずとも, 数学的な計算のみで求めることもできるがここでは議論しない. 興味がある人はヤコビアンという用語を適宜調べてみてほしい.[3]本来は微小だが有限な変化量を記述する場合には \( \Delta s \) , \( \Delta \theta \) , \( \Delta \phi \) といった具合に記号 \( \Delta \) … Continue reading.

まずは点 \( P\qty( s, \theta , \phi ) \) と点 \( \qty( s+\dd{s}, \theta , \phi ) \) との距離を求めよう. 点 \( \qty( s+\dd{s}, \theta , \phi ) \) は球の中心から動径方向の距離が \( s+\dd{s} \) の点を指定しており, 点 \( P \) と同じ角度 \( \theta \) , \( \phi \) を保っていることからこの二点間の距離は \( \dd{s} \) である.

次に, 点 \( P\qty( s, \theta , \phi ) \) と点 \( \qty( s, \theta +\dd{\theta}, \phi ) \) との距離を求めよう. これらは \( \theta \) を含む平面上で半径 \( s \) の円周上の点を微小角 \( \dd{\theta} \) だけ変化させることを意味するので, 点 \( P \) からの距離は \( \theta \) を含んだ平面上での扇形の弧の長さ \( s\, \dd{\theta} \) で与えられることになる.

最後に, 点 \( P\qty( s, \theta , \phi ) \) と点 \( \qty( s, \theta , \phi +\dd{\phi}) \) との距離を求めよう. これらは \( \phi \) を含む平面( \( x \) – \( y \) 平面)上で半径が \( s\sin{\theta} \) で与えられる円周上の点を微小角 \( \dd{\phi} \) だけ変化させることを意味するので, 点 \( P \) からの距離は \( s\sin{\theta}\, \dd{\phi} \) で与えられることになる.

以上の考察により, 点 \( P\qty( s, \theta , \phi ) \) のごく近傍でつくられる, \( s \sim s+\dd{s} \) , \( \theta \sim \theta+\dd{\theta} \) , \( \phi \sim \phi+\dd{\phi} \) で囲まれる微小要素の体積 \( \dd{V } \) は, 一辺が \( \dd{s} \) , \( s\, \dd{\theta} \) , \( s\sin{\theta}\, \dd{\phi} \) の直方体の体積と近似的に一致するので, \[\begin{aligned} \dd{V} &\approx \dd{s} \cdot s\, \dd{\theta} \cdot s\sin{\theta}\, \dd{\phi} \notag \\ &= s^{2}\sin{\theta} \dd{s}\, \dd{\theta} \, \dd{\phi} \label{dV} \notag \end{aligned}\] と表すことができる.

球殻による万有引力

三次元空間上のある点 \( P\qty( x, y, z ) \) の座標が, 原点からの距離 \( s \) , \( z \) 軸との成す角 \( \theta \) , \( x \) 軸との成す角 \( \phi \) を用いて \[ \mqty( x \\ y \\ z ) = \mqty( s\sin{\theta} \cos{\phi} \\ s\sin{\theta} \sin{\phi} \\ s\cos{\theta} ) \notag\] で与えられているとする. この点 \( P \) のごく近傍において \( s \sim s+\dd{s} \) , \( \theta \sim \theta+\dd{\theta} \) , \( \phi \sim \phi+\dd{\phi} \) で囲まれる微小要素の体積 \( \dd{V} \) は \[\dd{V} \approx s^{2}\sin{\theta}\, \dd{s}\, \dd{\theta}\, \dd{\phi}\] で与えられることは既に議論したとおりである. この微小要素が, 原点から距離 \( r \) の \( z \) 軸上の点 \( A \) に配置された質点(質量 \( m \) )に及ぼす万有引力について考えよう. なお, 下図には \( r>s \) の場合で描いているが, \( r>s \) と \( r<s \) の場合には結論が異なることを後に議論する.

微小体積 \( \dd{V} \) の物体の質量は体積密度 \( \rho \) を乗じることで求めることができる. この微小物体の体積密度を \( \rho \) とするとその質量は \[\rho \dd{V} = \rho s^{2} \sin{\theta} \dd{s} \, \dd{\theta}\dd{\phi}\quad . \notag\] であり, 点 \( P \) と点 \( A \) との距離を \( r^{\prime} \) とすれば, 微小要素と質点との間に働く万有引力の大きさ \( \dd{F} \) は \[\dd{F} = G\frac{m \cdot \qty( \rho s^{2} \sin{\theta} \dd{s} \dd{\theta}\dd{\phi}) }{{r^{\prime}}^{2}}\] で与えられ, 向きは \( AP \) に沿った方向ということになる.

続いて, \( s \) や \( \theta \) は変化させずに \( \phi \) の値を \( 0 \) から \( 2\pi \) まで変化させながら, 各 \( \phi \) の値における微小要素が質点に及ぼす万有引力を足し合わせていく. すなわち, 下図の薄赤色の立体的な円環部分全体が点 \( A \) の質点に及ぼす万有引力を計算しよう.

ここで, 各微小要素が質点及ぼす万有引力を \( z \) 軸に平行な成分(大きさ \( \dd{F_{n}} \) )と \( z \) 軸に垂直な成分(大きさ \( \dd{F_{t}} \) )とにわけて考えよう. また, いま考えている系が \( z \) 軸周りの回転に対して対称的であることから, \( z \) 軸に垂直な成分は \( \phi \) を \( z \) 軸に対してぐるりと一周足し合わせると互いに打ち消し合い, \( z \) 軸と平行な成分のみが残ることがわかる.

ある一つの微小要素が質点に及ぼす万有引力 \( \dd{F} \) のうち, \( z \) 軸に平行な成分 \( \dd{F_{n}} \) は, \( \angle OAP \) を \( \psi \) (プサイ)とすれば, \[\begin{aligned} \dd{F_{n}} &= \dd{F} \cos{\psi} \notag \\ &= G\frac{m \cdot \rho s^{2} \sin{\theta} \dd{s} \dd{\theta}\dd{\phi}}{{r^{\prime}}^{2} \cos{\psi} } \notag \end{aligned}\] であり, \( \dd{F_{n}} \) を \( \phi=0 \) から \( \phi=2\pi \) となるまで積分して得られる力を \( \dd{F_{\theta}} \) と書けば, \[\begin{aligned} \dd{F_{\theta}} & = \int_{\phi = 0}^{\phi=2 \pi} \dd{F_{n}} \notag \\ & = \int_{\phi = 0}^{\phi=2 \pi} G\frac{m \cdot \rho s^{2}\sin{\theta} \cos{\psi} }{{r^{\prime}}^{2}} \dd{s}\, \dd{\theta}\dd{}\phi \notag \\ & = G\frac{m \rho s^{2} \sin{\theta} \cos{\psi} }{{r^{\prime}}^{2}} \dd{s} \, \dd{\theta} \cdot \int_{\phi = 0}^{\phi=2 \pi} \dd{}\phi \notag \\ \therefore \dd{F_{\theta}}& = G\frac{2 \pi m \rho s^{2} \sin{\theta} \cos{\psi} }{{r^{\prime}}^{2}} \, \dd{\theta} \quad . \end{aligned}\] 続いては \( s \) を一定に保ちつつ, 角度 \( \theta \) を \( 0 \) から \( \pi \) まで変化させながら各 \( \theta \) における円環部が質点に及ぼす万有引力を足し合わせる(=積分する)ことにより, 半径 \( s \) で微小な厚み \( \dd{s} \) の球殻が質点に及ぼす力を求めよう.

ここで, 角 \( \theta \) および角 \( \psi \) は余弦定理により, \[\begin{align} {r^{\prime}}^{2} &= s^{2} + r^{2} – 2 s r \cos{\theta} \label{yogentheta}\\ s^{2} &= {r^{\prime}}^{2} + r^{2} – 2 r^{\prime} r \cos{\psi} \label{yogenpsi} \end{align}\] が成立し, \[\begin{align} \cos{\theta} &= \frac{s^{2} + r^{2} – {r^{\prime}}^{2} }{2sr} \label{costheta}\\ \cos{\psi} &= \frac{{r^{\prime}}^{2} + r^{2} – s^{2} }{2r^{\prime}r} \label{cospsi} \end{align}\] であらわされることが分かる.

また, 式\eqref{yogentheta}の両辺を \( \theta \) で微分すると, \[\begin{align} \dv{{r^{\prime}}^{2}}{\theta} &= \dv{\theta} \qty( s^{2} + r^{2} – 2 s r \cos{\theta} ) \notag \\ \to \ 2 r^{\prime} \dv{r^{\prime}}{\theta} & = 2s r \sin{\theta} \notag \\ \to \ \sin{\theta} \dd{\theta} &= \frac{r^{\prime}}{sr} \dd{r^{\prime}} \label{thetati} \end{align}\] という関係式が得られる.

式\eqref{costheta}, 式\eqref{cospsi}および式\eqref{thetati}を \( \dd{F_{\theta}} \) に代入すると, \[\begin{aligned} \dd{F_{\theta}} & = G\frac{2 \pi m \rho s^{2} }{{r^{\prime}}^{2}} \frac{{r^{\prime}}^{2} + r^{2} – s^{2} }{2r^{\prime}r} \frac{r^{\prime}}{sr} \dd{s} \dd{r^{\prime}} \notag \\ & = G\frac{\pi m \rho s }{r^{2}} \left\{1 + \frac{{r^{2} – s^{2} }}{{r^{\prime}}^{2}} \right\} \dd{s} \dd{r^{\prime}} \end{aligned}\] と整理することができ, \( \theta \) で積分する代わりに \( r^{\prime} \) で(置換)積分することで, 半径 \( s \) , 厚さ \( \dd{s} \) の球殻全体が質点に及ぼす万有引力の大きさを計算できることがわかる.

なお, この \( \dd{F_{\theta}} \) の向きは球の中心と質点を結ぶ直線(= \( z \) 軸上)に平行であることは対称性から明らかである.

球殻の外側に存在に及ぼす万有引力

下図のように, 質点が球殻の外側に存在するとき, すなわち, \( r>s \) を満たす場合について考えよう.

このとき, \( \theta \) を \( 0 \) から \( \pi \) まで変化させることは, \( r^{\prime} \) を \( r – s \) から \( r + s \) まで変化させることに等しいので, \[\begin{aligned} \dd{F_{s}} &\coloneqq \int_{\theta = 0}^{\theta=\pi} \dd{F_{\theta}}\notag \\ &= \int_{r^{\prime} = r – s}^{r^{\prime}=r+s} \dd{F_{\theta}}\notag \\ &= G\frac{\pi m \rho s }{r^{2}} \dd{s} \cdot \int_{r^{\prime} = r – s}^{r^{\prime} = r+s} \left\{1 + \frac{{r^{2} – s^{2} }}{{r^{\prime}}^{2}} \right\} \dd{r^{\prime}} \notag \\ &= G\frac{\pi m \rho s }{r^{2}} \dd{s} \cdot \qty[ r^{\prime} – \frac{{r^{2} – s^{2} }}{r^{\prime}} ]_{r^{\prime} = r – s}^{r^{\prime} = r+s} \notag \\ &= G\frac{m \cdot 4 \pi s^{2} \rho }{r^{2}} \dd{s} \notag \end{aligned}\] ここで, 密度が \( \rho \) , 内面の表面積が \( 4 \pi s^{2} \) で微小な厚さ \( \dd{s} \) の球殻の全質量 \( M_{\mathrm{shell}} \) は, 密度が \( \rho \) , 底面積が \( 4 \pi s^{2} \) で高さが \( \dd{s} \) の立体の質量とみなすことができるので, \[M_{\mathrm{shell}} = 4 \pi s^{2} \rho \dd{s} \notag\] で与えられることを用いると, \[\dd{F_{s}} = G\frac{mM_{\mathrm{shell}}}{r^{2}} \notag\] となる. これは, 質量 \( M_{\mathrm{shell}} \) の質点と質量 \( m \) の質点との距離が \( r \) だけ離れているときの万有引力の大きさに等しいことを意味している.

したがって, 質点(質量 \( m \) )が球殻(質量 \( M_{\mathrm{shell}} \) )の外側にある場合の万有引力は, 球殻はその全質量が中心(=重心)に集まった質点とみなして計算してよいことを意味している.

球殻の内側に存在に及ぼす万有引力

下図のように, 質点が球殻の内側に存在するとき, すなわち, \( r<s \) を満たす場合について考えよう.

このとき, \( \theta \) を \( 0 \) から \( \pi \) まで変化させることは, \( r^{\prime} \) を \( s – r \) から \( s + r \) まで変化させることに等しいので, \[\begin{aligned} \dd{F_{s}} &\coloneqq \int_{\theta = 0}^{\theta=\pi} \dd{F_{\theta}}\notag \\ &= \int_{r^{\prime} = s – r}^{r^{\prime} = s+r} \dd{F_{\theta}}\notag \\ &= G\frac{\pi m \rho s }{r^{2}} \dd{s} \cdot \int_{r^{\prime} = s – r}^{r^{\prime} = s+r} \left\{1 + \frac{{r^{2} – s^{2} }}{{r^{\prime}}^{2}} \right\} \dd{r^{\prime}} \notag \\ &= G\frac{\pi m \rho s }{r^{2}} \dd{s} \cdot \qty[ r^{\prime} – \frac{{r^{2} – s^{2} }}{r^{\prime}} ]_{r^{\prime} = s – r }^{r^{\prime} = s+r} \notag \\ &= 0 \notag \end{aligned}\] となり, 球対称な球殻の内部に存在する質点が球殻から受ける万有引力の合力はゼロであることがわかった.


以上までの議論により, 密度 \( \rho \) , 半径 \( s \) , 微小な厚さ \( \dd{s} \) の球殻が球殻の中心から距離 \( r \) だけ離れた質点(質量 \( m \) )に及ぼす万有引力は \[\dd{F_{s}} = \begin{cases} G\frac{m \cdot 4 \pi s^{2} \rho }{r^{2}} \dd{s} = G\frac{mM_{\mathrm{shell}}}{r^{2}} \quad \qty( r > s ) \\ 0 \quad \qty( r < s ) \end{cases} \label{shellforce}\] で与えられることがわかった.

球対称な物体による万有引力

球対称な球殻と質点との間に成立する式\eqref{shellforce}を利用して, 半径 \( R \) の球とその中心から距離 \( r \) だけ離れた質点との万有引力の関係を求めておこう. つまり, というのは球殻の集合体であるということを利用して, 球殻が及ぼす万有引力からが及ぼす万有引力の値を導こう.

球の外側に及ぼす万有引力

下図のように半径 \( R \) で密度 \( \rho \) の球(質量 \( M \) )の外側に質点(質量 \( m \) )が存在している場合を考える.

この場合, 球を成している球殻の全てが質点にゼロでない万有引力をくわえることになる. その大きさは球殻の半径 \( s \) を \( 0 \) から \( R \) まで変化させつつ, 各球殻による万有引力の総和を計算する(=積分する)ことになるので, \[\begin{aligned} F &= \int_{s=0}^{s=R}\dd{F_{s}}\notag \\ &= \int_{s=0}^{s=R} G\frac{m \cdot 4 \pi s^{2} \rho }{r^{2}} \dd{s} \notag \\ &= G\frac{m }{r^{2}} \cdot \int_{s=0}^{s=R} 4 \pi s^{2} \rho \dd{s} \notag \end{aligned}\] で計算可能である.

ここで, 密度 \( \rho \) に求められる性質について言及しておこう. これまでの議論は全て球対称な分布を持つ球殻や球について成り立つものであった. したがって, 密度 \( \rho \) が動径方向の距離 \( s \) だけに依存し, \( \rho=\rho(s) \) という球対称を持つのでであれば上式を得るまでの議論は全て成立する.

また, \( 4 \pi s^{2} \cdot \dd{s} \) は微小な厚さ \( \dd{s} \) の球殻の体積であり, それに密度 \( \rho(s) \) を乗じたものは球殻の質量である. これを \( s=0 \) から \( s=R \) まで変化させながら足し合わせた \( \int_{s=0}^{s=R} 4 \pi s^{2} \rho \dd{s} \) とは球の全質量 \( M \) に他ならないことに注意すると, \[\begin{aligned} F &= G\frac{m }{r^{2}} \cdot \int_{s=0}^{s=R} 4 \pi s^{2} \rho \dd{s} \notag \\ &= G\frac{m M}{r^{2}} \notag \end{aligned}\] が成立する.

したがって, 球( 半径 \( R \) , 質量 \( M \) )と球の重心から距離 \( r < R \) に存在する質点(質量 \( m \) )との間に生じる万有引力の大きさは, 距離 \( r \) だけ離れた質量 \( M \) と質量 \( m \) の二つの質点間の万有引力の大きさに一致するということが示された.

具体例

最も簡単な具体例として, 密度 \( \rho \) が一様で, \( s \) に依存しない定数である場合には, \[\begin{aligned} F &= G\frac{m \cdot 4 \pi }{r^{2}} \int_{s=0}^{s=R} s^{2} \rho \dd{s} \notag \\ &= G\frac{m \cdot }{r^{2}} \cdot \rho \frac{R^{3}}{3} \notag \end{aligned}\] であり, 密度 \( \rho \) が一様であるような球(質量 \( M \) , 半径 \( R \) )については \[\frac{4}{3}\pi R^{3} \rho = M \notag\] が成立するので, 質量 \( M \) の球と質量 \( m \) の質点の重心の距離が \( r \) であるときの両者が互いに受ける万有引力の大きさは \[F = G \frac{mM}{r^{2}} \notag\] である.

球の内側に及ぼす万有引力

下図のように半径 \( R \) で密度 \( \rho \) の球(質量 \( M \) )の内側に存在する質点(質量 \( m \) )が受ける万有引力について考える.

この場合, \( r \) より内側の球殻は質点にゼロでない万有引力を及ぼすが, \( r \) よりも外側の球殻が質点に及ぼす万有引力の値はゼロである. したがって, 球が質点に及ぼす万有引力の値は \[\begin{aligned} F &= \int_{s=0}^{s=R}\dd{F_{s}}\notag \\ &= \int_{s=0}^{s=r}\dd{F_{s}}+ \underbrace{\int_{s=r}^{s=R}\dd{F_{s}}}_{=0} \notag \\ &= \int_{s=0}^{s=r} G\frac{m \cdot 4 \pi s^{2} \rho }{r^{2}} \dd{s} + 0 \notag \\ &= G\frac{m }{r^{2}} \cdot \int_{s=0}^{s=r} 4 \pi s^{2} \rho \dd{s} \notag \end{aligned}\] で計算可能である. 右辺の \( \int_{s=0}^{s=r} 4 \pi s^{2} \rho \dd{s} \) は球のうち, \( r \) よりも内側の部分の総質量 \( M_{\mathrm{in}} \) を意味しているので, 最終的には \[F = G\frac{m M_{\mathrm{in}}}{r^{2}} \notag\] と書くことができる.

したがって, 球( 半径 \( R \) , 質量 \( M \) )と球の重心から距離 \( r > R \) に存在する質点(質量 \( m \) )との間に生じる万有引力の大きさは, 球の重心から \( r \) より内部の質量 \( M_{\mathrm{in}} \) と質量 \( m \) の二つの質点間の万有引力の大きさに一致するということが示された.

具体例

具体例として, 密度 \( \rho \) が一様であるような球(質量 \( M \) , 半径 \( R \) )がその内部に存在する質点に及ぼす万有引力を考えてみよう. この場合, \[\frac{4}{3}\pi R^{3} \rho = M \ \iff \ \rho = \frac{M}{\frac{4}{3}\pi R^{3}} \notag\] が成立し, 半径 \( r \, ( < R ) \) の内側の球の質量 \( M_{\mathrm{in}} \) は \[\begin{aligned} M_{\mathrm{in}} &= \frac{4\pi}{3}r^{3} \rho \notag \\ &= \frac{4\pi}{3}r^{3} \cdot \frac{M}{\frac{4}{3}\pi R^{3}} \notag \\ &= M \frac{r^{3}}{R^{3}} \notag \end{aligned}\] で与えられるので, 球の中心から半径 \( r \) の位置に存在する質点が受ける万有引力の大きさは \[\begin{aligned} F &= G\frac{m M_{\mathrm{in}}}{r^{2}} \notag \\ &= G\frac{m }{r^{2}} M \frac{r^{3}}{R^{3}} \notag \\ &= G\frac{m M}{R^{3}}r \notag \end{aligned}\] と, \( r \) に比例した形で書くことが出来る.

地球を貫通するトンネルによる単振動

下図のように, 地球を半径 \( R \) , 一様な体積密度 \( \rho \) を持つ静止した球とみなし, 内部がなめらかで十分に細い直線状のトンネルで球を貫通する.

トンネルと球表面との交点を \( A \) , もう一方を \( B \) とし, 球の中心 \( O \) からトンネルへと下ろした垂線とトンネルとの交点を \( O^{\prime} \) , 線分 \( OO^{\prime} \) の距離を \( h \) とする.

質量 \( m \) の小物体を点 \( A \) からトンネルの内部へ静かに入射させたときの小物体の運動について考えよう. このとき, \( BA \) を結ぶ直線を \( x \) 軸, \( OO^{\prime} \) を結ぶ直線を \( y \) 軸とし, 小物体はトンネルに沿った方向にのみ運動可能とし, 空気抵抗等は無視できるものとする.

また, 球の半径 \( R \) は \( 6.4 \times 10^{6}\, \mathrm{m} \) , 地球の表面における重力加速度 \( g \) は \( 9.8\, \mathrm{m/s^{2}} \) とする.


まず, 密度 \( \rho \) は一様であるので, 地球の全質量を \( M \) とすると, \[M = \frac{4}{3}\pi R^{3} \cdot \rho \ \iff \ \rho = \frac{M}{\frac{4}{3}\pi R^{3}} \label{Erho}\] となる.

また, 小物体が球の表面でうける万有引力は, 重力加速度 \( g \) を用いて \[mg = G \frac{mM}{R^{2}} \ \iff \ g = G \frac{M}{R^{2}} \label{Eg}\] となる.

小物体が \( O \) から距離 \( r\, ( <R ) \) だけ離れた点 \( P(x, 0) \) に存在するときの運動方程式について考えよう.

\( O \) から距離 \( r \) の点 \( P \) に存在する小物体に働く万有引力 \( F \) の大きさは, 球の中でも \( r \) より内部の球(質量 \( \frac{4}{3} \pi r^{3} \cdot \rho \) )が及ぼす万有引力の大きさに等しいので, \[\begin{aligned} F_{g} &= G \frac{m \cdot \qty( \frac{4}{3} \pi r^{3} \cdot \rho )}{r^{2}} \notag \\ &\overset{\text{式\eqref{Erho}より}}{=} G \frac{m \cdot \qty( \frac{4}{3} \pi r^{3} )}{r^{2}} \cdot \frac{M}{\frac{4}{3}\pi R^{3}} \notag \\ &= G \frac{m M}{R^{3}} r \quad \end{aligned}\] であり, 向きは \( P \) から \( O \) へ向かう方向である. \( x \) 軸に沿った力の大きさ \( F_{x} \) , \( y \) 軸に沿った力の大きさ \( F_{y} \) はそれぞれ \[\begin{aligned} F_{x} &= F \cdot \frac{\abs{x }}{r} = G \frac{m M}{R^{3}} \abs{x } \notag \\ F_{y} &= F \cdot \frac{h}{r} = G \frac{m M}{R^{3}} h \notag \end{aligned}\] となる.

したがって, \( x \) 軸方向の運動方程式は, \( F_{x} \) の向きまで考慮すると, \[m \dv[2]{x}{t} = – G \frac{m M}{R^{3}} x\] と書くことができる.

これは, 角振動数 \( \omega \) を \[\omega \coloneqq \sqrt{\frac{GM}{R^{3}} } \notag\] と定義すると, \[\dv[2]{x}{t} = – \omega^{2}x \notag\] と書くことができるので, 角振動数が \( \omega \) (周期が \( \frac{2\pi}{\omega} \) )の単振動を行うことがわかる.

この振動の周期 \( T \) は \[\begin{aligned} T &= \frac{2\pi}{\omega} \notag \\ &\overset{\text{式\eqref{Eg}より}}{=} 2\pi \sqrt{\frac{R^{3}}{GM} } \notag \\ &= 2\pi \sqrt{\frac{R}{g} } \notag \end{aligned}\] と, \( R \) と \( g \) のみを用いて書き直すことができる. \( R=6.4\times10^{6}\, \mathrm{m} \) と \( g=9.8\, \mathrm{m/s^{2}} \) を代入すると, \[T = 5.1 \times 10^{3}\, \mathrm{s} \ \qty( = 8.5 \times 10 \, \mathrm{min} ) \notag \] と振動周期が求められた. 点 \( A \) から点 \( B \) までの到達時間は \( \frac{T}{2} \) であるので, \[T/2 = 2.5 \times 10^{3}\, \mathrm{s} \ \qty( = 4.2 \times 10 \, \mathrm{min} ) \notag \] となる.

\( y \) 軸方向の運動方程式についてはトンネルの内壁から小物体へと与える垂直抗力を \( N \) とすると, \[\begin{aligned} & m\dv[2]{y}{t} = N – F_{y} \notag \\ & \therefore \ N = G\frac{mM}{R^{3}}h \overset{\text{式\eqref{Eg}より}}{=} mg \frac{h}{R} \notag \end{aligned}\] となり, \( h=0 \) のとき(トンネルが球の中心を通るとき)だけ \( N \) がゼロとなることがわかる.


上記の問題をもう少しだけ考察してみよう.

地表で静かに投下された小物体の単振動の周期は \[ T = 2\pi \sqrt{\frac{R^{3}}{GM} } = 2\pi \sqrt{\frac{R}{g} } \notag \] で与えられるのであった. この式は, 振動周期 \( T \) が \( OO^{\prime} \) の距離 \( h \) に依存しておらず, トンネルの位置によらずに一定の振動周期となることがわかる.(下図参照)

また, 点 \( A \) で放出するときに初速度を与えるなどすると, 点 \( B \) で折り返すこと無くある速さで宇宙空間へと放り出されることになる.

もしトンネルが地球の中央を通っているならば, しばらく宇宙空間に飛び出したあとでトンネルへ再突入することになるが, 前に考えた具体例のように地球中心を通っていないトンネルの端点 \( B \) を速さ \( \abs{\vb*{v_{0}} } \) で通過した場合, 質点と地球との間には万有引力という中心力のみが働くことになるので, 点 \( B \) での角運動量を保存したまま運動を続けることになる. つまり, 点 \( B \) の 位置ベクトルを \( \vb*{R_{0}} \) として, 角運動量 \[ \begin{aligned} \vb*{L} &= m \vb*{R_{0}} \times \vb*{v_{0}} \\ ( L &= m R v_{0} \sin{\theta} = m h v_{0} ) \end{aligned} \] を一定に保ちつつ, またエネルギー保存則も満たすような軌道を通ることになる.

脚注

脚注
1 この定理のそれらしい和訳をあまり見かけないが, 球殻定理とでもいったところか.
2 図形を描かずとも, 数学的な計算のみで求めることもできるがここでは議論しない. 興味がある人はヤコビアンという用語を適宜調べてみてほしい.
3 本来は微小だが有限な変化量を記述する場合には \( \Delta s \) , \( \Delta \theta \) , \( \Delta \phi \) といった具合に記号 \( \Delta \) を用いて記述するべきだが, 最終的には変化量が非常に小さいという極限をとることを前提として記号 \( \dd \) を用いて議論させてもらう.