近似式

物理を勉強していると, 近似計算にでくわすことになる.

はじめのうちは, 「なんでこんなことしているのか?」「値がズレちゃうんじゃないの?」「いつ近似すればいいの?」と思うことであろう.

ここでは, なんで近似なんてものを考えるのかに加えて, 近似の裏側に隠れているマクローリン展開という数学について紹介する.

せっかちな人のために, 最低限の前置きのあとで頻出の近似公式をまとめる. そのあとで, 近似にまつわる物理事情を取り上げて近似を行なう理由を説明し, 近似公式の導出マクローリン展開によって行う.


近似

ある数 \( x \) について, 記号 \( \ll \) (非常に小なり)を用いて \[ \abs{x } \ll 1 \notag \] と表した場合, \( x^2 \) が \( 1^2 \) に比べて無視できることを意味する.

つまり, \( \abs{x } \ll 1 \) のもとでは, \( 1 + x^2 \) は \( 1 \) とみなしてよく, 次式のように表現する. \[ 1 + x^2 \approx 1 \notag \] ここで, \( \approx \) 左辺と右辺がほぼ等しいことを意味する数学記号である.

日本では \( \fallingdotseq \) という記号がこれと同じ意味で用いられているが, 日本だけで使われている記号である.

このように, 値を持っていたとしても他の数と比べると十分に小さいならば無視する操作近似という.

高校物理で頻出の近似公式としては次のようなものがある. \[ \begin{aligned} \sqrt{1+x} & \approx 1 + \frac{x}{2} \quad (\, \abs{x } \ll 1 \, ) \\ \qty( 1+x )^{n} & \approx 1 + nx \quad (\, \abs{x } \ll 1 \, ) \\ \end{aligned} \] \[ \begin{aligned} \qty( L + a )^{\frac{1}{2}} &= L^{\frac{1}{2}} \qty( 1 + \frac{a}{L} )^{\frac{1}{2}} \\ & \approx L^{\frac{1}{2}} \qty( 1 + \frac{a}{2L} ) \quad (\, \abs{a } \ll L \, ) \end{aligned} \] \[ \begin{aligned} \sin{\theta} & \approx \tan{\theta} \approx \theta \quad (\, \abs{\theta } \ll 1\, ) \\ \cos{\theta} & \approx 1 \quad (\, \abs{\theta } \ll 1\, ) \end{aligned} \]

以降では, \( x \) の \( 1 \) に対する小ささ具合で近似公式が変わることや, その成り立ちについて議論する.

近似公式(発展)

実は, 近似公式というのはある量 \( x \) の何乗が \( 1 \) に対して無視できる状況なのかによって使う式が変わってくるのである.

まず, \( x \) という数が \( 1 \) よりは小さいにしても, その次数が比較的大きい時でも \( 1 \) に対して無視できない場合でも成立する, 代表的な近似公式を列挙しておく. \[ \definecolor{gray}{RGB}{229,229,229} \begin{aligned} (1+x)^n &= 1 + nx + \frac{n\qty( n-1 )}{2} x^{2} + \frac{n\qty( n-1 )\qty( n-2 )}{6} x^{3} + \frac{n\qty( n-1 )\qty( n-2 )\qty( n-3 )}{24} x^{4} + \cdots \\ \sin{x} &= x – \frac{x^3}{6} + \frac{x^5}{120} – \cdots \\ \cos{x} &= 1 – \frac{x^2}{2} + \frac{x^4}{24} – \cdots \\ \tan{x} &= x + \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \cdots \\ e^x &= 1 + x + \frac{1}{2}x^2 + \frac{1}{6}x^3 + \frac{1}{24}x^4 \cdots \\ \log_{e}{\qty( 1+ x )} &= x – \frac{1}{2}x^2 + \frac{1}{3}x^3 – \frac{1}{4}x^4 +\cdots \end{aligned} \] 先ほど紹介した高校物理で頻出の近似公式に比べると, 多項式でちょっと煩雑に思われるかもしれないが, そのぶんだけ近似の精度というものが向上していることをあとで説明する.

問題よっては, \( \abs{x^3 } \) が \( 1 \) に対して無視できるという状況もあるだろう. そのときには上記の公式のうち, \( x \) の次数が \( 3 \) 以上の項を無視することになる.

高校物理で専ら登場する近似公式は \( \abs{x^2 } \) が \( 1 \) に対して無視できるときであり, 応用であっても \( \abs{x^3 } \) が \( 1 \) に対して無視できるときがせいぜいである.

以下に \( x \) の次数に応じた近似公式をまとめる.

\( \abs{x } \) が \( 1 \) に比べて無視できるとき

\( \abs{x } \) が \( 1 \) に比べて無視できるとき, 先ほどの近似公式のうち \( x \) の次数が \( 1 \) 以上のものは無視する.

したがって, 下記の公式のうちの灰色の部分は \( 0 \) に置き換えることになる. \[ \definecolor{gray}{RGB}{229,229,229} \begin{aligned} (1+x)^n &\approx 1 {\textcolor{gray} \,+ nx + \frac{n\qty( n-1 )}{2} x^{2} + \frac{n\qty( n-1 )\qty( n-2 )}{6} x^{3} + \frac{n\qty( n-1 )\qty( n-2 )\qty( n-3 )}{24} x^{4} + \cdots } \\ \sin{x} &\approx 0 {\textcolor{gray} \,+ x – \frac{x^3}{6} + \frac{x^5}{120} – \cdots } \\ \cos{x} &\approx 1 {\textcolor{gray} \, – \frac{x^2}{2} + \frac{x^4}{24} – \cdots } \\ \tan{x} &\approx 0 {\textcolor{gray} \,+ x + \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \cdots } \\ e^x &\approx 1 {\textcolor{gray} \,+ x + \frac{1}{2}x^2 + \frac{1}{6}x^3 + \frac{1}{24}x^4 +\cdots } \\ \log_{e}{\qty( 1+ x )} &\approx 0 {\textcolor{gray} + x – \frac{1}{2}x^2 + \frac{1}{3}x^3 – \frac{1}{4}x^4 +\cdots } \end{aligned} \]

\( \abs{x^2 } \) が \( 1 \) に比べて無視できるとき

\( \abs{x^2 } \) が \( 1 \) に比べて無視できるとき, 先ほどの近似公式のうち \( x \) の次数が \( 2 \) 以上のものは無視する.

したがって, 下記の公式のうちの灰色の部分は \( 0 \) に置き換えることになる. \[ \definecolor{gray}{RGB}{229,229,229} \begin{aligned} (1+x)^n &\approx 1 + nx {\textcolor{gray} \,+ \frac{n\qty( n-1 )}{2} x^{2} + \frac{n\qty( n-1 )\qty( n-2 )}{6} x^{3} + \frac{n\qty( n-1 )\qty( n-2 )\qty( n-3 )}{24} x^{4} + \cdots } \\ \sin{x} &\approx x {\textcolor{gray} \, – \frac{x^3}{6} + \frac{x^5}{120} – \cdots } \\ \cos{x} &\approx 1 {\textcolor{gray} \, – \frac{x^2}{2} + \frac{x^4}{24} – \cdots } \\ \tan{x} &\approx x {\textcolor{gray} \,+ \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \cdots } \\ e^x &\approx 1 + x {\textcolor{gray} \,+ \frac{1}{2}x^2 + \frac{1}{6}x^3 + \frac{1}{24}x^4 +\cdots } \\ \log_{e}{\qty( 1+ x )} &\approx x {\textcolor{gray} \, – \frac{1}{2}x^2 + \frac{1}{3}x^3 – \frac{1}{4}x^4 +\cdots } \end{aligned} \]

\( \abs{x^3 } \) が \( 1 \) に比べて無視できるとき

\( \abs{x^3 } \) が \( 1 \) に比べて無視できるとき, 先ほどの近似公式のうち \( x \) の次数が \( 3 \) 以上のものは無視する.

したがって, 下記の公式のうちの灰色の部分は \( 0 \) に置き換えることになる. \[ \definecolor{gray}{RGB}{229,229,229} \begin{aligned} (1+x)^n &\approx 1 + nx + \frac{n\qty( n-1 )}{2} x^{2} {\textcolor{gray}+ \frac{n\qty( n-1 )\qty( n-2 )}{6} x^{3} + \frac{n\qty( n-1 )\qty( n-2 )\qty( n-3 )}{24} x^{4} + \cdots } \\ \sin{x} &\approx x {\textcolor{gray} \, – \frac{x^3}{6} + \frac{x^5}{120} – \cdots } \\ \cos{x} &\approx 1 – \frac{x^2}{2} {\textcolor{gray} \, + \frac{x^4}{24} – \cdots } \\ \tan{x} &\approx x {\textcolor{gray} \,+ \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \cdots } \\ e^x &\approx 1 + x + \frac{1}{2}x^2 {\textcolor{gray} \,+ \frac{1}{6}x^3 + \frac{1}{24}x^4 +\cdots } \\ \log_{e}{\qty( 1+ x )} &\approx x – \frac{1}{2}x^2 {\textcolor{gray} \,+ \frac{1}{3}x^3 – \frac{1}{4}x^4 +\cdots } \end{aligned} \]

\( \abs{x^4 } \) が \( 1 \) に比べて無視できるとき

\( \abs{x^4 } \) が \( 1 \) に比べて無視できるとき, 先ほどの近似公式のうち \( x \) の次数が \( 4 \) 以上のものは無視する.

したがって, 下記の公式のうちの灰色の部分は \( 0 \) に置き換えることになる. \[ \definecolor{gray}{RGB}{229,229,229} \begin{aligned} (1+x)^n &\approx 1 + nx + \frac{n\qty( n-1 )}{2} x^{2} + \frac{n\qty( n-1 )\qty( n-2 )}{6} x^{3} {\textcolor{gray} \, + \frac{n\qty( n-1 )\qty( n-2 )\qty( n-3 )}{24} x^{4} + \cdots } \\ \sin{x} &\approx x – \frac{x^3}{6} {\textcolor{gray} \,+ \frac{x^5}{120} – \cdots } \\ \cos{x} &\approx 1 – \frac{x^2}{2} {\textcolor{gray} \, + \frac{x^4}{24} – \cdots } \\ \tan{x} &\approx x + \frac{1}{3}x^3 {\textcolor{gray} \,+ \frac{2}{15}x^5 + \cdots } \\ e^x &\approx 1 + x + \frac{1}{2}x^2 + \frac{1}{6}x^3 {\textcolor{gray} \,+ \frac{1}{24}x^4 +\cdots } \\ \log_{e}{\qty( 1+ x )} &\approx x – \frac{1}{2}x^2 + \frac{1}{3}x^3 {\textcolor{gray} \, – \frac{1}{4}x^4 +\cdots } \end{aligned} \]

近似式と次元

ここで一度, これまでの近似計算に用いていた \( x \) の次元について考えてみよう.

もし, \( x \) が次元を持っていたとすると, \( x^2 \) などは \( x \) と異なる次元を持つ量である. ところが, 先ほど紹介した近似計算には \( x \) の次数が異なる量の和を計算することになっている.

しかし, 単位と次元でも説明するように, 次元の異なる量の和差計算は御法度である.

したがって, 近似計算に用いられている \( x \) は無次元量に限られているので注意してほしい.

このように, 各種の近似計算を行う時には微小量 \( x \) が無次元量になっているか確認することも計算ミスを防ぐ大切な発想である.

そもそも近似とは

「近似とは何か?」については後で述べるとして, 「どうして近似をしてもいいのか?」というところから掘り下げて考えてみよう.

物理を勉強するにあたって, 数式変形ばかり追いかけていると物理(数学)を使えばどこまでも正確に物事を予言できるのではないかという想いを抱いてしまう人もいるであろう.

しかし, 実際のところ, どこまでも正確に述べるということは必ずしもありがたいことではないし, 出来る保証もないと認識してもらいたい.

このことを, 先ほどの近似公式のうちの一つをつかって説明してみよう.

すこしばかりくどい話になるので, マクローリン展開に興味がある人はココをクリックして先に進んでほしい.


いま, \( x^2 \) が \( 1 \) に対して無視できる場合に成立する近似公式 \[ \qty( 1 + x )^{\frac{1}{2}} \approx 1 + \frac{x}{2} \label{x2_2} \] もしくはもう少し精度の高い近似公式 \[ \qty( 1 + x )^{\frac{1}{2}} \approx 1 + \frac{x}{2} – \frac{x^2}{8} \label{x2_3} \] について考える

\( x =0.2 \) として式\eqref{x2_2}の右辺と左辺を比べてみると, \[ \begin{aligned} \text{左辺} &= ( 1 + 0.2 )^{\frac{1}{2}} = 1.095445\cdots \\ \text{右辺} &= 1 + \frac{0.2}{2} = 1.1 \end{aligned}\] である. すこしばかり精度は荒いが, 比較的近しい値が得られていると感じるであろう. 我々が有効数字3桁以上の精度を気にしている場合には問題となるが, 有効数字2桁程度にしか興味が無い場合には両者は実用的には等しいと言うことが出来るであろう.

つづいて, より精度の高い式\eqref{x2_3}の右辺と左辺を比べてみると, \[ \begin{aligned} \text{左辺} &= ( 1 + 0.2 )^{\frac{1}{2}} = 1.095445\cdots \\ \text{右辺} &= 1 + \frac{0.2}{2} – \frac{0.2^2}{8}= 1.095 \end{aligned}\] となる. 先程よりも, それこそ桁違いに精度がよくなり, 有効数字4桁しか注目しない場合には両者は実用的には等しいことになる.

このように, 我々が必要としている測定の精度の範囲内で同じ値が得られるのであれば, \( \displaystyle{\qty( 1 + x )^{\frac{1}{2}} } \) でも \( \displaystyle{1 + \frac{x}{2} – \frac{x^2}{8} } \) でも同じことなのである.

そう, 「どうして近似をしてもいいのか?」に対する一つの返しは「実用上問題ないから」とか, 「近似をすることで手っ取り早く必要な情報を抽出することができるから」ということになる.

また, 上記の問題において与えられた式 \[ \qty( 1 + 0.2 )^{\frac{1}{2}} \] を真面目に計算しようと思えば, 計算機なり開平計算なりを行うことになる. しかし, どんな手法でも無理数 \( \sqrt{1.2} \) の正確な値を表現することは叶わないので, 数値の読みを何処かで打ち切るということが必ず生じることになる.

「測定値が \( \sqrt{1.2} \) になりました」という報告をするためには, 小数点以下を永遠と測定しなくてはならないが, 単純に考えて無理である.

このようなどこまでも正確に述べることに有り難みがあるであろうか.

余談だが, 現在の最先端実験技術で飛び抜けて精密に測定されいる電子の \( g \) 因子と呼ばれる物理量の実験値 \[ g/2 =1.00115965218073 \pm 0.00000000000028 \notag \] であっても, 小数第十三位には不定性を持っている[1]物理学史上、最も精密な理論計算値 | 理化学研究所.

少し話がそれてしまったが, 要するに, 身も蓋もない言い方をしてしまえば, どこまでも正確に述べることが必ずしもありがたいことではなく, 適度に近しい値を知ることができれば十分であり, その手法が近似と呼ばれているのである.

「近似とは何か?」に対する一つの返しは「過剰な厳密さを排除し, しかし, 取り去ってはいけない重要な要素は保持した変換計算」とでもいえばよいのであろうか.


物理学が近似計算を積極的に利用する理由は数値にまつわる問題だけではない.

近似を使ったら気持ち悪いという, そこまで固執する必要のない信念を貫き通すことで数学的な困難のレベルが急上昇し, 解くことが困難な数学の問題に四苦八苦してしまうこともざらなのである.[2]もちろん, 必要に迫られればより厳密度の高い計算を行う必要性が生じるが, それはより精度の高い近似を行うことに落ち着く場合がほとんどである.

高校物理で近似計算を行う代表格, 単振り子の問題では近似を用いることで, 単振動の問題に帰着させている.

この問題において, 近似を用いない厳密さを重視した計算はもちろんあるのだが, 楕円積分と呼ばれる数学が表沙汰になって途端に要求される数学のレベルがあがってしまう.

しかし, 高級な数学のお世話にならずとも単振り子の運動について重要な性質は近似を用いた式で十分にわかるのである. 重要なのは, 楕円積分という数学ではなく, 非常に長い振り子の振れ幅が極小の場合にはその振動周期が振り子の長さと重力加速度だけを用いて高い精度で求めることができるという物理なのである.

マクローリン展開

未知数を含んだ関数を決定するとき, 関数が別の点や軸と交わっていることを利用して独立した関係式を未知数の数だけ作ることで関数の形を決定できることを数学で学ぶ.

しかしそれ以外にも, 微分をうまく使うことで関数の形を予想することができる手法 — マクローリン展開 — を紹介する.

受験数学ではこのマクローリン展開を背景にした問題は少なくないので, 大学受験を考えていて余裕のある理系諸君は身につけておいて損はない.

なお, 以下の議論は数学に鋭い人が見れば色々物申したくなると思うので, そう感じた人は各自で大学程度の参考書にあたってみることをお勧めする.

以下では, ある関数 \( f(x) \) について, \( x \approx 0 \) 付近だけを眺めることで \( f(x) \) 全体を予想できるのかを考えていく. [3]「数学に鋭い人」とは「 \( x \approx 0 \) 付近」の「付近」に対して違和感を感じる人のことを言っている.

2次関数の予測

例えば2次関数 \( f(x) \) は一般的に, \[ f(x) = a x^2 + b x + c \notag \] と書くことができる. この式に含まれている未知数 \( a ,b , c \) を決定するためには3つの独立した式が必要となる.

最も簡単に知ることができるのは \( c \) であり, \[ c = f(0) \quad . \notag \]

次に, \( f(x) \) の導関数は \[ f^{\prime}(x) = 2 a x + b \notag \] であるので, \[ b = 1 \cdot f^{\prime}(0) \notag \] であることがわかる.

全く同じ発想で, \( f(x) \) の第2次導関数は \[ f^{\prime \prime}(x) = 2a \notag \] より, \[ a= \frac{1}{2 }f^{\prime \prime}(0) \notag \] \[ \therefore \ \left\{\begin{aligned} a &= \frac{1}{2}f^{\prime \prime}(0) \\ b &= f^{\prime}(0) \\ c &= f(0) \end{aligned} \right. \] \( a , b, c \) を元の2次関数の式に代入して昇ベキの順に整理すると, \[ f(x) = f(0) + f^{\prime}(0) x + \frac{1}{2}f^{\prime \prime}(0) x^2 \notag \] が成立することになる.

3次関数の予測

3次関数 \[ f(x) = a x^3 + bx^2 + cx + d \label{3df} \] についても同様に, その導関数等を次のように計算しておく. \[ \begin{aligned} f(x) &= a x^3 + bx^2 + cx + d \\ f^{\prime}(x) &= 3ax^2 + 2bx + 1!c \\ f^{\prime \prime}(x) &= 6 ax + 2! b \\ f^{\prime \prime \prime}(x) &= 3!a \end{aligned} \] 上記で得られた関係式に \( x = 0 \) を代入して \( a, b, c, d \) について整理すると, \[ \begin{aligned} f(0) = d &\ \Leftrightarrow d = f(0) \\ f^{\prime}(0) = 1!c &\ \Leftrightarrow \ c = \frac{1}{1!}f^{\prime}(0) \\ f^{\prime \prime}(0) = 2! b &\ \Leftrightarrow \ b = \frac{1}{2!} f^{\prime \prime}(0) \\ f^{\prime \prime \prime}(0) = 3!a &\ \Leftrightarrow \ a = \frac{1}{3!} f^{\prime \prime \prime}(0) \\ \end{aligned} \] が成立する. これら \( f(x) \) の導関数を使って得られた \( a, b, c, d \) を元の式\eqref{3df}に代入して \( x \) の昇ベキの順に整理すると, \[ f(x) = f(0) + \frac{1}{1!}f^{\prime}(0) \,x + \frac{1}{2!}f^{\prime \prime}(0) \,x^2+\frac{1}{3!}f^{\prime \prime \prime}(0) \,x^3\notag \] が成立することがわかる.

マクローリン展開

以上までの議論から関数 \( f(x) \) が \[ f(x) = a_0 + a_1 x^{1} + a_2 x^{2} + a_3 x^{3} + \cdots \notag \] という多項式関数であるとき, 第 \( n \) 次導関数を \( f^{(n)}(x) \) と書けば, \[ \begin{aligned} f(x) &= f(0) + \frac{1}{1!} f^{(1)}(0)x + \frac{1}{2!} f^{(2)}(0)x^{2} + \frac{1}{3!} f^{(3)}(0)x^{3} + \cdots \\ & \qquad + \frac{1}{k!}f^{(k)}(0) x^k+ \cdots \end{aligned} \] が成立することが類推できるし, 実際に成立する.

この考え方は(種々の制限はつくにしても, )三角関数や指数関数など, 一眼には \( x^{k} \) の和であらわせないような関数 \( f(x) \) についても, その導関数らと \( x^{k} \) とを組み合わせた多項式で展開することができる.

このように関数を展開する方法をマクローリン展開という.

もちろん, マクローリン展開にはその適用範囲がどれだけの範囲なのかという議論をする必要がある(収束半径という)が, ここではマクローリン展開のあれこれについての議論を行いたいわけではないので, 各自の興味に応じて調べてもらえばよいとする.

マクローリン展開

マクローリン展開 :
\( x \approx 0 \) において, 関数は次式のように展開できる. \[ \begin{aligned} f(x) &= f(0) + \frac{1}{1!} f^{(1)}(0)x + \frac{1}{2!} f^{(2)}(0)x^{2} + \frac{1}{3!} f^{(3)}(0)x^{3} + \cdots \\ & \qquad + \frac{1}{k!}f^{(k)}(0) x^k+ \cdots \end{aligned} \]

マクローリン展開の近似式への利用

マクローリン展開によって, ある関数はその導関数と \( x \) のベキ乗によって表すことができることを学んだ.

ここでは, 物理でいうところの近似は数学でいえばマクローリン展開をどこまで計算するかに等しいことを説明する.

以下, \( \abs{x } \ll 1 \) であるとする.

\( \qty( 1 + x )^n \) のマクローリン展開

関数 \( f(x) = \qty( 1 + x )^n \) の \( x \approx 0 \) 付近におけるマクローリン展開のために必要な計算を行っておこう. \[ \begin{aligned} f(0) &= \qty( 1 + 0 )^n = 1 \\ f^{\prime}(0) &= n \qty( 1 + 0 )^{n-1} = n \\ f^{\prime \prime}(0) &= n \qty( n-1 ) \qty( 1 + 0 )^{n-2} = n \qty( n-1 ) \\ \cdots \ &= \ \cdots \end{aligned} \] これらをマクローリン展開の式に代入すると, \[ \begin{aligned} f(x) &= f(0) + \frac{1}{1!} f^{(1)}(0)x + \underbrace{\frac{1}{2!} f^{(2)}(0)x^{2} + \cdots}_{無視できる} \\ &= 1 + \frac{1}{1!} n x + \underbrace{\frac{1}{2!} n\qty( n-1 )x^{2} + \cdots}_{無視できる} \\ f(x) &\approx 1 + nx \end{aligned} \] \[ \therefore \qty( 1 + x )^n \approx 1 + nx \notag \] となる.

これは冒頭で紹介した近似式の一つとなっている.

三角関数のマクローリン展開

関数 \( f(x)=\sin{x} \) の \( x\approx 0 \) 付近でのマクローリン展開のために必要な計算を行っておくと, \[ \begin{aligned} f(0) &= \sin{0} = 0 \\ f^{\prime}(0) &= \cos{0} = 1 \\ f^{\prime \prime}(0) &= – \sin{0} = 0 \\ f^{\prime \prime \prime}(0) &= – \cos{0} = – 1 \\ \cdots \ &= \ \cdots \end{aligned} \] となり, \[ \begin{aligned} f(x) &= f(0) + \frac{1}{1!} f^{(1)}(0)x + \frac{1}{2!} f^{(2)}(0)x^{2} + \cdots \\ &= 0 + \frac{1}{1!} 1 \cdot x + \frac{1}{2!} 0 \cdot x^{2} + \frac{1}{3!} (-1) \cdot x^{3} +\frac{1}{4!} 0 \cdot x^{4} + \cdots \\ &= x – \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} – \cdots \\ &= x – \frac{x^3}{6} + \frac{x^5}{120} – \cdots \end{aligned} \] と表すことができる.

このようにマクローリン展開によって三角関数も \( x \) のベキ乗で展開することができ, \( \abs{x } \ll 1 \) を用いると, \[ \therefore \ \sin{x} = x \notag \] となる.

\( \cos{x} \) と \( \tan{x} \) についても同様にマクローリン展開を用いることで, \( \abs{x } \ll 1 \) の条件で \[ \begin{aligned} \cos{x} &= 1 – \frac{x^2}{2} + \frac{x^4}{24} – \cdots \\ \cos{x} &\approx 1 \end{aligned} \] \[ \begin{aligned} \tan{x} &= x + \frac{x^3}{3} + \frac{2}{15}x^5 + \cdots \\ \tan{x} &\approx x \end{aligned} \] をそれぞれ計算することができる. これらはそれぞれ \( x \) が \( 0 \) の付近のみで成立することは改めて注意していただきたい.

指数関数のマクローリン展開

指数関数 \( f(x) = e^{x} \) についても, マクローリン展開を考えることができる. \[ \begin{aligned} f(0) &= e^{0} = 1 \\ f^{\prime}(0) &= e^{0} = 1 \\ f^{\prime \prime}(0) &= e^{0} = 1 \\ \cdots \ &= \ \cdots \end{aligned} \] より, \( x \approx 0 \) 付近で \( e^x \) は, \[ e^x = 1 + x + \frac{1}{2!}x^2 + \frac{1}{3!}x^3 + \cdots \notag \] である.

様々な関数のマクローリン展開

\[ (1+x)^n= 1 + \frac{n}{1!}x + \frac{n\qty( n-1 )}{2!} x^{2} + \cdots \notag \] \[ \sin{x} = x – \frac{x^3}{3!} + \frac{x^5}{5!} – \cdots \notag \] \[ \cos{x} = 1 – \frac{x^2}{2!} + \frac{x^4}{4!} – \cdots \notag \] \[ \tan{x} = x + \frac{1}{3}x^3 + \frac{2}{15}x^5 + \cdots \notag \] \[ e^x = 1 + x + \frac{1}{2!}x^2 + \frac{1}{3!}x^3 + \cdots \notag \]

脚注

脚注
1 物理学史上、最も精密な理論計算値 | 理化学研究所
2 もちろん, 必要に迫られればより厳密度の高い計算を行う必要性が生じるが, それはより精度の高い近似を行うことに落ち着く場合がほとんどである.
3 「数学に鋭い人」とは「 \( x \approx 0 \) 付近」の「付近」に対して違和感を感じる人のことを言っている.