円運動の運動方程式

円運動の運動方程式 — 角振動数一定の場合 — と同じく, 物体の運動が円軌道の場合の運動方程式について議論する. ただし, 等速円運動に限らず成立するような運動方程式についての備忘録である.

このページでは, 本編の円運動の項目とは違い,

  1. 物体の運動軌道が円軌道という条件を初めから与える.

  2. 円運動の加速度を動径方向と角度方向に分解する.

  3. 円運動の運動方程式を示す.

といった順序で進める.

今回も, 使う数学のなかでちょっとだけ敷居が高いのは三角関数の微分である.

三角関数の微分の公式は次式で与えられる. \[ \begin{aligned} \dv{x } \sin{x} &= \cos{x} \\ \dv{x } \cos{x} &= – \sin{x} \quad . \end{aligned}\]

また, 三角関数の合成関数の公式も一緒に与えておこう. \[ \begin{aligned} \dv{x } \sin{\qty( f(x) )} &= \dv{f}{x} \cos{\qty( f(x) )} \\ \dv{x } \cos{\qty( f(x) )} &= – \dv{f}{x} \sin{\qty( f(x) )} \quad . \end{aligned}\] これらの公式については三角関数の導関数で紹介している.


つづいて, 極座標系の導入である.

直交座標系の \( x \) 軸と \( y \) 軸の交点を座標原点 \( O \) に選び, 原点から半径 \( r \) の円軌道上を運動するとしよう.

円軌道上のある点 \( P \) にいる時の物体の座標 \( (x, y) \) というのは, \( x \) 軸から反時計回りに角度 \( \theta \) と \( r \) を用いて, \[ \left\{\begin{aligned} x & = r \cos{\theta} \\ y & = r \sin{\theta} \end{aligned} \right.\] で与えられる.

したがって, 円軌道上の点 \( P \) の物体の位置ベクトル \( \vb*{r} \) は, \[ \begin{aligned} \vb*{r} & = \qty( x, y )\\ & = \qty( r\cos{\theta}, r\sin{\theta} ) \end{aligned}\] となる. これが円軌道という条件を与えられた物体の位置ベクトルである.

次に, 物体が円軌道上を運動する場合の速度を求めよう.

以下で用いる物理と数学の絡みとしては, 位置を時間微分することで速度が, 速度を自分微分することで加速度が得られる, ということを理解しておいてほしい.(位置・速度・加速度と微分参照)

物体の位置 \( \vb*{r} \) を微分することで, 物体の速度 \( \vb*{v} \) が得られることを使えば, \[ \begin{aligned} \vb*{v} &= \dv{t} \vb*{r} \\ & = \qty( \dv{t} x, \dv{t} y ) \\ & = \qty( r \dv{t} \cos{\theta}, r \dv{t} \sin{\theta} ) \\ & = \qty( – r \dv{ \theta}{t} \sin{\theta}, r \dv{ \theta }{t} \cos{\theta} ) \end{aligned}\] これが円軌道上での物体の速度の式である.


ここからが角振動数一定の場合と話が変わってくるところである.

まずは記号 \( \omega \) を次のように定義しておこう. \[ \omega \coloneqq \dv{\theta}{t}\] この \( \omega \) の大きさは角振動数(角周波数)といわれるものである.

いま, この \( \omega \) について特に条件を与えなければ, \( \omega \) も一般には時間の関数であり, \[ \omega = \omega(t)\] であることに注意してほしい.

\( \omega \) を用いて円運動している物体の速度を書き下すと, \[ \vb*{v} = \qty( – r \omega \sin{\theta}, r \omega \cos{\theta} )\] である.

さて, 円運動の運動方程式を知るために, 次は加速度 \( \vb*{a} \) を求めることになるが, \( r \) は時間によらず一定で, \( \omega \) および \( \theta \) は時間の関数であることに注意すると, \[ \begin{aligned} \vb*{a} &= \dv{t} \vb*{v} \\ &= \qty( – r \dv{t} \left\{\omega \sin{\theta} \right\}, r \dv{t} \qty{\omega \cos{\theta} } ) \\ &= \left( \vphantom{\frac{b}{a}} \right.- r \dv{\omega}{t}\sin{\theta} – r \omega \underbrace{\dv{\theta}{t}}_{=\omega}\cos{\theta}, r \dv{\omega}{t}\cos{\theta} – r \omega \underbrace{\dv{\theta}{t}}_{=\omega}\sin{\theta} \left. \vphantom{\frac{b}{a}} \right) \\ &= \qty( – r \dv{\omega}{t}\sin{\theta} – r \omega^2 \cos{\theta}, r \dv{\omega}{t}\cos{\theta} – r \omega^2 \sin{\theta} ) \quad . \end{aligned}\]

さて, この加速度 \( \vb*{a} \) について一工夫して解釈を与えてみよう.

ベクトルというのは合成・分解が出来るという大きな特徴を持つのであった. そこで, 加速度 \( \vb*{a} \) を次のように変形する. \[ \begin{aligned} \vb*{a} & = \qty( – r \dv{\omega}{t}\sin{\theta} – r \omega^2 \cos{\theta}, r \dv{\omega}{t}\cos{\theta} – r \omega^2 \sin{\theta} ) \\ & = \qty( – r \omega^2 \cos{\theta}, – r \omega^2 \sin{\theta} ) + \qty( – r \dv{\omega}{t}\sin{\theta} , r \dv{\omega}{t}\cos{\theta} ) \end{aligned}\] ここで, \[ \left\{\begin{aligned} \vb*{a}_{r} & \coloneqq \qty( – r \omega^2 \cos{\theta}, – r \omega^2 \sin{\theta} ) \\ \vb*{a}_{\theta} & \coloneqq \qty( – r \dv{\omega}{t}\sin{\theta} , r \dv{\omega}{t}\cos{\theta} ) \end{aligned} \right.\] とでも定義しておこう. つまり, \[ \vb*{a} = \vb*{a}_{r} + \vb*{a}_{\theta}\] とする. このように加速度 \( \vb*{a} \) をわざわざ \( \vb*{a}_{r} \) , \( \vb*{a}_{\theta} \) にわけた理由について述べる.

まず \( \vb*{a}_{r} \) というのは物体の位置 \( \vb*{r} \) と次のような関係に在ることに気付く. \[ \begin{aligned} \vb*{r} &= \qty( r \cos{\theta} , r \sin{\theta} ) \\ \vb*{a}_{r} &= \qty( -r\omega^2 \cos{\theta} , -r\omega^2 \sin{\theta} ) \\ &= – \omega^2 \qty( r \cos{\theta} , r \sin{\theta} ) \\ &= – \omega^2 \vb*{r} \end{aligned}\] これは, \( \vb*{a}_{r} \) というのは位置ベクトルとは真逆の方向を向いていて, その大きさは \( \omega^2 \) 倍されたものということである.

つづいて \( \vb*{a}_{\theta} \) について考えよう. \( \vb*{a}_{\theta} \) と位置 \( \vb*{r} \) の関係は \[ \begin{aligned} \vb*{a}_{\theta} \cdot \vb*{r} &= \qty( – r \dv{\omega}{t}\sin{\theta} , r \dv{\omega}{t}\cos{\theta} ) \cdot \qty( r \cos{\theta} , r \sin{\theta} ) \\ &= – r^2 \dv{\omega}{t}\sin{\theta}\cos{\theta} + r^2 \dv{\omega}{t}\sin{\theta}\cos{\theta} \\ &=0 \end{aligned}\] すなわち, \( \vb*{a}_\theta \) と \( \vb*{r} \) は垂直関係となっている.

以上より, \( \vb*{a} \) を動径方向( \( \vb*{r} \) 方向)のベクトルと, それに垂直な角度方向( \( \vb*{\theta} \) 方向)のベクトルに分離したのが \( \vb*{a}_{r} \) と \( \vb*{a}_{\theta} \) の正体である.

さて, 以上で知り得た情報を運動方程式 \[ m \vb*{a} = \vb*{F}\] に代入しよう.

ただし, 合力 \( \vb*{F} \) についても原点 \( O \) から円軌道上の点 \( P \) へ向かう方向 — 位置ベクトルと同じ方向(動径方向) —を \( \vb*{F}_{r} \) , それ以外(角度方向)を \( \vb*{F}_{\theta} \) として分解しておこう. \[ \vb*{F} = \vb*{F}_{r} + \vb*{F}_{\theta} \quad .\]

すると, \[ \begin{aligned} m &\vb*{a} = \vb*{F}_{r} + \vb*{F}_{\theta} \\ \to & \ m \qty( \vb*{a}_{r} + \vb*{a}_{\theta} ) \vb*{F}_{r}+ \vb*{F}_{\theta} \\ \to & \ \left\{\begin{aligned} m \vb*{a}_{r} &= \vb*{F}_{r} \\ m \vb*{a}_{\theta} &= \vb*{F}_{\theta} \end{aligned} \right. \end{aligned}\] と, 運動方程式を動径方向と角度方向とに分離することができる.

このうち, 角度方向の運動方程式 \[ m \vb*{a}_{\theta} = \vb*{F}_{\theta}\] というのは, 円運動している物体のエネルギー保存則などで用いられるのだが, それは包み隠されてしまっている. この運動方程式の使い方は円運動を参照してほしい.

さて, 動径方向の運動方程式はさらに式変形を推し進めると, \[ \begin{aligned} m \vb*{a}_{r} &= \vb*{F}_{r} \\ \to \ – m \vb*{r} \omega^2 &= \vb*{F}_{r} \\ \to \ m \vb*{r} \omega^2 &= – \vb*{F}_{r} \\ \end{aligned}\] ここで, 右辺の \( – \vb*{F}_{r} \) は \( \vb*{r} \) 方向とは逆方向の力, すなわち向心力 \( \vb*{F}_{\text{向心力}} \) のことであり, \[ \vb*{F}_{\text{向心力}} = – \vb*{F}_{r}\] を用いて, 円運動の運動方程式, \[ m \vb*{r} \omega^2 = \vb*{F}_{\text{向心力}}\] が得られた. この右辺の力は向心方向を正としていることを再度注意しておく.

これが教科書で登場している等速円運動の項目で登場している \[ m r \omega^2 = F_{\text{向心力} }\] の正体である.

また, 速さ, 円軌道半径, 角周波数について成り立つ式 \[ v = r \omega \] をつかえば, \[ m \frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力} }\] となる.


このように, 角振動数が一定でないような円運動であっても, 高校物理の教科書に登場している(動径方向に対する)円運動の方程式はその形が変わらないのである.

この事実はとてもありがたく, 重力が作用している物体が円筒面内を回るときなどに皆さんが円運動の方程式を書くときにはこのようなことが暗黙のうちに使われていた.

しかし, 動径方向の運動方程式の形というのが角振動数が時間の関数かどうかによらないことは, ご覧のとおりそんなに自明なことではない. こういったことをきちんと議論できるのは微分・積分といった数学の恩恵であろう.