ニュートリノ(1)

12月10日はノーベル賞の授賞式なので, ノーベル物理学賞の話題を避けては通れないでしょう.

ということで, ニュートリノやその周辺について少しずつ書き留めてみようと思います.


そもそも, ニュートリノという名前が皆さんにとってどのくらい馴染みががるかはわかりませんが, 一切馴染みがないというのが大方の意見でしょう.

そんなニュートリノのニュートリノ振動という現象を理解するため, 少しずつ以下のようなことを紹介していこうと思います.

  1. ニュートリノという粒子が予想されたという歴史的な経緯.

  2. ニュートリノが存在することが確定的になったのちにどのような素粒子に分類されたか, どんな状態で存在しているのか.

  3. ニュートリノ振動という状態の移り変わり現象.

全部を真面目に知りたい人は色んな書籍を見てもらうこととして, ここでは多少なり簡単に説明したいと思います.

“電磁気視”の人間

素粒子を調べるための装置-検出器-が時代ごとに様々開発されてきました.

これらの検出器はそれぞれ特徴が違うものですが, 共通していることもあります. それは, 検出結果というのは電磁気現象によって出力されるということです.

自然界で起きることは何も電磁気現象だけではありません. しかし, 人間がある程度自由に扱えて, 特徴がよくわかっている力というのは電磁気力です. 正直, これ以外の反応をうまく制御できませんし, そんなことができているならば素粒子の研究はもっとテンポよく進んでいることでしょう.

ひどくざっくりまとめると, 自然現象の中でも電磁気現象が直接的に観測できるのです.

そんな人間にできることは観測結果から元々の自然現象を予測・検証することであり, これをミクロな世界の探索に利用しているのが素粒子物理学とも言えます.

ということはですよ, 自然現象の中で電磁気現象でないものは直接的に観測できないんですね. 困ったものです.

もっとはっきりと言えば, 電荷を持っていない粒子の観測や電荷のやりとりがない現象は簡単に取り扱えず, 間接的に観測するしかないんです.

近いところしかピントがあって見えないことを“近視”というのであれば, 人間というのは“電磁気視”とでも言えばいいのでしょうか.

中性子の導入 – 同位体の謎

そんな”電磁気視”の人間に訪れた素粒子・原子核の課題は, 同位体の存在です.

当時は(電荷を持つ)陽子と電子の存在は知られていましたが, (原子核の電荷の値)=(素電荷)×(陽子の数)という素朴なモデルでは, 電荷の値が同じ(ということは,当時の考えでは陽子の数が同じ)でも質量が異なる同位体の存在は説明できなかったのです.

この問題を解決するために, 「こんな特徴を持つ粒子がいたらいいのでは?」と導入され, 実際に確認されたの粒子は, 電荷を持っておらず, 陽子とほぼ同じ質量を持つ粒子, 中性子でした.

ありがたみがある粒子とはいえ, 中性子の特徴をおさえるのは骨の折れる作業であります.

ニュートリノの導入 – \( \beta \)崩壊の謎

中性子は同位体の問題だけでなく, \( \beta \)崩壊という放射線現象もある程度説明できそうでした. \( \beta \) 崩壊とは, 原子核全体の質量(数)はそのままに, 電荷が増えるという現象でした.

この \( \beta \) 崩壊に対して中性子 \( n \) , 陽子 \( p \) , 電子 \( e \) を駆使して考えられるのは, 次のような素朴な反応でした. \[n \overset{?}{\to} p + e\]

左辺は電荷がゼロ, 右辺の電荷も合わせてゼロ. 中性子と陽子の質量は同程度で電子の質量はそれらの約2千分の1程度. なるほど, うまくいきそうでした.

が, 悲しいかな, エネルギー保存則が破られているという実験結果が得られてしまったのです.

「物理学は自然を眺める学問だ」とはいうものの, 「理論的にはこうなるハズだ」という信念を持って研究していた人間にとって, これは相当にショックだったことでしょう.

ここで「エネルギー保存則は破れているんだ, 自然がそう言っているのだから仕方ない」と言って別の道を提案する指導者が出てくるのはある意味必然です.

ですが, 結果的に成功することになったのは, 人間が電磁気視であることをよく自覚し, またも電磁気反応をほとんどしない幽霊なような粒子の存在を導入した立場でした.

つまり, エネルギー保存則が破れているという観測結果があっても, 我々に見えにくい中性粒子がエネルギーを持ち去っていることを見落としているのではないか, と考えたわけです.

この \( \beta \) 崩壊において, エネルギーを持ち去っていく, 電荷の無い粒子こそ中性微子ニュートリノ-だったのです.

\( \beta \) 崩壊に対して中性子 \( n \) , 陽子 \( p \) , 電子 \( e \) , ニュートリノの中でも反電子ニュートリノと呼ばれるもの \( \bar{\nu}_{e} \) を駆使すると, \[n \to p + e + \bar{\nu}_{e} \] となります. 電荷は両辺で同じ, 質量についてはニュートリノがゼロ質量か非常に小さくて観測できないとし, エネルギー保存則はニュートリノまで含めて成立すると言えば, \( \beta \) 崩壊が説明ができることになります. そして実際に説明できたのでした.


ようやくニュートリノという単語にたどり着いたところで, 今日はここまでとします.


ニュートリノをはじめ素粒子を取り扱った書籍はたくさんありますが, 割と新しいものをいくつか紹介しておきます.

まずは著者が今回ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章先生その人である本,「ニュートリノで探る宇宙と素粒子」.

前高エネルギー加速器研究機構機構長 鈴木厚人先生の著書.


最後になりましたが, 梶田先生, ノーベル物理学賞受賞おめでとうございます.

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One thought on “ニュートリノ(1)

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