交流

高校物理の回路分野の最後に登場し, 高校生諸君を非常に悩ませてくれる代物が交流回路である.

単振動と同じくらい, もしくはそれ以上に微積分の力を最大限に活かすことができるのだが, 微積分を封じた指導方法では教える側も心苦しい単元でもある.

まずは交流回路に抵抗素子, コンデンサ, コイルそれぞれが設置されたときの電圧と電流の関係について議論し, インピーダンス及びレジスタンス, リアクタンスという概念について述べる.

それに続いて, RLC直列回路RLC並列回路についてキルヒホッフの法則によって立式した方程式を, 微積分の力を大いにかりて式変形することで解析する.

交流を理解するために必要な各法則は随時確認していくが, 数学に不安のある人は三角関数の微分・積分および三角関数の合成について復習しておくとよい.

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交流電源
実効値
インピーダンス, レジスタンス, リアクタンス
合成インピーダンス
交流の消費電力


交流電源

交流回路とは, 電源装置の起電力が常に正であるような直流回路とは異なり, 電源装置の起電力が時間的に正負に振動しながら変化する電源装置を含んだ回路のことをあらわす.

その中でも高校物理の議論の対象となるのは, 次式のように正弦波の形で記述できる交流, 正弦波交流である. \[ V = V_{0} \sin{ \left( \omega t + \theta_{0} \right) } \quad .\] ここで \( V_{0} \) は起電力の振幅, \( \omega \) は交流電源の角振動数, \( t \) は時間, \( \theta_{0} \)初期位相という.

これは, \( t=0 \) における起電力が \( V_{0}\sin{\theta_{0}} \) であり, その後は時間の経過とともに正弦関数の位相[1]\( \left( \omega t + \theta_{0} \right) \) と変化するのである.

直流回路との違いはこの一点に尽きるといってもよく, あとは主にキルヒホッフの法則による立式とその数学的な式変形によって交流独自の性質を導くことができる.

以下では正弦波交流電源装置に接続された回路の振る舞いについて議論する

実効値

直流電流 \( I \) が抵抗値 \( R \) を持つ抵抗に流れており, 電圧降下が \( V=RI \) の場合の単位時間あたりの消費電力 \( P \)\[ P= VI = RI^2 = \frac{V^2}{R}\] で与えられるのであった.

交流の消費電力について議論する場合, 波形や角振動数という交流特有の情報に関係なく直流の場合と直接的に比較できるような指標があれば便利である.

そこで, 抵抗 \( R \) に交流電圧 \( V=V_{0}\sin{\omega t} \) をかけて1周期( \( T \ \mathrm{s} \) )に消費する電力と, 直流電圧 \( V=V_{\mathrm{e}} \) を同じ時間 \( T \ \mathrm{s} \) だけかけて消費される電力が等しいとすると, \[ \begin{aligned} & \left(\mbox{交流1周期($T\ \mathrm{s}$)の消費電力}\right)= \left(\mbox{$T\ \mathrm{s}$間の直流の消費電力}\right) \\ \to \ & \int_{0}^{T} \frac{\left( V_{0}\sin{\omega t} \right)^2}{R} \ dt = \frac{V_{\mathrm{e}}^2}{R} T \\ \to \ & V_{\mathrm{e}} = \sqrt{ \frac{1}{T} \int_{0}^{T} \left( V_{0} \sin{\omega t} \right)^2 \ dt} \end{aligned}\] となる. この \( V_{\mathrm{e}} \) を交流電圧の実効値またはRMS値[2]という.

つまり, 電圧の実効値 \( V_{\mathrm{e}} \) がどのような値かを知っておけば, 交流の消費電力の計算を \( V_{\mathrm{e}} \) の直流が流れていると置き換えて計算できるのである[3].

交流が \( V=V_{0}\sin{\omega t} \) の場合の実効値 \( V_{\mathrm{e}} \) を計算しておこう. \[ \begin{aligned} V_{\mathrm{e}} &= \sqrt{ \frac{1}{T} \int_{0}^{T} \left( V_{0} \sin{\omega t} \right)^2 \ dt} \\ &= V_{0} \sqrt{ \frac{1}{T} \int_{0}^{T} \sin^{2}{\omega t} \ dt } \\ &= V_{0} \sqrt{ \frac{1}{T} \int_{0}^{T} \frac{1-\cos{2\omega t}}{2} \ dt } \\ &= V_{0} \sqrt{ \frac{1}{2T} \left[t – \frac{1}{2\omega}\sin{2\omega t} \right]_{0}^{T} } \\ &= V_{0} \sqrt{ \frac{1}{2T} \left[T – \frac{1}{2\omega} \left( \sin{2\omega T} – \sin{0}\right) \right] } \\ \therefore \ V_{\mathrm{e}} &= \frac{V_{0}}{\sqrt{2}} \quad .\end{aligned}\] 途中, 半角の公式 \( \displaystyle{ \sin^2{\frac{\theta}{2}}=\frac{\left( 1- \cos{\theta}\right)}{2} } \) と, 周期と角振動数について成り立つ関係式 \( \omega T = 2 \pi \) を用いた.

以上より, 交流電圧が正弦関数 \( V = V_{0}\sin{\omega t} \) で与えられている場合の抵抗 \( R \) での単位時間あたりの消費電力 \( \overline{P} \)\[ \overline{P} = \frac{V_{\mathrm{e}}^{2}}{R} = \frac{V_{0}^{2}}{2R}\] となる. この計算結果は初期位相 \( \theta_{0} \) を含んでいても同じ値となるので各自で確認していただきたい.

全く同様の議論により, 交流電流 \( I=I_{0}\sin{\omega t} \)実効値 \( I_{\mathrm{e}} \) を定義することができ, \[ \begin{aligned} I_{\mathrm{e}} &= \sqrt{ \frac{1}{T} \int_{0}^{T} \left( I_{0} \sin{\omega t} \right)^2 } \\ \to I_{\mathrm{e}} &=\frac{I_{0}}{\sqrt{2}} \quad .\end{aligned}\] したがって, 交流電流が正弦関数 \( I = I_{0}\sin{\omega t} \) で与えられている場合の抵抗 \( R \) での単位時間あたりの消費電力 \( \overline{P} \)\[ \overline{P} = RI_{\mathrm{e}}^{2} = \frac{RI_{0}^{2}}{2}\] となる.

以上をまとめると, 交流電圧 \( V \) または交流電流 \( I \) の振幅がそれぞれ \( V_{0}, I_{0} \) の正弦曲線で与えられる場合の実効値 \( V_{\mathrm{e}}, I_{\mathrm{e}} \)\[ V_{\mathrm{e}} = \frac{V_{0}}{\sqrt{2}} \quad , \quad I_{\mathrm{e}} = \frac{I_{0}}{\sqrt{2}}\] となる.

インピーダンス, レジスタンス, リアクタンス

回路を議論する上で重要な物理量としてインピーダンスと呼ばれるものがある. これは, 回路に存在する抵抗素子だけではなくコンデンサやコイルをについても抵抗に該当する量を考え, 抵抗の概念を拡張させた物理量のことを指す.

抵抗素子のインピーダンスの大きさをレジスタンス(抵抗), コンデンサのインピーダンスの大きさを容量性リアクタンス, コイルのインピーダンスの大きさを誘導性リアクタンスという. 容量性リアクタンスと誘導性リアクタンスはともに単にリアクタンスとも呼ばれる.

これらの用語の使い分けの必要性は, 交流(複素数表示)で紹介している複素インピーダンスと呼ばれる概念まで考えた時に初めてわかるものであるので, 興味のある方はぜひとも一読していただきたい.

各素子のインピーダンスの大きさ(レジスタンス, リアクタンス)を決めたいわけだが, 交流は時間的に変動しているので, 交流の実効値を用いて定義することで直流の場合との直接比較を可能な次の形で定義しておく. \[ \mbox{レジスタンス, リアクタンス} = \frac{電圧降下の実効値}{電流の実効値}\]

回路上の各要素についてレジスタンス及びリアクタンスについてすでにわかっていることをまとめると,

  • 抵抗素子のレジスタンス
    \[ \begin{aligned} R \mathrel{\mathop:}= \frac{ V_0 / \sqrt{2} }{V_0/ \left( \sqrt{2} R \right)} = R \end{aligned}\]

  • コンデンサの容量性リアクタンス
    \[ \begin{aligned} X_{C} = \frac{V_{0} / \sqrt{2}}{\omega C V_{0} / \sqrt{2}} = \frac{1}{\omega C} \end{aligned}\]

  • コイルの誘導性リアクタンス
    \[ \begin{aligned} X_{L} = \frac{V_{0} / \sqrt{2}}{V_{0} / \left( \sqrt{2} \omega L \right) } = \omega L \end{aligned}\]

合成インピーダンス

以下では, 抵抗, コンデンサ, コイルを含んだ回路全体の抵抗に該当する概念である 合成インピーダンスの大きさをどのように計算するのかを紹介していく.

交流の消費電力

周期 \( T \) が同じで位相が一致していないような一般的な位相を持つ交流電圧 \( V = V_{0}\cos{ \left( \omega t + \theta_{v}\right)} \) , 交流電流 \( I = I_{0}\cos{\left( \omega t + \theta_{i}\right)} \) が流れている回路の消費電力は一周期の間の平均電力を計算すればよく, \[ \begin{aligned} \overline{P} &= \frac{1}{T} \int_{0}^{T} I_{0} V_{0} \cos{\left( \omega t + \theta_{i}\right)} \cos{\left( \omega t + \theta_{v}\right)} \, dt \\ &= \frac{1}{T} \int_{0}^{T} \frac{I_{0} V_{0}}{2} \left\{ \cos{\left( 2\omega t + \theta_{i} + \theta_{v} \right)} + \cos{\left( \theta_{i} – \theta_{v}\right)} \right\} \, dt \\ &= \frac{1}{T} \frac{I_{0} V_{0}}{2} \left[ \frac{1}{2}\sin{\left( 2\omega t + \theta_{i} + \theta_{v} \right)} + t \cos{\left( \theta_{i} – \theta_{v}\right)} \right]_{0}^{T} \\ &= \frac{I_{0} V_{0}}{2} \cos{\left( \theta_{i} – \theta_{v}\right)}\end{aligned}\] となる.

したがって, 電力を知るためには電流の電圧の位相差 \( \left( \theta_{i} – \theta_{v} \right) \) を知れば良いことになる. 素子が一つだけの回路については次のようにまとめることが出来る.

  1. 抵抗のみを含んだ回路では \( \left( \theta_{i} – \theta_{v} \right)=0 \) より, \( \displaystyle{ P = I_{0} V_{0} = I_{\mathrm{e}} V_{\mathrm{e}}} \) .

  2. コンデンサのみを含んだ回路では \( \displaystyle{ \left( \theta_{i} – \theta_{v} \right)=\frac{\pi}{2} } \) より, \( P=0 \)

  3. コイルのみを含んだ回路では \( \displaystyle{ \left( \theta_{i} – \theta_{v} \right)=-\frac{\pi}{2} } \) より, \( P=0 \)

以上の計算からわかるように, コイルとコンデンサの平均消費電力はゼロとなる.

抵抗素子のなかでは電子の流れを物理的に妨げている結果として熱が発生して電力の消費が発生しているが, 理想的なコイルやコンデンサでは電子の運動が妨げられずに運動しており, 熱を発していないと考えることができる. 回路のエネルギーを考えるとコイルやコンデンサにエネルギーが蓄えられると考えることができるのだが, 蓄えられたエネルギーは消費されずにそのまま回路に還元されることになる.

最終更新日
ローレンツ力 交流(複素数表示)



補足    (↵ 本文へ)
  1. ここでいう位相とは正弦関数 \( \sin{( \theta )} \)\( \theta \) をあらわす用語である.

  2. ”Root Mean Square”の略称であり”Root: \( \sqrt{} \) ”, ”Mean: \( \int_{0}^{T} f(t) \ dt \) ”, ”Square: \( f^{2}(t) \) ”のことを意味する.

  3. もちろん, 測定時間が交流の振動周期よりも十分長いことが条件である. 瞬間瞬間ごとの交流の消費電力は当然ながら振動している.

  4. 実効値を念の為にしめしておくと. \[ \begin{aligned} V_{e} &= \frac{1}{\sqrt{2}}V_{0} \\ I_{e} &= \frac{1}{\sqrt{2}}\sqrt{ \left( \frac{1}{R} \right)^2 + \left( \frac{1}{X_{C}} – \frac{1}{X_{L} }\right)^2 }V_{0} \end{aligned}\] である.

  5. 実効値を念の為にしめしておくと. \[ \begin{aligned} V_{e} &= \frac{1}{\sqrt{2}}V_{0} \\ I_{e} &= \frac{1}{\sqrt{2}}\frac{1}{\sqrt{ \left( \frac{1}{R} \right)^2 + \left( \frac{1}{X_{C}} – \frac{1}{X_{L} }\right)^2 }}V_{0} \end{aligned}\] である.

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