運動の3法則

力学の中心であるニュートンの運動の3法則について議論する.

運動の法則の導入にあたっては幾つかの根本的な疑問と突き当たることも少なくない. この手の疑問に対しておおいに語りたいところではあるが, グッと堪えて必要最小限の考察以外は脚注にまとめておく. 疑問が尽きない人は 適宜脚注に目を通すなり他の情報源で調べてみるなどして, 適度に妥協しつつ次のステップへと積極的に進んでほしい.

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運動の3法則

運動の第1法則 : 慣性の法則
運動の第2法則 : 運動方程式
運動の第3法則 : 作用反作用の法則


運動の3法則

力学の創始者ニュートンはニュートン力学について以下の三つこそが証明不可能な基本法則, 原理 – 数学で言うところの公理 – であるとした[1].

  1. 慣性の法則

  2. 運動方程式

  3. 作用反作用の法則

この3法則をニュートンの運動の3法則といい, これらの正しさは実験によってのみ確かめられる.

また, 運動の法則では”“が向きと大きさを持つベクトル量であることも暗に仮定されている.

以下では各運動の法則に着目していき, その正体を少しずつ明らかにしていこうと思う[2].

力(Force)とは何か?という疑問を投げかけられることは, 物理を伝える者にとっては幸福であると同時にどんな返答をすべきか悩むところである[3]. 力の種類の分類というのであれば比較的容易であるし, 別にページを設けて行う. しかし, 力自身を説明するのは存外難しいものである. こればかりは日常的な感覚に頼るしかないのだ. 「物を動かす時に加えているモノ」とか, 「人から押された時に受けるモノ」とかである.

これらの日常的な感覚でもって「それが力の持つ一つの側面だ」と, こういう説明になる. なのでまずは物体を動かす能力とでも理解してもらいその性質を学ぶ過程で力のいろんな側面を知っていってほしい.

力は大きさと向きを持つ物理量であり, ベクトルを使って表現される. 力の英語(つづ)の頭文字をつかって, \( \boldsymbol{F} \) とか \( \boldsymbol{f} \) で表す事が多い.なお, 『高校物理の備忘録』ではベクトル量を太字で表す.

力が持つ重要な性質の一つとして, ベクトルの足しあわせや分解などが力の計算においてもそのまま使用できることが挙げられる. したがって, 一つ物体に複数の力 \( \boldsymbol{f}_1 , \boldsymbol{f}_2 , \cdots , \boldsymbol{f}_n \) が作用している場合, その合力 \( \boldsymbol{F} \) を \[ \begin{aligned} \boldsymbol{F} &= \boldsymbol{f}_1 + \boldsymbol{f}_2 + \cdots + \boldsymbol{f}_n \\ & =\sum_{i=1}^{n}\boldsymbol{f}_i \end{aligned} \] で表して, 合力 \( \boldsymbol{F} \) のみが作用していると解釈してよいのである.

力(Force)とは物体を動かす能力を持ったベクトル量であり, \( \boldsymbol{F} \) や \( \boldsymbol{f} \) などと表す.

複数の力 \( \boldsymbol{f}_1 , \boldsymbol{f}_2 , \cdots , \boldsymbol{f}_n \) が一つの物体に働いている時, 合力 \( \boldsymbol{F} \) を \[ \begin{aligned} \boldsymbol{F} &= \boldsymbol{f}_1 + \boldsymbol{f}_2 + \cdots + \boldsymbol{f}_n \\ &= \sum_{i=1}^{n}\boldsymbol{f}_i \end{aligned} \] で表し, 合力だけが働いているとみなしてよい.

運動の第1法則 : 慣性の法則

運動の第1法則慣性の法則ともいわれ,

力を受けていないか力を受けていてもその合力がゼロの場合, 物体は等速直線運動を続ける

ということを主張している. なお, 等速直線運動には静止も含まれていることを忘れないでほしい.

慣性の法則を数式を使って表現しよう. 質量 \( m \) の物体が速度 \( \displaystyle{\boldsymbol{v} = \frac{d\boldsymbol{r}}{dt} } \) で移動している時, 物体の運動量 \( \boldsymbol{p} \) を, \[ \boldsymbol{p} = m \boldsymbol{v} \] と定義する. 慣性の法則とは物体に働く合力 \( \boldsymbol{F} \) がつり合っていれば( \( \boldsymbol{F}=\boldsymbol{0} \) であれば), 運動量 \( \boldsymbol{p} \) が変化しないと言い換えることができ, \[ \begin{aligned} \frac{d \boldsymbol{p}}{dt} &= \boldsymbol{0} \\ \iff \quad m \frac{d\boldsymbol{v}}{dt} &= m \frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2} = \boldsymbol{0} \end{aligned} \] という関係式が成立することを表している.

慣性の法則は慣性系という重要な概念を定義しているのだが, 慣性系, 非慣性系, 慣性力については慣性力の項目で詳しく解説するので, 初学者はまず力がつり合っている物体は等速直線運動を続けるということだけは頭に入れつつ次のステップへ進んで貰えばよい.

運動の第2法則 : 運動方程式

運動の第2法則は物体の運動と力とを結びつけてくれる法則であり,
運動量の変化率は物体に加えられた力に比例する
ということを主張している.

運動の第2法則を数式を使って表現しよう. 質量 \( m \) , 速度 \( \displaystyle{\boldsymbol{v} = \frac{d\boldsymbol{r}}{dt} } \) の物体の運動量 \( \displaystyle{\boldsymbol{p} = m \boldsymbol{v}} \) の変化率 \( \displaystyle{\frac{d\boldsymbol{p}}{dt} } \) は力 \( \boldsymbol{F} \) に比例する. 比例係数を \( k \) とすると, \[ \frac{d \boldsymbol{p} }{dt} = k \boldsymbol{F} \] という関係式が成立すると言い換えることができる. そして, 比例係数 \( k \) の大きさが \( k=1 \) となるような力の単位を \( \mathrm{N} \) (ニュートン)という.

今後, 力 \( \boldsymbol{F} \) の単位として \( \mathrm{N} \) を使うと約束すれば, 運動の第2法則は \[ \frac{d \boldsymbol{p} }{dt} = m\frac{d^2 \boldsymbol{r} }{dt^2} = \boldsymbol{F} \] と表現される.

この運動の第2法則と運動の第1法則を合わせることで運動方程式という物理学の最重要関係式を考えることができる.

質量 \( m \) の物体に働いている合力が \( \boldsymbol{F} \) で加速度が \( \displaystyle{ \boldsymbol{a} = \frac{d^2 \boldsymbol{r}}{dt^2} } \) のとき, 次の方程式 – 運動方程式 -が成立する. \[ m \boldsymbol{a} = \boldsymbol{F} \qquad \left( \ m\frac{d^2 \boldsymbol{r} }{dt^2} = \boldsymbol{F} \ \right) \]

運動方程式は力学に限らず物理学の中心的役割をになう非常に重要な方程式であるが, 注意しておかなくてはならない点がある.

まず, 運動方程式の左辺と右辺とでは物理的に明確な違いがあることに注意してほしい. 確かに数学的な量の関係としてはイコールであるが, 運動方程式は質量 \( m \) の物体に合力 \( \boldsymbol{F} \) が働いた結果, 加速度 \( \boldsymbol{a} \) が生じるという因果関係を表している[4].

さらに, “慣性の法則は運動方程式の特別な場合( \( \boldsymbol{F}=\boldsymbol{0} \) )であって基本法則でない”と考えてはならない. そうではなく, \( \boldsymbol{F}=\boldsymbol{0} \) ならば, \( \displaystyle{ m \frac{ d^2 \boldsymbol{r}}{dt^2} = \boldsymbol{0} } \) が成り立つ座標系-慣性系-が在り, 慣性系での運動方程式が \[ m\frac{d^2 \boldsymbol{r} }{dt^2} = \boldsymbol{F} \] となることを主張しているのだ. これは, 慣性力を学ぶことでより深く理解できる. それまでは, 特別に断りがない限り慣性系での物理法則を議論する.

運動の第3法則 : 作用反作用の法則

運動の第3法則作用反作用の法則とも呼ばれ, 力の性質を表す法則である.

運動方程式が一つの物体に働く複数の力を考えていたのに対し, 作用反作用の法則は二つの物体と一対の力についての法則であり,

作用と反作用は大きさが等しく互いに逆向きである

ということなのだが, この意味を以下で学ぼう.

下図のように物体1を動かすために物体2(例えば人の手)を押し付けて力を与える. このとき, 物体2が物体1に力 \( \boldsymbol{F}_{12} \) を与えているならば物体2も物体1に力 \( \boldsymbol{F}_{21} \) を与えていて, しかもその二つの力の大きさ \( F_{12} \) と \( F_{21} \) は等しく, 向きは互いに反対方向である. つまり, \[ \boldsymbol{F}_{12} =- \boldsymbol{F}_{21} \] という関係を満たすことが作用反作用の法則の主張するところである[5].

力 \( \boldsymbol{F}_{12} \) を作用と呼ぶならば, 力 \( \boldsymbol{F}_{21} \) を反作用と呼んで, 「作用と反作用は大きさが等しく逆向きに働く」と言ってもよい. もちろん, 力 \( \boldsymbol{F}_{21} \) を作用と呼んで, 力 \( \boldsymbol{F}_{12} \) を反作用と呼んでも構わない. 作用とか反作用とかは対になって表れる力に対して人間が勝手に呼び方を決めているだけであり、作用反作用という新しい力が生じているわけではない.

作用反作用の法則で大事なことは,

  • 作用と反作用の力の対は同時に存在すること,
  • 作用と反作用は別々の物体に働いていること,
  • 向きは真逆で大きさが等しいこと
である. 作用が生じてその結果として反作用が生じる, という時間差があるわけではないので注意してほしい[6]

作用反作用の法則の誤用として, 「作用と反作用は力の大きさが等しいのだから物体1は動かない(等速直線運動から変化しない)」という間違いがある. しかし, 物体1が動くかどうかは物体1に対しての運動方程式で議論することであって, 作用反作用の法則とは一切関係がないので注意してほしい. 作用反作用の法則はあくまで, 力が一対の組(作用・反作用)で存在することを主張しているだけである.

運動の3法則

運動量 :
質量 \( m \) , 速度 \( \displaystyle{ \boldsymbol{v} = \frac{d\boldsymbol{r}}{dt}} \) , の物体が持つ運動量 \( \boldsymbol{p} \) を次式で定義する. \[ \boldsymbol{p} = m \boldsymbol{v} = m \frac{d\boldsymbol{r}}{dt} \]

運動の第1法則 : 慣性の法則
物体に働く合力 \( \boldsymbol{F} \) が \( \boldsymbol{0} \) の時, 物体の運動量 \( \boldsymbol{p} \) の変化率 \( \displaystyle{ \frac{d\boldsymbol{p}}{dt}=m\frac{d\boldsymbol{v}}{dt}=m\frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2} } \) は \( \boldsymbol{0} \) である. \[ \frac{d\boldsymbol{p}}{dt} = m \frac{ d^2 \boldsymbol{r}}{dt^2} = \boldsymbol{0} \] また, 上式が成り立つような慣性系の存在を定義している.

運動の第2法則 : 運動方程式
運動量 \( \boldsymbol{p}=m\boldsymbol{v} \) の物体の運動量の変化率 \( \displaystyle{ \frac{d\boldsymbol{p}}{dt}=m\frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2} } \) は物体に働く合力 \( \boldsymbol{F} \) に等しい. \[ \frac{d\boldsymbol{p}}{dt} = m \frac{ d^2 \boldsymbol{r}}{dt^2} = \boldsymbol{F} \]
全く同じ意味で,
質量 \( m \) の物体に働く合力が \( \boldsymbol{F} \) の時, 物体の加速度は \( \displaystyle{ \boldsymbol{a}= \frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2} } \) である. \[ m \boldsymbol{a} = m \frac{d^2\boldsymbol{r}}{dt^2} = \boldsymbol{F} \]

運動の第3法則 : 作用反作用の法則
2つの物体が互いに力を及ぼし合う時, 物体1が物体2から受ける力(作用) \( \boldsymbol{F}_{12} \) は物体2が物体1から受ける力(反作用) \( \boldsymbol{F}_{21} \) と, \[ \boldsymbol{F}_{12} =- \boldsymbol{F}_{21} \] の関係にある.

最終更新日
等速度運動と等加速度運動 運動方程式



補足    (↵ 本文へ)
  1. なぜこれらが基本法則になっているのかというと「基本法則を認めた結果を用いることで作られた物理学が世の中の物理(運動や状態の変化など)を正確に記述・予言できているから」とか, 「数々の実験でその妥当性が確かめられているから」としか言いようがない. つまり, “基本法則を認めて作られた物理学が物理を正しく説明できているのだから基本法則は正しかったのであろう”ということである.

    ここで勘違いしてほしくないのは, 実験や観測の精度が向上する事によってそのほころびが見える可能性は否定できない, ということである.

    物理学は「こう考えれば運動を予言できるよね」というモデルに過ぎないので, より良いモデルが見つかる可能性は常に残されている.

    ただし, より良いモデルには既存のモデルも説明できることが求められる. また, 既存の概念で説明できない未知の現象に出会ったからといって既存の理論を否定しにかかるトンデモ科学も世の中にははびこっているが, その判断には慎重になってほしい. 既存の概念が複雑に絡まって未知の現象に見えているだけかもしれないし, 実験の間違いかもしれないからだ. また, トンデモ科学が提案する”より良いモデル”はごく一部の現象は説明できても既存のモデルほど適用範囲が広くない”木を見て森を見ず”モデルだったりもするのでやはり注意してほしい.

  2. 物理では新しい概念や言葉がそれなりに登場する. その度にじっと立ち止まって理解しようとしても普通は無理である. まずは身近なより簡単な概念と結びつける程度で納得して問題演習を行い, 再度概念の説明文に目を通してまた問題演習を繰り返し, , , とステップを踏んで各概念のいろんな側面を学ぶことで理解を深めていってほしい. 物理は身の回りの現象一般が相手であるので何度もなんども同じ概念に繰り返した立ち返ることになる.

  3. 皆さんはこの無垢な質問に対してどう答えるだろうか?もちろん, 力の起源というのは物理学の最先端の話題でもあるのでこの疑問に完全に答えるのは不可能である. なので, 各人の学習到達度に応じた”力”の表現方法を大切にしてほしい. 初学者ならば「物を動かす能力」でいいだろうし, 一通り高校物理( \( + \alpha \) )を学んだ後ならば「物体に加速度を与える能力を持つベクトル量だ」とか, 「位置エネルギーの微分によって導かれる量だ」とか少しずつ表現のレベルを上げていってほしい. また, 時々は各種の法則や定理について友人に説明するつもりで口に出してみると良い. 自分の理解度がどれくらいかもこの作業でわかる.

  4. 問題演習などにおいては質量, 力, 加速度のうち二つがわかっている状態で最後のもう一つを求めるなどの計算をおこなうことになるし, その時にも運動方程式を使うことにはなるが, あくまでも運動方程式はこの因果関係を表していることを忘れてはならない.

  5. 「なぜ力を加えている側が力を受けているの?」というのはもっともな疑問であるが, 作用反作用の法則は他の法則から導出できない基本法則なのでいったん納得してほしいと言わざるを得ない.

  6. 万有引力や電磁気力は接触していない物体同士に働き, 作用と反作用の始点が離れた位置に存在する. そのような場合にも作用と反作用は”同時に”存在するのか?という疑問については高校物理の範囲内では問題にならない. しかし, かの有名な相対性理論では空間内での”情報”伝達速度にはある制限が加えられることになる.

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