ローレンツ力

磁場が存在している空間内を荷電粒子が運動しているとき, 荷電粒子はその電荷・速度と磁束密度に応じて決定される力であるローレンツ力を受けることが知られている.

ローレンツ力の数学的な扱いは, 静電場中を荷電粒子が運動しているときに受けるクーロン力に比べて若干難しくなる.

というのも, 磁場を議論し始めると外積計算が随所に出てくるように, ローレンツ力の向きや大きさを決定するためにもやはり外積演算が用いられているのである.

したがって, まだベクトルの外積について不慣れな人はまずは外積の項目を参照していただきたい.



ローレンツ力

電場が存在せず, 磁束密度 \( \vb*{B} \) の磁場内部で荷電粒子(質量 \( m \) , 電荷 \( q \) )が速度 \( \vb*{v} \) で運動している場合に受けるローレンツ力 \( \vb*{F} \) はベクトルの外積を用いて次式で与えられる. \[ \vb*{F} = q \vb*{v} \times \vb*{B} \] ここで, 演算記号” \( \times \) ”がベクトルの外積を意味しており, \( \vb*{v} \times \vb*{B} \) の向きは \( \vb*{v} \) と \( \vb*{B} \) の両方に垂直で, \( \vb*{v} \) から \( \vb*{B} \) に向かって右ネジを回したときのネジの進む方向である.

そして, ローレンツ力の大きさ \( F \) は \( \vb*{v} \) と \( \vb*{B} \) のなす角を \( \theta \) とすると, 外積の定義にしたがい次式で与えられる. \[ F = qvB \sin{\theta} \quad . \] したがって, 電荷 \( q (>0) \) , 速度 \( \vb*{v} \) の物体に働くローレンツ力 \( \vb*{F} = q \vb*{v} \times \vb*{B} \) は, \( \vb*{v} \) から \( \vb*{B} \) に向かって右ネジを回したときのネジの進む方向を向いている大きさ \( qvB\sin{\theta} \) の力である.

当然, 電荷 \( q \) が負の場合にはローレンツ力の向きは逆となることに注意してほしい.

磁場から受けるローレンツ力を導入したことで,電磁場中の荷電粒子がしたがう運動方程式について次のことがわかる.

電場 \( \vb*{E} \) , 磁束密度 \( \vb*{B} \) の空間内で速度 \( \vb*{v} \) で運動している荷電粒子(質量 \( m \) , 電荷 \( q \) )にはローレンツ力が働き, 運動方程式は次式で与えられることになる. \[ m \dv[2]{\vb*{r} }{t} = q\vb*{E} + q \vb*{v} \times \vb*{B}\] この運動方程式こそが荷電粒子の運動を解析するための基本的な式となる.

ローレンツ力

電場 \( \vb*{E} \) , 磁束密度 \( \vb*{B} \) の空間内で速度 \( \vb*{v} \) で運動している荷電粒子(質量 \( m \) , 電荷 \( q \) )にはローレンツ力 \[\vb*{F} = q\vb*{E} + q \vb*{v} \times \vb*{B}\] が働く.

ローレンツ力のする仕事

速度 \( \vb*{v} \) で運動している荷電粒子(質量 \( m \) , 電荷 \( q \) )に働いている力を磁場によるローレンツ力 \( \vb*{F}=q\vb*{v}\times\vb*{B} \) とそれ以外の力 \( \vb*{F}_{\mathrm{ext}} \) に分離して運動方程式を書き下すと \[ \begin{aligned} & m \dv[2]{\vb*{r} }{t} = q \vb*{v} \times \vb*{B} + \vb*{F}_{\mathrm{ext}} \\ & \qty( m \dv{ \vb*{v} }{t} = q \vb*{v} \times \vb*{B} + \vb*{F}_{\mathrm{ext}} ) \end{aligned} \] となる.

この運動におけるエネルギー保存則を導出するために, 両辺に微小変位 \( \displaystyle{ \dd{\vb*{r}} =\dv{\vb*{r}}{t}\dd{t}=\vb*{v}\dd{t}} \) を乗じて積分することを考える. ただし, この時には各辺と微小変位と積は内積であることに注意すると, \[ \int m \dv[2]{\vb*{r}}{t} \cdot \vb*{v}\dd{t}= \int q \qty( \vb*{v} \times \vb*{B} ) \cdot \vb*{v}\dd{t}+ \int \vb*{F}_{\mathrm{ext}} \cdot \vb*{v}\dd{t}\] となる. ここで, ローレンツ力を含んでいる右辺第1項の被積分関数 \( q \qty( \vb*{v} \times \vb*{B} ) \cdot \vb*{v} \) に着目してみよう.

外積の定義より, \( \qty( \vb*{v} \times \vb*{B} ) \) は \( \vb*{v} \) にも \( \vb*{B} \) にも直交しており, \( \vb*{v} \) との成す角 \( \theta \) は \( \displaystyle{\frac{\pi}{2}} \) である. したがって, \( \qty( \vb*{v} \times \vb*{B} ) \) と \( \vb*{v} \) との内積はゼロとなる.

したがって, 右辺第1項の積分は \[ \int q \qty( \vb*{v} \times \vb*{B} ) \cdot \vb*{v}\dd{t}= \int q \cdot 0 \dd{t}= 0 \] となり, (磁場による)ローレンツ力は仕事をしないことがわかる.

ローレンツ力が持つこの性質は磁場中の荷電粒子のエネルギー保存則を利用する問題では大変重宝する.

ローレンツ力のする仕事

磁場によるローレンツ力 \( q \qty( \vb*{v} \times \vb*{B} ) \) は速度 \( \vb*{v} \) と直交しており, 仕事をしない.

トムソンの実験の原理と速度選別器

以下では, 電子が質量と電荷を持ち粒子的な振る舞いをすることを明らかにした実験, トムソンの実験の原理を紹介する. また, トムソンの実験に関連する項目として, 電場と磁場をコントロールして特定条件の荷電粒子のみを選別する速度選別器についても議論する. なお, 以下では電場や磁場から受ける力が重力よりも十分に大きく, 重力は無視できるとする.

トムソンの実験

トムソンの実験では, 下図のように電場を発生させるための極板(長さ \( l \) )に左方から荷電粒子を入射し, 電場によって軌道を曲げられた荷電粒子が右方のスクリーンに到達することになり, スクリーン上のどの位置に粒子が到達したかを測定することで荷電粒子の情報を抽出する.

極板間に電位差を加えて電場 \( \vb*{E} = \qty( 0, -E, 0 ) \) を発生させて, 原点で速度 \( \vb*{v} = \qty( v_{0} , 0 , 0 ) \) を持った荷電粒子を入射させる. このときの運動方程式はクーロン力を考慮して \[ \left\{\begin{aligned} m \dv[2]{x }{t} &= 0 \\ m \dv[2]{y }{t} &= – qE \\ m \dv[2]{z }{t} &= 0 \end{aligned} \right. \ \Rightarrow \ \left\{\begin{aligned} \dv[2]{x }{t} &= 0 \\ \dv[2]{y }{t} &= – \frac{qE}{m} \\ \dv[2]{z }{t} &= 0 \end{aligned} \right. \] である. 運動方程式の各成分を積分し, 適宜初期条件を当てはめることでその運動を予測できる.

ただし, わざわざ積分を実行しなくても運動方程式を見た時点で \( x \) , \( z \) 成分は加速度がゼロであることから等速直線運動を続けること, \( y \) 成分は等加速度運動をおこなうことがわかるであろう.

速度の初期条件 \( \vb*{v}(0) = \qty( v_{0}, 0, 0 ) \) を考慮すると, \[ \left\{\begin{aligned} \dv{ x }{t} &= \int 0\dd{t}\ \to \ \dv{ x }{t}= v_{0}\\ \dv{ y }{t} &= – \int \frac{qE}{m}\dd{t}\ \to \ \dv{ y }{t}= – \frac{qE}{m}t \\ \dv{ z }{t} &= \int 0\dd{t}\ \to \ \dv{ z }{t}= 0 \end{aligned} \right. \quad . \] さらに積分すると, 各成分の位置が求まり, 位置の初期条件 \( \vb*{r}(0)=\qty( 0, 0, 0 ) \) を考慮すると, \[ \left\{\begin{aligned} x &= \int v_{0}\dd{t}\ \to \ x = v_{0}t \\ y &= – \int \frac{qE}{m}t\dd{t}\ \to \ y= – \frac{qE}{2m}t^2\\ z &= \int 0\dd{t}\ \to \ z= 0 \end{aligned} \right. \] したがって, 荷電粒子が電極を抜き出るのに要する時間は \( x \) 軸方向に注目して \[ l = v_{0} t \ \to \ t= \frac{l}{v_{0}} \] であり, その時の \( y \) 座標及び速度の \( y \) 成分は \[ \begin{aligned} y &= – \frac{qE}{2m}t^2 = – \frac{qE}{2m} \qty( \frac{l}{v_{0}} )^2 \\ v_{y} &= – \frac{qE}{m}t = – \frac{qE}{m} \qty( \frac{l}{v_{0}} ) \quad . \end{aligned} \] 位置 \( \displaystyle{\qty( l, – \frac{qE}{2m} \qty( \frac{l}{v_{0}} )^2, 0 )} \) から極板を抜けだした荷電粒子は続いて \( \vb*{v} = \qty( v_{x}, v_{y}, v_{z} )= \qty( v_{0} , – \frac{qE}{m} \qty( \frac{l}{v_{0}} ), 0 ) \) の速度で等速直線運動を続けて極板の右端から \( \qty( L – \frac{l}{2} ) \) だけ下流にあるスクリーンに到達する.

極板の右端からスクリーンに到達するまでに要する時間 \( T \) は, \( T=\frac{1}{v_{0}}\qty( L – \frac{l}{2} ) \) であるので, 荷電粒子が到達する \( y \) 座標を \( D \) とすると \[ \begin{aligned} D &= – \frac{qE}{2m} \qty( \frac{l}{v_{0}} )^2 – \frac{qE}{m} \qty( \frac{l}{v_{0}} ) \cdot \frac{1}{v_{0}}\qty( L – \frac{l}{2} ) \\ & = – \frac{q}{m} \cdot \frac{ElL}{v_{0}^{2}} \end{aligned} \] となる{[(|fnote_end|)]}

位置 \( \displaystyle{\qty( l, – \frac{qE}{2m} \qty( \frac{l}{v_{0}} )^2, 0 )} \) での \( x \) 方向と \( y \) 方向の速度比 \( v_{y}/v_{x} \) が \[ \frac{v_{y}}{v_{x}} = – \frac{qEl}{mv_{0}^2} \] であることを利用して, \[ \begin{aligned} D &= – \frac{qE}{2m} \qty( \frac{l}{v_{0}} )^2 + \frac{v_{y}}{v_{x}}\qty( L – \frac{l}{2} ) \\ &= – \frac{qE}{2m} \qty( \frac{l}{v_{0}} )^2 – \frac{qEl}{mv_{0}^2} \qty( L – \frac{l}{2} ) \\ & = – \frac{q}{m}\cdot\frac{ElL}{v_{0}^{2}} \end{aligned} \] としてもよい.{[(|fnote_end|)]}. 点 \( D \) の座標は荷電粒子の比電荷 \( \displaystyle{\frac{q}{m}} \) に比例するので, \( E \) , \( l \) , \( L \) , \( v_{0} \) と \( D \) を測定することで比電荷の値を決定することができる.

ここで問題となるのは速度 \( v_{0} \) の測定方法であり, この速度を決定する方法こそが次に紹介するローレンツ力を利用した速度選別器である.

速度選別器

下図のように, 2つの極板に電位差を与えて静電場 \( \vb*{E}=\qty( 0, -E, 0 ) \) を発生させる. さらに, \( z \) 軸方向の負の向きに一様な静磁場 \( \vb*{B}=\qty( 0, 0, -B ) \) を与える. 極板の中心から極板で挟まれた空間に荷電粒子(質量 \( m \) , 電荷 \( q \) )を速度 \( \vb*{v}=\qty( v_{0}, 0, 0 ) \) で入射し, 荷電粒子が極板内を直進するための条件について考える.

この空間内部の荷電粒子の運動方程式は位置を \( \vb*{r} \) として, \[ \begin{aligned} m \dv[2]{\vb*{r} }{t} & = q\vb*{E} + q \vb*{v} \times \vb*{B} \\ & = \qty( 0, -qE, 0 ) + q \qty( v_{0}, 0, 0 ) \times \qty( 0, 0, -B ) \\ & = \qty( 0, -qE, 0 ) + \qty( 0, qv_{0}B , 0 ) \end{aligned} \] となり, 成分ごとに書き下せば次の3組の運動方程式が得られる. \[ \left\{\begin{aligned} m \dv[2]{x }{t} &= 0 \\ m \dv[2]{y }{t} &= – qE + qv_{0} B \\ m \dv[2]{z }{t} &= 0 \end{aligned} \right. \] したがって, この荷電粒子が直進するためには \[ \begin{aligned} m \dv[2]{y }{t} &= – qE + qv_{0} B = 0 \\ \therefore \ v_{0} &= \frac{E}{B} \end{aligned} \] であればよい.

以上より, 電場の大きさ \( E \) と磁束密度の大きさ \( B \) を調節することで, 荷電粒子の速度を選別するような装置ができることになる. このような原理を用いた装置を速度選別器という.

比電荷の測定

トムソンの実験の原理で解説したように, ある初速度で大きさ \( E \) の電場を通過したあとでの粒子の到達位置の \( y \) 座標は \( \displaystyle{ – \frac{qElL}{mv_{0}^{2}}} \) である. ここで使用する荷電粒子の \( v_{0} \) として, 速度選別器によって測定した値 \( \displaystyle{v_{0}=\frac{E}{B}} \) のみを入射させることで, \[ \begin{aligned} D &= – \frac{qElL}{mv_{0}^{2}} \\ \to \ \frac{q}{m} &= – \frac{v_{0}^{2}}{ElL}D = – \frac{\qty( \frac{E}{B} )^{2}}{ElL}D \\ &= – \frac{ED}{B^{2}lL} \end{aligned} \] となる. \( E \) , \( B \) , \( l \) , \( L \) はすべて事前に知ることができる量であり, 残る \( D \) を実験で測定することで未知の荷電粒子であってもその比電荷を求めることができる.

サイクロトロン運動

下図のように, 静的で一様な磁束密度 \( \vb*{B} \) の磁場の中へと \( \vb*{B} \) と垂直な方向に初速度を持った荷電粒子(質量 \( m \) , 電荷 \( q \) )を初速度 \( \vb*{v} \) で入射する. この後でどのような運動を行うのかを議論する.

結果は円運動になることが知られており, サイクロトロン運動と言われる. まずはサイクロトロン運動になる理由を物理的な考察から導き, 補足としてサイクロトロン運動の数学的に解析する.

サイクロトロン運動の物理的な説明

磁場 \( \vb*{B} \) と荷電粒子 \( \vb*{v} \) は常に直交しており, ローレンツ力は荷電粒子に対して仕事をしない. したがって, 荷電粒子の運動エネルギーは一定に保たれ, 速度の大きさ \( v \) も変化しない. つまり, 荷電粒子に働くローレンツ力は大きさ \( qvB \) で常に一定で, その向きは運動方向と常に垂直な方向へと変化し続けることになる.

このような力はある回転中心を常に向いている向心力と考えることができ, \( v \) が一定であることから等速円運動であることがわかる.

ローレンツ力を向心力とする円運動の運動方程式は, 向心方向を正の向きとして, 次式で与えられる. \[ m \frac{v^2}{r} = qvB \quad . \] ここで \( r \) は円運動の半径でありサイクロトロン半径といわれ, \[ r = \frac{mv}{qB} \] となる. また, サイクロトロン運動の周期 \( T \) は \[ T = \frac{2 \pi r}{v} = \frac{2 \pi m}{qB} \] であり, サイクロトロン運動の周期は粒子の速度に依存していない.

サイクロトロン運動を利用した比電荷測定

比電荷測定の応用的手法として, 速度選別器とサイクロトロン運動とを組み合わせたものがある.

下図のように大きさ \( E \) の電場と大きさ \( B \) の磁束密度を利用した速度選別器を直進した粒子( \( \displaystyle{v =\frac{E}{B} } \) ))を粒子の速度方向と直交した一様な磁束密度 \( \vb*{B}’ \) を持つ空間へと入射させる.

磁束密度 \( \vb*{B}’ \) の磁場では荷電粒子はサイクロトロン運動を行い, そのサイクロトロン半径 \( r \) は荷電粒子の質量を \( m \) , 電荷を \( q \) として \[ \begin{aligned} m\frac{v^2}{r} &= q v B’ \\ r &= \frac{mv}{qB’} =\qty( \frac{q}{m} )^{-1} \cdot \frac{E}{BB’} \end{aligned} \] となる.

あとは実験的に, 荷電粒子が入射位置から \( D=2r \) だけ離れた位置に到達したことがわかれば荷電粒子の比電荷を決定することができる. この原理は原子核実験などで未知粒子の比電荷測定などで重宝されてきた手法である.

[補足]サイクロトロン運動の数学的な解析

磁束密度 \( \vb*{B}=\qty( 0, 0, -B_{z} ) \) の一様な磁場の磁場の中へ, \( \vb*{B} \) と垂直な平面上に質量 \( m \) , 電荷 \( q \) の荷電粒子を初速度 \( \vb*{v}_{0} \) で入射したあとの運動について運動方程式を数学的に取り扱うことで運動を予測してみよう.

座標系を適切に選ぶことにより, 荷電粒子の初期位置 \( \vb*{r}_{0} \) を \( \vb*{r}_{0}=\qty( x_{0} , 0, 0 ) \) , 初速度を \( \vb*{v}_{0}=\qty( 0, v_{y_{0}}, v_{z_{0}} ) \) とすることができる.

このような座標系を設定したうえで, ある時刻 \( t \) における荷電粒子の位置を \( \vb*{r}=\qty( x, y, z ) \) とすると, 運動方程式は \[ \begin{aligned} m \dv[2]{\vb*{r}}{t} & = q \vb*{v} \times \vb*{B} \\ & = q \qty( v_{x}, v_{y}, v_{z} ) \times \qty( 0, 0, -B_{z} ) \\ & = q \qty( -v_{y} B_{z}, v_{x}B_{z}, 0 ) \end{aligned} \] であり, 成分ごとに書き下すと, \[ \left\{\begin{aligned} m \dv{ v_{x}}{t} &= – qv_{y}B_{z} \\ m \dv{ v_{y}}{t} &= qv_{x}B_{z} \\ m \dv{ v_{z}}{t} &= 0 \end{aligned} \right. \ \Rightarrow \ \left\{\begin{aligned} \dv{v_{x}}{t} &= – \frac{qB_{z}}{m} v_{y} \\ \dv{v_{y}}{t} &= \frac{qB_{z}}{m} v_{x} \\ \dv{v_{z}}{t} &= 0 \end{aligned} \right. \]

\( z \) 方向

\( z \) 方向の運動方程式は簡単に解析できる. というのも, 運動方程式を積分すると, \[ \dv{v_{z}(t)}{t} = 0 \ \to \ v_{z}(t) = \mathrm{const.} \] であり, 荷電粒子には \( z \) 方向の初速度 \( v_{z_{0}} \) は保存されることになる. したがって, \[ \begin{aligned} v_{z}(t) &= v_{z_{0}} \\ \to \ z(t) &= \int v(t) \dd{t}= v_{z_{0}} t + \mathrm{const.} \end{aligned} \] であり, \( z(0) = 0 \) を用いれば \( z \) 方向へは等速直線運動を続けることになる. \[ \begin{aligned} z(0) &= v_{z_{0}} 0 + \mathrm{const.} = 0 \\ \therefore \ z(t) &= v_{z_{0}}t \quad . \end{aligned} \]

\( x \) , \( y \) 方向

\( x \) , \( y \) 方向の運動方程式及びその時間微分をそれぞれ書き下すと, \[ \begin{aligned} & \left\{\begin{aligned} \dv{v_{x}}{t} &= – \frac{qB_{z}}{m} v_{y} \\ \dv{v_{y}}{t} &= \frac{qB_{z}}{m} v_{x} \end{aligned} \right. \\ & \to \ \left\{\begin{aligned} \dv[2]{v_{x}}{t} &= – \frac{qB_{z}}{m} \dv{v_{y}}{t} = – \frac{qB_{z}}{m} \cdot \qty( \frac{qB_{z}}{m} v_{x} ) \\ \dv[2]{v_{y}}{t} &= \frac{qB_{z}}{m} \dv{v_{x}}{t} = \frac{qB_{z}}{m} \cdot \qty( – \frac{qB_{z}}{m} v_{y} ) \end{aligned} \right. \end{aligned} \] したがって, \[ \therefore \ \left\{\begin{aligned} \dv[2]{v_{x}}{t} &= – \qty( \frac{qB_{z}}{m} )^2 v_{x} \\ \dv[2]{v_{y}}{t} &= – \qty( \frac{qB_{z}}{m} )^2 v_{y} \end{aligned} \right. \] この形の方程式に見覚えがない人は微分方程式を参照していただくとして, 単振動で扱った式と全く同じ形になっていることがわかる. そこで, \( \displaystyle{\omega = \frac{qB_{z}}{m}} \) として, \( v_{x} \) の一般解は任意の定数 \( A \) , \( B \) を用いて, \[ v_{x}(t) = A \sin{\omega t } + B \cos{\omega t} \] と書くことができる. この式は2つの未知定数を含んでいるので, 荷電粒子のわかっている条件を駆使してそれらを決定していく.

初期条件から \( v_{x}(0) = 0 \) であるので, \[ \begin{aligned} v_{x}(0) &= A \sin{\omega \cdot 0} + B \cos{\omega \cdot 0} = B \\ \to \ B &= 0 \\ \therefore \ v_{x}(t) &= A \sin{\omega t} \quad . \end{aligned} \] また, \( x \) 方向の運動方程式に \( v_{x} \) を代入すると, \[ \begin{aligned} \dv{v_{x}}{t} &= – \underbrace{\frac{qB_{z}}{m}}_{=\omega} v_{y} \ \to \ A \omega \cos{\omega t} = – \omega v_{y} \\ \therefore \ v_{y}(t) &= – A \cos{\omega t} \end{aligned} \] 初期条件から \( v_{y}(0) = v_{y_{0}} \) であるので, \[ \begin{aligned} v_{y}(0) &= – A \cos{\omega \cdot 0 } = v_{y_{0}} \\ \to \ A & = -v_{y_{0}} \\ \end{aligned} \] \( A \) を \( v_x \) , \( v_{y} \) にそれぞれ代入すると \[ \begin{aligned} & \left\{\begin{aligned} v_{x}(t) & = A \sin{\omega t} = – v_{y_{0}} \sin{\omega t} \\ v_{y}(t) & = – A \cos{\omega t} = v_{y_{0}} \cos{\omega t} \end{aligned} \right. \\ \therefore \ & \left\{\begin{aligned} v_{x}(t) & = – v_{y_{0}} \sin{\omega t} \\ v_{y}(t) & = v_{y_{0}} \cos{\omega t} \end{aligned} \right. \quad . \end{aligned} \] 以上で \( x \) , \( y \) 方向の速度が求まったのであとはさらに時間積分を実行するだけで荷電粒子の位置が完全に決定されるのである. \[ \begin{aligned} \left\{\begin{aligned} x(t) &= \int v_{x}(t) \dd{t}\\ &= \frac{v_{y_{0}}}{\omega} \cos{\omega t} + C_{1} \quad \qty( C_1 = \mathrm{const.} ) \\ y(t) &= \int v_{y}(t) \dd{t}\\ &= \frac{v_{y_{0}}}{\omega} \sin{\omega t} + C_{2} \quad \qty( C_2 = \mathrm{const.} ) \end{aligned} \right. \quad . \end{aligned} \] ここで, \( x(0)=x_{0} \) , \( y(0)=0 \) より, \[ \begin{aligned} & \left\{\begin{aligned} x(0) &= \frac{v_{y_{0}}}{\omega} + C_{1} = x_{0} \\ y(0) &= C_{2} = 0 \end{aligned} \right. \\ \therefore \ & \left\{\begin{aligned} x(t) &= \frac{v_{y_{0}}}{\omega} \cos{\omega t} + \qty( x_{0} – \frac{v_{y_{0}}}{\omega} ) \\ y(t) &= \frac{v_{y_{0}}}{\omega} \sin{\omega t} \end{aligned} \right. \quad . \end{aligned} \] したがって, 荷電粒子の \( x-y \) 平面上での運動は \( \displaystyle{\qty( \qty( x_{0} – \frac{v_{y_{0}}}{\omega} ) , 0 ) } \) を中心とした半径 \( \displaystyle{\frac{v_{y_{0}}}{\omega} = \frac{mv_{y_{0}}}{qB_{z}}} \) の円を描くことになり, この半径をサイクロトロン半径という.

以上より, 荷電粒子の位置 \( \vb*{r} \) の時間発展は完全にもとまり, \[ \vb*{r} = \qty( \frac{v_{y_{0}}}{\omega} \cos{\omega t} + \qty( x_{0} – \frac{v_{y_{0}}}{\omega} ) , \frac{v_{y_{0}}}{\omega} \sin{\omega t}, v_{z_{0}} t ) \] となる. これは \( x-y \) 平面では円運動, \( z \) 方向へは等速直線運動を続ける螺旋運動となっていることがわかる.