実験室系と重心系

実験室に対して静止した座標系を実験室系といい, 系の重心に対して静止した座標系を重心系という.

重心系での運動エネルギーは実験室系での相対運動エネルギーに等しい.

重心系で2物体の衝突を眺めると, 同じ大きさで逆向きの運動量を持ったもの同士の衝突に見える.

物体の運動を眺める立場の違い, 実験室系重心系について説明する. その後, 実験室系で観測した物理量が重心系でどのように記述されるのかを確かめる.

以下では, 議論を簡単にするために質量 \( m_{1} \) を持った物体1と質量 \( m_{2} \) を持った物体2の2体系について考えることにする.

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実験室系と重心系
実験室系での速度と重心系での速度
実験室系の運動エネルギーと重心系の運動エネルギー
2物体の衝突と重心系


実験室系と重心系

2個の物体から成る2体系の運動を観測することを例に実験室系と重心系について説明しよう.

実験室系

身近な物理実験を実施・観測する立場を考えよう. このとき, 地表付近で生活を行う我々は, 無意識の内に我々が立っている地表付近(実験室)を一つの慣性系とみなして運動を観測することであろう. このような, 我々にとって静止した座標系を考えて実験室系と呼ぶ.

重心系

2体問題で解説したように, 外力が加えられない限り2体系の重心は等速直線運動を行う. したがって, 重心と一緒に動く系というのも一つの慣性系とみなすことができる. そこで, 重心と一緒に動くような座標系を考えて重心系と呼ぶ.

重心と一緒に動く, ということは重心系で観測した重心は常に静止し続けているので, 重心系での重心速度は常に \( \boldsymbol{0} \) である. さらに, 重心速度に比例する2体系の全運動量も常に \( \boldsymbol{0} \) となる.

実験室系での速度と重心系での速度

実験室系で観測した物体1, 物体2の位置をそれぞれ \( \boldsymbol{r}_{1} \) , \( \boldsymbol{r}_{2} \) とする. また, 各物体の速度はそれぞれの位置の時間微分で定義される. したがって, 実験室系で観測した物体1, 物体2の速度はそれぞれ \( \boldsymbol{v}_{1} = \frac{d\boldsymbol{r}_{1}}{dt} \) , \( \boldsymbol{v}_{2} = \frac{d\boldsymbol{r}_{2}}{dt} \) で与えられる.

これらをもちいると, 実験室系で観測した2体系の重心座標 \( \boldsymbol{r}_{G} \) 及び重心速度 \( \boldsymbol{v}_{G} \) は次式であらわされる. \[\begin{aligned} \boldsymbol{r}_{G} &= \frac{m_{1}\boldsymbol{r}_{1} + m_{2}\boldsymbol{r}_{2} }{m_{1}+m_{2}} \notag \\ \boldsymbol{v}_{G} &= \frac{m_{1}\boldsymbol{v}_{1} + m_{2}\boldsymbol{v}_{2} }{m_{1}+m_{2}} \quad . \notag \end{aligned}\] さて, 2体系の重心速度が常に \( \boldsymbol{0} \) となる座標系である重心系では2体系の全運動量も常に \( \boldsymbol{0} \) となる. したがって, 重心系での物体1, 物体2の速度をそれぞれ \( \boldsymbol{u}_{1} \) , \( \boldsymbol{u}_{2} \) とすると次式が成立する. \[\ m_{1}\boldsymbol{u}_{1} + m_{2}\boldsymbol{u}_{2} = \boldsymbol{0} \quad . \label{vgcinCM}\] 重心系では重心とともに運動しながら各物体の位置を測定することになる. これは位置ベクトルの始点を重心に移すことを意味するので, 重心系でみた物体1, 物体2の位置ベクトルはそれぞれ \( \left( \boldsymbol{r}_{1}-\boldsymbol{r}_{G} \right) \) , \( \left( \boldsymbol{r}_{2}-\boldsymbol{r}_{G} \right) \) と書くことができる.

したがって, 重心系でみた物体1, 物体2の速度 \( \boldsymbol{u}_{1} \) , \( \boldsymbol{u}_{2} \) は, 実験室系で観測される量 \( \boldsymbol{v}_{1} \) , \( \boldsymbol{v}_{2} \) , \( \boldsymbol{v}_{G} \) を用いて次のように表すことができる. \[\begin{aligned} \boldsymbol{u}_{1} & = \boldsymbol{v}_{1} – \boldsymbol{v}_{G} \notag \\ \boldsymbol{u}_{2} & = \boldsymbol{v}_{2} – \boldsymbol{v}_{G} \quad .\notag \end{aligned}\] このような \( \boldsymbol{u}_{1} \) , \( \boldsymbol{u}_{2} \) が式\eqref{vgcinCM}を満たすことは各自で確認して欲しい.

実験室系の運動エネルギーと重心系の運動エネルギー

実験室系で観測した速度で記述した2体系の運動エネルギー \[K = \frac{1}{2}m_{1} \boldsymbol{v}_{1}^{2} + \frac{1}{2}m_{2} \boldsymbol{v}_{2}^{2} \notag\] と, 重心系で観測した速度で記述した2体系の運動エネルギー \[K_{\mathrm{CM}} = \frac{1}{2}m_{1} \boldsymbol{u}_{1}^{2} + \frac{1}{2}m_{2} \boldsymbol{u}_{2}^{2} \notag\] との間に成立する関係について確認しておく.

実験室系で見た2体系の運動エネルギーを, \( \boldsymbol{u}_{1} \) , \( \boldsymbol{u}_{2} \) および \( \boldsymbol{v}_{G} \) を用いて記述しなおそう. 途中, 重心系における2体系の全運動量が \( \boldsymbol{0} \) になること(式\eqref{vgcinCM})を利用すれば, \[\begin{align} K &= \frac{1}{2}m_{1}\boldsymbol{v}_{1}^{2} + \frac{1}{2}m_{1}\boldsymbol{v}_{2}^{2} \notag \\ &= \frac{1}{2}m_{1} \left( \boldsymbol{u}_{1} + \boldsymbol{v}_{G} \right)^{2} + \frac{1}{2}m_{1} \left( \boldsymbol{u}_{2} + \boldsymbol{v}_{G} \right)^{2} \notag \\ &= \frac{1}{2}m_{1}\boldsymbol{u}_{1}^{2} + \frac{1}{2}m_{2}\boldsymbol{u}_{2}^{2} + \underbrace{ \left( m_{1} \boldsymbol{u}_{1} + m_{2} \boldsymbol{u}_{2} \right) }_{ =\boldsymbol{0} }\cdot \boldsymbol{v}_{g} + \frac{1}{2} \left( m_{1} + m_{2} \right) \boldsymbol{v}_{G}^{2} \notag \\ \therefore \ K &= K_{\mathrm{CM}} + K_{G} \quad \left( K_{G} \mathrel{\mathop:}= \frac{1}{2} \left( m_{1} + m_{2} \right) \boldsymbol{v}_{G}^{2} \right) \label{KCMKGK1K2a} \end{align}\] となる. ここで, 最右辺第2項は実験室系で見た重心運動エネルギーである.

ここで, (実験室系で見た)2体系の運動エネルギー \( K \) は重心運動エネルギー \( K_{G} \) と相対運動エネルギー \( K_{R} \) とに分離できることを思い出そう.(2体問題) \[K = K_{G} + K_{R} \quad . \label{KCMKGK1K2b}\] 式\eqref{KCMKGK1K2a}と式\eqref{KCMKGK1K2b}を見比べると, 重心系で見た2体系の運動エネルギー \( K_{\mathrm{CM}} \) は, 実験室系で見た2体系の相対運動エネルギー \( K_{R} \) に一致していることがわかる. \[K_{\mathrm{CM}} = K_{R} \quad . \notag\] 2体系に外力が働いていないとき, 重心運動エネルギー \( K_{G} \) は時間によらずに一定であり, 二物体の内力によって相対運動エネルギー \( K_{R} \) のみが変化するのであった.

したがって, 重心系でみた運動エネルギーの変化を調べることは実験室系での相対運動エネルギーの変化を調べることに等しいのである.

2物体の衝突と重心系

重心系が考え出された理由は, 2物体の衝突現象の記述が容易に取り扱えるからである. このことについて議論しよう.

まず, 実験室系で観測した物体1, 物体2の速度がそれぞれ \( \boldsymbol{v}_{1} \) , \( \boldsymbol{v}_{2} \) でありある瞬間で衝突したとする. そして, 衝突後の各物体の速度がそれぞれ \( \boldsymbol{v}_{1}^{\prime} \) , \( \boldsymbol{v}_{2}^{\prime} \) になったとする.

実験室系でみた重心速度 \( \boldsymbol{v}_{G} \) と, 物体2からみた物体1の相対速度 \( \boldsymbol{v}_{R} \) は次式で定義される. \[\begin{aligned} \boldsymbol{v}_{G} &= \frac{m_{1}\boldsymbol{v}_{1} + m_{2}\boldsymbol{v}_{2} }{m_{1}+m_{2}} \notag \\ \boldsymbol{v}_{R} &= \boldsymbol{v}_{1} – \boldsymbol{v}_{2} \notag \end{aligned}\] このとき, 重心系でみた衝突前の物体1, 物体2の速度 \( \boldsymbol{u}_{1} \) , \( \boldsymbol{u}_{2} \) は \[\begin{aligned} \boldsymbol{u}_{1} &= \boldsymbol{v}_{1} – \boldsymbol{v}_{G} \notag \\ &= \boldsymbol{v}_{1} – \frac{m_{1}\boldsymbol{v}_{1} + m_{2}\boldsymbol{v}_{2} }{m_{1}+m_{2}}\notag \\ &= \frac{m_{2}}{m_{1}+m_{2}} \boldsymbol{v}_{R}\notag \\ \boldsymbol{u}_{2} &= \boldsymbol{v}_{2} – \boldsymbol{v}_{G} \notag \\ &= – \frac{m_{1}}{m_{1}+m_{2}} \boldsymbol{v}_{R} \notag \end{aligned}\] となる. また,重心系でみた衝突後の物体1, 物体2の速度 \( \boldsymbol{u}_{1}^{\prime} \) , \( \boldsymbol{u}_{2}^{\prime} \) について \[\begin{aligned} \boldsymbol{u}_{1}^{\prime} &= \boldsymbol{v}_{1}^{\prime} – \boldsymbol{v}_{G} \notag \\ \boldsymbol{u}_{2}^{\prime} &= \boldsymbol{v}_{2}^{\prime} – \boldsymbol{v}_{G} \notag \end{aligned}\] が成立する.

実験室系で見た2体系の全運動量 \( m_{1}\boldsymbol{v}_{1} + m_{2}\boldsymbol{v}_{2} \) は衝突によって変化しないので, \[m_{1}\boldsymbol{v}_{1} + m_{2}\boldsymbol{v}_{2} = m_{1}\boldsymbol{v}_{1}^{\prime} + m_{2}\boldsymbol{v}_{2}^{\prime} \notag\] が成立する. このことを重心系で見た速度で記述し直すと, \[\begin{aligned} m_{1}\boldsymbol{u}_{1}^{\prime} + m_{2}\boldsymbol{u}_{2}^{\prime} &= m_{1} \left( \boldsymbol{v}_{1}^{\prime} – \boldsymbol{v}_{G}\right) + m_{2}\left( \boldsymbol{v}_{2}^{\prime} – \boldsymbol{v}_{G}\right) \notag \\ &= m_{1} \boldsymbol{v}_{1}^{\prime} + m_{2} \boldsymbol{v}_{2}^{\prime} – \left( m_{1} + m_{2} \right) \boldsymbol{v}_{G} \notag \\ &= m_{1} \boldsymbol{v}_{1}^{\prime} + m_{2} \boldsymbol{v}_{2}^{\prime} – \left( m_{1} \boldsymbol{v}_{1} + m_{2} \boldsymbol{v}_{2} \right) \notag \\ &= \boldsymbol{0} \notag \end{aligned}\] となるので, 重心系でも2体系の運動量保存則 \[m_{1} \boldsymbol{u}_{1} + m_{2} \boldsymbol{u}_{2} = m_{1} \boldsymbol{u}_{1}^{\prime} + m_{2} \boldsymbol{u}_{2}^{\prime} = \boldsymbol{0} \label{CMmomentC}\] が成立する. 上式より, 重心系で衝突現象を観測したとき重要な性質を読みとることができる. すなわち, 衝突前の両物体の運動量は同じ大きさで逆向きであること, 衝突後の両物体の運動量は同じ大きさで逆向きであることを意味している.

ただし, 衝突前の運動量と衝突後の運動量が平行かどうかまでは決定することは出来ないことに注意して欲しい.

とくに, 衝突によるエネルギー損失が \( 0 \) である弾性散乱の場合, 散乱前後のエネルギー保存則より, \[\frac{1}{2}m_{1}\boldsymbol{u}_{1}^{2} + \frac{1}{2}m_{2}\boldsymbol{u}_{2}^{2} = \frac{1}{2}m_{1}{\boldsymbol{u}_{1}^{\prime}}^{2} + \frac{1}{2}m_{2}{\boldsymbol{u}_{2}^{\prime}}^{2} \label{CMenergyC}\] が成立する.

弾性散乱の場合, 重心系での運動量保存則(式\eqref{CMmomentC})とエネルギー保存則(式\eqref{CMenergyC})を組み合わせることで, \[u_{1} = u_{1}^{\prime} , \quad u_{2} = u_{2}^{\prime} \notag\] を示すことができる. つまり, 重心系で二物体の弾性散乱を観測すると, 衝突前後で各物体の速度の大きさは変化せず, 方向のみが変化することがわかる.

最終更新日
2体問題 固定標的との2次元弾性衝突

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