磁場に関するガウスの法則

現在の物理学では電気(力)と磁気(力)の間には互いに密接な関係があることがわかっている.しかし, それ以前は電気と似て非なる存在として磁気が知られていた.

高校物理では磁気についても議論することになるが, 磁気に関する項目を真面目に勉強しようと思うと, ただでさえ数学的な敷居の高い電気に比べても数学の敷居がより高くなる.今回は登場しないが, ベクトルの外積の概念抜きに磁力を語ることができないのである[1].

まずは磁気の存在を最初に実感したであろう棒磁石をとりあげて磁気的な場を導入し, 電場との共通点や異なる点について述べる.その後, 電場で登場したガウスの法則に類似した, しかし決定的に異なる特徴を持つ磁場に関するガウスの法則を紹介する.

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磁石と磁力線
磁場に関するガウスの法則
電場に関するガウスの法則と磁場に関するガウスの法則の比較


磁石と磁力線

磁気という概念に諸君が初めて触れたのは, 棒磁石とその周りにふりまかれた鉄粉によって形成される磁力線の可視化実験であろうか.

この実験結果はなんの教育も受けていなければただ不思議なだけの現象だが, 既に電気について学んだならば, 棒磁石の周りの空間には鉄粉の向きを揃えさせる(動かす)ような”何か”が備わっていることを類推できるであろう.このような空間自体が持っている性質のことをというのであった.

今後しばらく, 磁石の周りの空間が備えている磁気的な場のことを磁場と呼ぶことにする[2].そして電場のイメージを明確にするために電気力線を導入したことと同じく, 磁場を可視化する便利な方法として磁力線というものを考えるのは自然な発想であろう.

棒磁石は相異なる磁気的な性質を持つ二つの極(磁極)を持っており, それぞれN極, S極という.そして, N極からS極へむかって磁力線が伸びていると考えるのである.この磁力線は電気力線の性質とほぼ同じであるが決定的な違いもある.

磁力線と電気力線の決定的な違いを説明するために, 磁石を分割することを考えてみよう.実際にまたは仮想的に磁石を分割してみると, N(S)極だけの磁石はできずにあらたにN極とS極とがペアになって表れることになる.

下図には棒磁石による磁力線と棒磁石を分割した時の振る舞いの模式図を示した.

磁石は分割してもN極またはS極だけを抽出することはかなわない.
磁石の分割

詳細は別の箇所で触れるが, このような磁石の分割を原子レベルまで繰り返しても磁石の性質は失われず, 磁石のN極とS極は必ず対をなして存在する[3].したがって, 磁力線は必ず閉じたループになっているのである(下図).

このような磁力線の性質は電気力線のそれと決定的に異なっている.すなわち, 電気力線を形成する電荷は正または負の単体で存在し得るが, 磁石の磁力線を作る磁極はN極とS極は単体で存在しないのである.

理論的にはN極もしくはS極だけの性質を備えたような単磁荷(モノポール)と言われるモノも議論されている.モノポールの存在の是非については現代物理学の最先端の話題であるのでこれ以上言及することは控えるが, 興味のある方は各人で情報を探っていただきたい.ただ, 事実としてこれまでにモノポールは発見されておらず, 電磁気学もその立場をとっている[4].

磁石と磁力線

磁石には磁気的な性質の相異なる二つの磁極があり, N極とS極という.

磁力線 :
ベクトル場である磁気的な場の様子の直感的理解を与える手法であり, 基本的な特徴は電気力線と同じであるが磁力線は必ず閉じたループになる.

磁場に関するガウスの法則

電気と磁気との間の類似点及び相違点は, 電気力線と磁力線の比較ひとつを取ってもなかなか面白いものであり, この考えを推し進めることにしよう.

電場について成立する基本法則であったガウスの法則と対比されるべき法則が磁場についても存在し, 磁場に関するガウスの法則という.

以降では, 電場 \( \boldsymbol{E} \) がある面積を貫く電気力線の密度であったように, 磁力線がある面積を貫く密度として磁束密度 \( \boldsymbol{B} \) を定義する.そして, 電気力線の場合と同じくある位置 \( \boldsymbol{r} \) における磁束密度 \( \boldsymbol{B}(\boldsymbol{r}) \) の方向は磁力線の接線方向に一致する.

このように定義された場 \( \boldsymbol{B} \) は本来”磁場”と言われるべき量であるが, 歴史的な経緯から \( \boldsymbol{B} \) を磁束密度と呼ぶ.

ある微小面積 \( dS \) を持つような平面とみなすことができる面を想定し, その面に対して垂直な単位ベクトルを \( \boldsymbol{n} \) とする.この面を磁束密度 \( \boldsymbol{B} \) が貫いている時, 磁場を垂直に貫く成分 \( B_{n} \) は, \[ B_{n} = \boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{n} \] と表すことができる.

また, 微小面 \( dS \) を垂直に貫く電気力線の本数 \( dN \) と面を垂直に貫く電場 \( \boldsymbol{E}_{n} \) の関係が \[ dN = E_n \cdot dS \] と表すことができたように, 微小面を貫く磁力線の本数 \( dN \) と面を垂直に貫く磁束密度 \( \boldsymbol{B}_{n} \) の関係は次式で表すことができる. \[ dN = B_n \cdot dS \] この微小面を無数に集めてある閉曲面 \( S \) を形成すると, 曲面 \( S \) を垂直に貫く磁力線の本数 \( N \)\[ N = \int dN = \int_{S} B_n \cdot dS \] と表すことができる.ここで \( \int_{S} \) は積分を閉曲面 \( S \) の領域全てに適用することを意味する.また, 閉曲面上の各点での面に対して垂直な単位ベクトル \( \boldsymbol{n} \) の方向は閉曲面で囲まれた領域から外へ向かう向きに取ることにする.

ここまでは(電場に関する)ガウスの法則と同じであったが, ここからは磁場特有の議論になる.

電気力線と磁力線の決定的な違いは磁力線がループを描くことであった.つまり, 磁力線の湧き出し源のようなものが存在しないことである.このような特徴を持つ磁力線の場合, ある閉曲面を考えたとしても, その閉曲面に流入する磁力線の本数と流出する磁力線の本数が同じになることを数学的に示すことが可能であるし, 下の模式図からもその意味は見て取れる[5].

また, 閉曲面に磁力線が流入してくる場合の磁力線の(符号付きの)本数 \( dN_{\mathrm{in}} \)\[ \begin{aligned} dN_{\mathrm{in}} &= B_{n} \cdot dS \\ &= \boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{n} dS < 0 \\ \therefore \ dN_{\mathrm{in}} & < 0 \end{aligned} \] であり, 閉曲面から流出する磁力線 \( dN_{\mathrm{out}} \) \[ \begin{aligned} dN_{\mathrm{out}} &= B_{n} \cdot dS \\ &= \boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{n} dS > 0 \\ \therefore \ dN_{\mathrm{out}} & > 0 \end{aligned} \] となり互いに逆符号となる.

したがって, 閉領域に流入する磁力線の総数 \( \int dN_{\mathrm{in}} \) と流出する磁力線の総数 \( \int dN_{\mathrm{out}} \) は互いに大きさが等しく逆符号であるので, \[ \begin{aligned} \int_{S} \boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{n} dS &= \int dN \\ &= \int dN_{\mathrm{in}} + \int dN_{\mathrm{out}} \\ &= 0 \end{aligned} \] \[ \therefore \ \int_{S} \boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{n} dS = 0 \] となることがわかる.この式こそが磁場に関するガウスの法則と言われ, 電磁気学の基本法則であるマクスウェル方程式の一つである.

磁場に関するガウスの法則

単位面積当たりの磁力線の本数を磁束密度といい, 記号\( \boldsymbol{B} \)で表す.

磁場に関するガウスの法則 : マクスウェル方程式の一つ.
磁場に関するガウスの法則を適用する閉曲 \(S \) 面上の微小領域(面積 \(dS \) )に対して垂直な単位ベクトルを \( \boldsymbol{n} \) , その位置での磁束密度を \( \boldsymbol{B} \) とすると, 磁場に関するガウスの法則は次式で表される. \[ \int_{S}\boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{n} \ dS = 0 \] ここで, \( \int_{S}\) は積分を閉曲面 \(S \) の領域全てに適用することを意味する.

電場に関するガウスの法則と磁場に関するガウスの法則の比較

これまでに紹介した電磁気学の基本法則-マクスウェル方程式-のうち, (電場に関する)ガウスの法則磁場に関するガウスの法則を比較してみよう[6].

ガウスの法則を適用する閉曲面を \( S \) と名付け, 閉曲面上の各点で閉曲面の内から外へ向かう方向への単位ベクトルを \( \boldsymbol{n} \) , ガウスの法則を適用した領域内部の総電荷を \( Q \) , 電荷の置かれた空間の誘電率を \( \epsilon \) とすると, ガウスの法則は次式で与えられる. \[ \int_{S} \boldsymbol{E} \cdot \boldsymbol{n} \ dS = \frac{Q}{\epsilon} \] これは電荷が電気力線の湧き出す源あるいは吸い込む点となっていることを意味するのであった[7].

一方, 磁場に関するガウスの法則は次式で与えられる. \[ \int_{S} \boldsymbol{B} \cdot \boldsymbol{n} \ dS = 0 \] 電場に関するガウスの法則と比較してこの式の物理的な意味を解釈すれば, 磁力線が湧き出す源あるいは吸い込む点となるような単磁荷(モノポール)が存在しないことを表していることがわかる.これは先に議論したように我々の現実世界にはN極とS極が必ず対になって現れていることを数式で表現しただけのことである.

以上が4組のマクスウェル方程式のうちの二つである.数学のレベルが多少高くなってしまったものの, 自然法則がこのようなシンプルな形でかけることには大変な魅力を感じずにはいられない.

ただし, このような美しい基本法則がわかったからといって現実の問題がすぐに解けるわけではないので, それには別の訓練が必要であることは言うまでもない.

\( \Delta \) 接続と \( Y \) 接続および \( \Delta \) – \( Y \) 変換 ローレンツ力



補足    (↵ 本文へ)
  1. 高校物理では外積という言葉を使わないが, 右ネジの法則やフレミングの左手の法則の主張はまさしく外積の計算なのである

  2. 磁場についてすでに勉強した人にとって, 磁場といえば \( \boldsymbol{H} \) を指し示すことは既知であろうが, ここではそのことを考えずに単に”磁気的な場”の略語だと思ってもらってくれれば良い.

  3. このような操作を繰り返してたどり着く原始サイズの磁石を原子磁石という.

  4. このモノポールの存在は理論の美しさに一役も二役もかうことになるので, その美しさに魅了された人々による熱心な探求が続けられている.

  5. このことは数学を使えばより一般的に, どんな閉曲面でも成立することを示すことができる.大学以上で学ぶことの楽しみとして待っていてほしい.

  6. 通常, 「ガウスの法則」といえば電場に関するガウスの法則のことを意味する.

  7. 総電荷 \( Q \) が正の値ならば電気力線の湧き出す源であり, 負の値ならば電気力線を吸い込んでいることになる.

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