ディエテリチの状態方程式

ファン・デル・ワールスの状態方程式の他に, 2つのパラメタを含んで現実の気体の近似的な表現を行った状態方程式がいくつか知られている.

次式であらわされるディエテリチの状態方程式(ディーテリチの状態方程式)もその一つである.[1]

\[ P e^{\frac{an}{VRT}} \left( V – bn\right) = nRT \] ここで \( a \) , \( b \) の持っている物理的な意味はファン・デル・ワールスの状態方程式のそれと同等で, \( a \)は分子間力による圧力の減少を表すパラメタ, \( b\) は気体による排除体積に関するパラメタである. ただし, ファン・デル・ワールス状態方程式とはその形が異なるために同じ値とはならない.

ここでは, ディエテリチの状態方程式における臨界点還元状態方程式を求めることにする.(参考:臨界点と還元状態方程式)

臨界点

ディエテリチの状態方程式を圧力 \( P \) について整理すると, \[ P = \frac{nRT}{ V – bn} e^{-\frac{an}{VRT}} \] である. この \( P \)-\( V \) グラフは省略するが, ディエテリチの状態方程式に従うような気体においても臨界点が存在する.

臨界点では, \( \displaystyle{ \frac{\partial P}{\partial V} = 0} \) , \( \displaystyle{ \frac{\partial^2 P}{\partial V^2} = 0} \) を満たしており, 臨界圧力 \( P_{c} \) , 臨界体積 \( V_{c} \) , 臨界温度 \( T_{c} \) はこの2式を解くことで求めることができる[2].

まず, ある温度 \( T \) における圧力 \( P \) の体積による微分(偏微分)は, \[ \begin{aligned} & \frac{\partial P}{\partial V} = \frac{ \partial }{\partial V} \left\{ \frac{nRT}{\left( V – bn\right)} e^{-\frac{an}{VRT}} \right\} \\ & \phantom{=} =\left\{ \frac{ \partial }{\partial V} \left( \frac{nRT}{V – bn} \right) \right\} e^{-\frac{an}{VRT}} + \frac{nRT}{\left( V – bn\right)}\left\{ \frac{\partial}{\partial V} \left( \frac{-an}{VRT} \right) \right\} e^{-\frac{an}{VRT}} \\ & \phantom{=} =-\frac{nRT}{\left( V – bn\right)^2} e^{-\frac{an}{VRT}} + \frac{nRT}{\left( V – bn\right)} \left( \frac{an}{V^{2}RT} \right)e^{-\frac{an}{VRT}} \\ & \phantom{=} =-\frac{1}{ V – bn}P + \left( \frac{an}{V^{2}RT} \right) P \\ & \phantom{=} = P \left( -\frac{1}{ V – bn} + \frac{an}{V^{2}RT} \right) \end{aligned} \] ここで, 臨界点 \( (P, V, T) = (P_{c}, V_{c}, T_{c}) \) において, \( \displaystyle{ \frac{\partial P}{\partial V} =0} \) より, \[ \begin{aligned} & P_{c} \left( -\frac{1}{ V_{c} – bn} + \frac{an}{V_{c}^{2}RT_{c}} \right) = 0 \\ & \to \ \frac{1}{ V_{c} – bn} = \frac{an}{V_{c}^{2}RT_{c}} \end{aligned} \] が成立する.

つづいて, ある温度 \( T \) における圧力 \( P \) の体積による2階の偏微分は, \[ \begin{aligned} & \frac{ \partial^2 P}{\partial V^2} = \frac{ \partial }{\partial V} \left( \frac{\partial P}{\partial V }\right) \\ & \phantom{=} = \frac{ \partial }{\partial V} \left\{ P \left( -\frac{1}{ V – bn} + \frac{an}{V^{2}RT} \right) \right\} \\ & \phantom{=} = \left( \frac{ \partial P}{\partial V} \right) \left( -\frac{1}{ V – bn} + \frac{an}{V^{2}RT} \right) + P \left\{ \frac{ \partial }{\partial V} \left( -\frac{1}{ V – bn} + \frac{an}{V^{2}RT} \right) \right\} \\ & \phantom{=} = P \left( -\frac{1}{ V – bn} + \frac{an}{V^{2}RT} \right)^{2} + P \left( \frac{1}{ \left( V – bn \right)^{2}} – \frac{2an}{V^{3}RT} \right) \end{aligned} \] ここで, 臨界点 \( (P, V, T) = (P_{c}, V_{c}, T_{c}) \) において, \( \displaystyle{ \frac{\partial^2 P}{\partial V^2} =0} \) であり, \( \displaystyle{ \frac{\partial P}{\partial V} =0} \) で得られた式 \[ \frac{1}{\left(V_{c}-bn\right)} = \frac{an}{V_{c}^{2}RT_{c}} \] を用いながら式変形を行うと, \[ \begin{aligned} & P_{c} \underbrace{ \left( -\frac{1}{ V_{c} – bn} + \frac{an}{V_{c}^{2}RT_{c}} \right)^{2} }_{ = 0 \quad (\because \ \frac{\partial P}{\partial V}=0)}+ P_{c} \left( \frac{1}{ \left( V_{c} – bn \right)^{2}} – \frac{2an}{V_{c}^{3}RT_{c}} \right) = 0 \\ & \to \ \frac{1}{ \left( V_{c} – bn \right)^{2}} = \frac{2an}{V_{c}^{3}RT_{c}} \end{aligned} \] が成立する.

以上より, \[ \left\{ \begin{aligned} \frac{1}{\left(V_{c}-bn\right)} &= \frac{an}{V_{c}^{2}RT_{c}} \\ \frac{1}{ \left( V_{c} – bn \right)^{2}} &= \frac{2an}{V_{c}^{3}RT_{c}} \end{aligned} \right. \] の2式が得られた. この2式を臨界体積 \( V_{c} \) について解くと, \[ \begin{aligned} \to \ & V_{c} – bn = \frac{V_{c}}{2} \\ \therefore \ & V_{c} = 2bn \quad . \end{aligned} \] 臨界温度 \( T_{c} \) は \[ \begin{aligned} & \left\{ \begin{aligned} & \frac{1}{\left(V_{c}-bn\right)} = \frac{an}{V_{c}^{2}RT_{c}} \\ & V_{c} = 2bn \end{aligned} \right. \\ & \therefore \ T_{c} = \frac{a}{4Rb} \end{aligned} \] 臨界圧力 \( P_{c} \) は \[ \begin{aligned} P_{c} &= \frac{nRT_{c}}{V_{c}-bn} e^{-\frac{an}{V_{c}RT_{c}}} \\ &= \frac{nR\left( \frac{a}{4Rb} \right)}{\left(2bn\right)-bn} e^{-\frac{an}{\left(2bn\right)R}\frac{4Rb}{a}} \\ \therefore \ P_{c} &= \frac{a}{4b^2}e^{-2} \end{aligned} \] 以上より, ディエテリチの状態方程式による臨界状態の物理量はそれぞれ次式のように求めることができた. \[ \therefore \ \left\{ \begin{aligned} P_{c} &= \frac{a}{4b^2}e^{-2} \\ V_{c} &= 2bn \\ T_{c} &= \frac{a}{4Rb} \end{aligned} \right. \] ディエテリチの状態方程式に従うような気体の臨界点における圧縮率因子 \( Z \) は \[ \begin{aligned} Z &= \frac{P_{c}V_{c}}{nRT_{c}} \\ &= \frac{\frac{a}{4b^2}e^{-2} \cdot 2bn }{nR\frac{a}{4Rb}} \\ \therefore \ Z &= \frac{2}{e^2} \approx 0.271 \quad \left( \text{Dieterici eq.} \right) \end{aligned} \] となる. これは,ファン・デル・ワールス気体の臨界点で得られた圧縮率因子 \[ Z = \frac{3}{8} \approx0.385 \quad \left( \text{Van der Waals eq.} \right) \] と異なり, 現実気体の圧縮率因子の実測値に対してかなり精度のよい値となっている. しかし, それでも現実気体の振る舞いをピタリと当てることはかなわない. ファン・デル・ワールスの状態方程式にしろディエテリチの状態方程式にしろ, それらはあくまでも現実気体の近似方程式であり, 気体と液体の定性的な理解を与えてくれることが重要である.

還元状態方程式

最後に, パラメタ \( a \) , \( b \) に依存しないようなディエテリチの還元状態方程式を求めておこう.

臨界圧力, 臨界体積, 臨界温度を基準にした還元圧力 \( P_{r} \) , 還元体積 \( V_{r} \) , 還元温度 \( T_{r} \) をそれぞれ次のように定義する. \[ \left\{ \begin{aligned} P_{r} &\mathrel{\mathop:}= \frac{P}{P_{c}} \\ V_{r} &\mathrel{\mathop:}= \frac{V}{V_{c}} \\ T_{r} &\mathrel{\mathop:}= \frac{T}{T_{c}} \end{aligned} \right. \] また, 臨界点における状態量とパラメタ \( a \) , \( b \) の関係から, \[ \begin{aligned} a &= T_{c} \cdot 4Rb \\ &= T_{c} 4R \frac{V_{c}}{2n} \\ &= \frac{2RT_{c}V_{c}}{n} \end{aligned} \] を用いると, \[ \begin{aligned} & P e^{\frac{an}{VRT}} \left( V – bn \right) = nRT \\ & \to \ P_rP_{c} e^{\frac{2RT_{c}V_{c}}{V_{r}V_{c}RT_{r}T_{c}}} \left( V_{r}V_{c} – \frac{V_{c}}{2n}n \right) = nRT_{r}T_{c} \\ & \to \ P_r e^{\frac{2}{V_{r}T_{r}}} \left( V_{r} – \frac{1}{2n}n \right) = T_{r}\underbrace{\frac{nRT_{c}}{P_{c}V_{c}}}_{\frac{1}{Z}=\frac{e^2}{2}} \\ & \therefore \ P_r e^{\frac{2}{V_{r}T_{r}}} \left( V_{r} – \frac{1}{2}\right) = \frac{e^2}{2} T_{r} \\ \end{aligned} \] 最後に得られた式がディエテリチの還元状態方程式である.

還元状態方程式において臨界点は \( ( P_{r}, V_{r}, T_{r} )= (1, 1, 1) \) に対応し, ディエテリチの還元状態方程式は次のような概形となる.

ディエテリチの還元状態方程式の \( P_{r} \)-\( V_{r} \) グラフ.



補足    (↵ 本文へ)
  1. ファン・デル・ワールス状態方程式とあまり似ていないように思われるかもしれないが, 微小量 \(x \)に対する指数関数の近似 \[ e^x \approx 1+x\] を利用するとその類似性に気付くことができる.

    \( x = \frac{an}{VRT} \) とし, \( V \) が十分に大きな領域においては, \[ e^x \approx 1+x = 1+ \frac{an}{VRT} \] と近似することができ, \[ \begin{aligned} & P e^{\frac{an}{VRT}} \left( V – bn\right) = nRT \\ \to \ & \left( P+ P\frac{an}{VRT} \right)\left( V – bn\right) = nRT \end{aligned} \] であり, 理想気体の状態方程式がよい近似で成り立つ領域ならば, \[ P\frac{an}{VRT} \approx \frac{an^2}{V^2}\] が成立し, \[ \begin{aligned} & \left( P+ P\frac{an}{VRT} \right)\left( V – bn\right) = nRT \\ \to \ & \left( P+ \frac{an^2}{V^2} \right)\left( V – bn\right) = nRT \end{aligned} \] と, 条件が整えばファン・デル・ワールス状態方程式と一致していることが伺える.

  2. ここで, \( \frac{\partial P}{\partial V} \) は圧力 \( P=P(V,T) \) を体積 \( V \) のみの変数であるとして \( T \) を一定に保ちながら \( V \) で微分を行う偏微分を意味している.

スポンサーリンク


この記事をシェアする