四則演算の誤差伝播

ここでは, 実験によって得られた誤差(不確かさ)を持つ量(データ)の簡単な処理方法について議論する.

誤差(不確かさ)を持った量の組み合わせによって得られる量もまた誤差(不確かさ)を持つことは容易に想像出来るであろうが, この誤差と言うのは組み合わせる前の量が持つ絶対誤差ないしは相対誤差に左右されることになる. このことを誤差の伝播(でんぱ)という.

誤差伝播の法則はその背景に確率分布や統計学などの数学が在るのだが, 今回は深入りせずに四則演算における誤差伝播をどう評価するのかを紹介するに留める.

まずは我々が示したい四則演算における誤差伝播の法則を示しておき, この法則を使うにあたって最低限必要となるような誤差評価にまつわる用語の整理を行う. 続いて, 伝播する誤差を最も大きく見積もる場合の誤差評価の方法と, これが場合によっては誤差の過大評価を行なっていることを議論する.

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四則演算の誤差伝播
測定の評価にまつわる用語の整理
誤差伝播による最大誤差
互いに独立な偶然誤差の誤差伝播


四則演算の誤差伝播

量 \( A, B, C, \cdots \) の実験値として \( a, b, c, \cdots \) , 各実験値の誤差として \( \delta a, \delta b, \delta c , \cdots \ ( > 0 ) \) が手元にあるとする. これらの量から誤差付きの量 \( Z : z \pm \delta z \) を算出するとき, 誤差は次のように伝播する.

誤差伝播による最大誤差

量 \( Z \) が \( A, B, C, \cdots \) の加法・減法の組み合わせ \( Z = \pm A \pm B \pm C \pm \cdots \) の場合, \( z \) の絶対誤差 \( \delta z \) は次式の右辺でおさえることができる. \[ \delta z \le \delta a + \delta b + \delta c + \cdots \quad . \notag \]

量 \( Z \) が \( A, B, C, \cdots \) の乗法・除法の組み合わせ \( Z = A^{\pm 1} \cdot B^{\pm 1} \cdot C^{\pm 1} \cdots \) の場合, \( z \) の相対誤差 \( \displaystyle{ \frac{\delta z}{\left| z \right|} } \) は次式の右辺でおさえることができる. \[ \frac{\delta z}{\left|z\right|} \le \frac{\delta a}{\left|a\right|} + \frac{\delta b}{\left|b\right|} + \frac{\delta c}{\left|c\right|} + \cdots \quad . \notag \]

これらの公式は常に成立するが, 量 \( A, B, C, \cdots \) の誤差の原因が互いに無関係な偶然誤差の場合には誤差を過大評価していることになり, 続く互いに独立な偶然誤差の場合の公式を用いるほうが適切な評価を与えることになる.

互いに独立な偶然誤差の場合

物理実験で頻出な状況として, 量 \( A, B, C, \cdots \) の誤差の原因が互いに独立な偶然誤差の場合について考える.

量 \( Z \) が \( A, B, C, \cdots \) の加法・減法の組み合わせ \( Z = \pm A \pm B \pm C \pm \cdots \) の場合, \( z \) の絶対誤差 \( \delta z \) は次のように絶対誤差の2乗和平方根で与えられる. \[ \delta z = \sqrt{ \left( \delta a \right)^{2} + \left( \delta b \right)^{2} + \left( \delta c \right)^{2} + \cdots } \quad . \notag \]

量 \( Z \) が \( A, B, C, \cdots \) の乗法・除法の組み合わせ \( Z = A^{\pm 1} \cdot B^{\pm 1} \cdot C^{\pm 1} \cdots \) の場合, \( z \) の相対誤差 \( \displaystyle{ \frac{\delta z}{\left| z \right|} } \) は次のように相対誤差の2乗和平方根で与えられる. \[ \frac{\delta z}{\left| z \right|} = \sqrt{ \left( \frac{\delta a}{ a } \right)^{ 2 } + \left( \frac{\delta b}{ b } \right)^{ 2 } + \left( \frac{\delta c}{ c } \right)^{ 2 } + \cdots } \quad . \notag \]

測定の評価にまつわる用語の整理

繰り返し測定実験を行い, 各測定ごとに得られた値やその集合のことを測定値ということにする. すなわち, 量 \( A \) に対する \( n \) 個の測定結果 \( \left\{ a_{1}, a_{2}, \cdots , a_{n} \right\} \) や, \( a_{i} \) のことを測定値と呼ぶことにする.

測定値を用いて量 \( A \) の値を推定する最も妥当な量として, 測定値の平均値を用いることとし, この測定値の平均値のことを実験値と呼ぶことにする. すなわち, 実験値 \( \bar{a} \) (エー バー)を次式で定義する. \[ \bar{a} \mathrel{\mathop:}= \sum_{i=1}^{n} \frac{a_{i}}{n} = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^{n} a_{i} \quad .\]

繰り返し測定実験で得られた測定値を用いて, 各測定値がどのくらいの不確かさを持っているのかをあらわす指標として, 次式で定義される母集団標準偏差 \( \sigma_{a} \) もしくは 標本標準偏差 \( s_{a} \) を次式で定義する. \[ \sigma_{a} \mathrel{\mathop:}= \sqrt{ \sum_{i=1}^{n} \frac{\left(a_{i} – \bar{a}\right)^{2} }{n} } \quad . \label{sd1}\] \[ \begin{equation} \begin{aligned} s_{a} &\mathrel{\mathop:}= \sqrt{ \sum_{i=1}^{n} \frac{\left(a_{i} – \bar{a}\right)^{2} }{n-1} } \\ &= \sqrt{\frac{n}{n-1}} \sigma_{a} \quad . \end{aligned} \label{sd2} \end{equation} \]

ただし, 式\eqref{sd1}で定義される母集団標準偏差は測定回数 \( n=1 \) のとき, 誤差に対する評価が妥当なものとはいえない, \( n \) が小さい場合には過小評価されてしまっている, などの問題を含んでいる.

そこで, 式\eqref{sd2}で定義される標本標準偏差を測定値に対する標準偏差として採用することにする[1].

余談ではあるが, このように標準偏差の定義には二通りあるので, 自分以外の人に測定値の誤差解析結果を伝える場合には標準偏差としてどちらを採用したかがわかるようにしておくべきである.

繰り返し測定実験で得られた実験値がどれだけの不確かさを持っているのかをあらわす指標として, 次式で定義される不偏標準誤差 \( s_{\bar{a}} \) を用いることにする. \[ s_{\bar{a}} = \frac{1}{\sqrt{n}} s_{a} = \sqrt{ \sum_{i=1}^{n} \frac{\left(a_{i} – \bar{a}\right)^{2} }{n\left(n-1\right)} }\]

同様の測定方法を用いてある物体の長さを繰り返し測定した結果, \[ \begin{aligned} x_{1} &= 4.5 \, \mathrm{cm}, \\ x_{2} &= 4.2 \, \mathrm{cm}, \\ x_{3} &= 4.3 \, \mathrm{cm}, \\ x_{4} &= 4.0 \, \mathrm{cm}, \\ x_{5} &= 4.6 \, \mathrm{cm} \end{aligned}\] が得られたとする. すなわち, \( n=5 \) の測定について考える.

このとき, この物体の測定によって得られた実験値 \( \bar{x} \) は次のように求めることができる. \[ \begin{aligned} \bar{x} &= \frac{1}{5}\sum_{i=1}^{5} x_{i} \\ &= \frac{1}{5} \left( x_{1} + x_{2} +x_{3} + x_{4} + x_{5} \right) \\ &= \frac{1}{5} \left( 4.5 + 4.2 +4.3 + 4.0 + 4.6 \right) \\ &= 4.32 \\ \bar{x} &\approx 4.3 \quad . \end{aligned}\] 続いて, 標本標準偏差 \( s_{x} \) は次のように求めることができる. \[ \begin{aligned} s_{x} &= \sqrt{ \sum_{i=1}^{5} \frac{\left(x_{i} – \bar{x}\right)^{2}}{5-1} } \\ &= \sqrt{ \frac{1}{4} \left\{ \left(4.5-4.32\right)^2 +\left(4.2-4.32\right)^2 +\left(4.3-4.32\right)^2 +\left(4.0-4.32\right)^2 +\left(4.6-4.32\right)^2 \right\} } \\ &= 0.2387\dots \\ &\approx 0.2 \quad . \end{aligned}\] また, 標準誤差 \( s_{\bar{x}} \) は次のように求めることができる. \[ \begin{aligned} s_{\bar{x}} &= \frac{1}{\sqrt{5}}\sqrt{ \sum_{i=1}^{5} \frac{\left(x_{i} – \bar{x}\right)^{2}}{5-1} } \\ &= \sqrt{ \frac{1}{5\cdot4} \left\{ \left(4.5-4.32\right)^2 +\left(4.2-4.32\right)^2 +\left(4.3-4.32\right)^2 +\left(4.0-4.32\right)^2 +\left(4.6-4.32\right)^2 \right\} } \\ &=0.106\dots \\ & \approx 0.1 \quad . \end{aligned}\] 以上より, ある物体の長さの長さの繰り返し測定によって得られた情報をすべて使うことで, 誤差つきの実験値として \( \bar{x} \) , \( s_{\bar{x}} \) を用いて \[ \bar{x} \pm s_{\bar{x}} = 4.3 \pm 0.1 \,\mathrm{cm}\] と報告することができ, 今回採用した測定方法では各測定値は標準偏差 \( s_{a}= 0.2\,\mathrm{cm} \) だけのバラつきを持っていると解釈することができる. なので, まったく同様の手法で別の物体の長さを測定した単独の測定値 \( 5.7\,\mathrm{cm} \) が得られた時, その単独の測定値は \( 5.7\pm0.2\,\mathrm{cm} \) 程度と見積もることが可能となる.

誤差伝播による最大誤差

繰り返し測定を通して, ある量 \( A \) の実験値として \( \bar{a} \) , 実験値の誤差として \( \delta a \left( = s_{\bar{a}}\right) \) が得られたとしよう. 同様に, 量 \( B \) についても実験値 \( \bar{b} \) , 実験値の誤差 \( \delta b \left( = s_{\bar{b}}\right) \) という結果が得られているとする.

ただし, 今後は煩雑さをさけるために, 実験値につける \( \bar{\phantom{a}} \) (バー)を省略することとする.

最大誤差

さて, 今からしばらく興味が有るのは「 \( A \) , \( B \) に対して四則演算を行なった結果得られる誤差付きの量 \( C \) の誤差がどの程度になるのか」である. すなわち, \( C \) の誤差付きの値の範囲 \( \left[ c – \delta c_{\mathrm{min}}, c + \delta c_{\mathrm{max}}\right] \) がどのような範囲となるか, である.

以下の議論ですぐにわかるように, 誤差計算の手法は加法・減法と乗法・除法とで大きく異なるので, 加法・減法と乗法・除法のそれぞれについてまとめて議論する.

加法・減法

加法

まず, 量 \( C \) が \( \left( A+B \right) \) で定義されている場合について考える.

量 \( C \) の実験値として最良な推定値は明らかに \( A \) と \( B \) の実験値の和 \[ c = a + b \notag\] となる. これは素朴に考えても妥当であるし, 繰り返し測定で得られた \( a \) , \( b \) の場合には数学的に正しいことを示すことができる.

\( \left( A + B \right) \) を最も大きく見積もった場合の値, \[ \left( a + \delta a \right) + \left( b + \delta b \right) = \left( a + b \right) + \left( \delta a + \delta b \right) \notag\] と,量 \( C \) を最も大きく見積もった場合の値 \[ c + \delta c_{\mathrm{max}} \notag\] とを見比べると, \[ \delta c_{\mathrm{max}} = \delta a + \delta b \label{ae1}\] と見積もることができる.

次に, \( \left( A + B\right) \) を最も小さく見積もった場合の値, \[ \left( a – \delta a \right) + \left( b – \delta b \right) = \left( a + b \right) – \left( \delta a + \delta b \right) \notag\] と,量 \( C \) を最も小さく見積もった場合の値 \[ c – \delta c_{\mathrm{min}} \notag\] とを見比べると, \[ \delta c_{\mathrm{min}} = \delta a + \delta b \label{ae2}\] と見積もることができる.

減法

次に, 量 \( C \) が \( \left(A-B\right) \) で定義されている場合について考える.

\( C \) の実験値として最良な推定値は明らかに \( A \) と \( B \) の実験値の差 \[ c = a – b \notag\] となる.

量 \( \left(A-B\right) \) を最も大きく見積もった場合, \( A \) は \( \left( a + \delta a \right) \) , \( B \) は \( \left( b – \delta b \right) \) である. また, 量 \( \left(A-B\right) \) を最も小さく見積もった場合というのは, \( A \) は \( \left( a – \delta a \right) \) , \( B \) は \( \left( b + \delta b \right) \) である.

このことに注意すれば, 加法のときと同じ議論を適用することで, \[ \begin{equation} \left\{ \begin{aligned} & c = a – b \\ & \delta c_{\mathrm{min}} = \delta c_{\mathrm{max}} = \delta a + \delta b \end{aligned} \right. \label{adsum} \end{equation} \] と見積もることができ, \( c \pm \delta c_{\mathrm{max}} \) ということができる.

加法・減法のまとめ

式\eqref{ae1}, 式\eqref{ae2}, 式\eqref{adsum}の結果をまとめると, \( A :\ a \pm \delta a \) , \( B :\ b \pm \delta b \) という量 \( A \) , \( B \) の和もしくは差で定義される量 \( C = A \pm B \) の誤差 \( \delta c \) を評価する最も単純な方法は次のように結論できる.

量 \( C \) が最も大きく[小さく]見積もられるときの最大誤差 \( \delta c_{\mathrm{max}} \) は \[ \delta c_{\mathrm{max}} = \delta a + \delta b \notag \] で与えれ, \( C \) の誤差 \( \delta c \) は次式のように \( \delta c_{\mathrm{max}} \) でおさえることができる. \[ \delta c \le \delta c_{\mathrm{max}} =\delta a + \delta b \quad . \notag \]

乗法・除法

加法・減法の時と同様に \[ \begin{aligned} A : \ & a \pm \delta a \notag \\ B : \ & b \pm \delta b \notag \end{aligned}\] の乗法・除法の誤差伝播による最大誤差を求める.

本来, \( a \) , \( b \) は正負の値をとり得るが, 続く式変形において煩雑さがましてしまうだけなので, \( a , b > 0 \) の場合についてのみ議論を行う.

また, 量 \( A \) の測定結果が \( a \pm\delta a \) のとき, \( \delta a \) を量 \( A \) の実験値に対する絶対誤差といい, 絶対誤差を実験値で割った値 \( \displaystyle{\frac{\delta a}{a}} \) を相対誤差という.

乗法・除法の誤差伝播を考えるにあたっては相対誤差の考え方を用いるほうが適しており, \( a \pm \delta a \) と \( b \pm \delta b \) を後の便利のために \[ \begin{aligned} a \pm \delta a &= a \left( 1 \pm \frac{\delta a}{a}\right) \notag \\ b \pm \delta b &= b \left( 1 \pm \frac{\delta b}{b}\right) \notag \end{aligned}\] と相対誤差があらわとなった形に書き換えておく.

乗法

量 \( C \) が \( A \cdot B \) で定義されている場合について考える.

量 \( C \) の実験値として最良な推定値は \( A \) と \( B \) の実験値同士の積 \[ c = a \cdot b \notag\] で与えられる.

\( A \cdot B \) を最も大きく見積もった場合の値, \[ \left( a + \delta a \right) \cdot \left( b + \delta b \right) = a \left( 1 + \frac{\delta a}{a}\right) \cdot b \left( 1 + \frac{\delta b}{b}\right) \notag\] を計算するわけだが, \( \delta a \) , \( \delta b \) というのはそれぞれ \( a \) , \( b \) に対しては小さな値を持っており, 相対誤差の2次式に対して \[ \left( \frac{\delta a}{a} \right)^2 , \left( \frac{\delta b}{b} \right)^2 , \frac{\delta a}{a} \frac{\delta b}{b} \ll 1 \label{neg}\] という近似が成立するという仮定をしくと, \[ \begin{aligned} & a \left( 1 + \frac{\delta a}{a}\right) \cdot b \left( 1 + \frac{\delta b}{b}\right) = ab \left( 1 + \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} + \frac{\delta a}{a} \cdot \frac{\delta b}{b} \right) \notag \\ & \phantom{=} \approx ab \left\{ 1 + \left( \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} \right) \right\} \notag \end{aligned}\] となる.

この式と量 \( C \) を最も大きく見積もった場合の値 \[ c + \delta c_{\mathrm{max}} = c \left( 1 + \frac{\delta c_{\mathrm{max}}}{ c } \right) \notag\] と見比べると, \( A \) , \( B \) , \( C \) の相対誤差について次の関係式が得られる. \[ \frac{\delta c_{\mathrm{max}}}{ c } = \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} \quad . \label{pe1}\] 同様に, 積 \( A\cdot B \) を最も小さく見積もった場合, \[ \begin{aligned} & a \left( 1 – \frac{\delta a}{a}\right) \cdot b \left( 1 – \frac{\delta b}{b}\right) = ab \left( 1 – \frac{\delta a}{a} – \frac{\delta b}{b} + \frac{\delta a}{a} \cdot \frac{\delta b}{b} \right) \notag \\ & \phantom{=} \approx ab \left\{ 1 – \left( \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} \right) \right\} \notag \end{aligned}\] となる.

この式と量 \( C \) を最も小さく見積もった場合の値 \[ c – \delta c_{\mathrm{min}} = c \left( 1 – \frac{\delta c_{\mathrm{min}}}{c } \right) \notag\] と見比べることで, 次式が得られる. \[ \frac{\delta c_{\mathrm{min}}}{c } = \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} \quad . \label{pe2}\]

除法

除法の場合にも乗法と同じ議論によって誤差の計算が可能となる.

このとき, 微小量 \( x, y \ll 1 \) について成り立つ近似公式 \[ \begin{align} & \begin{aligned} \frac{1}{1-x} &= 1 + x + x^2 + \cdots \\ &\approx 1 + x \end{aligned} \label{apdiv1} \\ & \begin{aligned} \frac{1}{1+x} &= 1 – x + x^2 – \cdots \\ &\approx 1 – x \end{aligned} \label{apdiv2} \end{align}\] を適宜用いることになる.

量 \( C \) が \( A \cdot B^{-1} \) で定義されている場合について考える.

\( C \) の実験値として最良な推定値は量 \( A \) と \( B \) の実験値の商 \[ c = a \cdot b^{-1} \notag\] で与えられる.

\( A \cdot B^{-1} \) を最も大きく見積もった場合の値 \[ \frac{a \left( 1 + \frac{\delta a }{a} \right) }{ b\left( 1 – \frac{\delta b}{b} \right)} \notag\] に対して, 式\eqref{apdiv1}及び式\eqref{neg}の近似公式を用いると, \[ \begin{aligned} \frac{ a \left( 1 + \frac{\delta a}{a}\right) }{ b \left( 1 – \frac{\delta b}{b}\right) } &= \frac{a}{b} \left( 1 + \frac{\delta a}{a}\right) \left( 1 – \frac{\delta b}{b}\right)^{-1} \notag \\ &\approx \frac{a}{b} \left( 1 + \frac{\delta a}{a}\right) \left( 1 + \frac{\delta b}{b}\right) \notag \\ &= \frac{a}{b} \left( 1 + \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} + \frac{\delta a}{a} \cdot \frac{\delta b}{b} \right) \notag \\ &\approx ab \left\{ 1 + \left( \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} \right) \right\} \notag \end{aligned}\] が成立し, \[ c + \delta c_{\mathrm{max}} = c \left( 1 + \frac{\delta c_{\mathrm{max}}}{ c } \right) \notag\] と見比べると, \( A \) , \( B \) , \( C \) の相対誤差について次の関係式が得られる. \[ \frac{\delta c_{\mathrm{max}}}{ c } = \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} \quad . \label{de1}\] \( A \cdot B^{-1} \) を最も小さく見積もってしまう場合も同じく, \[ \frac{a \left( 1 – \frac{\delta a }{a} \right) }{ b\left( 1 + \frac{\delta b}{b} \right)} \notag\] であり, 式\eqref{apdiv2}及び式\eqref{neg}の近似公式を用いると, \[ \begin{aligned} \frac{ a \left( 1 – \frac{\delta a}{a}\right) }{ b \left( 1 + \frac{\delta b}{b}\right) } &= \frac{a}{b} \left( 1 – \frac{\delta a}{a}\right) \left( 1 + \frac{\delta b}{b}\right)^{-1} \notag \\ &\approx \frac{a}{b} \left( 1 – \frac{\delta a}{a}\right) \left( 1 – \frac{\delta b}{b}\right) \notag \\ &= \frac{a}{b} \left( 1 – \frac{\delta a}{a} – \frac{\delta b}{b} + \frac{\delta a}{a} \cdot \frac{\delta b}{b} \right) \notag \\ &\approx ab \left\{ 1 – \left( \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} \right) \right\} \notag \end{aligned}\] が成立し, \[ c – \delta c_{\mathrm{min}} = c \left( 1 – \frac{\delta c_{\mathrm{min}}}{ c } \right) \notag\] と見比べると, \( A \) , \( B \) , \( C \) の相対誤差について次の関係式が得られる. \[ \frac{\delta c_{\mathrm{min}}}{ c } = \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} \quad . \label{de2}\]

乗法・除法のまとめ

式\eqref{pe1}, 式\eqref{pe2}, 式\eqref{de1}, 式\eqref{de2}の結果をまとめると, \( A : a \pm \delta a = \displaystyle{ a \left( 1 \pm \frac{\delta a}{a}\right) } \) , \( B : b \pm \delta b = \displaystyle{ b \left( 1 \pm \frac{\delta b}{b}\right) } \) という量 \( A \) , \( B \) の積もしくは商で定義される量 \( C = A \cdot B^{\pm 1} \) の誤差 \( \delta c \) を評価する最も単純な方法は次のように結論できる.

量 \( C \) が最も大きく[小さく]見積もられるとき, その最大相対誤差 \( \displaystyle{\frac{\delta c_{\mathrm{max}}}{c}} \) は \[ \frac{\delta c_{\mathrm{max}}}{c} = \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} \notag \] で与えれ, \( C \) の相対誤差 \( \displaystyle{\frac{\delta c}{c}} \) は次式のように \( \displaystyle{\frac{\delta c_{\mathrm{max}}}{c}} \) でおさえることができる. \[ \frac{\delta c}{c} \le \frac{\delta c_{\mathrm{max}}}{c} = \frac{\delta a}{a} + \frac{\delta b}{b} \quad . \notag \]

実際には \( a \) , \( b \) が負の値の可能性もあるので, 相対誤差が必ず正となるように書いた次式が適用される. \[ \frac{\delta c}{\left|c\right|} \le \frac{\delta a}{\left|a\right|} + \frac{\delta b}{\left|b\right|} \quad . \notag \]

互いに独立な偶然誤差の誤差伝播

これまでに得た結論として, 誤差をもった量 \[ \begin{aligned} A :\ & a \pm \delta a = a \left( 1 \pm \frac{\delta a}{a} \right)\\ B :\ & b \pm \delta b = b \left( 1 \pm \frac{\delta b}{b} \right) \end{aligned}\] の四則演算において, 加法・減法の結果得られる量 \( C:\left(A\pm B\right) \) につきまとう最大絶対誤差 \( \delta c_{\mathrm{max}} \) は \( A \) と \( B \) の絶対誤差の単純和 \[ \delta c_{\mathrm{max}} = \delta a + \delta b \label{pmemax} \] であり, 乗法・除法の結果得られる量 \( C:A \cdot B^{\pm 1} \) につきまとう最大相対誤差 \( \displaystyle{\frac{\delta c_{\mathrm{max}}}{\left|c\right|}} \) は \( A \) と \( B \) の相対誤差の単純和 \[ \frac{\delta c_{\mathrm{max}}}{\left|c\right|} = \frac{\delta a}{\left|a\right|} + \frac{\delta b}{\left|b\right|} \label{pdemax} \] で与えられるとした.

では, 物理実験の評価で頻出な 量 \( A \) と量 \( B \) の誤差(不確かさ)の要因が偶然誤差のみで, 互いに無関係な場合においても上記の評価が妥当であるか考えてみよう.

偶然誤差に対する妥当な前提として, 量 \( A \) の測定において, 測定値の平均値 \( a \) から離れた値ほど, その値で観測される確率は低いはずだというもっともらしい考え方を取り入れる[2].

さて, \( A \) と \( B \) の和の誤差伝播を考えるにあたって, \( A \) が \( a + \delta a \) かつ, \( B \) が \( b + \delta b \) をとる確率は, \( A \) と \( B \) の誤作要因が独立な場合, \( A \) が \( a + \delta a \) となる確率もしくは \( B \) が \( b + \delta b \) をとる確率自身に対してグッと低いはずである.

言い換えれば, \( \left( A+B \right) \) の値が \( \left( a + b \right)+ \left( \delta a + \delta b \right) \) となる確率は \( A \) が \( a + \delta a \) となる確率もしくは \( B \) が \( b + \delta b \) をとる確率に対してグッと低いものとなるであろう.

この意味で, 絶対誤差の単純和で誤差が伝播するとした式\eqref{pmemax}は, 誤差を過大評価していることがわかる.

今話題としているような, 量 \( A \) , \( B \) の偶然誤差が独立な場合の誤差伝播では式\eqref{pmemax}を改良した次式で評価することが妥当であることが知られている. \[ \delta c = \sqrt{ \left( \delta a \right)^{2} + \left( \delta b\right)^2} \quad . \]

このとき, \[ \sqrt{ \left( \delta a \right)^{2} + \left( \delta b\right)^2} < \delta a + \delta b\] が成立し, 単純和で定義された誤差(式\eqref{pmemax})よりも小さな誤差となっている. これは, \( A \) と \( B \) の誤差が同時に最大になる確率は低く, 互いの誤差を打ち消し合うような効果が取り込まれていることを示しており, \( \sqrt{ \left( \delta a \right)^{2} + \left( \delta b\right)^2} \) は誤差 \( \delta a \) , \( \delta b \) の2乗和平方根という.

互いに独立な偶然誤差を持つ量同士の加法・減法の誤差伝播が絶対誤差の2乗和平方根で評価することが妥当であるように, 乗法・除法の誤差伝播は相対誤差の2乗和平方根で評価することが妥当であることが知られている.

したがって, 互いに独立な偶然誤差をもった量の四則演算による誤差伝播は次のようにまとめることができる. \[ \left( a \pm \delta a \right) + \left( b \pm \delta b \right) \to \left( a + b \right) \pm \sqrt{ \left( \delta a \right)^{2} + \left( \delta b\right)^2}\] \[ \left( a \pm \delta a \right) – \left( b \pm \delta b \right) \to \left( a – b \right) \pm \sqrt{ \left( \delta a \right)^{2} + \left( \delta b\right)^2}\] \[ \begin{equation} \begin{aligned} & \left( a \pm \delta a \right) \left( b \pm \delta b \right) = a \left( 1 \pm \frac{\delta a}{a} \right) \cdot b\left( 1 \pm \frac{\delta b}{b} \right) \\ & \phantom{=} \to a b \left\{ 1 \pm \sqrt{ \left( \frac{\delta a}{ a } \right)^{ 2 } + \left( \frac{\delta b}{ b } \right)^{ 2 } } \right\} \end{aligned} \end{equation} \] \[ \begin{equation} \begin{aligned} & \frac{ \left( a \pm \delta a \right) }{ \left( b \pm \delta b \right) } = \frac{ a \left( 1 \pm \frac{\delta a}{a} \right) }{ b \left( 1 \pm \frac{\delta b}{b} \right) } \\ &\phantom{=}\to \left( \frac{a}{b} \right) \left\{ 1 \pm \sqrt{ \left( \frac{\delta a}{ a } \right)^{ 2 } + \left( \frac{\delta b}{ b } \right)^{ 2 } } \right\} \end{aligned} \end{equation} \]

最終更新日
近似式 物理に登場するグラフ



補足    (↵ 本文へ)
  1. 測定回数が1回( \( n=1 \) )の場合, 母集団標準偏差 \( \sigma_{a} \) は, \[ \sigma_{a} = \sqrt{ \frac{\left( a_{1} – a_{1} \right)^2}{1} } = 0 \notag \] となる. これは, 1回しか実験を行なっていないにも関わらず,「実験の結果, 量 \( A \) の平均値は \( a_{1} \) で偏差( \( \approx \) 測定にまつわる不確かさ) \( \sigma_{a} \) は \( 0 \) である」と主張してしまうことになるが, これは妥当な結論とはいえない.

    一方, 標本標準偏差の定義によると, \[ s_{a} = \sqrt{ \frac{\left( a_{1} – a_{1} \right)^2}{1-1} } \notag\] と, \( \displaystyle{\frac{0}{0}} \) の不定形となって, 測定にまつわる不確かさは定まらないという結論が得られる. これは母集団標準偏差を用いた場合に比べて納得のいくものとなっている.

  2. この表現をより数式的に表現したものとして正規分布というものが知られているが, これ以上は追い求めないことにしておこう.

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