圧力と浮力

流体中の物体に働く浮力や単位面積あたりに働く力の成分である圧力について議論する. どちらも流体に特徴的な量なのでセットで取り扱われることが多い単元である.

ただし, “圧力”という単語に”力”が入っているせいか圧力と力が混同されがちであったり, 浮力の源についても誤解が生じやすく, 用語の使い方に注意しなくてはならない単元である.

まずは流体及び静止流体という考え方を紹介し, 圧力と浮力の議論へとつなげていく.

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流体
圧力
浮力


流体

物質の形態を相といい, 相はさらに固体, 液体, 気体にわけられる.

固体はそれを構成している物質同士が互いに束縛されており, 基本的には互いの位置関係が変化しない.

それに対して, 液体や気体はそれを構成している物質達が比較的自由に運動しており全体の形状が時々刻々と変化することになる. このような流れを生み出す物体の総称を流体という.

高校物理では流体の”流れ”を積極的に取り扱うことはせずに, 流体が全体として静止しているという簡単化した流体, 静止流体を取り扱うことになる.

流体の流れを取り扱った学問である流体力学は大学以降の楽しみとしてとっておいてほしい[1].

身近な流体は空気及び水であろう. 空気と水はそれぞれ気体と液体の相の代表格である. 空気の特質は熱力学という分野で取り扱うことにして, 以下では流体の中でも液体に関する事項について議論する.

圧力

圧力という単語は日常的にも使われる単語だが, 物理できちんとした取り扱いをし始めると問題演習であまり思うように取り扱えない人が出てくる単元でもある[2]. その場合, 圧力を感覚的に扱いすぎていないか自らに問いかけてほしい.

流体中での圧力といえば, 海の深い場所へ行くほど水圧が高くなるなどは有名な話である. これは圧力の重要な性質の一つであり, 流体の表面からの深さによって圧力が変化することを示唆している. さらに圧力の重要な性質として, ある点に働く圧力による力は等方的であることなどが知られている.

以下ではまず, 圧力を定義してその重要な性質についてそれぞれ議論する.

圧力とせん断応力

面に働く力を考え, 圧力せん断応力を導入する. ただし, せん断応力は高校物理では取り扱われず, 圧力が主な議論の対象となる.

まず, 流体に接触しているようなある(仮想的な)面を考えてみる[3]. ”接触している”ということは, 流体と面は互いに力を及ぼしあっていることになる. 流体が単位面積あたりに面に及ぼす力のうち, 面に対して垂直方向の成分を圧力, 面に沿った方向の法線成分をせん断応力という.

ある微小な面積 \( \Delta S\, \mathrm{m^2} \) の面に加えられている力を \( \Delta \boldsymbol{F} \, \mathrm{N} \) とする. 流体から面に向かって垂直な方向の単位ベクトルを \( \boldsymbol{n} \) , それに対して垂直な方向の単位ベクトルを \( \boldsymbol{t} \) とする.

\( \Delta \boldsymbol{F} \)\( \boldsymbol{n} \) 方向の成分を \( \Delta F_{n} = \Delta \boldsymbol{F} \cdot \boldsymbol{n} \) , 力 \( \Delta \boldsymbol{F} \)\( \boldsymbol{t} \) 方向の成分を \( \Delta F_{t} = \Delta \boldsymbol{F} \cdot \boldsymbol{t} \) とすると, 力 \( \Delta \boldsymbol{F} \)\[\begin{aligned} \Delta \boldsymbol{F} &= \left( \Delta \boldsymbol{F} \cdot \boldsymbol{n} \right) \boldsymbol{n} + \left( \Delta \boldsymbol{F} \cdot \boldsymbol{t} \right) \boldsymbol{t} \\ &= \Delta F_{n} \boldsymbol{n} + \Delta F_{t} \boldsymbol{t} \end{aligned}\] と表すことができる.

このとき, 単位面積あたりの力は \[\begin{aligned} \frac{\Delta \boldsymbol{F}}{\Delta S} &= \frac{\Delta F_{n}}{\Delta S } \boldsymbol{n} + \frac{\Delta F_{t} }{\Delta S } \boldsymbol{t} \end{aligned}\] となる.

ここで, 圧力 \( P \) とせん断応力 \( \tau \) (タウ)をそれぞれ次式で定義するのである. \[\left\{ \begin{aligned} P & \mathrel{\mathop:}= \lim_{\Delta S \to 0} \frac{ \Delta F_{n} }{\Delta S } = \frac{dF_{n}}{dS}\\ \tau & \mathrel{\mathop:}= \lim_{\Delta S \to 0} \frac{ \Delta F_{t} }{\Delta S } = \frac{dF_{t}}{dS} \end{aligned} \right.\] ここで, 単位は \( \mathrm{Pa} \mathrel{\mathop:}= \mathrm{N}/\mathrm{m^2}\) である. このように圧力とせん断応力を定義しておくことで, 非常に小さな点に対して働く単位面積当たりの力は \[\therefore \ \lim_{\Delta S \to 0} \frac{\Delta \boldsymbol{F}}{\Delta S} = P\boldsymbol{n} + \tau\boldsymbol{t}\] とあらわすことができる.

このように定義された \( P \)\( \tau \) は一般的には場所によって異なる値を持つが, 面積 \( S \) にわたって均等な値であるならば, その値を面全体にわたって積分したものが力であり, \[\left\{ \begin{aligned} F_{n} & = \int_{S} p \, dS= pS \\ F_{t} & = \int_{S} \tau \, dS = \tau S \end{aligned} \right.\] となる.

再度確認しておくと, 圧力は流体が面を面に対して垂直な方向に押す(または引く)力の成分であり, せん断応力は流体の流れによってある面を面に沿った方向へずらすような力の成分であり, 高校物理で扱うような流れを無視した静止流体においてはせん断応力を考慮する必要はない.

静止流体流での圧力の等方性

圧力の重要な性質の一つ, ある点に働く圧力による力はその向きに関係がないことを議論する[4].

いま, 密度 \( \rho \) の静止流体の中で静止した下図のような仮想的な微小直角三角柱を考えてみよう. この直角三角柱は接触している静止流体から力を受けており, 各面ごとに及ぼす圧力は一定とする.

まず, \( x \) 方向の運動方程式を考えると, \[\begin{aligned} 0 &= p_{x} \,dy \, dz – p \, dy \sqrt{ \left( dx\right)^2 + \left( dz\right)^{2}} \sin{\theta} \\ \to \ p_{x}\, dz &= p\sqrt{ \left( dx\right)^2 + \left( dz\right)^{2}} \sin{\theta} \\ p_{x} &= p \underbrace{\frac{\sqrt{ \left( dx\right)^2 + \left( dz\right)^{2}}}{dz}}_{=\frac{1}{\sin{\theta}}} \sin{\theta} \\ \therefore \ p_{x} &= p \end{aligned}\] \( z \) 方向の運動方程式は三角柱の密度を \( \rho' \) とすると, 三角柱の質量 \( m \)\( \displaystyle{ m = \frac{1}{2} \rho \, dx\, dy \, dz} \) であることに注意すると, \[\begin{aligned} 0& = p_{z} \, dx \, dy – p \, dy \sqrt{ \left( dx\right)^2 + \left( dz\right)^{2}} \cos{\theta} – m g \\ 0& = p_{z} \, dx \, dy – p \, dy \sqrt{ \left( dx\right)^2 + \left( dz\right)^{2}} \cos{\theta} – \left( \frac{1}{2} \rho \, dx\, dy \, dz \right) g \\ \to \ p_{z} \, dx &= p \sqrt{ \left( dx\right)^2 + \left( dz\right)^{2}} \cos{\theta} – \frac{1}{2} \rho g \, dx \, dz \\ &= p \underbrace{ \frac{\sqrt{ \left( dx\right)^2 + \left( dz\right)^{2}}}{dx}}_{=\frac{1}{\cos{\theta}}} \cos{\theta} – \frac{1}{2} \rho g \, dz \\ &= p – \frac{1}{2} \rho g \, dz \end{aligned}\] ここで, \( dx, dy, dz \) は微小量であり, 右辺第2項は第1項に比べて無視できるので, \[\therefore \ p_{z} = p\] となる. 以上より, ある点に対して働く圧力について, \( p = p_{x} = p_{z} \) が成立することになる.

この三角形の3次元的な向きを変えると, \( y \) 方向の圧力も \( p \) に等しいことは明らかであり, \[p = p_{x} = p_{y} = p_{z}\] という, 圧力の等方性を示すことができた.

静止流体流での圧力の高さ依存性

続いて, 密度 \( \rho \) の一様な静止流体について, その各点で圧力がどのような値をとるのかを考えよう.

流体の表面を基準にし, 流体の表面から鉛直下向きを \( z \) 軸として, 深さ \( [z, z+\Delta z] \) に上面及び下面の面積が \( S \) の微小な円柱を考えてみよう.

深さ \( z \) での圧力の値を \( P(z) \) , 深さ \( z+\Delta z \) の圧力の値を \( P\left(z+\Delta z\right) \) と深さの関数としてあらわし, この円柱が静止していることから運動方程式は次のようになる. \[\begin{aligned} \frac{d^2 z}{dt^2} &= 0\\ &= P(z)S – P(z+\Delta z)S + \rho S \, \Delta z \, g \\ \to \ & \frac{ P(z + \Delta z ) – P(z) }{\Delta z} = \rho g \quad . \end{aligned}\] ここで, \( \Delta z \to 0 \) の極限を考えると, \[\lim_{\Delta z \to 0} \frac{ P(z + \Delta z) – P(z) }{\Delta z} = \frac{dP}{dz} = \rho g\] が得られるので, 位置 \( z \) の圧力 \( P \)\[\begin{aligned} P &= \int^{z}_{0} \left( \frac{dP}{dz} \right) \,dz' \\ &= \int^{z}_{0} \rho g \,dz' \\ &= \rho g z + C \end{aligned}\] となる. \( C \) は積分定数であるが, 流体の表面( \( z=0 \) )での圧力の値を \( P_{0} \) とすると \( P(z) \) は次式のように計算することができる[5]. \[\begin{aligned} P_{0} &= \rho g \cdot 0 + C \ \to C = P_{0} \\ \therefore \ P &= P_{0} + \rho g z \quad . \end{aligned}\] 以上より, 流体の表面から深さ \( h \) の点での圧力 \( P \) は, 流体表面での圧力を \( P_{0} \) として, \[P = P_{0} + \rho h g\] とあらわすことができる. この流体が水ならば \( \rho \) は水の密度であり, 海水面での圧力 \( P_{0} \) のことを大気圧, \( \rho h g \)水圧, という.

大気の場合の圧力の位置依存性

流体が液体の場合の圧力は先に計算したものでいいのであるが, 大気の場合には高さ毎の密度の違いが顕著であること, 気体の状態方程式を利用した立式が必要であることなどから多少複雑となる.

詳しい計算は断熱変化のページで気温逓減率として紹介しているので, 興味がある人は各自で確認してもらいたい.

圧力

流体が単位面積あたりに面に及ぼす力のうち, 面に対する垂直方向の成分を圧力, 面に対する法線方向の成分をせん断応力という.

ある点に働く圧力による力は向きによらず同じ大きさである.

密度 \( \rho \) の流体で, 表面からの深さが \( h \) の点での圧力 \( P \) は, 流体表面での圧力 \( P_{0} \) と重力加速度 \( g \) を用いて, 次式であらわされる. \[ P = P_{0} + \rho h g \] 流体が置かれた場所が海面付近ならば, \( P_{0} \)大気圧であり, 流体が水ならば \( \rho h g \)水圧と呼ばれる.

浮力

浮力は流体に関する物理であるので圧力とセットで語られることが多いが, 浮力を導入するにあたっては圧力は特に必要というわけではない. その考え方は使っているが, 上記で述べたような圧力の性質を知らずとも浮力を導入することができ, 以下では実際にそうしている.

浮力の性質を仮想的な領域に対する運動方程式によって導くが, そこで登場する力の源が何かをしっかりと把握しておかないと騙された気分になるので注意しながら読み進めてほしい.

密度 \( \rho \) の静止流体中に, 体積 \( V \) の物体が沈んでいる状況を考え, この物体に働く浮力を考えてみよう.

物体はその周りの流体と接触しており, 接触している物体同士は互いに力を及ぼし合うので, 物体が流体から受ける力の合力を \( \boldsymbol{F} \) とする. この力 \( \boldsymbol{F} \) こそが浮力と言われる力である.

この段階ではまだ浮力の大きさやその向きは明らかではないので, 物体が沈んでいる体積と同じ体積 \( V \) , 流体と同じ密度 \( \rho \) を持つ静止した仮想的な領域を考えてみよう.

この仮想的な領域の質量は \( \rho V \) であり, 領域全体で \( \rho V g \) の重力が働いている. また,仮想的な領域が周りの流体から受ける力の合力は \( \boldsymbol{F} \) である. これらの条件に加えて, 仮想的な領域が流体中で静止していることから, 運動方程式は \[\begin{aligned} \boldsymbol{0} &= \boldsymbol{F} + \rho V \boldsymbol{g} \\ \to \ \boldsymbol{F} &=- \rho V \boldsymbol{g} \end{aligned}\] である. 重力加速度 \( \boldsymbol{g} \) は鉛直下向きなので, 仮想的な領域に働く浮力 \( \boldsymbol{F} \) は鉛直上向きに大きさ \( \rho V g \) であることがわかった.

ここで最も注意してほしいことは, 仮想領域に働く浮力 \( \boldsymbol{F} \)周りの流体から受ける合力なのである. ということは, 仮想的な領域に別の物体を当てはめたとしても, 浮力 \( \boldsymbol{F} \) は周りの流体が同じ流体である限り変化しないのである. したがって, 密度 \( \rho \) の流体中に沈んだ体積が \( V \) の物体に働く浮力と, 同じ体積を持つ仮想的な領域に働く浮力とは同じ大きさ, 向きを持っているのである.

このような考え方のもとで得られた結論をまとめよう.

浮力は, 浮力が働いている周りの流体の密度 \( \rho \) , 浮力が働いている物体が流体中に占める体積 \( V \) 及び重力加速度 \( g \) のみで決まり, 鉛直上向きに \( \rho V g \) となる.

したがって, 密度 \( \rho \) の流体に沈んだ物体の密度を \( \rho_{\mathrm{m}} \) , 流体中に占める体積を \( V \) , 重力加速度を \( \boldsymbol{g} \) とすると, 鉛直上向きを正とした運動方程式は加速度を \( a \) として, \[\begin{aligned} \left( \rho_{\mathrm{m}} V \right) a & = \rho V g – \rho_{\mathrm{m}} V g \\ \to \ a &=\left( \frac{\rho}{ \rho_{\mathrm{m}}} – 1 \right) g \end{aligned}\] であり, \( \rho > \rho_{\mathrm{m}} \) の時(流体の密度が物体の密度よりも大きい時)には物体は上向きの加速度を持って浮上し, \( \rho_{\mathrm{m}} > \rho \) の時(物体の密度が流体の密度よりも大きい時)には物体は下向きの加速度を持って沈降することになる.

浮力

密度 \( \rho \) の流体中で, 流体中に占める体積が \( V \) の物体に働く浮力の大きさ \( F \) は重力加速度 \( g \) を用いて, 物体の形状によらず次式で与えられる. \[ F = \rho V g \]

浮力は, 流体中に存在する物体に対して周りの流体が与える力であり, 流体中に置かれた物体が何であるかには依存しない.

流体中で重力と浮力以外の力を受けていない物体の密度を \( \rho_{\mathrm{m}} \) , 流体の密度を \( \rho \) とする. このとき, \( \rho_{\mathrm{m}} > \rho \) ならば物体は浮力を受けつつも沈降し, \( \rho > \rho_{\mathrm{m}} \) ならば浮上する.

運動方程式 慣性力



補足    (↵ 本文へ)
  1. 流体力学ではミレニアム懸賞問題として有名なナビエ-ストークス方程式が登場することになる.

  2. 物理にかかわらず, 日常用語として出会う物理用語をいざ定量的に扱おうとした場合, 教える側も教わる側も感覚に頼りすぎてしまうことがある. これは非常に危ない. 物理はあくまでも一つの世界観を学んでいるのであって, その世界観の中で使われている用語の意味や定義について確認する作業を怠っていてはいつか痛い目に会うことになる.

  3. ”仮想的”という括弧書きを加えたが, 流体に具体的な物質が接している場合でなくとも, 同じ流体中でも適当な面を仮定しても以下の議論が成立する.

  4. 念をおしておくが, 圧力は力ではない. ”力”という字があてがわれていて紛らわしいが, 圧力はあくまで各場所に割り振られたスカラー量であり, 面の方向を指定することで初めて”圧力の向き”なるものを議論できるのである.

  5. 圧力という物理量が, 2点間の圧力差だけが重要な意味を持つのであったならば, 積分定数 \( C \) をこの段階で決めておく必要はない. しかし, 圧力というのはある位置での圧力の値自体が重量な意味を持っているので, 事前に人間本位の基準点を与えて積分定数の任意性を打ち消しておくである.これは位置エネルギーの基準を人間が自由に選んでもよく, どんな基準を選んだとしても大事なのは2点間の位置エネルギーの差であったこととは事情が異なっている.

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